深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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霞む死神は泣いているのか

 

 

「ねえ、あなたはこれで良いの?」

「……?」

「……何もないなら良いんだけど、怪我は気をつけてよ」

「玲音。本当に無茶ならボクからも類を止めるから、怪我だけは気をつけてね」

「フフ。さあさあ! 旅人が歩む苦難の道! 繋いでいくのは血の奇跡! 風に、立ち塞がる崖! 雷鳴の響くような嵐でも旅人は進み続けなければならない!」

「……」

「なあ。オレが言うのもなんだが。本当に大丈夫か? オレでもしんどいぞ」

 

 目の前にあるのは強風装置に、聳り立つ壁。雷発生装置にわざわざ転がっている様に見える丸太をもした機械。……んー、改めて考えると、私がやる必要があるのか問いたい。私は曲芸師か何かか? はたまた道化か何かだろうか。

 しかし、先に手本を見せてもらわねば私は動けないので。

 

「…………天馬司、ゴー」

「やれってか! オレにもう一度やってこいってか!」

「……」

 

 そう言っているじゃないか。

 

「一応、昨日通しでできたけどしんどいんだぞ。あれ」

「…………天馬司、ゴー」

「やっぱりやれって言ってるのか!!」

「…………」

 

 だから、そう言っているじゃないか。

 

「無言はわからねえよ! せめてなんか言えよ! わかった! わかったから無言の圧をかけるな……。よし、行くぞー!! なんだってオレはスターだからな!!」

 

 ナレーションが流れ始め、曲芸師もとい、ワンダーラウンズ×ショウタイムの座長。天馬司が神代類の演出と言う苦難を乗り越えていく。……ふむふむ、風はああやって避けて……壁は華麗に……雷は装置に触れない様にすれば行けると言ってたっけ。なら、そこは大丈夫か……丸太もその動きで軽やかに……。よし、わかった。

 

「ぜえ、ぜえ。やってやった! どうだ、見たか類! オレは超えてみせたぞ!!」

「今回やる予定のショーの演出だから、完璧にできる様にならないと困る」

「だあー!! そうじゃないか!」

「……うん。宵崎さんは準備出来たみたいだ。じゃあ、位置にだけついてくれるかい?」

「……ん」

 

 演出の発生速度はわかった。進行の仕方も、避け方もわかった。なら、あとは実践(模倣)するのみだ。

 

「本当に気をつけてね」

「…………大丈夫。天馬司が出来た。なら、私も出来る」

「それはあれか? オレ、馬鹿にされてるのか?」

「……」

「せめて何か言えよ……。一応、オレ先輩だからな?」

 

 今スイッチを入れるんだから邪魔しないで欲しい。

 

「……瑞希、髪ゴム、貸して欲しい。鳳えむ。適当なカチューシャ、とかある?」

「良いけど、大丈夫なの?」

「わかった〜。はいどうぞ! 猫さんのカチューシャだよ」

「……ありがとう」

 

 猫耳のカチューシャ……まあ、いいか。前髪を止められるならそれで。

 神代類と私の合作だ。インスピレーションは私から、演出は神代類が。そして演じる役者たちと私の描く背景……さあ、どんな作品になるだろうか。楽しみだ。

 

「わぁお! 玲音ちゃんってイケてる〜!」

「……」

「あっ、マスク付け直しちゃった」

 

 顔を見られるのはあまり好みじゃないので、マスクはつけたままにしよう。肺活量的に問題はないだろう。

 天馬司とは違ってスカートだから、完璧な模倣は出来ない。邪魔だし脱ぐか。

 

「玲音! 玲音ストップ! 人、人いるからスカートは脱がないで!」

「…………わかった」

「なんでそう渋々なのさ」

 

 別にスカートを脱いだところで見られて困る物はない。それに、

 

「…………瑞希」

「なに?」

「…………ショートパンツ履いてる。大丈夫」

「そう言う話ではないんだけどね……」

 

 どうやらダメらしい。仕方ない。スカートでやろう。

 

 あ、あと。動画を撮っておいて欲しい。ん? もう取る準備もしてある? さすがは神代類。ドローンで撮影とは。迫力あるものじゃなくて、全体を取ってくれるとありがたい。

 

「…………神代類」

「フフ、ようやくスタート位置に着いた。じゃあ、始めるよ!」

「────スゥ──オレは旅人! みんなを繋げる旅人のリンクだ!! どんな苦難にだって立ち向かい! みんなの心を、希望を一つに纏めるんだ!!」

 

 発声はこんな物で良いだろうナレーションが始まり、演出と言う名のギミックが動き出す。これでみんなが、観客が笑顔になれるならオレはなんだって頑張れる気がする。

 そう! だってオレは──! 未来の大スター!! 天馬司(宵崎玲音)だ! 

 

「おお! すごいね! すごいよ! すごく司くんみたい!」

「すげぇ! すげぇよ! 舞台にもう一人オレが居るみたいだ!」

「ねえ、あれ玲音なんだよね。ボク、見間違えてないよね?」

「…………舞台で、化けるタイプなのかも……」

 

 風を受けながら出来るだけ最小限で強風の中を進み、強風の試練を乗り越えて後は聳り立つ壁、こと崖。カラフルな色合いが苦難ながらも観客に見やすい配慮。さすがは類! 天才演出家だ! 

 

「司くんよりも軽やかに登ってくよ! おっととと、危ない!」

「玲音の身体能力どうなってんだよ。一瞬落ちかけたよな」

「いつもの玲音じゃないみたいだ」

 

 苦難だからな。手に汗握る展開があった方が楽しいに決まっている! 崖は登り切った! 雷は──

 

「イッ!」

「玲音! 類! 玲音が」

「フフ、大丈夫ですよ。当たった様に見える演技をしているだけで、実際には当たってません。実際に当たれば、実物よりは押さえてありますが1200Vぐらいの電撃をくらうので、あの程度ではないでしょう。それに、当たる様に配置はしていませんから」

 

 当たらない場所に置いてあるんだから、当たってないぞ! でも、心配してくれてありがとう! オレは無事だぜ!! 

 

 丸太が来たな、とうっ!! 

 

「おお! 華麗な心身飛び!」

「……玲音ってアクロバット出来るんだ」

「苦難なんてへっちゃらだ!! だって、みんなと繋がって軌跡になるんだ! ………………こんなもんか?」

「すごい! すごいよ玲音ちゃん! 司くんみたいだったよ!」

「すごいな宵崎! なあ、これからもオレたちとショーやろう! な!」

「フフ、すごい。すごいよ宵崎さん。君は想定を超えて見せた! 素晴らしいじゃないか」

「…………あー、悪いな。誘ってくれたところアレなんだが、オレは役者じゃなくて芸術家なんだ……。ああ、頭が痛え」

 

 頭が痛い。やっぱり、薬を慣らしてない今じゃ結構しんどいな。

 

「瑞希! オレのカバンに入ってる豆くれ!」

「え、うん。……はい」

「サンキュー! ………………………………ふぅ。苦い」

 

 頭が痛い。カチューシャを外して後ろ髪を縛っていた髪ゴムも解く。話しすぎた。喉が痛い。

 

「お? あれ? 元に戻っちゃった? 静かな玲音ちゃんだ」

「…………不思議」

「あ、いつもの玲音だ」

「……」コクコク

 

 やっぱり、トレースは感覚とかが近い人の方が痛みは少ない。体の方は大丈夫だけど……治らない様なら後で頭痛薬を飲んどこう。

 

「もったいないなあ。なんで静かになっちまうんだよ。オレがもう一人いると思ったのに」

「………………トレース。疲れる。頭痛い」

「大丈夫?」

「……痛み止め、カバンの中」

「わかった。取るから少し座って休んでて」

「……」

 

 観客席に座って休む。必要最低限でしか運動をしないけど、意外と動ける物だな。

 

「お見事だったよ。宵崎さん」

「……神代類」

「何かな?」

「…………いい演出。……観客への配慮。見やすさ、派手さ…………いい」

「フフ、お褒め頂き光栄だ。それで、一つ聞きたいことがあるんだ」

「…………なに?」

「宵崎さん。君、超記憶か何かを持っていないかい?」

「んん? 超記憶?」

「超記憶と言うのは、見たものを映像、画像として脳に記憶し続ける能力のことだよ。舞台袖ではあるけど、確かにあの動きは司くんの物だ。何処となくアレンジが入って入るけど、着地の仕方やあの動き方の癖は司くんのものと一致する。宵崎さん。今君は、〝トレース〟と言った。そのトレースは、司くんの動きや言動、思考をそのまま模倣すると言う行為じゃない。で、あっているかな?」

「……」

「その無言は肯定でいいね?」

「……」コクコク

 

 一回見ただけでよくわかったな。神代類。なるほど、動き癖がわかるほど天馬司のことをよく見ている。苦難に見える演出も全て彼に合わせて調整しているんだろうか? ……いや、それはないな。結構全力で良さそうな演出をやっているだろうし、それを乗り越える天馬司が化け物なんだろう。熱血と勢いで乗り越えていける様な人間。……私には眩しすぎて疲れてしまうが、神代類にはいい光だったんだな。

 

「……神代類」

「何かな?」

「………………美しく。良い芸術」

「それはどうも」

「…………私には、眩しい……な」

「そうか」

 

 さて、私が見たい物は見た。背景も頼まれたし、画材を調達して来よう。

 

「……神代類」

「背景の変動する仕掛けに関しては、任せてくれ。どんな材質でも巻けるように調節するし、ループ式でも、巻取り式でもなんでも用意するよ」

「…………」コクコク

 

 額の汗を拭って席を立つ。瑞希はもう少しここにいるらしい。

 背景の用紙はそうだな……。

 

「玲音。来てよかったね」

「……?」コテッ? 

「ふふ、今の玲音。すごく楽しそうだよ」

「……」

 

 楽しい、か。そうか、私は今楽しいのか。なら、書くべきは……。盛大に、彼らの色をキャンバスに描こうと。背景はそれを拡大した物。イメージはできた。暗そうで、裏に明るさ。終盤は明るく大団円。私の普段描く物ではないけれど、合作とはそう言う物だ。誰かの要素を取り入れて自分の色に染める。自分の色に染まったものを、さらに誰かが染める。

 そう言うものなんだろう。

 

「………………」

 

 喰らい合いと行こう。根本は合わせる。しかし、その作品に私の色を付けて染め上げよう。それに飲まれてしまうと言うのならそれまでだったと言うだけ。

 

「……? フフ、楽しく行こうか。宵崎さん」

「…………ふふ」

 

 私の視線に気がついた神代類と目があった。ああ、楽しみだ。背景は決まった。どんな結末を見せてくれるだろうか。成功の先に何があるんだろうか────ふふ、ふふふふふ。笑みが止まらない。

 

「ふひ、ふふふ……」

「玲音。笑うなら表情も作ろうよ。ほら、スマイルスマイル」

「……」

「本当に表情動かないんだから。豆を噛んだときは苦そうな表情するのに」

 

 まあ、微笑みなんて基本作らないし。あの日から私は笑えないままだ。私が笑った顔はどんな顔だったか……。たしか、こんな感じの

 

「……玲音。その表情は絶対に愛想笑いだよ」

「…………」

 

 笑うって、難しいな。

 

 それからは神代類のドローンや発明したロボ。草薙寧々のネネロボを見た。将来はロボット工学者にでもなるんだろうか?

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