深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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あ⬛︎⬛︎が⬛︎⬛︎⬛︎る

 

 

「……玲音」

「…………」

「玲音?」

「! ……姉さん? どうしたの?」

「返事がないから心配になって……。それに、ご飯の時間になっても部屋から出てこないから」

 

 時計を見ると、時間は午後6時。いつもなら夕食を食べている時間だ。

 

 ……と言うことはだ。

 

「…………ごめん。夕食、まだ作ってない」

「大丈夫。今日は、私が作ったから」

「……!」

 

 まさか、姉さんが作ってくれるとは思わなかった。

 

「簡単なものしか作れないけど……」

「姉さんが作ってくれたものならなんでもいい。なんでもうれしいよ」

「そう。ならよかった」

 

 部屋から出て、リビングのテーブルに乗せられた私の分のお茶碗を見る。

 

 見えるのは白米の上に丁寧に分けられた味の染みた魚の切り身が広げられている。粘度の少し高いタレがご飯と合うことは間違いないだろう。いや、私もこれ好きだけどさ。

 

「……鯖の蒲焼丼、かな?」

「うん。美味しいから、玲音も食べてほしくて」

「……」

 

 椅子に座り、今日の夕食らしきものと向き合う。確かに、私は量を食べないし、茶碗一杯ぐらいで全然構わないのだけど……。これを美味しいと言っても、姉さんは喜ぶんだろうか? 

 

「……美味しいよ。姉さん。私の分、までありがとう」

「うん。どういたしまして」

 

 ……嬉しそうだしいいか。姉さんも好きなものを共有したい気分だったんだろう。だがしかし……美味しいのは企業努力の様な気が……。

 

「? どうしたの?」

「……姉さん。今度、一緒にご飯つくろうか」

「……時間がある時にしよう。またしばらくは部屋に篭るかもしれないから」

「……」コクコク

 

 どうやら、姉さんはこれから忙しくなる予定らしい。クッキーでも作って差し入れするのもいいかもしれない。

 

「玲音は、何描いてたの?」

「……旅の絵巻?」

「……そう。頑張ってね」

「……ん」

 

 そう。あのショーの背景は旅の絵巻だ。何も、旅人は天馬司が演じるリンクだけでは無い。背景として登場してもらおう。

 

 今は設計段階。人物の配置と地形、雰囲気の移り変わりや転換点を曖昧にしながらどう描くか。ガラッと変わるだけでは味気ない。機械に強い神代類なら、流れや動きを演出できる様な。長くてもちゃんと巻いて背景を動かせる様なものができるはずだ。

 いや、それを求めてもいいだろう。あの不思議ハイテクなネネロボを作れるんだから、作れないわけがない。

 

「玲音。楽しそうだね」

「…………ん。楽しいよ。楽しいんだ、姉さん」

「そう」

 

 ああ、私は楽しんでいる。楽しめている様だ。

 

「……部屋に戻って作業するから、何かあったら。連絡して」

「……わかった」

 

 姉さんは部屋に戻って行った。……よし。気分転換にアイスボックスクッキーの仕込みでもしよう。そして、仕込みが終わればミク(⬛︎⬛︎)へ会いにセカイへ赴いてもいいかもしれない。

 

「……」

 

 そうと決まればボウルと小麦粉、バター、砂糖、卵等々の材料を用意し、分量を測って混ぜ合わせる。

 クッキーはとりあえず材料混ぜてれば出来るし、楽でいい。ケーキは分けて、測って混ぜて、片方は焼いて片方はその間は混ぜて……。今は慣れたとはいえ、最初はかなり手間取った。二つのことを同時にやるのは苦手だ。

 

 ……よし。混ぜ終わったから、後は成形して……。あ、割れた。まあ、いいか。まだくっつけられる段階でよかった。

 成形も終われば、あとは冷凍庫で冷やすだけだ。

 

 行こうと思っていた買い物は、明日でもいいか。別に直近でなくなるものがあるわけではないし、ほしい特売品があったわけでもない。

 何かのついでで買い物に行こうと思っていただけだ。そして、その買おうと思っていた何かを思い出せていないので、別に重要なものではないんだろう。

 

 のんびりクッキーを作っていたら1時間ほどかかってしまった。セカイに赴くか? あの広いだけのセカイなら、背景の下書き。設計図ぐらい書けるだろう。問題は、そのサイズの用紙があるかどうかだが。

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)に頼めばあるか」

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)ミク(ボク)の力は万能じゃないからね? 出せるけど』

 

 出せるなら良いじゃないか。と言うか、いつからスマホに入っていたんだ? 

 

『別に入ってなかったよ。ミク(ボク)はミクよりも耳がいいからね。それに、ミク(ボク)⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)の相棒だから、考えていることぐらいわかるさ』

「……そう。……いる、なら。整理、してほしい」

 

 まあ、スマホのシステム管理をやってくれるからいくらでもいてくれて構わないけど。

 不要データの削除とか、私は機能を持て余しすぎてうまく使えないから。

 

ミク(ボク)はお掃除アプリとか、整理AIじゃないんだけど……。まあ、いいよ。スペースがある方が、気分がいいしね』

「……」

 

 本当に不思議な存在だ。

 中学2年生の頃の夏の始まり頃に初めて私はセカイを知り、そこで出会ったのがミク(⬛︎⬛︎)だ。目の前に現れた時の驚きはすごかった。初めて見た真っ赤なセカイもそうだが、鮮血の様な真っ赤な目と白い髪はあのセカイでは浮いて見えた。

 今では良好な関係を築いている、と思う。赤と虚のセカイの案内人であり、私の二人目の友達。鹿野ちゃんの次に出来た友人だ。

 

「……整理、時間かかりそう?」

『まあ、そこそこ時間はかかるんじゃないかな。最近、何やら外の世界で楽しんでたみたいだし? 溜め込んでるみたいだしね』

「……そう、だな。…………楽しい。最近は」

『よかったじゃないか。好きなことが増えて』

「…………好き、わからない」

『楽しいってことは、きっと好きなんだよ。本当に、人間がわからない⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)だなあ』

「…………不自然すぎなければ、大丈夫」

『そうだね。まあ、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)の生まれ持った性質だから変えようはないんだろうけどさ。大丈夫? 嫌われたりしてない?』

「…………わからない。……瑞希と姉さんに嫌われてなければいい」

『そっか。じゃあ、その二人からは嫌われないようにしないとね』

「……そう、……ね」

 

 たまにはこうやって話すのも悪くない、な。

 

『お? なに? このデータ。長いこと放置されてるみたいだけど』

「……」

『…………。あー、……見なかったことにしておくよ』

「……助かる」

『……完成したら、見せてくれるよね?』

「……ん」

 

 完成したら、ね……。多分、もうそんな日は来ないけど……ね。

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