深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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UAが2000突破しておりました。ありがとうございます。
これからも頑張ってまいりますので、応援よろしくお願いします。


始まりの合図は

 

 

 二日ほどかけて背景は完成した。人物は抽象化して、場所を表すような絵は大雑把かつ、大きくわかりやすい様に描く。

 風の試練では、抽象化された人間が風に負けて飛ばされる様な様子を。

 岩壁は登り切らずに落ちていく様な人影を。

 雷鳴の地は雷に打たれてしまったり、疲れ果てて倒れる人影を。

 丸太は苦戦しながらも飛び越えているような人影を。

 最後の終着点では次へ繋ぐ人影や、終着点で倒れてしまう人影などを小さく書き込んだ。

 よく見ればわかるぐらいの私の要素。努力が実るとは限らない。輝かしい旅の終わりも、終わって果ててしまった者が居る。そう言った世界観が見えるような背景を描いた。

 

 神代類に背景のデータを送り、神代類の思い描く世界観に即しているかを確認しているが果たしていけるだろうか。苦難の中の美しさ。私は嫌いではないが、苦難や困難も楽しく描くワンダーランズ×ショウタイムと、どちらかと言うと泥臭さも描きたい私。さて、どうなるだろうか。

 

「連絡待ちかい?」

「……ん」

 

 スマホをセカイに放り投げるとそのまま宙に浮いてふわふわと浮かぶ。

 本当に不思議な場所だ。私が望まなくても、このセカイは私の奥底にある願い。意識によって作り出される。でも、本当に望むものは無い。

 欲しかった物は、ここでは手に入らない。

 

「……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)。また、悲観してるのかい?」

「……」

「図星を突かれるとすぐに黙る。……ミク(ボク)が言うのもあれだけど、あんまり悲観しすぎない方がいいよ。薬増やさなきゃいけないぐらい、最近安定してないんだろう?」

 

 そうは言っても、思い出してしまうのだから仕方がないだろう。それに、今は薬を増やして安定している。多少、過去を思い出したところで問題はない。…………と思う。

 

「難儀なものだよね。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)の超記憶は。匂いも、音も、光景も、全て頭に焼き付いて離れないだなんてさ」

「…………でも、忘れない。それはいいこと」

「それで苦しみ続けたら意味がないだろうに。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎()は実に馬鹿だな」

 

 ミク(⬛︎⬛︎)が私を嘲笑う様に見ている。とても滑稽なことだろう。ミク(⬛︎⬛︎)からすれば私は自分から過去を眺めて苦しんでいる愚か者でしかないんだから。

 でも、どれだけ愚かであっても──

 

「──鹿野ちゃんを。鹿野(あや)の苦しみを背負えるのは私だけなんだから」

「頑固だねえ。まあ、せいぜい頑張るといいさ。おっと、返信が来たみたいだよ」

「……読んで」

「……本当にミク(ボク)をなんだと思ってるのさ。いいけどさ。…………ふむふむ。あの背景でいいんだって。最高の出来って言ってる」

「……読み上げ」

「……はあ、わかったよ。──コホン。『確認したよ。いい出来だ。ここまで早く仕上げるとは、本当に君は僕の期待を超えてくる。僕もその働きぶりに応えられる様努力しないとね。明日もショーの練習があるから、よかったら来て見て行ってほしい』だって」

「……わかった」

 

 いつ聞いても見事な声帯模写だ。声優向いてるんじゃない? 

 神代類から合格は貰った。あとは、ショーに合わせて手直しがいるかどうかの確認と、観客からどう見えるのか確かめて見ないと……。

 

「おや、出ていくの?」

「……たまには、弾きたいから」

「そっか。じゃあ、いってらっしゃい。ミク(ボク)はここから聴いてるよ」

 

 特定の音楽。『虚独な月』をスマホでかけて目を閉じる。すると、頭から水を被った様な感覚と共に元の現実へと帰ってきた。

 部屋の中はどこか淋しさを感じる。作業デスクの上にパソコンが設置され、何もない描かれていないキャンバスが壁にいくつか立てかけられており、近くには組み立てられていない人形が置かれ、紺色のベッドの横にはアコースティックギターが立てかけられている。

 

 ギターに手に取り、弦を軽く弾いて音を確認する。

 少し触っていない期間があったせいかチューニングが必要らしい。

 ペグを回しながら音を確認する。ほんの少しだけズレている様で、少し絞って音程を確かめる。……うん。大丈夫そうだ。コードも体が覚えている。

 

 〜〜♪ 〜〜〜♪ 

 

 ────────―ギター、好きなの? 

「……っ」

 

 ……やっぱりやめておこう。この楽器はフラッシュバックを引き起こしやすい。

 

 ────優しい音色だね。

 ────きっと、玲音は玲音のお父さんみたいな曲を作れるようになるよ。

 ────聴く人を⬛︎⬛︎(笑顔)にできる曲を! 

 ────────ねえ、玲音

 ……やめてくれ。止まってくれ──

 

「玲音?」

「……っ!」

「玲音、大丈夫?」

「……………………姉さん」

「……顔色、悪いよ」

 

 どうやら姉さんが部屋に来ていたらしい。助かった。フラッシュバックは治ったみたいだ。

 

「……体調があまり良くないみたい、だ。……風邪薬でも飲んで。寝ようかな」

「…………大丈夫?」

「……大丈夫。姉さんに嘘、吐いたことないでしょ?」

「…………」

 

 すごく心配していらっしゃる。ああ、ありがたい。生きててよかった。姉さんは優しいから、私を心配してくれる。でも、姉さんは姉さんの夢を追いかけてほしい。

 

「……姉さん」

「……なに?」

「……姉さんの曲、聴きたいな」

「……わかった。今作ってるメロディーだけど。これ……聴いていいよ」

「ありがとう。姉さん」

 

 スマホにイヤホンを繋いで貸してくれる。

 静かなメロディーだ。少し物悲しさを感じる、穏やかな曲。まだ歌詞はついていないみたいだから、まだ作っている途中なんだろう。

 

 澄んだ泉にただ一人

 漂い揺れる小舟

 彷徨える人を見守り

 泉の湧くこの場所を示す

 

 うん。いい感じのものが浮かんできた。別にスランプではないけど、姉さんのおかげでいい作品が作れそうだ。

 

「ありがとう、姉さん。いい作品が作れそう」

「……どういたしまして。…………隠し事されると寂しいよ」

「……ん」

「……ギター、弾いてたの?」

「……まあ、たまには弾いてみようかなって」

「……また、いつか聞かせてね。玲音のギター」

「……ん。いつか、ね」

 

 どうやら姉さんは、部屋の前を通ったらギターの音色が微かに聞こえたので、珍しく思ってやってきたらしい。

 扉だけ防音が弱い部屋なので、音漏れは仕方がないと言えば仕方がない。というか、下手に防音して密閉されようものなら、それこそ本当に時間を忘れてしまう。

 

「……おやすみなさい、姉さん」

「……私はもう少し起きてるから。辛いことがあったなら、教えてね」

「……ん。そうする」

 

 今日はもう詩でも書いて寝よう。姉さんが部屋から出ていくのを確認して、薬を飲む。

 眠りに落ちる前にさっき浮かび上がってきたフレーズをスマホのメモ機能に打ち込んでいく。

 詩の世界観はどうしようかな。澄んだ泉だから、森の奥深くとかだろうか。いや、迷うのだから静かで人々を惑わせる樹海なのかもしれない。

 

 何かに没頭している間は、私は安全なんだ。私はまだ正気でいられる様な気がする。

 

 少し経つと眠気が襲ってきた。眠気が来たなら争う必要はない。スマホの画面を消して充電器に差し、目を閉じる。

 

 今日も、夢を見ないといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 









 空に浮かぶ月を見ていた
 遠くに浮かんでいて、届かないけど
 いつか手が届くほど大きくなれると思っていた
 でも、そんな現実はなくて
 人はどこまでもちっぽけだ
 手なんて届きやしない
 水鏡に映る影には触れず、
 月は水面で揺れるばかり。
 生きるとはそういうことだった。

 届くと思い込む、届かないことを知らずに
 掴めると思い込む、掴めるはずなどないのに
 それを知って挫折する頃には、もう時が立ち過ぎていて
 全てが泡のように消えていく

 全ては物体の陰でしかない
 全てのものはとても脆くて、触れれば砕けてしまう
 大切に思えば思うほど、差が生まれて
 失いたくないと願うほど、こぼれ落ちる
 赤に染まった君を美しいとは思えなかった
 一面には赤しかない。
 真っ赤な空でカラスが鳴いている
 無垢の双眸で蹲るのを待っている

 夜空に浮かぶ月のように
 景色は優しい偽りで
 触れたものもそこになくて
 触れたいあなたはどこにもいない
 どうしてこんなに苦しいの?
 どうしてこんなに辛いの?
 支えがあったはずなのに、今ではそれが貫いてくる

 夜の闇に消え入り、ただ孤独な終わりを待つ
 全てが優しい偽りだから、私は現実を受け入れられなかった。
 夢から覚めれば、また優しい夢が見られるのかな…………


『虚独な月』

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