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パソコンの音源ソフトに入った電子ピアノを奏でながら、イメージしていた音とリズムを組み上げていく。
パソコンに外付けしてある電子ピアノは調律の必要はないし、文明の利器というのは便利なのだが、いかんせん私は機械の扱いが苦手だ。姉さんに全て任せるわけにもいかないので説明書を読み込み、
不思議なことに、私のフラッシュバックは、アコギとピアノを使っている時だけで、電子ピアノは特にフラッシュバックの対象にはならない。
メロディーを組みながら繰り返し音を聴き、唸る。
個人的にはもう少し落下を意識したメロディーを付けたいところだ。
「…………飛ぶか?」
やはり、体感するしかないのだろうか。
「
『はいはい。なんでしょうか、マイ
「……いい、落下スポット」
『………………
「……ん」
『そうならそうと言ってくれればいいのに、なんで色々省いて残った勘違いされる様なワードだけ言うかな……』
声に出したらそうなってたので仕方がないだろう。それに、
『えーっと……。どうやら、この近辺には無さそうだよ。あるとすれば、フェニックスワンダーランドに絶叫系があるぐらいかな』
「……絶叫系は探していない」
『だよね〜』
背景は作り終えたし、背景をつけての練習を見学させてもらったが。今は手直しの必要性を感じていない。完成度が高くなれば高くなるほど目立たなくなっていくだろうし、神代類たちのショーに食われてしまってから、その都度調整するつもりだ。
それに、作曲も現在手づまり。
……神代類に頼めば、落下した時のクッションかなんかを作ってくれるだろうか。こう、ブワッと広がるエアバック的なやつ。
「…………聞いて、みるか」
玲音『相談。エアバック的なものって作れる?』
類『用途を教えてもらえるかい?』
玲音『落下を経験したい』
類『それは何故か聞いても?』
玲音『落下を表現したい。けど、私は落下したことがない』
類『なるほど。中学生ぐらいの時に作った物が確かあるだろうから、あればそれを使うかい?』
玲音『使いたい』
類『じゃあ、ちょっと探してみるよ。何かあれば連絡する』
玲音『お願い』
あることを祈ろう。ないなら、別の手段で工夫して擬似体験してみるのもいいかもしれない。……話題のVRでのスカイダイビングでもやってみれば、擬似体験ができるだろうか。
『
「…………ゆっくり落ちる」
『仕方ないだろう? そういう場所なんだから』
コンコン
「……入るよ」
「どうしたの?」
「……お父さんのお見舞いに行くから」
「……気をつけて、行ってきてね」
「玲音は来ないの?」
「……今の父さんにとって、私は知らない人。だから、さ」
そう。父さんは私だけを忘れてしまった。姉さんのことはなんとなく、本当にぼんやりとだけど覚えているらしいのだが、私のことは完全に忘却されていた。
父さんが倒れて、姉さんが読んでしまった日記。それから、姉さんは狂った様に作曲を始めた。それから2年程かけて少しずつ治って行って入るけど、それでもなんの拍子で暴走し始めるのかわからない。読ませて欲しいと頼んだけれど、私には読ませられないの一点張りでいまだに読めていない。
だから、姉さんが苦しさを背負う間。私は姉さんを支えるために
「……玲音は、それでいいの?」
「…………私は、……そう、だね。……今、父さんに会う勇気はない。かな」
辛いよ。一回目、姉さんとお見舞いに行った時に、姉さんのことは確かにぼんやりと覚えていたんだ。でも、私のことは忘れてしまっていた。
姉さんにはかなり遠い親戚の様な距離感で、私に対してはもう他人行儀だった。苦しかったよ。
でも、私が苦しむと。姉さんが辛そうだから。現実を見続けるのが辛くて父さんには会えない。花を贈るぐらいしか出来ないよ。
「玲音……」
「姉さん。代わりに、いつもの花。届けてほしいな」
「……わかった。いつもの花屋さんに行けばあると思う」
私が必ず父さんに贈る花。カーネーションは親への尊敬や感謝を表す花として描かれることが多いし、実際。私は父さんを尊敬している。
父さんは作曲家で創作の楽しみ、喜びを教えてくれたのは父さんと今はもう亡き母さんだ。ここまで大きくしてもらった恩もあるし、今でも父さんや母さんが好きだ。だから、カーネーションにしようと決めた。
「……ごめんね。姉さん」
「良いよ。行く勇気が出てきたら、一緒に行こう」
「……ん。……姉さん」
「なに?」
「…………いってらっしゃい。夕飯までには、帰ってきてね」
「わかった」
姉さんは部屋から出て行った。今日が特別な日ということはない。別にいつも通りの休日だ。
それでも、私の特別な人達は私の手からこぼれ落ちていく。日々は当たり前じゃない。母さんは幼い頃に病で、鹿野ちゃんは
だから、私は幸せな今を生きていたい。姉さんが居て、
………………辞めだ辞めだ。湿っぽい雰囲気は好きじゃない。……よし、気分転換と行こう。今日は、人形の服選びと設定を煮詰める作業でもしよう。
今回作っている人形、等身大人形No.10。命名は陽奈の性格や声質。動きを設定を元に模倣して、作品としての完成度や自分が作っている
……やるか、あれ。
まずは、初期装備からだな。
髪をまとめてヘアネットの中に入れる。梔子色の髪に毛先が黄緑色のショートヘアのウィッグをかぶり。顔は化粧で変える。伊達の丸メガネをかければ初期装備は完成だ。
梔子色がメインの髪に、少し鋭さのある黄緑色の目。灰色のオーバーサイズのパーカーを着て、七分丈の黒ズボンにスポーツレギンスを履けば。
「……ん。出来た」
製作中の人形、陽奈の外側の原型は完成だ。
あとは声のトーンと話し方。考え方を設定基準で模倣すれば……
「あー、あーあー。うん。完璧〜」
あたしってば、やっぱり天才だわ〜。
さてと、おでかけよ〜っと。どこ行こうかな〜、やっぱり服買いに行く? でも、あたし服に詳しくないからな〜。一人で冒険ってのも悪くわないんだろうけど、こういう時は瑞希がいるといいよね〜。
「ミクー。瑞希に連絡してー」
反応なし、か。まあいいや。
喫茶店行ってこよ〜。今日は抹茶ラテとチーズケーキかな〜。
スマホ持ったし、イヤホンもつけた。じゃ、レッツゴー。
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◯月×日
最近、玲音がよく笑うようになった。少し部屋に篭っていたから心配していたが、やはり妻に似て強い子に育っていたらしい。親としては嬉しいが、頼られないというのも少し寂しい。
いや、最近忙しかったから自分で乗り越えたのかもしれない。成長と喜べばいいのか。親として無力を嘆けばいいのか……。
今度久しぶりに玲音と食事を作ろう。
玲音が好きでやっているとは言え、いつも玲音に任せっぱなしだから。たまにはまた一緒に食事を作ろう。
◯月××日
違う。玲音立ち直ってなんかいなかった。
一緒にカレーを作っているときに、玲音が指を切ってしまっていた。気がついたら血が流れていて、僕が心配すると「痛い」と言っていた。痛そうな表情はしていた。でも、でも違ったんだ。あれは、あれは玲音がいつも痛いときにする表情じゃない。あれは、奏の表情だ。
反応の割には声も落ち着いていて、表情にも少し迷いがあった。まるで何かを探っているような顔だった。
どうしてしまったんだ、玲音。学校で何かあったのか?
◯月××日
玲音が珍しく鏡と向き合っていた。少し化粧や身だしなみに気を使う時期、そういう年頃なんだと思いたかった。
玲音が、表情を確かめながら鏡と向き合っていた。「私はどんな顔で笑ってたっけ」と言いながら、鏡の前で笑っていたんだ。奏がするような表情に、僕や妻、そして知らない誰かの表情を変わるがわる変えていく。……学校に連絡してみよう。玲音に異変がなかったのか。いや、あの日。玲音に何があったのか聞いてみなくては……
◯月△日
……僕は親失格だ。
玲音は深く傷ついていた。友達が目の前で自殺したらしい。何故するのか。なぜ玲音の前なのかを話し、目の前で死んだそうだ。
……何が父親だ。自分の子が傷ついているのに、自分の悩みしか考えられない。何が大切な我が子だ。
◯月△×日
玲音が背中を摩ってくれた。疲れているだろうと。私を休ませようとしていたらしい。
僕や奏、妻が描かれた絵をくれた。玲音だけがどこにもいない。いや、居たであろう場所はある。ただ、その絵には玲音が描いていない。代わりに、ひまわりの花束が描かれていた。
僕は自分を見失ってしまった我が子に何もしてやれない。自分よりも才に恵まれた奏に嫉妬し。果てには玲音が辛い時に何もしてやれない。
玲音が、妻のように微笑んで抱きしめながら言ったんだ。「休んでいいんだと」……辛いのは玲音のはずなのに、こんな僕を休ませようと辛い自分を押し殺しているのは玲音や奏の二人なのに…………
何が父親だ。何が誰かを幸せにする曲を作るだ。自分の息子一人幸せにできない僕には無理だ。
すまない、奏。すまない、玲音、僕は無力だ。
──父の日記より抜粋
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