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「なあ、宵崎」
「……?」
「本気でやるのか。怖いとかないのか?」
なぜ天馬司はそんなことを聞くんだろうか?
「……」
「なあ、本気でやるのか?」
「……」コクコク
後ろ向きに倒れると、ふわっとした浮遊感と同時に落ちていく。ああ、これが落下の感覚。一気に現実感が抜け落ちて、全身に高揚とも恐怖とも取れる様な不思議な感動を覚える。
……これは少しクセになるかもしれない。
ボフッ!
「やあ。落ちる感覚はどうだった?」
「…………クセ、になる」
「良いものなのかい?」
「……楽しい。けど、ちょっと。痛い」
セカイの浮遊とは違って早いが、想像よりも少し遅い。そして、緩衝材の上に落ちてはいるが受け身を取らないとそこそこの衝撃がある。
「すまないね。探しては見たんだけど見当たらなかったから、ここに連れて来ちゃって」
「……」フルフル
始めてきたが意外と楽しいな。ROUND1のスポッチャ。家からそこそこ離れてはいるが、来た甲斐があったと言うものだ。
「大丈夫かー! 返事しろ!」
「司くん。宵崎さんは無事に飛び込んだよ。あとは君が飛び降りる番だ」
「よしっ! 行くぞ!」
勢いをつけて飛び降りてくる天馬司は足から緩衝材のプールに侵入し、出てくる。まるで飛び込みのような迫力だ。画角、視点が変われば私も似た様な感じに見えるのだろうか?
「それはないんじゃないかな。司くんは勢いをつけてのジャンプ。宵崎さんのは背面からの落下。跳躍と落下じゃ違うだろう?」
「…………神代類。エスパー」
「フフ、君は主観性も客観性も作品に込めるだろう? だから、司くんの飛び込みの様子が気になった。自分と何か違うのか、どう違うのか考える。違うかな?」
「……」
「無言は肯定と受け取るよ」
……神代類も日守康作と同じく何も話さなくても意図を読める?
「……」ジッ
「? どうしたんだい?」
「……」ジッ
「?」
「なにやってんだ?」
「……」
もう一回やろうかどうか迷っていると目で伝えたかったが伝わらないようだ。
本当に、私の行動から考えを推測しているらしい。
「フフ、宵崎さん。よく天然と素直って言われない?」
「……」コクコク
よく言われる。そして、人の話を聞かないとも。人の話を聞かないに関しては褒められていないが、天然やら素直やらは褒められてるんだろうか? しかし、ただ一つ言いたいことがある。
「……神代類。訂正、要求」
「何かな?」
「…………私は、人工物」
「そう言うところだよ」
だからどう言うところなんだ。実際に私は
「類! 宵崎! オレは今から華麗に飛ぶぞ、ちゃんと見ていてくれ! とうっ!」
跳躍して身を翻し、足から緩衝材に入っていく。飛び方は華麗なのだ。空中でもバランスを保っているあたり、体幹もしっかりしているんだろう。
しかしなんだろう。……たぶん、ヒーロー着地なるものがしたいんだろうけど、下は緩衝材のプールだ。いくら大きめで着地できそうな場所があっても、不安定な足場だ。
足場に足をつくと、そのままズボッと緩衝材の中に埋もれて行った。
「どうだ、見たか! スター性溢れるダイナミックなジャンプを」
「……ダイナミック」
「フフ、実に見事で華麗ジャンプだった。今の動きをショーで取り入れてはどうだろうか? 例えばそうだね。ショーの始まりに舞台の屋根から飛び降りて着地なんてどうだろう。着地の際には両脇から花火。ちょっとした爆発の演出でより強いインパクトを残せると思うんだけど」
「いいな、それ! オープニングの時の登場に使えるじゃないか!」
「だからそう言っただろう」
ダイナミック。ダイナミックねぇ……。
「………………落下、着地失敗、べちゃり」
「それはそれで面白いかもしれない」
「痛そうだからやらないぞ。流石に危ないことはしないし、したくない」
天馬司。危ないことはしないと言うが、数日後にはショーの演出で強風の中を歩き、岩壁を越え、人工雷の中を走り抜けることになる。果たして、運が悪ければ死と、痛いで済むコメディ落下のどっちが危険なんだろうか。
まあいい。今の私には関係のないことだ。
とりあえず、神代類にスマホを押し付けて高台へ行く。高さは約5m。奇しくも今回のショーに使われる岩壁と同じ高さだ。
高台にもう一度立つ。高いところを怖いと思ったことはない。だが、5mでも人は十分死ねる。頭から落下して行けば気がつけばあの世にいることだろう。しかし、下は緩衝材プール。意図的に事故りにいかなければ大怪我はしないだろう。
背面向きで倒れて上に落ちていく風景を眺める。
やはり、この浮遊感による不思議な感覚はクセになりそうだ。
ボフンッ
視界が緩衝材で塞がれる。良い感じに暗くて、少し包まれているような感覚だ。眠気を誘われてしまう。
いっそのこと寝てしまおうか。寝てしまいたい。実際のところ、眠気だけで寝ることはできないけど。
「大丈夫か! 宵崎!」
「……」
目の前が明るくなったと思えば、天馬司が私の目の前にある緩衝材を退けて体ごと引っ張り上げられた。
「大丈夫かい?」
「…………眠い」
「ふむ。落ちる様子を見ていたが、君は背中から受け身を取るように落ちていた。頭を打って脳に異常を来したりするような事はないだろう。…………さては、宵崎さん。君は夜更かしをしてここにきていないかい?」
どうやったらそこまでわかるんだ。……いや、普通に推理してただけか。私の頭が働いていないな。
「眠たいなら無理はするなよ。もしかして、オレ達と一緒に遊びに行けるのが楽しくて眠れなかったのか?」
「…………ん」コクコク
私はROUND1初体験だし、こう言った施設に来る事自体初めてだ。そして、落下が経験できるかもしれないと思うと創作の熱が治らなくて絵を一つ描いてしまったぐらいだ。薬? いつもより効きが悪かったんだよ。変えたばかりだから。
「この感じだと、相当落ちる体験がしたかったと見える。なら、なぜ遠出しないんだい?」
神代類の言うように、私は一定範囲から出ないし、出ようとも思わない。作品のためとはいえ、なぜ頑なに出ないのかと言うと、
「…………私、方向音痴。土地勘、ない場所。迷う」
「でも、それはナビで。ああ、なるほど。機械も苦手だから、そもそもナビアプリが使えないんだね?」
「……」コクコク
「でもよ。それだけじゃないんだろ? 宵崎が初対面だったオレにも絵を描きたいってなるお前がそれだけで諦めるわけがない」
「……乗り物、弱い。と、姉さん。心配」
「乗り物に弱いし、お姉さんに心配をかけたくないから遠出は避けたいと?」
「……」コクコク
機械が苦手で、乗り物にも弱い。1時間以上連続して乗っていられないんだ。だから、電車を使って移動するような遠出はできるだけ避けたい。そして、以前に迷子になって姉さんにかなりの心配をかけた。
それ以降は、遠出する時は姉さんが着いて来ようとしてしまうようになった。どれだけ寝不足でも、寝ていても私が「少し遠出する」といえば起き上がって着いて来ようとする。
言わずに行けば当たり前のように私が迷子になって、姉さんに叱られてしまう。そして、遠出に確実に着いてくるようになった。その優しさがありがたいし、そんな姉さんが大好きなんだが……
まあ、そんな理由から遠出は避けたい。
ナビを
インターネットでの検索もスマホからパソコンを起動させて、そこから調べているし。端末が一つだけでは少し動きにくいとのこと。
「? でもよ、オレとか類とかと一緒に遠出をするって考えはないのか?」
「……!」
「思いつかなかったみたいだね」
その考えは無かった。一人で行く予定だったよ。
「……天馬司、神代類。絶叫、得意?」
「可もなく不可もなくだな」
「あまり得意ではないかな。進んで経験したいとも思わないしね」
「……そ」
……出来れば一緒に跳んでくれるとありがたいんだけど、無理そうだ。
でもまあ、経験したい事はスケールを落として体験した。経験のある無しでは作品の完成度は違う。
やりたい事は済んだので、そのまま帰ってもいい。
「宵崎! トランポリンに行かないか! 楽しそうだぞ」
「……」
「せっかくなんだ。時間いっぱい楽しめばいいと思うよ」
目的は達したから帰ってもいいんだ。……でも、今だから見られる動作があるかもしれない。観察させてもらおう。
体を動かすのは疲れるからあまり好きではない。必要最低限でいい。ここは楽しむ天馬司を眺めるとしよう。
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