深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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文化祭の季節

 

 

 夏が終わり、寒くなってきた今日この頃。外を行く人たちは着込む量が増え、外の寒さに耐えようとしていることだろう。

 

「……」カタカタカタカタ

「……玲音?」

 

 私は部屋の隅で震えている。

 押し入れから引っ張り出してきた毛布に包まっているのを姉さんに発見された。

 

「……大丈夫?」

「……寒い」

「見ればわかるよ」

 

 寒いのは苦手だ。気温が18℃以下になり始めればもう寒い。寝る時も毛布を手放せなくなる。それに、私の部屋は北部屋だ。朝も昼も夜も、どの時間帯でも寒い。

 やはり、昨晩のうちに着る毛布を出しておけば良かった……。後悔先に立たず、やって後悔する方が良かったかもしれない。

 

「……今日は、私が作る?」

「……ごめん。お願い、してもいい?」

「いいよ。……いつものコーヒー。淹れる?」

「……カフェイン断ち中。だから、大丈夫」

 

 定期的なカフェイン断ちの期間だから、あと一週間ぐらいはカフェインを取らない生活をしている。ああ、あたたかいコーヒー。紅茶、お茶……なんでこの時期に重なってしまったんだ。寒波め……

 

「……寒さ、憎い」

「そんなこと言ったって仕方ない」

 

 それはわかっている。わかっているが、それとこれは別なんだよ姉さん。

 

 姉さんのご飯の用意は大体5分ぐらいで出来るので早い。寒さに耐えながらリビングへ出て行き、白湯をもらってちびちび飲む。猫舌だから、熱いのも苦手。体は寒いのも苦手。どうなっているんだ、この体は……。暑さには強いんだけどな……

 

「……カップラーメンだけど、はい」

「……ありがとう」

 

 カップ麺が熱い。今日の味は醤油ラーメンらしい。

 たまに食べるカップ麺は美味しいけど、熱さはどうにかならないものか。

 

「そろそろ、文化祭の季節」

「…………そういえば、そんな時期、だね」

 

 神山高校の文化祭は大体秋ごろに行われる。

 去年は体調を崩していかなかったので今年は行ってみようと思う。みようとは思うんだが、……人混みがなぁ。

 

「……今年も行かないの?」

「……行かないと特別学習の単位足りない」

 

 また単位が足りなくて留年してしまう。留年はしなくても卒業延期になりそうだ。それは避けたい。

 こんなに普通校が面倒なら、私も姉さんと同じ通信校にすればよかった。

 ……でも、神山高校(ここ)の制服のデザインと多少の着崩しと改造に目を瞑ってくれるのって魅力的だったんだよね。夏はズボン蒸れるからスカートが涼しくて、冬はスカートが寒いからズボンに戻す。これを交互に出来る学校が近くに神山高校ぐらいしかなかったんだよ。女物のブレザー着てても怒られないし、男物着てても何も言われない。割と自由な校風は魅力的だった。

 しかし、通信高校ならそもそも制服ないし、学校も月に二回ほど行けばいい。それは、それで魅力的だったが。高校の制服は、高校に行かないと手に入らない。作品作りのためには仕方がなかったんだ。

 

「……学校。行かなきゃ、な」

「……気をつけてね」

「……ん」

 

 はあ、学校に行きたくない。外に出たくない。出来ることなら布団にくるまってゴロゴロしていたい。でも、そんなことは言っていられない。

 

 引っ張り出してきた冬物の制服に着替えて家を出る。

 時間的に遅刻だし、わざわざ急いで行くこともないだろう。

 ああ、寒い。帰りたい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室の戸を開けて中に入る。

 

「あ、宵崎が来た」

「最近よく来るよな」

「もう着込んでる。暑くないのかな」

 

 教室に入って席につき、そのまま机に突っ伏す。

 今日は暁山瑞希はいないし、居ない人間をわざわざ呼び出すこともない。屋上へ行けば神代類はいるんだろうか……。

 

「えっと、宵崎さん? 話があるんだけど……」

「……」

「宵崎さん」

「……」

 

 誰かに呼ばれてる気がする。声的には女子生徒だろう。今の私は機嫌は良くても寒くて動きたくない気分だ。用事なら後にして欲しい。

 

「白石ー、そいつはただ呼んでも起きないぞー」

「じゃあ、呼ぶ以外に何すれば」

「起きろ。空な──」

「……黙れ」

「おっ。起きたな」

 

 教卓の方に居るのは去年から世話になり続けている教師、滝沢秀昭。そこそこ付き合いのある教師で、私の所属する部活。文芸部の顧問。空亡の正体を知る数少ない人物の一人。

 課外活動として、作品作りを認めてもらうにあたって必要だったから滝沢秀昭には共有してある。一部学校教員達は、私が空亡であることを知ってる。

 ただ、プライバシーの保護とかなんとかで学校で表彰されたりすることはないし、公になることもない。

 しかし、しかしだ。

 この滝沢秀昭だけは、そんなもの知るかと言いたげに脅迫まがいのことをしてくる。あなたはそれでも教師か。

 

「でだ。文化祭についてなんだが、どうする?」

「……」カキカキ

「『参加の意思はある』ね。わかった。じゃあ、詳しくは白石から聞いてくれ」

 

「ああ、白石は目の前にいる女子生徒だ」と言って目の前にいる女子生徒を出席簿で指す。黒髪の青のグラデーションが入ったロングに、橙色のつり目。……ダメだな。特に創作意欲は湧かない。ルックスはいいんだけどなあ。やっぱり、暁山瑞希を見た時ほどの衝撃はない。

 

「……」

「その様子だと本当に名前は覚えてないみたいだから、自己紹介しとくけど私は白石杏。よろしく。で、宵崎さん。文化祭のことなんだけどって、なんで寝るよの」

「……」

 

 なぜ寝るのかと聞くか? 興味がないからだ。それに、

 

「………………寝てない」

「じゃあ何よ」

「…………瞼裏、見てる」

「人はそれを寝てると言うんだけど」

 

 学校で寝るなんてこと、私にはできないし出来たら精神安定剤と睡眠導入剤をもらっていない。

 

「うちのクラスは文化祭でカフェをするの。で、接客とか出来る? 出来るならホールを任せたいんだけど」

「……」

「何か言ったらどうなの?」

「……………………」コクコク

「すごい間があったけど、大丈夫? 言っといてアレだけど、本当にできるの?」

「…………」コクコク

 

 接客は日守康作のところでたまにバイトをしているし出来ないことはない。注文の暗記とテーブルの暗記は得意だ。

 

「ならよかった。多分、瑞希はこっちに来ないだろうから人が足りるか心配だったんだ」

「……」

 

 文化祭に暁山瑞希は来ないらしい。

 

「……なんか、残念そうだけどどうしたの?」

「……」

 

 最近、エスパーが増えている気がする。そんなにコロコロ変わる表情をしていたっけ? 

 

「もしかして、瑞希が来なくて寂しいとか? 教室で話してるの見るし」

「……」

「なんとか言ってくれない? 話さないとわからないんだけど」

 

 エスパーではないようだ。

 まあ、良いか。面倒になれば抜け出せば良いし、それが原因で喫茶店が破綻するなんてことはないだろう。

 

「にしても、シフトがギリギリだったから助かるわ。頼んだよ」

 

 ……前言撤回。破綻しそうだ。

 

「あ、そうそう。宵崎さんってコーヒーとか淹れれる? 淹れれるなら厨房にも回って欲しいんだけど」

 

 休みなく働けと申すか。

 

「……淹れれる。カフェイン、好き」

 

 コーヒー、紅茶、緑茶、抹茶。あと、エナジードリンク。全て好きだ。眠眠打破とかの対眠気ドリンク以外は好きだ。







しばらく文化祭の話が続きます。


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