深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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9月の終わりにくしゃみして

 

 

 文化祭当日。

 私は朝から学校に来てコーヒーと紅茶を白石杏と共にせっせと補充し、ある程度保存の効くチュロスを用意していた。

 白石杏が指示を出しながらテキパキと動いてくれるので私も作業しやすい。……おっと、ここに汚れが。

 

 ……にしても、どうしようか。

 文化祭の前日に、文芸部が舞台で出し物をすることを告げられた。三日前から来てたんだから、その時に教えて欲しかったが。「お前なら大丈夫だろ?」とのことで、クラスの方に専念させつつ、部活の方へ行くようにしたそう。急に言われても行くわけがない。

 それに、なぜ文芸部なのに舞台に立とうと思ったのかわからない。何かのアニメか小説の影響だろうか。

 

「準備完了。じゃあ、あとはシフト通りに動いてくよ」

 

 とのことなので、私は厨房の方へ行き。厨房エリアの席に座る。クラスTシャツは素材が好みじゃなかったので着ていない。あと、ダサかった。

 

「宵崎さあ、お前なんでクラスTシャツ着ないんだよ」

「……」

 

 人が来るまでは暇だ。絵でも描いていようか。準備は終わってるからやることないし……姉さんの歌でも聞いていようかな。

 

「宵崎ー、聞こえてるのかー」

 

 片耳にイヤホンをつけて──

 

「無視するなよ」

「……」

 

 ……誰だこの男子。特に話すことはないんだが? 

 

「無視するなよ。寂しいだろ」

 

 別に私は寂しくないし、この男子生徒に対して興味も湧かない。

 

「この前、暁山と歩いてたけどさ。お前も男だったりするの?」

「……」

 

 何を当たり前のことを聞いているんだ。

 

「女モノの服着て恥ずかしくねえの?」

「……」

 

 なぜ服如きで恥ずかしいのか私にはわからない。色や柄のついた布切れだ。確かに、印象を与える物としての側面はあれど、それで恥ずかしかったりするのは違うだろう。

 

「なんで前髪垂らしてるんだよ。邪魔じゃないの?」

 

 別に前髪の有無は私の自由だろうに。……良い加減うるさい。

 片耳にイヤホンつけて動画サイトに飛んで姉さんのアカウント『K』に行って適当に曲を流す。

 物憂げで静かな雰囲気ながら、感情の爆発の様なリズムが入る。代わりに叫んでくれる様な曲が私は好きだ。

 サークル『25時、ナイトコードで』で作る様になってからは、曲の深みが増して、暇な時には聞く様になった。私はもう基本的に曲は作らないし、今の私に作れるとも思わない。作っても、動画用の効果音や挿入曲的な物ばかりだ。

 仮に今の私が姉さんの様な曲を作ると私のメンタルがものすごい勢いで病む。フラッシュバックと頭痛に苛まれながらも一度作ろうとした。その結果、DSBM(デプレッシブブラックメタル)やデスメタ的な歌詞と、陰鬱でメンタルを病ませる様なメロディーの曲になりやすい。ホラー系によりやすくなった。

 そう言うこともあって、私には誰かを幸せにする曲は作らないし、作れない。たまに湧いてくるイメージで慰める詩にメロディーをつけるのがやっとだ。

 

「…………はぁ」

「いらっしゃいませー」

 

 良い曲を聞いた。

 人も入ってきた様だし、動くとしよう。今は少し、気分がいいから。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「──お待たせいたしました。コーヒーとパンケーキになります。どうぞごゆっくり」

 

 キビキビ動いてやってくる客を捌く。

 ホールと厨房を行ったり来たりしながら動き回り朝ごはんを抜いて低血糖を起こした男子生徒の口に持ってきたクッキーを突っ込み。少し汗をかきはじめた女子生徒に水を渡し、足りなくなってきたコーヒーや紅茶を足したり。意外と人が入ってくる。

 

 文化祭と侮っていた。

 

「そんなに急いで動かなくても……」

「……」

 

 そうは言うが、ゆっくりやって人を捌き切れなくなったらやることが増える。

 

「おお、頑張れー宵崎ー」

「張り切ってるなー、宵崎ー」

 

 ホールも厨房も私が動き回るので男子はサボりはじめ、私が持ってきたクッキーを貪っている。働け。

 

「宵崎、料理とかすんの?」

「美味いじゃん。毎日作ってくれよ」

「彼女にならない?」

 

 何を寝ぼけた事を。

 

「やってるかー。……まあ、予想はしてたが。やっぱりお前が一人で動くよな」

「……滝沢秀昭」

「先生をつけろ」

「……先生」

 

 予想していたなら、なぜ私にさせようと思った。突っ立たれても邪魔だし、なんならいない方が楽だ。

 

「滝沢先生。宵崎さんが全部一人でやっちゃうんだけど」

「俺に言うなよ。直接言え、直接」

「直接言っても無視されるんです!」

「……宵崎、なんとかしろよ」

「……」

 

 私は合わせる気はない。安定して回すために、わざわざ動かないやつの為になぜ私が労しなきゃいけない。合わせられないなら、そこにいる男子とサボっていればいいのに。

 

「あと、宵崎。お前はなんでクラスTシャツ着てないんだ? 別に自由っちゃ自由だが」

「…………素材、苦手。ダサい」

「もう少し周りに合わせる努力はしろよ……」

 

 周りに合わせて利があるならそうする。ないならしない。私はこのスタンスを変える気はない。

 

「交代の時間だよー」

「……交代」

 

 交代の時間らしいので私は一度抜けよう。連絡先は……面倒だからいいか。多めに作って置いてあるし。少なくなったらどうせ探し回るだろう。

 

「……滝沢秀昭」

「ああ、行ってこい。一人で回るのが寂しいなら、先生と回るか?」

「……」フルフル

「そうか。楽しんでこいよ」

 

 楽しめるものがあるかはわからない。ただ気になるのが一つ。

 

『2-A ロミオ 〜ザ・バトルロイヤル〜 』

 

 なんでも、天馬司が台本を書いたモノらしい。神代類に聞いたところ、九人のロミオがジュリエットの取り合いをするらしい。血で血を洗う戦なのか? とも思ったが、笑いも感動もあるそうなので、どんなモノか気になっているところだ。

 

 時間もいい感じだし、見に行ってもいいだろう。

 

「……?」

 

 今、一瞬ピンク色の髪が見えたな。……瑞希が来てるんだろうか。

 

 ──―ねえ! 一緒に回ろ! 

「……」

 

 誰かと回るのはやめておこう。一人で静かにいられそうな場所は……。やっぱり、図書館の隣。文芸部の部室だろうか。

 時間になるまで部室に篭るとしよう。

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