深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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どうも。タグを増やすべきかどうか悩んでいる作者です。





9月の終わりにくしゃみして(2)

 

 

 部室に入り、席に座って背を伸ばす。

 木製の椅子に本棚に囲まれるこの部室が好きだ。少し暗くて、乾燥している。本の匂いがする。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)。今のうちに薬飲んでなよ。最近貰ったやつ、持ってるんだろう?』

「……また勝手に」

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)︎の持ってる機器は全てセカイと繋がってるからね。勝手に入ってるわけじゃないんだよ? と言うか、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)。前にも似た事を言った気がするんだけど』

 

 気のせいだろう。私は聞いた覚えがない。

 懐からフラッシュバックの不安やら興奮やらを抑える薬を確認する。困ったことに、最近はフラッシュバックで苦しむことが多い。ダメ元で相談してみると、即効性の低容量のものがあるようで、それを処方してもらった。

 夜に睡眠導入剤と一緒に精神安定剤も飲んでいるものの、抑えが効かない時用でもらった。

 

 この手の学校のイベントは、フラッシュバックが起こりやすい。学校自体がただでさえフラッシュバックの起こりやすい場所なのに、イベントとなると余計だ。

 そういう時は、心を落ち着けることのできる静かな空間にいるの方がいい。

 

 部室の一画、詩集やら短編小説やらが仕舞われてある本棚に目をやる。そこには、帯がまだついており。新刊と書かれたコーナーに置かれている。

 

「………………読む人、いるの。かな」

「珍しいですね。あなたがここにいるなんて」

「……」

 

 文芸部の部員が来たらしい。

 

「あなたも詩を読むの?」

「……」コクコク

「そうですか」

 

 文芸部の部員、如何にも委員長っぽい女子生徒。

 

「ああ、そう言えば。部長達が即興バンドやるみたいですね。滝沢先生は、あなたもと言っていましたが」

「……」フルフル

「何かしら言ってもらわないとわからないんですが」

 

 私はそのバンド。舞台に立つ気はない。

 

「……立つ気、ない」

「あの話ぶりは、あなたが絶対に参加する確信があるみたいですけど」

 

 そんなの知らない。当日に言われたんだ。参加する気なんて起きない。

 

「まあ、私は関係ないのであなたにお任せしますが。読まないならその本を借りても?」

「……」

「ありがとうございます」

 

 詩集『残明』を手渡して私は部室から出る。そろそろ時間だし思ったよりも話してしまった。……あの女子生徒はただの読者であってほしいな。

 

「あっ」

「…………おはよう」

「おはよう。玲音」

 

 2-A前で暁山瑞希と遭遇した。すぐ近くに男子生徒を二人連れて。

 

「知り合いか?」

「うん、クラスメイトだよ」

「…………」ペコリ

「……」

 

 濃紺と暗めな水色の半分に分かれた短髪に灰色の瞳を持ち、左目の目元には泣きぼくろがあるクール系男子生徒と。オレンジ色に、黄色のメッシュが入った髪をしている気の強そうな男子生徒。……どちらも容姿は良い。ツートーンカラーの男子生徒の顔は好みだし、黄色メッシュの男子生徒は何処かで感じた雰囲気を纏う。

 

「……瑞希。ナンパ? 混ぜて」

「違うから。今日知り合ったばかりだし」

「俺はナンパされていない。どちらかと言えば、されたのは彰人の方だな」

「違うけどな。突然なんだとは思ったけど」

「……ナンパ」

「だから違うって。ほら、絵名の弟くんだよ」

 

 東雲絵名の弟……。ああ、負けず嫌いそうなところ。努力を怠らなさそうな感じはそこからか。

 

「…………宵崎玲音」

「自己紹介か。オレは東雲彰人だ」

「青柳冬弥だ。よろしく頼む」

 

 黄色メッシュが東雲彰人。ツートーンカラーが青柳冬弥。うん。覚えた。

 

「宵崎も劇を見に来たのか?」

「……ん。中身に釣られた」

「そうか」

「……」

「……」

 

 なんだろう。青柳冬弥とは何か通じるものがあるような気がする。

 

「どうしたの。二人見つめあって」

「……いや。なんでもない」

「…………ん」

「えー、なになに。どうしたのさ」

「そんなことより、さっさと入ろうぜ。良い席とるんだろ?」

「そうだな。宵崎も一緒にどうだ?」

「……ん。瑞希、と。東雲彰人が良い。なら」

「オレは別に構わない」

「ボクも全然良いよ」

 

 良いとのことなので、一緒に劇を見た。

 ドロドロとした恋愛劇ではなく、本当にロミオがバトルロイヤルしてた。そして、話は地球規模から宇宙規模となり……。私は何を見せられているのかわからなくなった。隣に座る青柳冬弥は目をキラキラさせ。暁山瑞希は笑い。東雲彰人はB級感満載の劇を笑って見ていた。……楽しそうだな。

 

 ──―ロミオとジュリエットって、バッドエンドだよね。だって、すれ違いで死んじゃうなんてさ。

「……」

 

 ……目の前で死んだくせに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白かったな」

「まさか、宇宙にまで話が広がるとはねー」

「……B級、良いところ。たくさん」

「それって褒めてるのか?」

 

 褒めてるとも。楽しませてもらったんだから。

 

「おお、いたいた。宵崎、舞台についてなんだが」

「……滝沢秀昭。私は」

 

 楽しかった余韻が消え失せていく。目の前にいる教師は自由が過ぎる。

 

「滝沢先生。こんにちは」

「おう、来てたのか。暁山。来てるんなら言ってくれよ。出席つけといてやるから」

「えー。助かる、ありがと」

「……瑞希、青柳冬弥、東雲彰人。先に、探してて」

 

 青柳冬弥は天馬司に感想を伝えるべく探しに行き、後を追うように二人には別れてもらう。私は後から探すとしよう。

 

「で、どうする? 出てもらわないと困るんだが」

「…………困らない」

「困るのは俺だ」

 

 滝沢秀昭が困ろうと私は困らない。

 

「……そうか。お前なら乗ってくれると思ったんだけどな。Kの楽曲をやるらしいし、お前ならと思ったんだが」

「……」

 

 どうやら、姉さんの曲で私を釣り上げようとしたらしい。

 

「三年が暴走してな。最近ハマってる音楽サークルの曲のコピーバンドがしたいってんで、枠は取ったんだが……完成度はお察しだ。そこでその場の死んだ雰囲気を宵崎なら良くも悪くも一人でひっくり返せるんじゃないかって考えたわけだ」

 

 部長らが暴走したらしい。そして、完成度は低いままと。そこで、Kの身内である私ならどうにか出来る。すると思ったんだろう。

 残念だが、手を貸す気はない。

 

「まあ、見てくだけでも見てってくれ。これから体育館でやるから」

「……わかった。見るだけ」

 

 そう、見るだけだ。何があっても私は手助けはしない。部長達がどうなろうと私には関係ないことだ。

 

 

 

 

 

 

 だが……

 

「………………これはひどい」

「教師としてどうかとは思うが、だろ?」

 

 コピーバンドのはずがコピーしきれていない。まず、素人に姉さんの曲が難しかった。そして、ボーカルもただカラオケが上手いだけの人。感情もあまり乗らず、ただ音域だけは正確。技術があるわけでもない。変に感情任せに歌って雑になるよりは良いんだろうが、全体的に技量不足。

 ただ、部長らは楽しそうだ。一生懸命で、この日のために練習はしたんだろう。基礎はある程度できてるようだけど……。楽曲の良さを表現しきれていない。

 

「……滝沢秀昭、先生。飛び込みって、あり?」

「そうなることを見越して、あいつらにも話はしてある。宵崎がやるかもしれないから、上がってきたら変わってやってくれって。あの曲が出来れば良かったらしいから、変わってくれると思うぞ」

「……そう」

 

 気が変わった。部長達には変わってもらおう。対して人は入っていないし、生徒よりも校外の人間の方が多い。校外生徒や外部の人間なら私を知る人も少ないし、普通に歌っても大丈夫だろう。

 

 終わったタイミングで滝沢秀昭が舞台に上がって部長らに説明。少しして三年生達が降りていく。

 

「じゃ、頼んだぜ。宵崎、俺らよりひどくなることなんてないだろうから、安心して失敗してこい」

「……」ペコリ

 

 失敗、か。失敗があるとすれば、文化祭に来たことだ。こんな思いをするなら、ちゃんと体育祭に行けば良かった。

 

 舞台に上がる前に放送機器にスマホを繋げ、舞台が見える位置に画面を向けて立てかける。私が歌うんだ。音響はこれで良いだろう。どうせ、どんな楽器や演奏も飲み込んでしまうんだから。

 

ミク(⬛︎⬛︎)。スピーカーに繋いである。マイクの前に立って挨拶したら、『白日夢』を流して〝ブーッ! 〟。…………頼んだよ」

 

 さあ、舞台に立とう。実力不足ながら思い出の歌を歌った部長達に、歌唱した本人が歌おう。誰に向けるでもなく、自分がスッキリために。

 

 私がマイクスタンド前に立つと、少し館内がざわつく。さっきはバンドだったのに、今は私一人だ。これではただの独唱。さいあくアカペラだ。興醒めも良いところだろう。

 

「………………こんにちは、文芸部所属。宵崎です。部長達は疲れたとのことなので、代わりに歌わせていただきます」

 

 特にブーイングは来ない。そもそも期待なんてしていないだろう。だって、この後に控えているのは軽音部だ。それ目的の人間が大半のはずだしね。

 

 バラード系の曲が流れ始め、マイクを握る。

 

 さあ、歌おう。会場を掻き乱そう。半端なコピーじゃない。半端なコピーよりも酷い、調和の取れないボーカルが場を支配しよう。後始末は滝沢秀昭に丸投げして仕舞えば良い。

 

「──────♪」

 

 私は、学校で初めて歌った。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「この歌は……」

 

 外を軽く見て回っていた時に聞こえてきた歌声。そういえば、体育館で文芸部がバンドやってるんだっけ。ちょっと、覗いてみようかな。

 

「どれどれ、誰が歌ってるのか、な……」

 

 以前、奏から聞いたことがある。なぜ空亡と。玲音とあまり曲を作らないのか。

 まず一つ目の理由。玲音があまり一緒に作りたがらないから。頼めばメロディーを確かめたりしてくれはするけど、一緒に作ることはない。

 そして、最大の理由が。今ボクの目の前で証明された。

 

「……確かにこれは、一緒に作るのは難しいかも」

 

 歌唱力が高過ぎる。メロディーや他の音を飲み込むほどの歌唱力。他の音楽表現である演奏を完全に飲み込み、歌だけが聞く人の内に響いて。その人の感情を塗り替えていく。

 物悲しさと切なさを叫ぶ歌がボクを飲み込もうとするほど。

 

 いつまでも夢に囚われてしまった誰かの歌。そんな誰かの代わりに叫ぶ歌が、体育館に響く。

 まだ聞いていたいけど、今は司先輩を探してるんだ。

 今度、また今度。玲音に聞かせてもらおう。カラオケに行きたいっていえば、一緒に行ってくれるかな。







作者はセリフに関しては本当に自信がございません。
なんか違うんじゃない? と違和感があれば感想の方にお願いします。

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