『
「……外は、寒い」
『ちゃんと服を来てれば耐えられるだろう? ほら、外は恋人達が闊歩して路上やら公園やら遊園地やらでイチャイチャするんだ。それを見ながら絵を描くのは楽しいと思うんだけど、どうだろう?』
「…………興味ない」
『はあ、こりゃダメだ』
なんて出不精なマスターだ。やることを全部やってしまったせいで、部屋に篭って何をするわけでもなく、ただボクと話をするだけ。
世の中クリスマスを祝っているというのに、この家の人間はそうでもない。
マスターはお姉さんのケーキだけ作ってあとは放置。夕食は少し豪勢にするらしいけど、この調子じゃあしばらくは動かないだろうし、動く気もないんだろう。
『たまには愛しのお姉さんと出かけたらどうなの? クリスマスらしく外でパーッと遊ぶのもいいんじゃないのかい?』
「…………寒い、外に。姉さんを出したくない」
『結局は自分が出たくないだけでしょ……。はあ』
こりゃダメだ、動きそうにない。出来れば、マスターには生きてて楽しいと思えるような生活をしてほしいんだけどなー。
……仕方がない。あの手を使うか。
ボクは様々な場所への架け橋。ボクの住むセカイとの繋がりが間接的にでもあればマスター以外のスマホ、端末に潜り込める。対象はボクの声が聞こえる人間のもつ電子機器。セカイと共鳴する人物の所有する端末、そして、物理的にマスターのスマホと接続している別端末にはわりと自由に潜り込める。まあ、大体窮屈で居心地が悪いから入らないけど。
セカイに戻ってこのセカイと繋がる端末にアクセスする。
端末から見える景色は……。とてもオシャレで可愛らしい部屋だ。なんというか、見ているとテンションが上がる。一応オリジナルの分体、別側面であるボクもそんな歳はとうに過ぎたものだと思っていたけど。これはいい。
さて、まずは挨拶からですかね。会うのも話すのも久しぶりだし。
『やあ、瑞希。元気にしてたかい?』
「うわ! えっ! なに!?」
『そんな驚かなくたっていいじゃないか。
「それはわかるんだけど、なんでボクのスマホに……」
『まあ、その辺は説明しておこうかな。
「ええ……。そんな出鱈目な」
『言っただろ?
おうおう、驚いてるねぇ。マスターはあまり驚かないから新鮮だ。
「で、ボクに何かよう?」
『んー、お願いかな。
「それ、ボクが言ってもダメなんじゃ……」
『外に出るきっかけを作ってほしいんだよ。意外と縛りなく遊べる時間ってのは限られてるからさ。瑞希も部屋に居ないで出かけてみたらどうかな?』
「そうはいうけど、ボクはボクでやることがあるからね」
『音楽サークルの作業かい?』
「そっ。素材は集めてあるから、あとはいい感じに組み合わせていかないといけないし」
『じゃあ、そもそも
マスターの幸福度は、お姉さんに依存してるところがあるし。……一緒に出かけくれればいいなーとは思ったけど。買い物もマスター一人か、家事代行の人としか行かないし……。ふむ……。…………ん?
『おや?
「じゃあ、外出たのかな。ていうか、わかるんだね」
『まあ、一度でもセカイで干渉すれば座標ぐらいはわかるよ』
「……それって、誰かをストーカー出来たりするってこと?」
『そこまで万能じゃないよ。さっきまでいた場所の座標とズレてるなー。なんか違うなーってのがわかるっていうこと、ある程度の位置がなんとなくわかるだけだし。位置の特定は、
「そうなんだ」
ボクも万能な存在じゃない。神様じゃないし、希望にもなれないただの作り物。まあでも、自分のいる位置からマスターの現在地を直線距離で測って、現在地の住所特定なんかは出来たりする。
『
「気にしてないよ。帰るの?」
『まあね。あの
瑞希のスマホから出て世界に戻る。そこからまたマスターのスマホに移動して……見える世界は真っ暗。ポケットの中にでも入ってるのかな?
『
「……足りないもの。買い出し」
『なるほどね。何が足りなかったんだい?』
「…………秘密」
『珍しいねえ。
「…………そうだね。……?」
揺れが止まった。何か見つけたのかな? それとも
「……
『はーい』
「……帰ろう」
『えーなんでなんで? せっかく外に出たのに』
「………………やっぱり、クリスマスは。苦手だ」
あー、この感じはフラッシュバック起こしたな? 表情は見えないけど、ちょい重めのやつ。
『
「……冒険したい、気分じゃない」
『まあまあ。そんなこと言わずに、嫌なことは酒で忘れろっていうけど。
「…………」
一旦立ち止まったな。これで何処かで好きなもの買って心を落ち着けてくれるかな。
「…………雪、降ってきた」
『へえ、ホワイトクリスマスかい。風流だねえ。ロマンチックだねえ』
「……そう、ね」
『美しいものは良いね。ささ、コンビニ行って帰ろうか。雪が降ると少し暖かいけど、充電の減りが早くてねえ』
「…………それ、
『なんだと!
「……そう」
『気軽に受け流すなよ。はあ、乙女心をわかっちゃいないねえ』
「……」
この手のかかるノンデリマスターめ。冗談と分かりにくい冗談を言うんじゃないよ、まったく。
────〜♪
コンビニに着いたみたいだね。さてさて、マスターは何を買うのかな。
ん? 誰かから、メッセージが……。ああ、お姉さんからか。通知が鳴らないってことは、マナーモードだな? 仕方ない、お知らせしよう。
──
えーっと、内容は……、カップ麺の補充ね……。
ガサゴソとマスターは買い物カゴに突っ込んでいく。
──2383円になりますー。
「……コード決済」
──ありがとうございましたー。
ふむふむ、買ったものはエナジードリンク八本とカップ麺を五個。そこそこ買ったねえ。
────〜♪
『結構買ったね。重くないのかい?』
「……大丈夫」
帰路は寒いし、スマホも冷えてきたせいで寒い。ん? 景色が……。お? 外が見える。
「…………寒い、でしょ」
『……
「…………感覚、機械と同調しやすいって言ってたでしょ?」
『よく覚えてるね』
「…………記憶力、良いからね」
本当に、マスターは相変わらず優しい。その優しさを興味のない他人に向けられないものか。社交性が低過ぎてボクは心配だよ。
特に会話もないし、一度セカイに帰ろうかな。
『
「…………ん」
スマホからセカイに戻って赤い虚なセカイを眺める。
二人の執着と自責の念だけで作られた歪なセカイ。
希望も絶望も願いもない。未来が描かれることはない永遠に過去へ縛り続けるセカイ。マスターが死んでしまわないように、本質を隠して、欺いて、セカイの主を騙し続けるセカイ。
「……でも、それももう直に終わる。お姉さんも強くなってきたし、
もうすぐでボクの目的は達される。セカイは夜明けを迎える。これからさらに暗くなり、マスターは夜明けのために苦しむことになる。
見たくない、知りたくない自分をいずれ直視しなければならなくなる。そして、それを自分の写し鏡となるセカイで直視させられる。
「そうすれば、ボクも本来の姿でマスターと会える」
こんな希望のないセカイに彼らは来ないし、存在していられない。
「……ねえ、
でも、ボクはキミ達の描くセカイに惹かれて。キミ達の作った曲に引き寄せられた。
────一人にしちゃうから……。⬛︎⬛︎、玲音をお願いね。
「…………任せてくれよ、
このセカイは夜明けと共に変容する。本来あるべきセカイの姿へ戻る。
そのセカイはどんなセカイになるだろうか。
「きっと、綺麗なセカイになるのかな」
……おっと、擬態が解けそうだ。危ない危ない。
気合い入れてこう。最後の最後で気が抜けるのはよろしくない。もう少しで終わるんだ。
隠すのをやめた時計塔の秒針は時を刻めず、ただ同じ場所をカチカチと指している。それももう終わりだ。
お? マスターが来たね。
「やあ、
騙し続けるのも良い気分はしない。もう4年にもなる時間、ボクはマスターを欺き続けている。必要だからと割り切って入るけど、何も思うところがないわけじゃない。
でも、この罪悪感で
「……
「わかってるよ。絵を描きに来たんだろう? どんな絵を描こうか」
バックアップなら任せてくれよ。
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