私はクリスマス終わりのこの空気が好きだ。綺麗に飾られていたイルミネーションやクリスマスツリーは撤退して代わりに門松が置かれ。リースに変わってしめ飾りがかけられる。
目に見えて時の移ろいを感じられるこの空気感が好きだ。
学校は冬休みに入り、私は公園で絵を描いている。
日守康作の喫茶店は定休日。外に出たのは良いがやることがない。と言う事で、近所の公園に複数生えている落葉樹を描いている。
凍えながら描いてるが、子供というのはすごい。こんな寒い季節でも元気に走り回ることができるんだから。……私も、あれぐらい元気な頃があったな。
〜〜〜〜♪
ん? この音は……ギターか? 音がおかしいな。少しだけ音がズレている。全体的に弦の張りが弱い。
…………中学生か? 見た感じ新しいギター、クリスマスで買ってもらったんだろう。使うのも初めてのようで、コードの指配置や弦の弾き方も辿々しい。
私も同じ時期があった。覚えること自体は簡単だった。でも、記憶通りに体を瞬時に動かすのは簡単じゃなかった。そんな苦労もあって、今では身体把握と操作が上手くなった。
……。
──〜〜♪
……不快だ。ものすごく不快だ。ズレた音に、ところどころおかしなコード。指摘したい
「なんだよ。さっきからこっち見て」
見ているのがバレたらしい。指摘させてもらおう。
「…………それ、音ズレてる」
「だからなんだよ」
「……貸して。直すから」
隣のベンチまで行ってギターを借り、弦を弾いてペグを回す。新品だけあって少し硬い。良いものを買ってもらったんだろう。愛されてるな。
「だ、大丈夫か? なんか、キリキリ言ってるぞ」
「……大丈夫」
……よし、音は大丈夫だ。
軽く弦を弾いて音を確かめる。特に変な音もしない。
「…………直った。返す」
「あ、ありがとう」
「……別に、良い」
さて、色鉛筆で色塗りでもしよう。練習している少年の邪魔は良くないだろう。
「あのっ、ギター。弾けるの?」
「……弾ける」
数ある楽器の中でギターは得意だ。フラッシュバックのせいでここ4年はまともに触れていないが。
「俺にギター教えてくれないか」
「……やだ」
「お願い! あやかに、妹に聞かせてやりたいんだ」
「……」
……聞かせたい相手がいるのか。
「……良いよ。少しだけ、教える」
「本当か! ありがとう」
元気だな。私が少年ぐらいの時は部屋で凍えていたよ。
「……ギター、初めて、どれくらい?」
「…………昨日、親父が買ってきてくれて」
「……」
「悪いかよ」
「……別に。基礎も基礎、だと思っただけ」
初心者であることは悪いことじゃない。そして恥じることもない。わからないのが当然で、出来ないことが当然だ。
「……期限、ある?」
「1月5日までには……」
「……だいたい10日、か」
「1月5日に妹が大きい手術なんだよ。失敗の可能性はないんだって言うけど、妹も俺も不安で……。だから、昨日約束したんだよ。それまでに俺が頑張ってギター覚えて聞かせてやるから、妹も頑張れって」
「……妹想い」
「悪いかよ。妹想いで」
「……」フルフル
私だって姉さんが好きだ。仮に姉さんが病気で、私が初めて挑戦し、それを成功させることで勇気づけられるなら死に物狂いでやって成功させるだろう。
「……家族想い、は、良いこと」
「頭触んな」
おっと、それは失礼。
まあ、とりあえず始めよう。覚えが悪いなら、一曲に全てを費やしてしまった方がいい。器用だとしても基礎を固めて曲まで持っていくには少々時間が足りない。一日二日で基礎を教えて、それからは同じ曲を完璧になるまでやり続けた方がいいだろう。
「……まずは、コードから」
全てのコードをある程度覚えてもらわないとスタートラインにすら立てない。
「? 曲はどうすれば」
「……出来次第で考える」
つべこべ言わずにやってくれ。そして覚えろ。
違う、その指じゃない。ちゃんと弦を抑えて……
────んー指届かないし、どうやって弾くのさ……
────器用だねー。
本当に、いつでもフラッシュバックが起こる。パニックになるほどでもないけど、しんどい。
「なあ、大丈夫か?」
「……人の心配、より。練習、して」
私の心配より、妹のために頑張ってくれ。
「……指、間違い。……ん、そこ」
日が暮れるまで、少年にギターのコードを教えて家に帰った。そして、少年からはお姉さんと呼ばれるようになった。解せない。
『珍しいこともあるんだねえ。
「…………ただの気まぐれ」
『そう言いながら、明日も教えるんだろう?』
「……居れば、ね」
今日の少年が居ればだ。いないなら絵を描いて終わりだ。外は寒いから出来れば出たくないが、約束を反故するようなことをしたくはない。やると言ったらやる。やり通さなければいけない。少しでも甘えて仕舞えば、この仮面が壊れてしまうだろうから。
『何か思うところでもあったのかい?』
「…………頑張る人は、応援があっても良い。そう思っただけ」
暇だったし、出会ったのも何かの縁だ。手を貸すぐらい良いだろう。
「……玲音、誰かと通話中?」
「……違うよ」
『ハロハロー。
「……玲音のミク」
『そうそう。
「……うん。よろしく、虚白ちゃん」
特に姉さんが驚くこともないみたいだ。……そう言えば、暁山瑞希をセカイに入れた時もセカイに入る感覚には驚いていたけど、セカイ自体に驚きはなかった。……と言うことは、姉さんのサークルにもセカイがあったりするのかな……。
「…………姉さん」
「なに?」
「……姉さんも、苦しい?」
「……なんの話?」
「……なんでもない」
姉さんにも、少なからず私に対して隠しているものがある。多分、私を守るために……。父さんのあの言葉にも、縛られている。苦しくないわけがない。
「……姉さん。家族って、難しいね」
「……そうだね」
難しい。近いから言えない。私をよく知るからこそあのセカイを見せたくない。
伝えたいけど伝えられない。叫びたいけど叫べない。姉さんを心配させたくないから。鹿野ちゃんの真相だって、結局父さんにも姉さんにも言っていない。手紙のことも……。
……よし、味は完璧だ。
「……姉さん、今日は肉じゃが。……一緒に、食べよ」
「うん」
器に肉じゃがを入れて、お茶碗に白米。朝に作ったあまりの味噌汁をいれて食卓に並べる。
「「いただきます」」
一緒に手を合わせて食べる。最近は姉さんが忙しそうだったからバラバラに食べていたけど、一人で食べているよりも姉さんと食べる今の方が好きだ。
家族は難しい。それも、お互いに話せないような秘密があると余計に難しい。
「…………姉さん」
「……なに?」
「…………いつか、姉さんにも。私のセカイ、見せるね」
「……待ってる」
いつか、私が正気の内に。姉さんに秘密を曝け出せる日が来ると言いな……。
久しぶりに、カバー曲でも出そうかな。姉さん達の曲で。
今後の投稿について
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