「……」
私は今までにないぐらい悩んでいるかもしれない。
「……姉さんの欲しいものがわからない」
本日は姉さんは誕生日。ハッピーバースデーである。
誕生日と言えば誕生日ケーキやらプレゼントやら色々あり。日頃から手作りケーキなどを渡している身の私からすればケーキを作るぐらいなら朝飯前だ。だがしかし、私は普段姉さんと会話がない。あっても、私の絵がどうだったとか、人形がどうだったとか、カバー曲がどうだったとかそれぐらいだ。姉さんは、姉さん自身の話をあまりしない。
困っていることも、今欲しいものも言わない。去年は睡眠時間の少ない姉さんに質の良い枕をプレゼントした。そして、今でもそれを愛用してくれているので私としてはありがたい限りだ。
しかし、1月に姉さんと私は寝具は新調した。寝具をプレゼントするのは難しい、変えたばかりだし……。絵は気が向いた時にモデルをやってくれているので、その時の絵を渡しているし……。とまあ、こんな調子で悩んでいたら当日になってしまった。
「……で、
『
「……」
それもそうなんだろうけど、そうなんだろうけど。何か良さげなものはないのか……。
『絵を描いて贈るのはどう?』
「……今から描いても、ね」
スケッチぐらいなら別に1時間もあれば出来る。ただ、絵となると最低でも半日は欲しい。
『肩たたき券は?』
「……肩凝りで困ってるとか、聞いたことない」
『こう言うのは気持ちだと思うよ』
弟から肩たたき券をもらって嬉しいのだろうか。……姉さんのことだ。何を渡しても喜んでくれるとは思う。ただ、それとこれは別だ。どうせなら実用性のあるものを渡したい。
この際本人に聞けば確実ではあるんだろう。ただ、姉さんは聞けば遠慮する。「気持ちだけで良い」と言われてしまう。
本当に困った姉だ。
「……瑞希に聞けば、何かわかる。かな」
『聞いてみるかい?』
「……ん。メッセージアプリ開いて」
『はーい、よっと』
玲音『姉さんに何あげたら良いと思う?』
これで良いだろう。後は返信が来るまでケーキでも作るか。
「……あ」
「あ、……おはよう。玲音」
「……姉さんも、おはよう。……珍しい、ね」
珍しく姉さんが台所にいる。……待て待て待て待て!
「姉さん。その持ち方は危ない」
「……そう?」
「……ん。危ないから、置いて」
姉さん。何をしようとしていたかはわからないけど、出刃で握り持ちは肝が冷えるからやめて欲しい。
「姉さん。何を作ろうとしてたの?」
「……秘密」
「姉さん」
「……玲音も今日誕生日だから、玲音が好きなものを作ろうと思って」
まな板に目をやると、油揚げがのパッケージが置かれてある。まさか、姉さん。
「……パッケージ開けるのに、出刃使おうとしたの?」
「大きいから、切り分けながら出来るんじゃないかと思って」
私も似たようなことやるし、出来なくもない。ただ、出刃ではやらない。重たいし。そもそも包丁じゃなくてハサミで普通に開封して欲しい。
「……一緒に作る?」
「一人で頑張ってみる」
「……わかった」
ダメそうならフォローを入れれば良いか。姉さんももう17になるんだ。ある程度の料理ぐらい……。
「……姉さん、ちょっと待って。何しようとしてる?」
「酢飯作ろうと思って」
「……今はお釜も熱いから、タオル越しに持った方がいい」
「わかった」
前言撤回だ。下手まではいかないけど、慣れない分動きが危なっかしい。なぜ素手でお釜がいけると思ったのか。確かに、私は慣れている分素手で持ち上げるが、姉さんは慣れていないだろうし、大して熱に強い指でもないだろう。火傷してしまう。
見ていないと怖い。大半の料理は料理本から覚えたけど、姉さんはスマホを見ながらだ。多分クックパッド。親切なレシピもあれば、ざっくりすっぱりな超簡潔に書かれたレシピもある。あたりはずれのあるものだ。出来れば作りやすく、わかりやすいモノを選んでいることを祈ろう。
私は、ホイップクリームを作ってミルクレープを作成している。ひたすらクレープ生地を作って冷まし、重ねて、冷まして重ねてを繰り返す。クレープ生地自体対して厚さがないので、高さを出したいなら、フルーツを薄く切って入れたりするといいんだが。今回は、ミルクレープを土台にケーキを作るのであまり関係はない。
せっせと酢飯をお揚げに詰める姉さんを横目に、クレープ生地を量産して冷えたら重ねる。ただこれの繰り返しだ。
「……玲音。意外と腕が疲れるね」
「……慣れないから、だと思う。慣れれば辛くない」
慣れて仕舞えば、酢飯を詰めることぐらい簡単だ。それに、料理。台所に立つこと自体、姉さんは慣れていないんじゃないだろうか。私が帰らない時はカップ麺か魚缶とか食べてるみたいだし。
「……楽しい?」
「……大変。玲音はよく毎日出来る」
「……好きだからね」
姉さんに食べてもらうのは好きだし。基本的に自分で作れれば好みの味から外れないから、安心して食べられる。
──
誰かからメッセージが届いたらしい。と言うか、消音にしてたのか……。
手を洗ってメッセージアプリを開く。……わからない、か。……姉さんのサークルも繋がりとしては浅いのかな。
瑞希『んー、わからないなあ。奏が作業中に自分のことを話すなんてあまりないし』
瑞希『何かあったの?』
玲音『今日は、誕生日』
玲音『だから、姉さんが欲しい物を。と思ったんだけど、姉さんは欲しい物とか話さないから』
玲音『瑞希なら、知ってるかなって』
瑞希『へえ、奏は今日誕生日なのか。ってことは、玲音も今日誕生日なの?』
玲音『双子だから』
瑞希『それもそうか。誕生日おめでとう、玲音。当日に知って申し訳ないけど、何か欲しい物とかある?』
玲音『瑞希が絵のモデルになってくれるだけでいい』
瑞希『欲がないねえ』
瑞希『君達姉弟に、物欲はないの?』
玲音『そこまで執着はない。瑞希がくれるならなんでも嬉しい』
瑞希『んー。じゃあ、何か良さそうなのを贈ろうかな』
瑞希『小休憩がもう終わるから、良さそうなの見つけたら二人に贈るね』
玲音『ありがとう。後で、瑞希の誕生日も教えて。私だけ貰うのは気分が悪いから』
瑞希『はーい。じゃあね』
暁山瑞希は、姉さんと私宛に何かくれるらしいが、私は暁山瑞希の誕生日を知らない。次の機会になるけど、ちゃんと暁山瑞希には贈らせてもらおう。
……と言うか、学校のある平日に何故バイト。学校が苦手なのは知ってるけどさ。
「誰かから連絡?」
「……瑞希から。誕生日おめでとうって」
「よかったね」
「……姉さんも、ね」
姉さんも私も誕生日一緒でしょ。双子なんだから。
「出来た。味見出来る?」
「……出来るよ」
手は離せないけど。
「口開けて」
……酢飯が少し酸っぱいけど。まあ、許容範囲だ。初めて作るにしては上手く出来たんじゃないかな。
「……美味しいよ」
「本当に?」
「……ん。美味しい」
美味しいよ、うん。それにしても、なんでわざわざ作ろうと思ったんだろう。作ってくれるのがありがたくないわけでは決してない、しかし、しかしだ。私の誕生日だとしても、姉さんが買ってきてくれたのなら全然市販のものでいいのに。
「誕生日おめでとう。玲音」
「……ん。姉さんも、ね」
「プレゼントは部屋に置いてきてるから後でだけど……」
「……わざわざプレゼントも」
私はまだ用意しきれていないのに。
「……プレゼント。まだ用意してない」
「わたしはいつももらってるから。玲音にあげたい」
「私も姉さんからいつももらってるからあげたい」
主に活力と、今の私が生き続ける意味をもらっている。姉さんがいなければ、今頃は鹿野ちゃんの後を追ってこの世から去っているんじゃないだろうか。
「後で一緒に買いに行く?」
「……作業はいいの?」
「あらかた終わってるから大丈夫」
……最近。とは言っても1ヶ月前も姉さんを連れて出かけている。あまり外に出ない姉さんをだ。邪魔になっていないだろうか。
「玲音。わたしは玲音を迷惑だと思ったことないよ」
「…………なんのことか」
「そう言うことにしておく」
姉さんの顔を見れないや。今の私が見たら、姉さんに
ミルクレープは出来た。あとは、ラップして冷蔵庫で冷やして、刻んだフルーツを飾れば終わる。
「手先、器用だよね」
「…………いっぱい作ってるから。姉さんも、出来るようになるよ」
技術とは慣れと経験による行動の最適化だ。やっていれば身につくものだ。私でも身についたんだから、姉さんなら習得できるだろう。
一週間後にはバレンタインだし、一緒にチョコレートを作ってもいいかもしれない。当日は出かける予定だから前日、前々日になるけど。
時刻は午後2時
「……出掛ける?」
「いいよ」
姉さんが欲しそうなものがある場所。……電化製品店か、CDショップかな。それとも、この前行ったカップ麺専門店に新しいものが入ったらしいし、それを見に行こうかな。
「……行きたい、見たい場所。ある?」
「玲音が連れて行きたい場所」
返答に困るな。まあ、いいか。この際、行ける場所を連れて回ろう。誕生日だし。
前書きとか、後書きに小話を挟もうかどうかを最近考えている作者でございます。
今後の投稿について
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クオリティは落ちるが毎日更新
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クオリティはある程度保証される偶数日更新
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一旦完結まで持っていって書き直す