深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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シニガミ⬛︎⬛︎ード

 

 

 2月14日。バレンタインデーだ。

 今年も毎年通り、鹿野ちゃんのところへ行く予定なんだが

 

「やっほー」

「……瑞希」

「いやー、本当に来るかは怪しかったけど、本当に毎年この時間にはここにくるんだね」

 

 駅前に暁山瑞希が立っていた。

 もしかして待っていたのか? 

 

「……もしかして、待ってた?」

「うん。この時間に駅にいれば会えるって奏に聞いたからさ」

「……私に連絡、すれば良いのに」

「予定は立ててないけど、会うっていうシュチュエーションがいいんじゃないか」

「……わからない」

 

 確かにロマンはあるんだろうが、非効率すぎる。これで会えなければ外出損だろうに。

 

「まあ、会えなくても寄りたい場所あったし。待ってみても良いかなって」

「……そう」

 

 メッセージなりなんなりして私と連絡寄越せば良いのに。風邪を引いて、姉さんに鹿野ちゃんのところに行かせてもらえない可能性もあるにはあっただろう。

 

「……それに、行くんでしょ? 鹿野ちゃんのところに」

「……ん。……来る?」

「そりゃ、玲音が心配だからね。虚白ちゃんには友達ごっこだって言われたけど、ボクは玲音を友達だと思いたいからね」

「……そう」

 

 心配ね……。心配されるような存在なのかね。私は……。

 

「……飴、買いに行ってもいい?」

「そう言うと思って、買ってきたんだよねー。ハッカとミントとハーブだよ」

「……全部スースーするやつ」

「乗り物酔い対策にはいいって聞いたから、買ってみたんだ」

 

 ハッカやミントは効くと聞いたことがあるし、実際効いてくれるけど、ハーブはどうなんだろうか。

 

「……現金、持ってない」

「良いよ。飴代ぐらいボクが出すよ」

「……それは悪い」

「それがいつも会計を盗られるボクの気分かな」

「…………次回から善処する」

 

 今度から現金を持ち歩くようにしよう。帰りに財布でも見に無印にでも寄ろうかな。

 ……しかし、積極的に暁山瑞希の方から来るとは。1ヶ月ぐらい顔を合わせて話はしていなかった。

 あの日以降、暁山瑞希と会うことはなかったし、電話もしていない。メッセージアプリでもほとんど会話はない。……この感覚はなんだろうか。不思議な高揚を感じる。絵を描きたい。創作欲求? 違う。興奮? 多分違う。嬉しさに近い、けれど多分違う。

 

「……これが恋」

「何がかはよくわからないけど、多分違うんじゃないかな」

 

 違うらしい。まあ、それはわかっている。恋をしたことぐらいある。実りはしなかったけど、ね。

 

 とりあえず、目的地に向かおう。

 

 ……そういえば、今日も平日だ。暁山瑞希もサボったんだろうか。私は人のこと言えないけど。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、君たち暇? 俺達と遊ばない?」

「……遊ばない。去れ」

「そう言わずにさあ」

「あはは……でも、ボクたち用事が」

「なになに、好きな男のところでも行くの? 俺達の方がイケてると思うんだけど、どう?」

「…………うるさい」

 

 電車の中。移動中にナンパされた。背丈的に大学生ぐらいだろうか。二人揃って似合っていない金髪に顔は……好みではない。もうちょっと化粧するならちゃんとすれば良いのに。ナチュラルメイクのつもりだろうか? 

 

「……瑞希。移動」

「そうしようか」

「あれー、どこ行っちゃうの」

「ねえねえ、どこ行くのよ」

「…………」

 

 鬱陶しいな。……仕方ない。

 

「……鬱陶しいなぁ。迷惑だってのがわからないわけ?」

「な、何んだよ急に」

「何だよって。キミらが鬱陶しいからこっちも我慢の限界なんだ。自分たちと同数以下じゃなきゃナンパも出来ないくせに。どうせ、大学デビューかなんかで髪染めて垢抜け頑張ってるみたいだけど、似合ってないんだよね。自分磨くなら、中身から磨きなよ。伴ってなさすぎて気持ち悪いよ? 香水もつけ過ぎで匂いきついんだ」

 

 徹底的にメンタルをへし折ってやろう。怒りを表現して、声に怒気を乗せて、相手を詰めながら後ろに引かせろ。一歩でいい。最初に一歩でも下がらせればあとは押して行ける。

 そうだ。お前達じゃ私に敵わない。お前達如きじゃ、ボクに手を出せない。だって、見せかけなんだから。

 見せかけだけの中身が伴わない、面白みもない人間がボクに触るな。ボクの友達に触るな。目障りだ。

 

「……消えろ。今すぐ」

「お、おい。いくぞ」

「気弱そうだったのに」

「その気弱そうなのに圧で負けるなんて、雑魚だね。お兄さんたち。だから誰にも相手されないんだよ」

 

 ほら、尻尾巻いて逃げた。所詮は学校の隅っこで固まってる人間だ。外側で威圧しても、中身が弱いんじゃあねぇ。

 珈琲豆を取り出してそのまま食べる。……苦い。

 

「玲音ってそう言うこともできるんだね」

「……まあ、ね。模倣の応用」

 

 模倣より負荷がかかるからしんどいけど。

 

「今のは誰の真似?」

「…………ミク(⬛︎⬛︎)

「あー、確かに言いそう」

 

 言いそうと言うか、確実に言う。辛辣だし、口悪いし、皮肉屋だし。その分、優しいんだけどさ。

 

「頭痛大丈夫?」

「……大丈夫。痛み止め持ってきてるから」

 

 頭も痛いけど、口の中の苦味を何とかしたい。車内でナンパされるのはちょっと想定外だったんだよ。

 

「はい。これあげる」

「……」

「いちごオレ、嫌い?」

「……嫌いじゃない」

 

 好きでも嫌いでもない。それに、少し高いやつじゃん、それ。

 

「…………」

「あ。高いやつだから戸惑ってるね? 気にしなくて良いよ」

「……」

 

 そう言われても気になる。気にするなと言う方が無理だ。それ、三百円するんだよ? 

 

「……今日の瑞希、いじわる」

「そんなことないと思うけどなー。まあ、バレンタインデーってことで、受け取ってよ」

「……………………………………わかった」

 

 次に会うときに覚悟しておくが良い。昨日暁山瑞希用に作ってあるチョコを贈らせてもらおう。誕生日プレゼントとして送られてきた絵筆のお返しも含めて。

 

「奏から聞いた通りだ。本当に誰かから貰うことには慣れてないんだね」

「…………」

 

 慣れていないと言うか。貰うことも基本ないし、受け取る理由も特にない。物の送り合いをするほど親しい友達ももういないし。

 

「いやー。玲音を揶揄うのにお金かけても良いかもなー。カワイイよ」

「……そう」

「あっ、そうだ。どうせなら髪型変えても良い?」

 

 もう好きにしてくれ。と言うか、シュシュを別で持って来てるみたいだし、最初からを髪型を変えるつもりだったんだろう。

 

「今日は何にしようかなー。ツインテールにしようか。それとも、ツーサイドアップ? 三つ編みお団子も似合うだろうし……」

 

 髪型にこだわりはない。顔が隠れていれば良いから、好きなようにしてくれ。

 

「……瑞希に任せる」

「じゃあ、遠慮なく」

 

 電車でもバスでも、私は瑞希に髪型を好き放題された。

 

 

 

「よし。完成」

「……」

 

 暁山瑞希から手渡された鏡を見ると、三つ編みカチューシャヘアの私が居た。手先、器用だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、暁山瑞希くんに玲音くん。来たのかい」

「……はい」

「今回は、ボクからもと思って」

「亡くなっても友達に囲まれるなんて。彩ちゃんもきっと喜んでいるよ」

「……そうですかね」

「ああ、そうだとも」

 

 ……そうだと良いな。いつものように、挨拶を済ませて裏にある墓に花を供える。

 今日持って来たのはバラ。束売りしていて、11本まとめて売られていた。どうせならと思って買ったが、花屋のおじさんに「青春だな!」と言われた。何故青春なのかはわからない。

 瑞希は菊の花を供えている。

 

「……来たよ鹿野ちゃん。今年は瑞希も一緒だよ」

 

 生物の死の果てに何があるのかなんてわからないし、生きている限り私が知る日は来ないだろう。

 母さんの死も。鹿野ちゃんの死も。同く〝死〟という現象なら。二人は同じ場所に居るんだろうか。しかし、それを確かめる術はない。

 

 でも、この歌が届くなら。聞こえるなら、私は……

 

 ────私は好きだよ。玲音の歌。

 ……歌おう。私の歌が好きなら、どうか聴こえていて欲しい。

 

「? 玲音」

 

 静かに語りかけるように歌う。

 ひとりぼっちのバケモノが、ひとりの少年と出会い、愛を知り、家族を得て、そしてまたひとりぼっちになりセカイへと消える歌。

 この歌が好きだったね。まだ、指でコードを覚えてるよ。良く歌ってたから。

 

「歌ってるの?」

 

 存在の意味を考えた。ひとりぼっちのバケモノ。

 人間の脆さを見て呆れ顔を続けていた。

 ある日であった少年兵は、ひとりぼっちの化け物に恋をした。それからバケモノは少年兵と共に過ごすようになり、愛を知り、家族を得た。

 でも、バケモノは一人老いていく彼を見て深く傷ついた。それをなんとかするために、自分の力を対価に終わらないセカイを生み出した。家族と過ごす。ただそれだけのために。

 

 しかし、繰り返されるだけの終わらないセカイを彼は望まなかった。だから、彼はそのセカイへ来ることない。バケモノは一種の裏切りを受けてしまう。

 でも、バケモノは薄々気づいていた。彼はこんなセカイを望んではいない。だから、バケモノはセカイに一人消えることを選んだ。ただ、彼と自分の家族への愛を抱えて。今もまだ、セカイでただ一人愛を抱えて生きている。

 そんな悲しくて、切ない歌。

 

 

 ……届くかな、私の歌。届くと良いな。

 

「……玲音?」

「…………帰ろう。やることは終わった」

「うん。じゃあ、さよならだけ言って帰ろうか」

 

 ……また来るよ。今度来るのは……君が首を切ったあの日かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰って来て、瑞希の買い物に付き合った。どうやら、コラージュの生地を探していたらしい。

 

「そういえばさ。玲音が歌ってた曲ってなんて名前なの?」

「……シニガミレコード。鹿野ちゃんが好きだった曲」

「へえー。大切なんだね」

「…………ん。大切な。大切な曲」

 

 だって、このバケモノは⬛︎と似ているから。








初めて楽曲コードを使う作者でございます。ちゃんとつけられてますかね。大丈夫だと思いたい。



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