深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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UAが10000を超えていました。ありがとうございます。






白いけど白くない

 

 

 イヤホンをつけて、適当に音楽を聴きながら家の掃除をしていた。

 洗濯機で服を洗って、その間にリビングの掃除。洗濯機が終われば洗濯物を干し、干し終わればリビングの掃除に戻る。

 特定の日は望月穂波が家に来て掃除をしてくれるが、それ以外は私が家事を担っている。特に、スランプ気味の現在は気分転換に掃除をして、終わったら終わったでお菓子作りでもする予定だ。

 

 寒いのを我慢して窓を開ける。ひんやりとした風が体を冷やして──寒い。吹いた風が体を包んで冷やしていく。気がつけば反射的に窓を閉めていた。

 ……今日の外気温ってそんなに寒かったっけ? 3月だから少しは暖かくなったと思ってたのに……

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)。…………ミク(⬛︎⬛︎)?」

 

 反応がない。何処かに出かけているのか? 

 

『はいはい。どしたの?』

「……」

『別に顔が見えるわけじゃないから、ダンマリは困るんだけど』

「…………ミク(⬛︎⬛︎)。出かけてた?」

『いや。少しやることがあっただけだよ』

 

 やることね。……まあ、いいか。別に私が気にすることでもないだろう。私関連なら話すだろうし。

 

「……今日の外気温」

『はあ。……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)ミク(ボク)はサポートAIとかじゃないんだよ? それぐらい自分で調べなよ』

「…………ダメ?」

『別にいいよ。でもさあ、そろそろ少しは自分でやって欲しいなーってさ』

 

 そうは言いつつも天気アプリを起動させて外気温を調べてくれる。

 

『気温は−2℃。まだ暖かくなって来た方だけど、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)にはまだまだ寒いね』

「……氷点下」

 

 それは寒いわけだ。厚着しなきゃな……。

 部屋からマフラーと上着を持ってこよう。それから、長いこと寒いのは嫌だし姉さんと私の部屋も片付けてからにしよう。あと、いつ帰って来れる様になるかわからないけど父さんの部屋も片付けておこう。

 

 姉さんの部屋の戸をノックする。反応はない。

 戸を開けて中に入る。しかし、部屋の中には誰もいない。どこか出かけたんだろうか? 

 でも、私は朝早くから活動していて、ほとんどリビングの掃除と、風呂場の掃除(証拠の隠滅)をしていた。洗濯物を干したりもしたが、外出する時には玄関を通るだろう。それに外出時はお互いに声をかける、向かう先を示すメモ置く様にする約束がある。そして、姉さんも私も今のところそれを破ったことはない。

 

 だとすれば、姉さん達の方のセカイに行ってるのかな。だとすれば、私がそれを詮索するのは違うのだろう。

 セカイはその人の写し鏡。その人の在り方や願いが強く反映されている場所だ。誰のセカイであろうとそのセカイを作り出した人間の内面をよく知らない人間が暴くのはよくない。

 

 手早く片付けてしまおう。カップ麺のゴミ、空き缶、ペットボトルを片付けて埃を落として床を掃いて……。

 

 

 ……とりあえずこんなものか。紙類は重要な書類だったりするから、集めておくだけ集めておいてと。

 ──ん? 背後から物音が

「……玲音?」

 

 気がつけば、姉さんが部屋の中に立っている。それも私のすぐ後ろに。

 

「……おかえり」

「ただいま。……何してたの?」

「……掃除」

 

 姉さんの部屋に来る用事なんて、食事を運んだり、掃除したり、取り込んだ洗濯物をしまいに来る以外にはない。

 

「お父さんの日記は見た?」

「……読んでない。読まない約束、してるから」

 

 そもそも、どこにしまってあるかもわからないから読みようがない。

 

「……読んでないならいい」

 

 それに、姉さんが見せないということは、私が見るべきではない。今は知るべきではない事が書かれていたんだろう。なら、私はその日記を読む気にはならない。

 

「……紙類まとめておいた。要る物と要らない物、分けておいて欲しい」

「わかった。……玲音」

「……なに?」

「今日、ホワイトデーだけど。何か欲しいものある?」

 

 もうそんな日だっけ? ……確か、そんな日だ。最近、曜日感覚が狂っているのかな。

 

「…………」

 

 別にお返しが欲しくてバレンタインにお菓子類を渡しているわけじゃないし、返されても正直困る。

 

「…………玲音?」

「……お返しが欲しくてあげたわけじゃないし、私が渡したいから渡してるだけ。だから、何がもらえても嬉しい」

 

 でも、それだと姉さんが困るから。……たまには、正直にいうか。

 

「……それでも、姉さんが私に何か渡したい。というなら、私は姉さんの曲が聴きたい」

「それでいいの?」

「……うん。姉さんの曲がいい」

 

 私のことを考える時間。それだけあればいい。私のために姉さんが何かをしている時間があれば、それ以外は何も要らない。私が一番欲しいのは、姉さんとの時間だから。

 自分がいつまでも人間でいられるなんて思わない。何もないふりを続けるのもいつか限界がくる。仮面は砕けて本性が顕になる。

 その時まで、姉さんとの時間があればそれでいい。それを欲するのは強欲が過ぎるというものだと思う。

 

 だって、今の姉さんはKと言う作曲家であり。そのKは、いろんな人を救える作曲家だ。

 そんな人間を私個人のために時間を使わせる。

 

「いいよ。玲音の為の曲を作るね」

「……ありがとう」

 

 そして、頼めば姉さんは作るだろう。私のためだけに。なら、私から渡せるのは

 

「……姉さん、夕飯。何食べたい?」

「玲音が作ってくれるなら、なんでもいい」

「……わかった」

 

 なんでもいい、か。なら、気合を入れてオムレツでも作ろう。ソースとかも作れば割と見栄えも良くなるだろうし。うん。そうしようか。

 

「……後で、換気するから。上着、用意しておいて欲しい」

「わかった」

 

 伝えるべきことは伝えた。あとは、自分の部屋を掃除しよう。まあ、掃除するといっても特にやることもない。日頃からある程度の片付けはしてあるし、そもそもこの部屋に物がそこまで置かれていない。埃をはたき棒で落として掃除機をかけるぐらいだ。

 

 アコースティックギターもとりあえずチューニングだけして定位置に置いておく。

 

 上着を着て首にマフラーを巻き、部屋の中の暖房を一旦切る。……さあ、換気の時間だ。自室の窓を開け、父さんの使っていた部屋。姉さんの部屋、リビングの窓を開け放つ。寒い空気が室内に入り込んで室内を冷やしていく。

 今すぐ閉めたい。カイロ用意しておけばよかった。

 

「……玲音、寒いの?」

「……寒い」

「カップ麺、食べる?」

「……お昼前。だから、ダメ」

「…………わかった」

 

 そんなに残念そうにしても、今はお昼前だ。カップ麺は今度にして欲しい。……とはいっても、寒いし……

 

「…………でも、今日は寒い。から、許可」

「いいの?」

「…………ん。私も、食べる」

 

 今日ぐらいいいだろう。寒い中食べるカップ麺美味しいし。今から作るのも疲れる。

 

 姉さんが一度自室に戻り、カップ麺を持ってきた。その手に持っていたのは真っ赤なパッケージのトマトラーメンなるものだった。

 

「美味しかったから、玲音も食べて欲しい」

「……わかった。お湯、沸かすね」

 

 電気ケトルに水を入れてスイッチを入れる。……あれ? スイッチが入らない。

 ……壊れたか? 一年前ぐらいに買い替えたが、もう壊れたのか? 

 

「どうしたの?」

「……壊れた?」

 

 電源が入らない。スイッチを入れても無反応。おかしいな。変な使い方はしていないし、そもそも私は電気ケトルをあまり使わない。いつ壊れたんだ……。

 

 ……ん? あれは……。電源コードが抜けている。

 ああ、掃除機かける時に抜いて、差し直すのを忘れていた。

 

「玲音。あれ」

 

 姉さんも気がついたらしい。電源コードの方を見ている。こんなミスを犯すとは……最近疲れてるのかな。一応眠ることはできているはずなんだけど。

 

「……コード、差し直すの忘れてた」

「壊れてなくてよかったね」

 

 ほんとだよ。そこそこ良いやつ買ったんだから、一年で壊れられると困る。今度からちゃんと確認しよう。

 コードを差し直してスイッチを入れる。……うん。普通についた。よかった……

 

「そういえば玲音。今年は進級できそう?」

「……問題ない」

 

 今年はまだ学校に行った方だ。ちゃんと進級できるだろうし、滝沢秀昭からも特に留年がどうこう言われていないし、そういった連絡もない。問題ないだろう。

 

「……姉さんこそ、大丈夫?」

「わたしは大丈夫。課題もちゃんと出してるし、スクーリングも行ってるから」

「……なら、よかった」

「……」

「……」

 

 ──ピピッ。ピピッ。

 

「お湯が沸いた見たいだし、わたしが淹れてくるよ」

「……姉さんは座ってていい。私がやる」

「今、ちょうど立ってるから、わたしがやる」

「…………………………わかった」

 

 なんか強気だ。何かやりたいことでもあるんだろうか。例えば、ネット記事で見た美味しいアレンジ的なやつを食べたいとか。それを試した結果、美味しかったから私にも食べさせたいとか。

 冷蔵庫を開けて取り出したのは……ケチャップとシュレッドチーズ。トマトラーメンの蓋を開けて、ケチャップとチーズをin。そしてお湯を注ぎ入れる。

 ……作ってる途中で悪いけどいいだろうか? 

 

「……姉さん。使うのケチャップであってる? トマトソースとかじゃなくて」

「トマトソース。でも、ケチャップでもいいんだって」

 

 ケチャップはトマトソースよりも濃い。大丈夫なんだろうか。主に私の胃が。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 それから3分経って出来上がったものはケチャップ感が少し強かったけど美味しかった。姉さんは美味しそうに食べてるから別にいいが、私は進んでは作らないな。チーズのせいで胃が重たい。

 

 食べ終わってからは換気を終わらせた。しかし、外気のせいで室内は冷え切っている。

 

「それでセカイに逃げてきたと」

「……ん」

「あのね、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)。ここは避暑地でもなければ避寒地でもないんだよ? その辺わかってる?」

「……ん」

「じゃあ、なんでここ(セカイ)に来るのさ。別に用事も特にないだろう?」

 

 セカイでやることは特にない。なんなら、短時間いるだけだ。部屋が暖まれば部屋に帰るし、お菓子作りだってしたい。でもだ。

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)に。会いにきたらダメ?」

「思ってもいないことを」

「……私の全てを知ってるのはミク(⬛︎⬛︎)だけなのに」

 

 思ってもいないなんて失礼な。

 私が隠し事をしない存在なんてミク(⬛︎⬛︎)だけなのに。姉さんや父さん、鹿野ちゃんと並ぶほど近しいけど私はミク(⬛︎⬛︎)に対して隠し事はしていない。訊かれれば答えるし、ミク(⬛︎⬛︎)になら鹿野ちゃんからの手紙を読ませてもいい。

 

「言葉が重たいなあ。わざとなの?」

「……?」コテッ?

「まあ、無自覚なんだろうけどさ……」

 

 別に重いことは言っているつもりはない。全て事実で、本心だ。

 

「信用してくれてるって言うなら嬉しい話ではあるんだけどね」

「……ん。私はミク(⬛︎⬛︎)を全面的に信用している。ミク(⬛︎⬛︎)が言うなら、どんなことも一度は信じる」

 

 例えば、エイプリルフール(4月1日)とかのしょうもないけど無駄に大きな嘘なんかも信じるだろう。信じ続けるのかは別として。

 

「まあ、いいさ。……もう少しいるなら、歌でも聴いていってくれよ」

「……どんな、風の吹き回し?」

「今日はホワイトデーだろう? だから、たまにはね」

 

 珍しい。歌うの好きじゃないのに。

 

「茶化さないでくれよ? ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)ほど歌えるわけじゃないんだから」

「…………人の芸術を笑う趣味はない」

「でも、酷評はするんだろう?」

「…………贈り物にたいしてケチはつけない」

 

 創作として公開されているものならまだしも、わざわざ私宛にやっているものにケチをつけることはしない。

 ミク(⬛︎⬛︎)がわざとらしく咳払いをして踵を鳴らす。そうすると、セカイに聞き馴染みのあるメロディが流れ始めた。

 

「────〜〜〜♪」

 

 ここに来るために必ずと言っていいほど聴いている曲。このセカイに来るための鍵であるこの曲。

 しかし、いつもの透き通る様な高音域の声とは違って、ハスキーで力強い声。

 聴いていて心地いい声だ。

 

 〝虚独な月〟は、このセカイに入るまではnontitleという音源だった。

 しかし、このセカイに何度か来るうちに思うがままに歌を紡いだ結果この様な歌になった。

 

 人間が理想や愛を追い求める過程で直面する限界と喪失の痛み。月のように美しく見えるものは、実は触れられない幻想で、現実は脆く、失われるものに満ちている。その現実を受け入れることができず、孤独と絶望の中で夢に逃げようとするが、それすらも虚しい希望でしかない。

 最終的に人間の無力さと、なおも希望を見出そうとする切ない葛藤を歌った曲。

 

 まさか、ミク(⬛︎⬛︎)がわざわざ歌ってくれるとは思わなかった。

 しかし、気のせいだろうか。少し、ミク(⬛︎⬛︎)の姿がブレて見える。……黒い、なんの服だろう。よく見えないけど、今日はどうかしたのかな? 

 

「──〜♪ ……じゃあね、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)

 

 ミク(⬛︎⬛︎)が歌い終えると、深い水底に沈む様な感覚と共に、部屋に戻された。

 

 ピコンッ。

『感想は後で聞く。今はお菓子作ってきなよ。ボクは、フランスパンが食べたいなー』

 

 ……いったいなぜ戻されたんだ? というか、フランスパンはお菓子ではない。……仕方がない。あとで買いに行こう。まさか、フランスパンが食べたかったから歌ったとかだったりするのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 それからお菓子作りの合間に近所のパン屋さんでフランスパンを買った。

 この日、姉さんは部屋から出てこなかったのでバケットサンドとコーンポタージュを夜食として。バニラパフェを食後のデザートとして差し入れた。

 

 今日はいい1日だった。








時系列があやふやな作者でございます。
とりあえず一年生編はこの話で終わりです。

次話からは2年生に進級します。さあ、宵崎玲音は無事進級できるのか。



完成度に納得がいっていないので、この話はちょこっと修正するかもです。

今後の投稿について

  • クオリティは落ちるが毎日更新
  • クオリティはある程度保証される偶数日更新
  • 一旦完結まで持っていって書き直す
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