深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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毎度のことながら、誤字報告ありがとうございます。



二年生
新学期


 

 

 春が来た。

 やっと寒い季節は終わり、寒さに耐える日々は終わった。

 学年も無事に進級することができた。結構ギリギリではあったが、出席日数も問題なくクリアした。クリアはした。しかしだ。

 

「ボクは教室こっちだから、じゃあね」

「……………………ん」

 

 暁山瑞希とクラスが分かれた。なんなら、知り合い全員と別れた。私の割り当てられた学級は2-C。暁山瑞希は2-B。隣の学級だ。

 担任の名簿を見たが、見覚えのない名前だ。おそらく新任だろうし、学年の中でもまだ問題を起こさない人間を集めたんだろう。

 

 相変わらず出席番号は最後尾のようで、教室に入って始業までスケッチブックを広げて絵を描く。

 学級内はガヤガヤ喧しいし、連絡先の交換などが行われている。

 

「宵崎さん」

 

 私のところにも人が来た。至って普通の女子生徒と言った感じの見た目だ。スマホを私に向けて突き出しているが、なにかの儀式か? 

 

「連絡先、交換しよ」

「……」

 

 なんだ、そんなことか。めんどくさいしスルーでいいか。

 

「あ! ちょっと、無視しないでよ!」

「無駄無駄。宵崎はあまり人と関わらないの」

「そんなことより、うちらと連絡先交換しよ」

 

 是非そうしてくれ。私は創作で忙しい。

 

「宵崎ー、何描いてんだ」

「……」

「……何だこの絵」

「……」

 

 ……構図がダメだな。描き直しだ。桜と雨とシャボンの泡。めんどくさがらずにラフから描いていけばよかった。ページが勿体無いが仕方がない。別のページに書き直そう。

 

 ──ブーッ! 

 ……? メッセージが届いたのか? 

 

 瑞希『今日、屋上来る?』

 玲音『行く予定』

 瑞希『じゃあ、ボクも屋上に行こうかな』

 玲音『ホームルーム終わったら行く』

 

「へー、暁山と仲良いんだな」

 

 本当になんなんだこいつは。人のスマホを覗くな。

 

「なあ、どうやったら暁山と仲良くできんの?」

「……」

 

 色々萎えた。ホームルームがやる前に屋上へ行こう。新任の教師を見ておこうとは思ったが、もうそんな気も起きない。

 

「あ、どこ行くんだよ」

 

 カバンを持って教室を出る。さて、新任が来る前にさっさと行ってしまおう。

 

「どこに行くんです?」

「……」

 

 目の前にスーツを着た男性が立ち塞がるように立っている。パッと見た感じ20代前半といった感じで若そうだ。

 

 見た目はひょろりとした感じだが、表情から何か強い意志を感じる。それはもう、静かな熱意というか、熱血ッといった感じで。

 

「宵崎玲音くん。教室に戻りなさい」

「……」

「もう一度言いますよ。教室に戻りなさい」

 

 めんどくさそうな人だ。

 

「………………はあ」

「失礼ですね」

「……」

 

 一旦戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……出られないな。ガッツリ見張られている。なぜ見張られてるんだ。……仕方がない。

 

 袖口に隠し入れて、指で机を軽く叩いたり指でなぞったりを一定の間隔で行う。

 

『ー ・ ー ーーー ーー・・ーー  ー ・ ・ー・・ ・ー・・  ーー ・・ ーー・・ ・・ー ー・ー ・・  ・・ ・ー・・ ・ー・・  ー・・・ ・  ・ー・・ ・ー ー ・ 』

 

 スマホから小さく、ミク(⬛︎⬛︎)の声が聞こえた。あとは現場判断で伝えてくれることだろう。

 

 スケッチブックを広げて絵を描いていよう。自己紹介なんて適当でいいだろうし、名前だけで良いだろう。

 

「宵崎くん。スケッチブックをしまいなさい」

「……」

「宵崎くん!」

「先生ー。宵崎は滝沢以外の言うこと聞かないから、諦めた方が早いぜー」

「それがいけないんです。宵崎玲音くん。聞いているんですか」

 

 うるさい人だ。声は聞こえているが、処理されていないだけだ。……この配置変えるか。画角は……。

 

「宵崎さん。宵崎さん」

 

 ……ん? ……ああ、私の番か。

 

「……宵崎玲音」

「好きな食べ物などもお願いします」

「……」

 

 自己紹介など、名前だけで良いだろう。なぜ私の個人情報を他人に渡さなければならない。

 興味がない。興味も湧かない。その辺の石ころに目を向けていられるほど、私は人が好きじゃない。

 さて、続きだ。

 

「宵崎玲音くん!」

「……」

 

 ……少し色をつけて考えてみるか。……桜の中となると、やっぱり花吹雪だろうか。書き込みが増えるとその分大変にはなる。しかし、その増えた分だけ、完成した時の達成感は得られる。

 

 あっ。

 

「没収します。あとで職員室に来るように」

「……」

「睨んだってダメです。改善の様子がないのであれば、返すことは出来ません」

 

 …………私、お前嫌い。

 ────かわいそうに。柊さんに巻き込まれるなんて

 

 お前ら、全員嫌い。

 

 席を立って担任からスケッチブックを奪い返す。そのままカバンに突っ込む。気分が悪い。今日は帰ろう。このまま居ても私が無駄に疲れるだけだ。

 

「どこに行くんですか。まだ学校は「帰る」。小さい子供じゃないんですから。拗ねて帰るなんてみっともないですよ」

 

 だからなんだ。お前にどう思われようと私には関係ない。肩を掴んで止めて来た手を払って教室を出る。後ろで何か言っているが気にする必要もない。……屋上、行こうと思ったけど。今の私には無理そうだし、直帰しようかな。

 

 

「おい。どこ行くんだー」

 

 下駄箱で聞き馴染みのある声が聞こえた。振り返ると小綺麗なパッとしないおっさんがいる。珍しいスーツ姿だ。似合わないな。

 

「…………滝沢秀昭」

「おう。先生をつけろ」

「…………先生。帰る」

「……新任と何かしらあったわけだ。ちょっと生徒指導室寄ってこいよ。話だけなら聞いてやるぞ」

「…………」

「話す気がないってんなら止めない。帰るなり何なり好きにしろ。この時間なら、あの喫茶店も空いてるだろうしな」

「……」

「そうか。気をつけて帰れよ」

 

 靴を履いて学校から出る。新学期早々、面倒な人と当たるとは……。今年は大変そうだ。

 

 玲音『担任が苦手。屋上に行けない。帰る』

 

 

 瑞希『りょーかい。じゃあ、ボクも帰ろうかな。類も今日は屋上来ないみたいだし』

 玲音『喫茶店、行く?』

 玲音『制服でうろつくのは危険だし』

 瑞希『いいね。玲音は先に行ってる?』

 玲音『近くの公園で待ってる』

 瑞希『りょーかい。じゃあ、一限終わったら抜けてくるね』

 

 ────イケナイことしてる気分だね。

 ────二人だけ。私たちしかいないの。

 ────ねぇ、玲音。

 

 

 

 ────聞いた? 柊さんって本当は、

 

 ────安心しろ! 俺は宵崎の味方だからな! 

 

 カバンから頓服薬を取り出して飲む。苦味と酸味、強いエグ味で思わず吐き出しそうになる。でも、今はこれを飲まないとそのまま過呼吸で動けなくなってしまう。

 ……早く公園に行って絵でも描いて待っていよう。何かしらに集中していないと今日はきついかもしれない。

 

 足早に近くの公園まで行ってベンチに座る。

 スケッチブックのページをめくる。……猫が集会をしている。あれを描こう。

 

 居る猫は黒猫、白猫、三毛猫にキジトラ。……意外といるな。まだ集まってくる。

 ゆらゆらと尻尾を揺らして目を閉じている猫もいれば、欠伸をしながらこちらを見ている猫。毛繕いをする猫。様々だ。

 

 ん? 一匹が木を眺めている。……ああ、珍しい。フクロウか。気が付かなかった。

 見たところ、オココノハズクだろうか。あの体をもふもふしたい。

 基本的にフクロウは森林にしかいないから、開発の進んだここに来ること自体非常に珍しい。

 

 少し遠いが、仕方がない。このまま描こう。目を閉じているから、体全体がもふもふした毛玉にしか見えないけど。

 

 

 

 

 

「お待たせ。何描いてたの?」

「…………?」コテッ? 

「何描いてたの?」

「…………フクロウ」

 

 あの木の上にいるやつ。筆で指せばいる場所が伝わりやすいだろうか。

 

「本当だ。珍しいね、ここにいるなんて」

「…………迷い込んだ?」

「だとしたら、元の場所に帰れると良いね」

「……ん」

 

 同感だ。森で生きる彼らに、このコンクリートジャングルは暑く過ごしにくいだろう。元いた場所に帰れることを願う。

 

「もうちょっと描いてから行く?」

「……」フルフル

「じゃあ、行く?」

「……」コクコク

 

 私たちも行こうか。今日は何飲もうかな。

 

「……瑞希、何飲む?」

「んー、ミルクティーの気分かな。玲音は?」

「…………エスプレッソ」

 

 嫌な事があったし、苦く濃いエスプレッソの気分だ。食べ終わり頃にバニラアイスが食べたい。

 

 春。暖かいこの季節が来たということは、あの日がまた来る。

 

 今年もどうか、乗り越えられますように。







2年生に上がったということは、物語的にはそろそろあの時期ですね。
オリ主の6月は忙しそうで、書いてるこちらも頭を悩ませる日々でございます。


今後の投稿について

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  • クオリティはある程度保証される偶数日更新
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