深灰と赤紫の糸   作:空白零無

43 / 87



今回はあとがきに新しい子の内面を描いてみました。
多分、今後に影響があるかもしれない。






新聞部による

 

 

 〝この学校には覚えていて損はない人間が存在する。その存在の中で特に異質な人物。

 

 その人物の名前は宵崎(よいさき)玲音(れいね)。この学校に在籍する生徒で、唯一の留年経験者であり、三本指に入る問題児。

 

 我々新聞部は、そんな人物に取材を取り付けた。〟

 

「……」

「どうすか? 面白いと思いません?」

 

 こんな時、私はどうな反応をしたらいいんだろうか。案件(面倒事)を持って来た張本人である滝沢秀昭に視線を送る。しかし、顔を逸らされた。

 はあ。……この入りが面白いかどうかだけど

 

「…………面白い?」

「なんでそんなにパッとしないんすか」

「……」

 

 どこが面白いのかわからないからだ。新聞なのに入りが昔のオカルト番組みたいな入りで、語り口調。映像研究部にでも入り直した方がいいんじゃないだろうか。

 

「諦めろ宵崎。神代も天馬もこれを受けてるんだ」

「…………私、有名じゃない」

「お前がそう言おうが、天馬、神代、宵崎は我が校の三大変人だ。後輩達が驚かないよう配慮としてこの新聞は書かれる。それに、インタビューなんて珍しいことされるんだ。新しい創作の刺激にでもなるんじゃないか?」

「…………変人」

 

 身に覚えのない話だ。私はただ、絵やら詩をを描いているだけなのに。

 

「それに、宵崎先輩にはいくつか都市伝説的な噂がありまして」

「……?」

「ええっとっすね。学校一の音痴として知られる宵崎先輩は、実はかなり高い歌唱力を持っていて。普段はその実力を隠しているとか」

 

 学校一の音痴。なんて不名誉な称号だ。まあ、そう言われるのもわからなくもない。

 実際、私は自分の歌唱力を制御しきれない。普通に歌えば周りを飲み込んでしまうので、棒読みで雑に歌う方が周りに埋もれた方が合唱という作品としての調和が取れるというものだ。

 

「宵崎先輩が誰とも付き合わないのは、他校に恋人がいるからだとか」

 

 全くのデマだ。私に恋人はいないし、作る気もない。

 

「宵崎先輩は実は女で、何か事情があって男を名乗っているのではないか。とか」

 

 そんなことはない。私の性別は正真正銘男だ。今服を脱いで確認してもらっても構わない。

 

「宵崎先輩が常に長袖なのは、腕にタトゥーを掘っているからだとか」

 

 それもデマだ。長袖なのは……過去にやった自傷後を隠すため。そして、……いまだにやってしまった傷を隠すためだ。あと、単純に肌が強くないから。

 

「これで最後っすけど、宵崎先輩が学校に来なくてもテストの点数が高いのは、先生達に賄賂を贈ってるだとか。隠れてカンニングしているとか。そんな感じですね」

 

 これもデマだ。私はただ、教科書の内容を丸暗記しているだけだ。他の学生達が単語帳や授業で繰り返し暗記していく様に、私は教科書の内容を一語一句違わずに暗記しているだけだ。カンニングなんて非効率なことはしていないし、教員に賄賂になるほどの金額を渡せるほどの財力はない。そんなにあっても、私の病院代。主に薬代に消える。精神薬は大体が先発品なせいで高いんだ。

 

「それで、真相の方はどうなんすか?」

「…………ほぼ全部デマ」

 

 あっているのは実は音痴ではないぐらい。

 

「具体的にお答えしてもらうことって」

「……私、音痴。違う」

「あ、それ以外で教えて欲しいっす。宵崎先輩が歌が上手いのは去年の文化祭で知ってるので」

「……あの舞台、いたんだ」

「はい、居ました。なんなら、最前列で聞いてました。歌で感情が動くって言うのを初めて生で体感したっす」

 

 居たんだ……。あのステージの最前列に。……確かに、似た顔立ちの少女が居た気はする。……髪は染めたのか。今目の前にいるのは金髪だが、文化祭の時にいたのは黒髪だ。高校生デビューというやつだろう。

 確か、居た場所は。

 

「……左から2番目、最前列。黒髪ショート、メガネ」

「え?」

「…………服装、黒パーカーに黒のロングパンツにカチューシャ「わー! わー!」……?」

「なんで覚えてるんすか! 記憶力お化けっすか! 忘れてください! 頑張って垢抜けしてるんっすから!」

 

 何か恥ずかしいことでもあるのか? 服装だろうと、化粧だろうと、別に恥じることなどないだろうに。

 

「滝沢先生! どういうことすか。なんで宵崎先輩は半年前の五分ちょっとのこと覚えてるんすか」

「知らん。本人に聞け。それに、元々こいつは記憶力は高い。だから、テストの点数が高いんだよ。教科書丸暗記してるから」

「……カンニングしていない」

 

 教科書を丸ごと覚えてるだけだし。結局、どの授業も教科書がベースにある。そのベースの内容を覚えていれば授業など聴かなくても大体のテストは問題なく解ける。

 

「んな無茶苦茶な……。まあ、いいっす。でも、過去のことは忘れてください。黒歴史っすから」

 

 努力はする。まあ、努力したところで忘れられたためしはないのでその辺は諦めてほしい。

 

 それからしばらくは新聞部の後輩に取材された。

 どれも別に隠していることじゃないし、ほとんどただの誤解だ。せっかくなのでこの機会に晴らしておこうということで、正直に全て答えた。

 

「ありがとうございました。先輩達に報告していい記事にしてくるっす」

「……頑張れ」

「はいっす。失礼しましたー」

 

 生徒指導室と扉が閉められて新聞部の後輩が出ていく。騒がしい生徒だった。

 ……。

 

「…………滝沢秀昭」

「先生をつけろ」

「……先生」

「なんだ」

「…………元気、だった。ね」

「そうだな。あいつは昔から元気の塊みたいなやつだった。中学でいじめられるまではな」

 

 やっぱり、滝沢秀昭関係の人か。未婚だから、姪か親戚の子だろうか。

 

()()()()、あの場にいたらしくてな。お前の歌を聞いて、元気になってな。ここに入学することにしたらしい」

「……」

「まあ、なんだ。お前チカラ……お前の作品で前を向ける様になってるやつはいる」

「…………それを、伝えたかった?」

「まあな。コメント欄で暴走してる奴ら見てるより、面と向かってリアルの声が聞けた方がモチベーションにもなるだろ?」

 

 …………一体、この人は私の何を気にしているんだろうか。

 

「……前を向いたのは当人のチカラ。私じゃない」

「そう言うな。前を向いたのは本人のチカラだとしても、きっかけを与えて、チカラを分けたのは紛れもないお前だ」

 

 果たしてそうだろうか。……救いたかった人たちを救えない作品に対して、私は価値を見出して喜ぶことはできない。

 

「…………」

「まあ、お前がなんと言おうと事実は変わらない。覚えておけよ」

「…………忘れられない、から」

「そうだったな」

 

 私には滝沢秀昭の真意はわからない。真意はわからないけど、私を励ましたり。元気付けようとしているのはなんとなくわかる。

 

「よっし。宵崎、これから暇か?」

「……」フルフル

「そうか、じゃあ聞き方を変える。18時まで暇か?」

「……」フルフル

 

 予定はない。予定はないが、姉さんの食事を作る時間ではある。

 

「そうか。じゃあ、またの機会だな」

「……なにか、予定。あった?」

「ん? いや、ラーメン食いに行こうかと思っただけだ」

「…………またの、機会に」

「ま、そうだよな」

 

 またの機会に、ね。……そのまた今度は、いつになるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〝宵崎玲音

 学校にはあまり来ないが、優秀な先輩。今回の特集である神高三大変人の一人。またの名を、絵バカの宵崎。

 現在の神高唯一の留年経験者で、多くの謎を持つ人物。生徒指導の滝沢秀昭先生の言うことしか聞かず、一部生徒の間では禁断の関係が噂されている。

 

 態度はそっけなく、長い前髪で隠された素顔を見たもの少ない。しかし、その素顔は見たものを虜にすると言われるほどの美貌だと言われている。同じく神高三大変人の一人神代類曰く、去年は他校の生徒も含めて男女合わせて9人から告白されているとか。

 そんな素顔が見れたらラッキー! この一年いいことあるかも! 〟

 

 新聞部の書いた記事の一角にはそう記されていた。……とりあえず、言えることがある。

 

 あの取材、意味あったんだろうか? 聴かれた話は全く乗っていないし、別の変な噂を拡散されているだけだ。

 それに、滝沢秀昭と私が禁断の関係? そんな話聞いたこともない。頼むから捏造であって欲しいところだ。

 

「あっ、宵崎先輩どうすか? 初めてにしては上手く書けてません?」

「…………」

「あれ? オコです? オコなんすか?」

 

 書いたのはお前だったのか。新聞部の一年。

 

「……滝沢秀昭。と、の交際。は、捏造?」

「いえ、実際にそう言う噂はあるみたいっすよ。先輩たちの間だけっすけど」

「……」

「特に部長が推してたっす」

 

 新聞部の趣味でこんな捏造が……。後で抗議に行こう。この記事は気に入らない。

 

「……汐田(しおた)美優(みゆう)

「はいっす」

「…………後で抗議に行く。案内」

「かしこまっす。じゃあ、放課後。図書館で待ち合わせっすね」

 

 新聞部の現部長め、許さん。

 

 

 

 

 

 
















 ふふ、会えた。やっと出会えた。
 叔父さんに誘われて来た神高の文化祭。あの舞台で確信した。
 この人が。この人こそがあの人だ。あたしの憧れ。あたしの光。

 いろんな自称本人は見て来た。でも、みんな偽物だった。真似ただけの偽物。

 初めてご尊顔を拝んだ。初めてこの身であなたに会えた。

 空亡様。あなたの作品が、声を近くで聞けることを初めて親に感謝したい。生まれて来て良かった。生きてて良かった。あの苦しい2年を絶えて良かった。

 ふふ、ふふふふふふふふふ。



 汐田美優(空亡の信者)さんでした。さよなら




今後の投稿について

  • クオリティは落ちるが毎日更新
  • クオリティはある程度保証される偶数日更新
  • 一旦完結まで持っていって書き直す
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。