何故私はこうもタイミングが悪いのか。
体育館の中をキュッキュッと中靴の底が床と擦れる音が鳴り響く。偶々やって来た日が
体育館ではバスケットボールがコートを行き交い、他学級の生徒に得点を決められたり。逆に他学級のゴールリングにボールを入れて得点を決めたり。
盤面は動き続けている。
「宵崎先輩、宵崎先輩。なんで制服なんすか?」
「……」
「せんぱーい。話ぐらい聞きません?」
「……」
「おーい。聞いてますかー。泣きますよ。みっともなく、盛大に泣きますよ」
「…………なに?」
そんな中は、私は観戦場所から自分の学級の試合を一人穏やかに眺めていたんだ。しかし、今は
去年、半年前はおとなしそうな中学生だったのに、今では元気な女子高生。垢抜けと言うか、高校デビューで疲れないのだろうか。
「人の話は聞く様にした方がいいっすよ、宵崎先輩」
「…………考える」
「前向きに考えておいてくださいっす。で、宵崎先輩はなんで制服なんすか?」
「…………知らなかった。球技大会、今日。だった」
「あらま。だから制服できたと?」
「……」コクコク
あれからしばらく学校に行かずに喫茶店で絵やら詩やら描いていたし、ソワソワしている姉さんをあまり気負わせない様にカップ麺を砕いて炒飯にしたりとアレンジ飯を作っていた。
この時期にある球技大会のことなど頭からすっぽ抜けていた。
「宵崎先輩って抜けてますね」
「……」
よく言われる。……おや、試合に負けてしまったらしい。2-A 東雲彰人。見ていてわかるのが、身体能力が高い。味方ともある程度連携が取れるようなので手強い相手だったことだろう。
「東雲先輩が気になるんすか?」
「……」
「無言は肯定ってことで。東雲彰人先輩は助っ人として運動部に行くぐらい身体能力も運動センスがあるみたいっすよ。すごいっすよね」
「……」
そうだったんだ。よく知ってるな。
「あたしはこれからクラスの試合なんで、失礼するっす」
「……」コクコク
「応援とかはないんすか」
「………………………………ガンバ」
「長い間を置くのやめてくれます? イヤイヤっぽくて悲しくなるっす」
「……ガンバ」
応援はしてる。見には行かないけど。
「はいっす。頑張って来ます」
「……ん」
走っていった。元気な人だ。さて、私も移動しよう。見張りのせいで学校からは出られないから、神代類のところにでも行こう。
さて、体育館の外には出たけどどこに居るかな……。お、いたいた。体育館外の側面にいた。
一緒にいるのは天馬司か。何か話でもしているのか?
「……おはよう。類、天馬司」
「ん? ああ、おはよう。玲音」
「おはよう! 宵崎。なんで制服なんだ?」
「…………球技大会。知らなかった」
「そうだったのかい? 去年もこの時期にやっていたはずだけど」
「……参加、今年が初」
かれこれ3年目になるが、ここで球技大会に参加するのは初めてだ。
「そういえば、宵崎は2-Cだったよな」
「……」コクコク
「ってとこは、兄弟学級の合同試合に出るのか?」
「……」フルフル
そんな予定はない。そもそも、運動自体はあまり好きではない。加減がわからないから。
「まっ、そう言わずによっ!」
天馬司の放ったボールを受け取る。何やら構えをとっている。……パスを出せと言うことなのか?
神代類に視線を向けると頷くように私と天馬司を見ている。……キャッチボール的なのを希望しているんだろうか。
……バスケットボールなんて何年ぶりだろうか。中学の授業以来だろうか。
────玲音って本当になんでもできるよね。私なんて運動はからっきしだから羨ましいなー。
────ね。もしかして、嫉妬してる? 別の子が隣にいたから。
…………。
体を波うたせるように体の重心を後ろに移動させ、左足を前に出して地面を掴む。足からも波を作るように揺らして体全身を使って加速。そのまま重心を前に移動させながら腰を要れて──
「お前らー何してんだー」
投げようとしていたのを踏みとどまった。フラッシュバックに思考を持っていかれて全力で投げるところだった。
「滝沢先生! おはようございます!!」
「おや、滝沢先生。おはようございます」
「……滝沢秀昭。おは」
「ああ、おはよう。宵崎は先生をつけろよ。んで、お前ら何してんだ?」
「キャッチボールだが?」
「僕はそれを見る予定だったよ」
「…………ボール渡された」
「そうか。何もないならいいんだ」
一体何を想像していたんだ。
「嫌ですね。僕たちは何も悪いことはしていませんよ?」
「そうは言っても、問題児が3人も集まれば警戒するだろ」
「オレは真面目に授業も受けてるし、風紀委員の仕事もきちんとやっている! 問題児なんかじゃない!」
「僕もちゃんと授業は受けてますよ。テストでも上位ですし」
「……ただ、絵。書いてるだけなのに」
「そうは言っても、教員間ではお前たちは立派な問題児だよ」
問題児というか、トラブルを起こすのは神代類と天馬司だけだ。私は絵を描いてるだけだし。
「宵崎。お前は俺以外の話も言うことも聞かないから、俺に仕事が回ってくるんだよ。まったく」
「……」
「ふふ。玲音は人の話を聞けば解消されるみたいだよ?」
「……無理」
学校は卒業のために来てるんであって、勉強をしに来ているわけではない。勉強は卒業のための手段の一つでしかない。その手段を取らなくてもいいんだから、なぜ私がわざわざやらなければならない。
「まあ、何もしてないんならいいんだ。問題起こすなよー」
「何かするつもりはありませんよ」
「オレも類の実験がないなら危ないことはしない」
「…………絵を描くだけ」
人を危険人物扱いはやめて欲しいものだ。私は私なりにできるだけ普通に生きているだけなのに。まあ、それが普通の目線から見て不自然だったと言うだけか。
滝沢秀昭は去っていき、外で軽くボールをつく。ボールを跳ねがいいし、滑り止めのおかげか引っかかりもいい。ボールコントロールがし扱いやすい。
「お、やる気になったか」
「……少しだけ」
やる気というか、軽く遊んでみただけだ。
試合に出る気はないが、キャッチボールぐらいならやってもいい。
「……天馬司」
「おう! 来い!」
そんなどっしり構えて何を待っているのだろうか。私は普通にパスするだけだ。両手で持って前に押し出すように投げる。
まっすぐ飛んでいって天馬司の胸あたりでキャッチされた。……何故そんなにボールを見ているんだ?
「普通だな」
「……」
何を想像していたんだ。
「多分、僕が打ち出したバスケットボールをキャッチするっていう練習をひたすらしてたから」
「……」
なんとなく想像がつく。ピッチングマシーン的な物を作ってそれから打ち出していたんだろう。でもそれってドッジボールの練習とかになるんじゃないだろうか。
「去年の秋頃に授業でやっていてね。どんなキャッチでも取れるっていうから、あらゆる変化球に対応した打ち出し機を作ってね。ドラゴンのブレスをボールで表現した時に、使えると思って練習してたんだよ」
「…………珍しい。炎、使わなかったんだ」
「使う予定はあったけど、風に煽られて燃え移ったりしたら危ないからね」
「丸焼きになるなんて嫌だからな」
そんなことが……。流石に神代類でも炎は使わなかったらしい。
「そんな特訓をしていたから、勢いがあって変化球のボールが来るんじゃないか。そう身構えるようになってしまってね」
「…………だから、構えた」
「それもあってドッジボールで取れない球はなくなったぞ。ポーズをとりながらでも球を避けられるようにもなった」
使えそうで使いどころの少なそうな特技が増えたと。役者は大変だね。
「そういえば、宵崎。ちょっとショー手伝ってくれないか?」
そう言ってボールをこちらに放ってくる。
「……なぜ?」
……ああ、会話しながらキャッチボールでもしようということか?
とりあえずボールを放って返す。
「台本が出来たのはいいんだが、少し役者が足りなくてな。類から、最近演技に興味があると聞いた。だから、ひょっとしたらオレたちとまたショーがやりたいんじゃないかと思ってな」
「……合作の申し出?」
「そうだ。と、言ったら?」
「……断らない。良い物を作る」
創作において手は抜かない。持てる技術を持ってその作品を作り上げる。
でも、今は出来ない。
「……でも、今は出来ない。やることが、立て込んでるから」
この時期。それも、梅雨入り前から6月が終わる頃まで、今年は厳しいだろう。
去年までは耐えられた。でも、1年近く前からフラッシュバックの頻度が増えて、重めのものも頻度が増えた。私個人の作品作りでフラッシュバックを起こすのはいい。だが、合作となると他者の作品すら駄目にしてしまうかもしれない。
それは、避けなくてはいけない。
「そうか。なら、いつなら出来そうだ?」
「……6月が終わる頃、かな」
「わかった」
体育館の方でブザー音が聞こえた。どうやら、試合が終わったらしい。天馬司もキャッチボールは切り上げるようで、こちらに放ってくることはなかった。
「宵崎。お前が何を抱えてて、悩んでるのかなんてわからないけどよ。一緒に楽しいショーを作った仲間なんだ。何かあったら聞かせてくれよ」
「…………ん」
それが言いたかっただけか。……仲間、ね。私には縁遠そうな言葉だ。嫌いではないんだけどね、その言葉。
「じゃあ、行ってくる。類、いくぞ」
「じゃあね、玲音」
「…………頑張って、ね」
二人は体育館の中へ入って行った。……さて、私は私で時間を潰そう。
「……
『どーしたの。
「……少し、話し相手になって」
『いいよ。でも、今学校だろう? 良いのかい?』
「……ん。ここには、人があまり来ない。から」
それに、来たら来たでまたモールスで会話をすれば良い。
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