深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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毎度ご愛読ありがとうございます。この度、今後の投稿についてアンケートを実施しております。






私ってなんだっけ

 

 

 ……最近、姉さんがソワソワしている。

 昼間に起きていることが増えたし、目に見えて不安そうだ。補講で出会う暁山瑞希もソワソワしている。……音楽サークルの方で何かあったんだろうか。

 何かあったとして、私ができることは基本的にない。私には本来関係のない場所だ。部外者の私が首を突っ込むべきではない。本来であればそうなんだが心配だ。

 

 特に朝比奈まゆふは特に要注意だ。……彼女からは私と近しい匂いがする。壊れる直前の……うっすらとした血の匂い。実際に怪我をしているわけではない。勘というやつだろう。

 彼女は壊れかけている。自分を見失って、虚無に溶けていくような。そんな予感がする。

 

「…………姉さん。朝比奈まふゆは、大丈夫?」

「……わからない」

「…………そう。……出来れば、気にかけていて欲しい。じゃないと、あの人は。壊れてしまうだろうから」

 

 普段の生活の詳細を知らないから、なにが原因になるかまではわからない。わからないけど。

 

「……姉さん。私は、協力することを惜しまない。必要であれば、なんでも言って欲しい」

「わかった」

 

 姉さん達だけではどうにもならなくても、私の手が入ることで少しでも良くなるならば、私は協力を惜しまない。

 

 それからは無言の食事が続き、姉さんは部屋に戻って行った。私は私で洗濯機を回してから部屋に戻り、ベッドに座る。

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)

『なにかな。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)

「…………朝比奈まふゆについて、調べられる?」

『んー、…………無理だね。ミク(ボク)が入り込む条件は満たしているけど、彼女達の干渉が強い。残念だけど、ミク(ボク)がスマホに入り込んだりして内情を探ることは出来ないかな』

「……そう」

 

 ミク(⬛︎⬛︎)に内偵を頼もうと思ったけど、出来ないらしい。話ぶりからして、朝比奈まふゆの居るセカイからの干渉で中に入り込めないっぽい。

 

『あー、でも。もしかしたらだけど、分体なら送り込めるかも。ミク(ボク)よりも純粋なデータに近い存在だから、彼女達の干渉にも強い』

「……どうやって、送り込むの?」

ミク(ボク)がスマホから直接干渉し合える距離まで近づくか、直接データとして送りつけるかのどちらかだね』

 

 ふむ……。一番はメッセージアプリでデータを送りつけるのがいいんだけど、私は朝比奈まふゆの連絡先を知らない。

 となると、直接会ってスマホが干渉し合える距離まで近づくしかない。しかし、朝比奈まふゆは宮益坂女子学園の生徒。基本的に男子生徒は入れないのだ。

 

「…………張り込む?」

『ストーカー? それとも探偵ごっこ?』

 

 その言い方は悪意を感じる。私はミク(⬛︎⬛︎)の分体を送り込むために対話がしたいだけだ。ただ、見つかって避けられても困る。そうなると変装するしかないか。

 ……でも、鹿野ちゃんの墓参りに行ったばかりだから最近は負担が強いのは避けたい。

 

『普通に会いに行けばいいのに』

「……接点がない、から」

『たまたま見つけたからお茶でもどうか聞けば?』

 

 それはただのナンパでは? 

 まあでも、それも一つの手か。今から移動すれば様子を伺うぐらい出来そうだし、様子を見て声をかけよう。例えば一人になったタイミングとか。

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)

『入れそうなタイミングでスマホに分体を送り込むから、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)のことをしなよ』

「…………お願い、ね」

『任されたよ』

 

 服を着替えて、身だしなみを軽く整える。鏡の前に立って服装の確認をして……うん、特におかしな感じは……ん? ……プリンになってる。そろそろ染めに行かなきゃな。

 ハンチング帽子を被って髪を隠す。たまたま姉さんに白くなった髪の毛を見られたくない。

 

「……さて、行こうか。ミク(⬛︎⬛︎)、ナビ登録して欲しい」

『はーい。やっといたよー』

「……ありがとう」

 

 さて、向かうとしようか。少し遠いけど、まだ活動範囲内だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……思ったより時間かかったな。宮益坂女子学園。

 

『女の子がいっぱいだねー。どんな子が好み?』

「…………ミク(⬛︎⬛︎)

『冗談だよ。そうかカッカしなさんなって。ほら、もう少しで下校時刻だろう? ちゃんと校門見てなよ』

 

 言われなくたって、少し遠くからスマホ触ってる感を出しながら横目でちゃんと出てくる生徒達の確認している。

 

 ……帽子邪魔だな。

 

「あれー? 玲音ちゃんだ、やっほー!」

「……? ……ああ、鳳えむ」

 

 神代類の。ワンダーランズ×ショウタイムの天馬司と同様、声の大きい人。鳳えむと遭遇した。

 君、宮益坂女子学園の生徒だったんだ……。

 

「久しぶり! どうしたの? お友達待ってるの?」

「……」フルフル

「違うの? じゃあ、なんでここに?」

「…………人、探し」

「そうなの? 誰々? あたし手伝うよ!」

「…………大丈夫」

「そう? 本当に大丈夫? あと、暑くないの? あんまり元気なさそうだよ?」

「……大丈夫」

「んー。あっ、そうだ!」

 

 鳳えむは声が大きい。これでは目立つ。ただでさえ今は少し目立つ場所にいるのに、余計に目立つ。

 ……スマホを操作してどうしたんだ? なぜ私に画面を向ける。

 

「連絡先交換しよ!」

「…………なぜ、また」

「玲音ちゃんと交換してなかったなって。困ったら連絡してよ! あたし力になるよ!」

「…………」

 

 連絡先の交換ね。……まあ、よく知らない人じゃないしいいか。はい、スマホどうぞ。

 

「え? なんで玲音ちゃんもスマホ出すの?」

「……機械、苦手。交換のやり方、わからない」

「そうなの? じゃあ、ちょっと借りるよ」

「……」

 

「これをこうしてー」手際がいいな。私もこれぐらいできる様になりたい物だ。

 

「はい。出来たよ!」

「…………ありがとう」

「約束だよ? 困ったらあたしとか、寧々ちゃんとか、類ちゃん、司ちゃんに連絡する!」

「…………わかった」

「うん! よろしい!」

 

 連絡するほどのことなど多分ない。合作の申し出も断ったばかりだし、天馬司の様に大砲で打ち上げられたり、派手に壁に突っ込まされることもない。不具合を起こした寧々ロボに襲われることもない。そう考えると、天馬司の生存能力と言うか、身体能力、頑丈さには尊敬を感じる。

 一度見学したことがあるが、派手に飛んでいってちゃんと受け身を取って着地or落下したり。反射的に避けるなど、咄嗟の判断が早い。

 以前、興味本位で私もやって見たいと神代類に直談判して見たが。危険感知能力が目に見えて低いことから却下された。

 

「じゃあね! また一緒にショー作ろうね!」

 ────また一緒に作ろうね、玲音。

「………………また、ね」

 

 機会があれば、ね。

 鳳えむがこちらに手を振りなが、去っていく。相変わらず大きな声だ。

 ……はあ。そろそろキツくなってきたかな。

 

「あっ」

「……? …………朝比奈まふゆ」

 

 朝比奈まふゆに見つかった。隣に学友らしき人物を連れている。

 

「あれ? 朝比奈さんの知り合い?」

「うん。ちょっとね」

「すごい美人さんだ。どんな化粧使ってるの?」

 

 私の方へ寄ってこないでほしい。今、化粧の話をされても困る。ノーメイクだし。

 

「……」

「ごめんね。玲音は人見知りだから、緊張してちゃってるみたいで」

「そうなの? ごめんね。急に話しかけちゃって」

 

 おお、すごい。話しかけてきた女子生徒が離れて、そのまま去っていく。この前に見た雰囲気とは違う、優等生らしい感じだ。

 

「…………話。時間、ある?」

「少しだけなら」

 

 少しでもあるなら十分だ。

 

「……場所、変えようか」

「……」

 

 軽く頷いて朝比奈まふゆは私の後についてくる。そのまま場所を変えて小さな公園に入って、あまり人の目に触れない木陰にあるベンチに座らせる。立ち話もなんだし、疲れるだろう。

 

「……話ってなに?」

「……最近、元気がない。と聞いたから、様子を見に来た」

「……奏達は来てないの」

「…………私一人。姉さんには黙って来た、から」

 

 ……この感じは、朝比奈まふゆは姉さん達に会いたかったようだ。でも、どこか葛藤がある様に見える。何かに思い悩んでいるのか? 

 

「……朝比奈まふゆ」

「……なに?」

「…………姉さん達は、待ってる。し、私も待ってる。…………困ったら、家に来るといい」

「……」

「……大人はいない、けど。食事と、寝る場所なら提供できる、から」

「……」

「……伝えたかった。のは、それだけ」

 

 今の朝比奈まふゆには対話は難しいだろう。かなり警戒されているみたいだし。

 

「…………なんで、あなたが私の心配をするの」

 

 なんで、ね。まあ、朝比奈まふゆと私は特に接点を持たない。学校で会えば話すし、一緒に買い物に行ったりする暁山瑞希と東雲絵名。血を分けた家族である姉さん。

 全員の共通の知り合いで、共に作品を作る創作グループのメンバー。しかし、私は所属していないし、入る気もない。姉さん達に言っていないので、こればっかりは私の個人的なモノだ。

 

「…………私、みたいに。なってほしくない、から。ね」

 

 朝比奈まふゆからは鹿野ちゃんや、私と似た匂いがする。壊れかけの人間の匂い。心が壊れる寸前で、いろんな物が失われてしまって、自分を人間だと認識できなくなって行く。自己が消えて、世界(現実)から乖離してしまう。そうして、いろんなものが認識できなくなる。苦しいはずなのに、それを言葉にする力も、理解する能力も失われていく。

 そして、いずれ自分の命すらも落としてしまう。

 

「…………私は、朝比奈まふゆのことを知らない。でも、姉さんの大切な仲間、だから。家族の友達、大切にしなきゃ。家族が悲しむ」

「っ……」

 

 私の発言が朝比奈まふゆの何かに触れてしまった。家族関連の単語は地雷になる可能性があるな。今後注意しよう。

 

「……ただ、それだけ。じゃ「──待って」。……なに?」

 

 割り込む様に朝比奈まふゆが私の言葉を遮る。何か話があるのかな。

 

「…………玲音は、奏が大切?」

「……愚問」

 

 愚問だな。姉さんの為なら命を張れる。姉さんが危機に陥るなら、どんな手を使ってでもその危機を脱する手段を取る。

 

「……姉さんは、私の特別。姉さんの為ならなんでもやる。それを応援して、支えるのが私の役割」

「…………それが間違いだったり、将来無駄なことだとしても?」

「……それでも、私は姉さんを支えるしかない。姉さんは、姉さんの人生を歩むべきだから」

 

 私は姉さんの夢を支えられればそれでいい。姉さんが目指すものが見れればそれでいい。姉さんを支えて共に歩ける人が見つかるその日まで、私は生きていればいい。

 ……ただ、それまでにこの精神が保つかはわからないけどね。最近、現実感の希薄化もひどくなって来たし、それが原因で切ることも増えた。まだ生きてはいけるだろうけど、2年後3年後も生きているかと言われれば微妙なところだ。

 

「……朝比奈まふゆ。誰にその言葉を言われたかはわからない。無駄も経験。今しかできない経験も多くある。朝比奈まふゆの人生は、あなたが作るべき作品。他人に渡してはいけない」

 

 話しすぎた。私はもう去ろう。あとは朝比奈まふゆが決めることだ。

 

「…………姉さんは、あなたを助けたい。なら、私もあなたを助けたい。だから、協力は惜しまない。じゃあね」

 

 連絡先を書いた紙を手渡して家に帰る。今の私にできることはこれまでだ。あとは、姉さんたちに任せよう。

 

 

 

 

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)。送り込めた?」

『バッチリ。と言いたいけど、結構ギリギリだね。セカイからの干渉が強すぎる。スマホの中に何人か入り込んでるんじゃないかな?』

「……入れ込めたならいい」

 

 ミク(⬛︎⬛︎)は無事に分体を送り込めたらしい。あとは、朝比奈まふゆ次第だ。

 

 ……みんなが不幸になる結果は避けれますように。

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