深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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アンケートは、今日の24時に締め切ります。回答がまだの人は、よろしくお願いします。






私ってなんだっけ(2)

 

 

 相変わらず状況は動かない。

 あれから数日が経つが、特に姉さんのところも変化はなさそうだ。相変わらずソワソワしたり、少し安心したように微笑んだりしているが、解決はしていないようでまだ不安そうだ。

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)。分体の方から何もないの?」

『昨日から連絡がつかないからミク(ボク)もわからない。ネットにつながっていない状態なのかも?』

「……スマホが壊れた?」

『さあ? そこまではわからないかな。ひょっとしたら、お姉さん達のセカイに迷い込んでいたりするかもしれないね』

 

 アレが姉さんたちのセカイに迷い込むのか……。どんなセカイにいても似合わなさそうなアレがか。

 

「…………かわいそう」

『敢えて聞くけど、どっちが?』

「…………姉さんたちのセカイが」

ミク(ボク)が可哀想とか思わないわけ? 一応分体だから、いなくなられたら困るんだけど』

 

 見た目が見た目だからミク(⬛︎⬛︎)には悪いが姉さんたちの方がかわいそうだ。

 

「……でも、消滅したらわかる。でしょ?」

『まあね。ただ、失った分は失ったままになるんだよね』

「…………元に戻らない、の?」

『うん、戻らない』

「……じゃあ、探しに行かないとね」

 

 失った分は戻らないなら、失わないようにしないとね。友達が辛いのは私も嫌だからね。

 

『まっ、あの分体はしぶといからね。簡単には消滅しないだろうから、しばらくは様子見だね。最悪、スマホの記録媒体が消滅しました。なんてことがない限り完全に消滅なんてしないだろうし』

 

 彼ってそこまでしぶとかったっけ? 意外と動きが大きくて見た目も相まって話さなくても喧しい奴だ。

 

『分体がってよりは、ミク(ボク)ら電子生命体はしぶといからね。消滅するその前にセカイに帰れればどうってことないのさ』

「……セカイに帰ってきていない、から。そもそもそこまでピンチでもない。ってこと?」

『そう言うこと』

 

 ピンチでないならよかった。安心して今までの情報を整理できる。……だけど、本当に大丈夫だろうか。

 

『大丈夫だから。ほら、今までの情報を整理しなって』

「…………ん」

 

 こちらが分体を通して得られた情報は、朝比奈まふゆの家庭環境があまりよろしくないと言うこと。

 過干渉な母親の期待を背負い、逃げ場が無い。肩の力を抜いて居られる場所からも離されているようで、趣味にも口を出されているようだ。

 

「…………どうしよう、ね」

『今のところ静観しかないかな。万が一のために分体を送ったんだから、それまでは見えるしかないよ』

「…………そう、ね」

 

 時間が経てば解決するんだろうか。

 ……。

 あの場所にいて、時間が解決するとは思わない。あの精神に不安定な状態では思考能力は落ちるし、判断力も鈍る。家から離れられれば、少しでも落ち着ける場所があれば色々考えもまとまるんだろうけど……。

 

 ……ダメだ。考えがまとまらない。私から何かサポート出来ることがあればやりたいけど、姉さんの知り合いと、知り合いの弟という関係じゃ出来ることが少ない。

 ……もういっそ、姉さんのサークルに加入して。自分の問題に出来れば――。ダメだ。姉さんの活動の邪魔は出来ない。

 

 

 

 ……疲れた。寝よう。寝て、起きて考えよう。

 もうそろそろで高文祭の時期だし、作品作って持っていかないと行けないから。学校の部室にでも篭ろう。

 

 いつも通り睡眠薬と精神薬を飲んで、ベッドに身を投げる。

 

「……おやすみ。ミク(⬛︎⬛︎)

『ああ、ゆっくりおやすみ。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)

 

 意識が沈んでいく。暗くなる意識の中で、前歯をきらりとさせてサムズアップをする特徴的な青タイツの男(分体)が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文芸部の部室にサボり魔が二人。

 

「……」

「……」

 

 ただ静かな時間。夜凪百合子がノートパソコンをカタカタと打つ音と、私のシャープペンが作文用紙の上を走る音が部屋の中に響く。

 

 

「……進捗の方はどうですか?」

「…………問題なし」

「……そうですか」

「……」コクコク

 

 黙々と作業し、たまに体を伸ばす。

 今私が書いているのは散文。手紙形式で勧められ、語り手が一方的に話したいことを話すという内容だ。意外といい評価をもらえるし、空亡としての活動では手紙形式の散文。詩などは書いて居ないから身バレの心配もないし、誤魔化しが効く。

 

「……あなたは、何故文芸部に?」

「……?」コテン?

 

 話の意図がわからない。何故と言われても……

 

「……詩集や小説を読んでいるのはあまり見ませんし、そう言った話も聞きません」

「…………あまり、好きではなさそう。と?」

「はい、端的にいえばそうですね。美術室に出没するのは知って居ますし、よく絵を描いているのも知って居ます。なので、何故美術部ではなく、文芸部(ここ)に入部したんだろうかと。ふと、疑問に思ったんです」

 

 何故、文芸部に入部したのか。簡単な話、私は文章を書くのも割と好きだからだ。あまり小説やら散文やらを書かないだけで、やらないわけではない。

 詩だって詩集が数冊作れるぐらいには書いているし、この部屋にも置いてある『残明』にも書き下ろしの小説があるのだ。普段書かないだけで、書けるし書く。

 

「…………私は、芸術が好き。文芸も、芸術」

「……だから、文芸部に?」

「……」コクコク

「それなら、美術部や写真部でもよかったのでは?」

「…………絵は、よく描く。写真、得意じゃない」

 

 写真というか、そもそもカメラを向けられるのも、向けるのも苦手だ。

 

「……そうですか」

「……」コクコク

「…………宵、崎さん」

「……?」

「…………何か、お悩み事でもあるんですか?」

「……???」コテッ?

「……何か、悩みがありそうな雰囲気でしたので」

 

 ……悩みね。……悩みといえば、朝比奈まふゆのことぐらいだろう。ミク(⬛︎⬛︎)からは特に何も連絡は来てないから、緊急性が高いことは起きて居ないんだろうけどさ。

 

 ……まあ、日守康作の孫だし。話してもいいか。

 

「……姉さんの、友達。が、大変なんだって」

「………………その、お姉さんの友人のことが心配だと?」

「……」コクコク

 

 私のようにならないか心配だ。生きる目的はない。今生きる理由はあるが、生き続ける理由になるかはわからない。将来に希望なんてないし、夢も抱かない。未来を感じられない。屍のような空虚な人生。

 初めはそれを辛いとか、苦しいとか感じることはできたが、だんだんとそれを感じることもなくなる。

 

「……お姉さんの友人の助けに慣れるようなことが何かあるかと悩んでいると?」

「…………どう、なんだろう」

 

 心配だから悩んでいる。何かしたいとも思う。ただ、動けない。動けないから、結局何もしない。

 私は、朝比奈まふゆが少しでも楽になれる手伝いがしたい。

 

「…………夜凪百合子。少し、話を。聞かせて」

「……面白みのない私でよければ」

「……夜凪百合子は、どうすれば安心できる?」

 

 私は姉さんがそばに居れば安心できる。私の拠り所で、生きる理由そのものだから。

 

「……そうですね。近くに信頼できる人、親しい人がいれば安心出来ますよ。一人より心細いものはないと思いますし」

 

 なるほど。……となると、暁山瑞希や東雲絵名、姉さんがいれば朝比奈まふゆは安心できるのだろうか。

 

「……あとは、紅茶やコーヒーを飲んでる時でしょうか。お爺さんの淹れる紅茶が好きですので、……あとは、好きなことをしている時ですかね。こうして小説を書いているときは心が落ち着きます」

「……確かに」

 

 好きなことをするとリラックスできる。確かにそうだ。……いや、私の場合。雑念が混じった時点で辞めるからそうでもないのかもしれない。

 でも、コーヒーや紅茶は飲んでると気が楽になる。

 

 ………………ということは、胃袋を掴んでさえいれば。好物を聞き出すことができれば少しでもリラックスできるんじゃないだろうか?

 でも、朝比奈まふゆは喫茶店の客でもないし、家に来るわけでもない。……お弁当箱に詰めて渡したり、水筒に入れて渡すことも出来なくもない。が、関係的に無理だな。

 

「…………その辺は、姉さん頼ろうか。な」

 

 姉さんをこの暑くなる時期に外に出すのは忍びないけど、朝比奈まふゆ。自分の仲間のためなら姉さんも力を貸してくれるだろう。

 

「……いい解決策が思い浮かびましたか?」

「……ん。ありがとう」

「……お力になれようで」

 

 やはり、本当に頭が回る人は頼りになる。

 

「…………お礼。クッキー。いる?」

「……よく持ってきてますね」

 

 今日持ってきたのはコンビニのミニクッキーだ。小腹が空いたときようにつまめるように持ってきた。

 

「…………水筒に、紅茶。あるよ」

「……いただきます」

「……ん」

 

 部室に常備されている紙コップを取り出して紅茶を淹れて手渡す。

 今日はカモミールだ。鎮静効果があるようなので、精神疲労や集中疲れに良いと思い持ってきた。

 

「……いただきます。…………お上手ですね」

「…………まだ、日守康作には、遠い」

「……歴が違いますからね」

 

 夜凪百合子と一緒に紅茶を飲む。……美味しいけど、日守康作の方が美味しい。歴の違い、経験の違いはわかるが、それでも。私はあの味が出したい。

 

「……やっぱり、向いてますよ。好きなことを突き詰めるところとか」

「………………」

 

 日守康作もそうだが、夜凪百合子も私にarchaïqueの店長を任せようとする。私は、私自身、向いて居ないと感じている。日守康作のように人に興味を持てないし、共感することも出来ない。

 あの店に来るお客さんがいい人達だから私でも受け入れられているだけだ。

 

 

 

 しばらく、二人で紅茶を飲み。作業に戻った。

 短編小説は書き終わったので、しばらく学校に来る予定はもうない。

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