どうも作者です。
UAが15000を達成しました。ありがとうございます。
夏の長期休み。補講に何度か行けばあとは基本的にフリーな期間。
詩集『ヒガン岸』は宣伝をしたのもあって『残明』よりも売り上げが良いらしく。編集の方から上機嫌な報告があった。
発売時期に合わせて書き下ろしの短編小説もこれまた評判が良かったようで、次回作を望む声がちらほら見られた。そして、熱心なファンたちは今日も私の布教活動に勤しんでいた。……SNSやめようかな。見てて疲れる。
「好評だねえ。いいことじゃないか」
「……別に」
「別に評価は求めてない。なんて言うけど、じゃあ
「…………何でだろうね」
ネットにあげる理由。それは、父さんや鹿野ちゃんが勿体無いと言ったから。
一緒に絵を描いたり曲を作って居た時、鹿野ちゃんに人目に触れないのは勿体無いと言われたから。
そして、父さんが私の作品を褒めてくれたから。私の作品にも誰かを幸せにすることが出来ると言ってくれたから。私はネットに作品を投稿し続けている。
まあ、私にはもう誰かを幸せにする作品なんて作れないから、私の作品が誰かの拠り所になるならそれでいい。少しでも、私の作品で気が休まるならそれでいい。
そう考えると、熱心なファンたちがついて半ば信仰されているのも一つの拠り所としてのカタチなんだろう。怖いから出来れば別のカタチでやって欲しいものだけど。
「…………
「なに?」
「……
「はーい」
ペインティングナイフで絵の具をキャンバスに乗せて色を広げる。配置と構図はもう決めてある。あとはそうなるように色を広げて、乗せて、塗り替えて、混ぜて、描く。
いつも通り
…………暁山瑞希も、神代類も作業していても話しかけてくるから、少し
「……
「?」
話す内容がなかった。特に話したいこともない。話題がなに一つ思い浮かんでこない。
「…………
「なに? どうしたの?」
「……………………
「へ?」
思い返せば、私は
公式のWikipediaによると、初音ミクは16歳で身長158cmとなっているが、実際どうなんだろうか。個体差はあるんだろか。
「んー、そうだなあ。食べ物とかならフランスパンとか何だけど、聞きたいことってそういうことじゃないんだろう?」
「……ん」
「うーむ。フランスパン以外なら……。
「…………そう、なの?」
それは意外だ。好きでも嫌いでもないか。嫌われてはいないだろうから、好かれているものだと……。
「……あー、嘘嘘。嘘だから。
私は、そんなにわかりやすく雰囲気を出していたのか。
「
「…………そう。……なら、納得がいく」
意外と、姉さんも私の変化に、感情の動きとでも言うものに対して察知が早い。そして、神代類や暁山瑞希も反応する。私をよく知る人ほど私が気が付かない変化を感じ取れる。
「まっ、
それもありうる。
「話が逸れたね。
「…………使わない、のに?」
「うん。使わないのに」
何故? 電子の歌姫だからとかだろうか?
でも、
「
「……
「そんなことはないよ。まあ、多少は思うところはあるさ」
「自分の出自にはね」
蔦の絡みつく、草木で覆われた暗い森に佇む廃墟。
日の当たらない暗闇から微かに見える人の視線。恐怖心を煽る絵。
「……足りない」
「そうなの? もう十分なんじゃないの」
「…………足りない。けど、壊れる」
足りない。これじゃない。私が描こうとした絵はこうじゃない。もっと、暗い絵が描きたかったんだけど……。まあ、いいか。
これはこれで形は少し変わるけど、書き足していこう。
「…………でも、今はもう。いいか」
「今日はこの辺で終わっとく?」
「……ん。今日は、もう終わる」
長く描き続けてると疲れるし、そんなに長い時間セカイに居続けるのも良くない。
「…………
「ああ、いってらっしゃい。気をつけてね」
「……ん」
今日は午後から卵が安くなるし、そろそろ味噌や出汁も買い足さないと足りなくなる。
……そういえば、今日は茄子も安い。久しぶりに煮浸しが食べたい。父さんが作るやつの再現にしかならないけど、姉さんも嫌いではないし。朝比奈まふゆも好き嫌いは基本ないと言っていた。夕飯は茄子の煮浸しときゅうりの浅漬けでいいか。
セカイから出て、いつも通り姉さんに買い物に行ってくる旨を伝えて買い物へ行く。
その後は喫茶店に寄るなり、夏場なら駅近くにある噴水のある広場のベンチに座って噴水をぼーっと眺めている。気が向けば軽く体を動かしたりしているかもしれない。
しかし、今日はそうも行かず……
ジリジリと照りつける太陽。吹く風は暑く、涼しさを感じることもない。
「…………暑い」
そう、とても暑い。大量の汗がダラダラと流れ、マスクを外して安価なアイスを食べながら帰るぐらいには暑い。
どうせ姉さんは外に出ないんだろうし、上着脱ごうかな。でも、日焼けがなあ。
肌はそこまで強くないから、すぐに日焼けしてしまう。そして、真っ赤になって痛くなってしまう。
とりあえず日影にある座れる場所に座って休む。
暑い。とにかく暑い。特売があったとはいえ、外に出るんじゃなかった。
「……………………
『んーっと、32℃らしいね。暑いんだろうなー』
「……暑い」
『熱中症とか、脱水症には気をつけなよ』
「……ん」
私が倒れたら誰が姉さんの世話を……いや、望月穂波もいるし、今は朝比奈まふゆもいる。
……そう考えると、別に姉さんの日頃の世話を私がしなくてもいいんだろうか。
私が料理を作らなくたって、望月穂波に頼めば作ってくれるだろう。朝比奈まふゆも少しなら出来るみたいだし……。別に、私が居なくても。
──────さよなら。玲音
今からでも、鹿野ちゃんの後を追ってもいいんじゃ──
『
「! …………なに?」
『いや、いきなり反応が薄くなるから、脱水症にもうなってるのかと』
「……大丈夫」
早く帰ろう。そして、少し姉さんと話をしよう。今の私は、あまりよろしくないのかもしれない。気を抜けば今からでも後を追いそうだ。
梅雨はもう明けて、鹿野ちゃんが迎えられなかった夏が来て…………そして、また時は過ぎて
『……
「…………そうも、行かないからさ」
セカイにしばらく引きこもるとなれば、心配はされるだろう。となると、アトリエで何日が過ごす方が良いんだろうけど……。まあ、この時期は暑くて過ごしにくい。
「…………姉さんのご飯を作るのは、私だから。私が、姉さんを支えたい。から」
私のわがままを受け入れてくれているから、これ以上は望めない。望みたくない。
『……そっか。じゃあ、また明日。セカイに来なよ。話し相手ぐらいにしかなれないけど、過去の共有は出来るだろう?』
「…………そう、ね」
私の過去の知るのは
「…………じゃあ、明日。フランスパンでも買って行くよ」
『おっ、本当かい! ありがとう。じゃあ、楽しみに待ってるよ』
……本当にフランスパンが好きなんだ。……ネギじゃないのが不思議だけど、別に好物って明記されてるわけじゃないから。本当に個体差なのかもしれない。