深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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最近暑すぎて夏バテ気味の作者です。


返事はアドリブと

 

 

「嗚呼、露御雄(ロミオ)。何故汝は露御雄(ロミオ)なのじゃ──」

 

 フェニックスワンダーランドの舞台。神代類と作った台本だとしても演者として立つのは気が引けたが、人手が足りないとなると致し方がない。

 

「──他人の手に渡るなら、妾モノにならのぬなら。いっそ、妾の手で葬り。そして、妾と一つと成ろう」

 

 短刀の小道具を引き抜き、鞘を投げ捨てる。顔の歪む草薙寧々。もとい、最強の剣士を侍らせる従凛恵兎(ジュリエット)。そして、その前に出て刀を抜き牽制する名無城権兵衛(天馬司)

 

「愚かな事を! 狂人めが、拙者の主にその刃。届くと考えるか!」

「ふふ、ふふふふふ。届くとも。嗚呼、届くとも。妾の呪怨の刃から逃るることなど出来まいよ」

 

 顔布で顔を隠してはいるが、顔布の下で目を見開き、口を開けて笑う。狂愛の呪利穢屠(ジュリエット)を演じる私。おぞましく響き渡る狂人の声。

 短刀を逆手に持ちながら戦い慣れぬ様な動きで名無城権兵衛(天馬司)に襲いかかるが、簡単にいなされ、舞台に倒れる。それでもよろよろと立ち上がり、奇声を上げながら襲いかかる。

 ケタケタと不気味に笑い、より猟奇的に、狂気的に体をくねらせながら襲いかかる。

 

 このキャラクターな愛に飢えた女性となっていて、宇宙規模の強さを持つ設定だ。まあ、その頑丈さというか、倒しにくさは物語中ダントツだろう。ラスボスだし。

 

「くっ! なんと面妖な技。妖術使いか!」

「ふふ、くふふふふふ。嗚呼、露御雄(ロミオ)。妾の愛しの露御雄(ロミオ)。妾が、妾が汝を迎える。妾が汝の伴侶となろう。嗚呼、露御雄(ロミオ)!!」

 

 光を灯すドローンが飛び、従凛恵兎(草薙寧々)名無城権兵衛(天馬司)を取り囲む。スポットライトの光が私を照らす。眩しいな。妾に光など……。

 まあ、良い。それよりも、盛り上げよう。ここからが盛り上がりなのだから。

 

 名無城権兵衛(天馬司)がドローンを振り払い、そのまま接近して妾を切り捨てるセリフと共に、刀を鞘にしまう。それと同時に舞台に倒れ伏した。

 

「……嗚呼、露御雄(ロミオ)。妾の、露御、雄」

「……さらばだ。愛を求めし気狂いの姫君」

 

 静まる舞台。そう。最後の敵である妾は倒された。暗転と共に退場する予定だったのだが……なぜ暗転しない。

 

 不意にスポットライトが舞台袖にあたり、一人の演者が姿を見せる。狂愛の呪利穢屠(ジュリエット)である妾が求めた人であり、物語のラストを従凛恵兎(草薙寧々)名無城権兵衛(天馬司)と共に飾る演者。

 ……出番はもう少し先だったと記憶しているんですが。

 

 妾の前にかがみ込み、頬に手を添える。視線をやると「起きて」と口を動かしているようで、顔をゆっくりと動かして演者の顔を見上げる。

 

「そこの者! 何奴だ。名を述べよ!」

「……恨み言を吐くなら、余が元で吐けば良かったものを」

 

 静かに語りかける様にそう演者が妾に声をかける。舞台を静寂が包み、少し悩んだが。……つまりそういうことだろう。

 妾の知らぬ台本。しかし、従凛恵兎(草薙寧々)名無城権兵衛(天馬司)は把握しているようで、出方を待っている様に見える。

 

「嗚、呼。妾の、愛しい愛しい露御雄(ロミオ)

「ああ、呪利穢屠(ジュリエット)。久方振りだね」

 

 露御雄(ロミオ)こと、神代類。軽く睨みつけるが、当の露御雄(神代類)は涼しい顔だ。アドリブであってはいるんだろうけど、台本から乖離している。この先の展開が読めないから、妾は早々に退場したいところ。

 

「なぜ露御雄(ロミオ)がここに……」

「余と呪利穢屠(ジュリエット)は竹馬の友であった。しかし、呪利穢屠(ジュリエット)の家が没落し、余と呪利穢屠(ジュリエット)が会うこともなくなってしまったのだよ」

 

 確かにそんな設定はある。設定順守でアドリブとなば──

 

露御雄(ロミオ)露御雄(ロミオ)露御雄(ロミオ)露御雄(ロミオ)!! 嗚呼、汝の愛さなかったことなど、恨まなかったことなど一度もない。されど、されど妾は。妾は!」

 

 倒れたまま露御雄(神代類)に手を伸ばし。首に手をかける。締めても苦しくない位置から締めている様に見せる。

 この物語。台本は、話の流れを天馬司。設定は暁山瑞希、神代類、妾の三人。台本化は神代類で行っている。呪利穢屠(ジュリエット)は妾がメインで設定を考えたキャラクターだ。他の覚えているだけのキャラクターとは違い、キャラクターへの理解も深い。もちろん、付随する結末だって妾が考え、露御雄(神代類)と共に物語へ組み込んだ。

 (彼女)は、露御雄(ロミオ)の竹馬の友。いわゆる、幼馴染の様なもので家ぐるみの付き合いだった。しかし、(彼女)の家は没落した。

 家の没落は誰のせいでもない。月日が流れるごとに力を落としていき、その力を失ってしまった。

 

 そもそもこの舞台は、昨年の冬。師走に発案され、翌月の如月に講演された『ジュリエット 〜バトルロイヤル〜』を和風に改変した物。セリフ周りや背景を変えただけのつもりが、展開も改変されている様で……。妾はこんな展開を台本で読んでいない。でも、妾なら。

 

「……妾は。汝を、愛していた」

 

 そう最後の声を発して、退場する。物語の結末は、勝者である最強の剣士を侍らせる従凛恵兎(ジュリエット)露御雄(ロミオ)が結ばれて終わる。エンディングの中に、狂愛の呪利穢屠(ジュリエット)は存在しない。

 そのまままたパタリと倒れて、暗転を待つ。

 

 しかし、どうもこの舞台はかなり改変がされている様で。

 

 陽気な音楽と共に舞台袖から鳳えむが現れた。

 

 どうやら、鳳えむは魔女らしく。妾を復活させるつもりらしい。なんと都合のいい展開。シリアスな展開も砕け散ってしまいそうで。

 なんとも、ワンダーランズ×ショウタイムらしい展開だ。妾には一切の通達はないが。

 

「魔女に任せなさーい。急急如律令!」

 

 どちらかといえばそれは陰陽師とか、仙人ではないか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いね。急に頼んじゃって」

「構わぬよ。妾も友の助けとなれるなら、手の貸せる範囲で貸すとも」

 

 ……うん、苦い。でも美味い。

 演者控え室でエスプレッソを飲んでいる。流石はフィニックスワンダーランド。控え室に置いてあるポーションタイプのエスプレッソマシンで美味しいエスプレッソが飲める。

 

「……説明を要求する」

「台本のことかい?」

「……ん」

「悪かったとは思っている。だけど、玲音なら合わせられると判断した」

 

 信用されているな。でも、そうじゃない。

 

「……舞台は、踏み間違いで瓦解する」

「多少の追加で壊れるほどの物は作っていないよ。それに、あれは僕の我儘で追加された様な物だからね」

「……その我儘で、舞台を壊そうとした?」

「玲音から言わせればそうだろう。だけど、あれはそういう演出であると、フェニックス側との交渉もあった上でやっている。どこも不利益を被ることもない」

「………………そう」

「不服そうだね」

「……せめて、一言欲しかった」

「そこは謝るよ」

 

 フェニックス側に被害がないなら良かった。でも、一言欲しかった。

 ……不評を買って後々の公演に響かなければ良いけど。

 

「でだ。僕の返答は受け取ってくれたかい?」

「…………」

「返答のために危険な橋を渡ってみたけど、伝わってなかったかな?」

 

 返答。……物語の変更されたエンディングのことか。

 

 元となった『ジュリエット 〜バトルロイヤル〜』は、最強の騎士を従えるジュリエットとロミオが結ばれる。それだけだったが、今回の演目である『似非和風ジュリエット 〜バトルロイヤル〜』は、勝者は変わらないが、正妻を決めるバトルロイヤルとして描かれており。敗者は側室、又は従者としてロミオの隣にいることになるというものになった。

 このバージョンのロミオは一城の主ということもあり、側室を抱えると言う選択肢もあった様で、参加したジュリエットは漏れなく全員側室になった。

 

「……僕は君を退治する気はない。例え、バケモノになったとしてもね」

「…………そう」

 

 バケモノになったとしても。ロミオからの愛に飢え。愛を欲し、いつしか憎悪となった。その愛憎に飲まれて呪いに手を出した呪利穢屠(ジュリエット)。しかし、このシナリオでは呪利穢屠(ジュリエット)は側室としてロミオから愛されることになる。

 

「…………期待せず、待ってるよ」

「そこは期待していてほしいね。僕は仲間想いなんだ」

「……それ、自分で言う?」

「司くんなら目の前で宣言するんじゃないかな?」

 

 天馬司なら大衆の前でも宣言するだろう。そういう人だから。

 天馬司だけではない。ワンダーランズ×ショウタイムのメンバーはみんな仲間を大切にする人達だ。だから、私は私の作品を安心して渡せる。

 私の作品を、作品としての価値ではなく。私が書いた絵として持っていてくれるから。

 

「バケモノになったら教えてくほしい。僕たちが、玲音を笑顔にして見せよう。──ワンダーランズ×ショウタイムは、世界中のみんなを笑顔にするんだから」

「………………そう」

 

 退治してほしいんだけどなぁ。

 

「玲音、入るぞー! 類もここに居たのか」

「……天馬司。お疲れ様」

「司くん。お疲れ様だ」

 

 天馬司が控え室へやってきた。どういうわけか、私は一人で一つ使わせてもらっている。神代類曰く、フェニックスグループからの配慮らしい。最近は多様性がどうとかで、……私は性自認も身体も男のはずなんだけど。

 

「お疲れ様だ。玲音、類。それで、類。玲音に打ち上げの話はしたのか?」

「これからする予定だったんだ。座長の司くん、代わりに説明してくれるかい?」

 

 打ち上げ? 舞台成功の打ち上げか? 

 

「そうか。じゃあ、座長のオレから──」

「……」

 

 舞台が終わったので、ワンダーランズ×ショウタイムとフェニクスランドの舞台スタッフで打ち上げをやる。予定だったのだが、天馬司たちは未成年ということで、別枠で打ち上げをすることになったそう。

 みんなそこまでお金を出して高いところにとは行かないので、いつものファミレスで打ち上げをしようということ話だ。

 

「……私、ここのメンバーじゃない」

「? 何を言ってるんだ? 玲音はオレたちの仲間だろ?」

「……え?」コテッ? 

「違うのか?」

「……違うけど」

「違うのか!!」

 

 私はワンダーランズ×ショウタイムに加入した覚えはない。そもそも、今後も加入するつもりはない。

 

「うーむ。そうか、よし。なら、今からでも遅くない。オレたちとショーをやろう!」

「……気が向いたら」

 

 合作なら別に良い。でも、加入はしない。

 

「今日の舞台、楽しかったよな! な!!」

「………………圧。……ん。否定しない」

「なら──」

「……でも、私は加入しない」

 

 方向性が違う。私は人々を笑顔にしたいわけではない。私にはもう、そんな夢を語れない。

 

「そうか。でも、オレたちは待ってるぞ。玲音ならいつでも歓迎だ」

「…………そう」

 

 勧誘は終わったか。じゃあ、私はもう少しゆっくりして帰らせてもらおう。

 

「よし、打ち上げに行くぞ! 類!」

「!」

「逃がさないよ。さあ、僕たちと来るんだ」

「……離して」

「ふふーん。聞けない頼みだな。素直に来い!」

「たまには、僕たちと食事ぐらい良いじゃないか。滝沢先生や瑞希とはラーメンを食べに行ったりしてるみたいじゃないだしね」

 

 別に天馬司と神代類だけなら良い。だが、今回は違う。鳳えむも居れば、草薙寧々だっている。それに、女性役だから胸のあるシリコンスーツを着ているんだ。シリコンスーツの中はローションを塗って入ってるし、蒸れてベタベタなんだ。

 

「……体、シリコンスーツだから。蒸れて暑い」

「なら、従業員用のシャワーを借りてこよう。オイルも流せるし、体がさっぱりしたら気分は晴れやかだな!」

「……姉さん、来てるから」

「ふふ、君のお姉さんからは了承を得ている。今日は逃げられると思わないことだ」

 

 なんということだ。逃げ道を悉く潰して来ている。どれだけ打ち上げに参加させたいんだ。

 

「……………………………………………………わかった。大人しく、行く」

「やっと折れたか。でも、シャワーは行くぞ。オレもスポットライトで汗かいたしな」

「僕もメイクを落として、少しさっぱりしたい。玲音も来るだろう?」

「……裸の付き合い」

「おう。そうだな」

「行く。行こう、早急に」

 

 裸。天馬司と神代類と風呂ということは、いつもは脱ぎたがらない二人の体を見ることができる。タフネスながらも体の動きを阻害しない二人の体を見ることができる。

 風呂場なのでデッサンができないのは残念だけど、喜ばしいことに見たものを忘れないんだ。打ち上げ中にでも思い出しながら書き起こそう。

 

「お、おう。急に乗り気だな」

「ふふ、機嫌がよくなってよかったよ」

 

 二人の体を合法的に見れる。あわよくばその体を触って筋肉のつき方を確かめられる。

 肉体美。動けなくなるリスクを取れずに私が求められなかった美の一つ。その一つを観察できる。機嫌が良くならないわけがない。

 

 

 

 

 

「……」

「さっぱりしたね」

「汗をかいたあとの風呂はいいな」

 

 シャワーは個室だった。まあ、そうだよね。知ってたよ。

 

「…………………………はあ」

「どうした。溜め息なんかついて」

「…………」ガックリ

「そう簡単に見せるわけないだろう?」

 

 ……それもそうか。仕方がない。後で交渉しよう。

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