深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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不可快

 

 

 学校のお昼休み。私は3-Cの教室にやってきた。

 

「珍しいな。オレに用事なんて」

「……天馬司──」

 

 天馬司に対して初めてちゃんとした頼み事をするんじゃないだろうか。

 私の方を見る天馬司に向かって、私は頼み事を口にした。

 

「──私と、付き合って」

「………………………………ちょっと待ってくれ。うまく聞き取れなかったんだが」

 

 うまく聞き取れなかったらしい。なら、仕方がないのでもう一度。

 

「……私と付き合って」

「聞き間違えであって欲しかった」

 

 そんな天馬司の言葉の後、頭が割れるんじゃないかと思うほどの悲鳴やら絶叫やら、叫び声を聞いた。耳が痛い。

 

 天馬司はなにやら頭を抱えながら、私の肩に手を置く。

 これは了承と見ていいんだろうか? 

 

「ちょっと屋上に行こうか。類も来てくれ」

「ふむ、でも告白の返事なら司くん一人で行く方がいいと思うんだけど」

「そんな場合じゃないから、ついてきてくれ。頼む」

「そんなに必死にならなくてもいいじゃないか」

 

 了承ではないらしい。しかし、何故そんなに焦った様な顔をしているんだ? 

 

「……天馬司。顔色、良くない。大丈夫?」

「玲音のせいだけどな」

「……?」

「仕方がない。玲音、司くんも連れて少し屋上に行こう。ここよりは静かだろうから」

「……」コクコク

 

 そろそろ視線も声も鬱陶しかったんだ。なにやら体調が悪そうな天馬司を連れて屋上に行こう。きっと大きな音で三半規管がやられて気分が悪くなったんだろう。屋上で外気に触れ、少しでも静かな場所になれば良くなるだろう。

 

 ……? 夜凪百合子も3ーCだったのか。すごく私を見てくる。若干呆れてが混じっているような気がしなくもないが、どうしたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 屋上。今日は暁山瑞希は学校に来ておらず、少し物足りなさを感じる。

 

 そして、私は屋上で正座させられていた。何故だ。

 

「で、玲音。さっきの司くんへの愛の告白についてだけど、どう言うことかな?」

「それはオレも気になるが、それよりも先に返事だけ先にしたいんだが……」

「それは後にしてくれるかい? ……それで、玲音。何故司くんに告白を?」

 

 何故、天馬司に告白したか。

 天馬司には初めて話すが、まあちょうどいい機会だろう。

 

「…………主治医に相談した。そうしたら、恋人を作るといいのではないか、とアドバイスをもらった」

「……ふむ、そういうことか」

「……そう言うこと」

 

 さすが神代類、理解が早くて助かる。

 

「待て待て待て待て、オレを置いていくな! 要約されすぎてて相談したらアドバイスもらったぐらいしか頭に入ってこなかったんだが」

「…………」

 

 さすがに端折りすぎたか。

 

「……私、精神科に通っている」

「おう」

「……そこで、最近のこと。相談した」

「それで、何を相談したんだ?」

「……最近、私は見失った」

「何をだ?」

「……生きる、理由を」

「……」

 

 私は、なぜ自分が生きているのかわからなくなった。

 

「……私は、姉さんの夢のため、生きている。でも、姉さんの周りは、たくさん人がいて。夢を手伝う人がいて。支えてくれる人がいて。手を引いてくれる人たちがいる」

 

 私は、今の姉さんに私が必要だと思えない。

 私が居るから家事代行サービスは頻度が低いが、私がいなけれ望月穂波が代わりに家事を行ってくれるだろう。精神的な支えも、作曲の手伝いや、デモを聴いて意見を出したりするのも、姉さんのサークルメンバーがやってくれるだろう。

 絵やイラストも、動画編集や歌詞の作成も全てサークルメンバーがやっている。

 

 〝私は、もう姉さんに必要ないんじゃないか〟。そう考えるようになってしまった。

 

 主治医曰く、私のそれは強い愛着や依存によるもので、依存先を増やし、一人に向けられた愛着や依存を分散できれば少し楽になるのではないか。との意見をもらった。

 

「……依存先を増やす。としても、強い愛着を向ける相手は関係として友達よりも近くなるのではないか。と、考えた」

「それで、オレに告白をしたと」

「……ん」

 

 一人に向かっていたものを二人に、三人にとなるとそれでも感情としては大きなものになるだろう。

 と言うわけで、友達ではなく恋人と言う関係の方が対処しやすくなるのではないか。と言う考えに行き着いた。

 

「…………重い!! 重すぎる! なんでオレなんだ!? オレよりも類とか、暁山とかの方が仲良かっただろう?」

「…………類は草薙寧々。瑞希は別の人、がいる」

「別に、僕は寧々と幼馴染と言うだけで、付き合ってないんだけど」

「………………だとしても、私とは、解釈違い」

「厄介オタクかな?」

 

 そもそも、神代類と暁山瑞希をそう言った目で見ようとしても見られない。私の中で、二人に対するそう言う解釈がないから。

 しかし、天馬司にそう言った話を聞かないし、そう言ったところを確認したことがないから、そう言った視点で考えることができる。

 

 一応、朝比奈まふゆや望月穂波、鳳えむも候補には存在する。

 しかし、朝比奈まふゆは保護対象。そう言った関係になると後が面倒だ。望月穂波と鳳えむは両方ともそう言った話は聞かない。しかし、二人に対してそういった解釈が私の中で存在しない。と言うか、そもそもの話、歳下にそう言った目を向けようと思えない。

 

「……厄介オタク、とは違う。私の中に、解釈が存在しない、から。そう認識できない」

「要するに、司くんが選ばれたのは消去法だったと」

「……それは否定する」

 

 消去法ではない。

 

「……前に、困ったことがあれば頼れって」

「確かに言ったが、頼り方が重い」

「…………それはすまないと思う」

 

 すまないとは思うから、私はお願いではなく告白した。理由もつけやすく、断ることもしやすいだろう。

 天馬司と言う人間は、ナルシスト気質で、豪快で大胆な性格だが、一挙手一投足が大袈裟なだけで根は非常に真面目で繊細な人間だと解釈している。

 そして、空回りすることもしばしあるが、非常に仲間思いな優しい人間だ。

 

 私が「生きる意味になってくれ」と本気で頼めば、天馬司は迷いながらも引き受けた上で、自分の夢を目指しながら私に縛られることになる。

 

 私は、天馬司は将来的にスターになる人間であると思っている。そんな人間を自分の頼みで縛りつけたいとは思わない。私は、姉さんも縛っているんだから。

 

「付き合う云々は無理だ。そもそも、オレは異性愛者なんだ。好かれていることは嬉しく思うが、同性の玲音をそう言う目で見られない」

「……ん。知ってる」

 

 だから、私はあなたを選んだ。

 

「だが、頼られたからには。この天馬司が助力しよう! お昼は食べたか? オレと類は一応持ってきた」

「……食べてある」

「早いな! なら、オレ達は食べながらになるが──オレの代わりになりそうな人を考えよう」

「……?」

 

 なぜ天馬司の代わりを探す? 

 

「断るんだ。代替え案は必要だろう。だから、それをオレと類が相談に乗ろうと言うわけだ」

「とは言ってるけど、僕たちも玲音の人間関係はこの学校内の人物しか知らないから、あまり力にはなれないかもしれないけどね」

 

 …………本当に、良い人達だな。

 尚更、私が仲間になるわけにはいかない。こんなに良い人を、汚すわけにはいかないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「とは、言っても。オレ達もよくわかってないからなあ」

「僕から提案があるとするなら、最近仲のいい新聞部の後輩はどうかな? 明るくてノリもいいから、多少の重たい感情も耐えられそうだよ」

「……注文が多くて、ごめん。私、歳下を相手と、考えていない」

 

 頼りにならないし、歳下から頼ることが怖いから。個人的には歳上、せめて同い年が理想だ。

 

「ふむ、……となると、僕達と同じ年齢。あるいは歳上か……」

「そういえば、親友って手はないのか? 恋人と同等か、近い関係にはなるから、依存先として考えるなら良いんじゃないのか?」

「……………………親友は、たった一人、だよ。もう、居なくなってしまったけど」

「そうだったのか。……それは、すまなかった」

「……別に良い。司は、真剣に考えている。私は、感謝こそすれど、責めたりしない」

 

 私の親友は後にも先にも鹿野ちゃんだけだ。もう、最も近しい友達を失くしたくないから。

 もう、あんな思いはしたくないから。

 

「今、オレの名前を」

「……? ………………!!」

「無意識だったみたいだね。司くん、良かったじゃないか。玲音は司くんに対して完全に心を許しているようだよ」

 

 いつだ。いつから私は天馬司を司と呼び捨てしている。いつから呼び捨てにし始めた。わからない。

 

「…………いや、だった?」

「そんなことはない。仲間が心を開いたんだ。嬉しくないわけがないだろ!」

 

 私は保護猫か何かだろうか。

 

「ふむ。玲音と仲が良好で、同じ歳か歳上。立場的に厳しそうだけど、滝沢先生なんてどうだろう。一緒にラーメンを食べに行ったりするぐらいには仲が良いんだろう?」

「……無理だった」

「頼みに行ったのか」

「……ん」

 

 滝沢秀昭は無理だった。滝沢秀昭は私の言葉を聞いて顔を顰め、滝沢秀昭曰く、私もひどく嫌そうな顔をしていたらしい。手渡されて鏡を見たが、いつも通り顔は前髪で隠れて見えなかった。

 滝沢秀昭はエスパーのようだ。

 

 滝沢秀昭は教師と言う立場上、生徒と付き合うことはしないし、歳下に対して恋愛感情はあまり持てないと言っていた。

 しかし、現在。元教え子にしつこく迫られており、これ以上面倒ごとは増やしたくないんだと。

 

「そういえば、玲音は文芸部だよな。夜凪なんかどうだ?」

「……夜凪百合子?」

「確か、1年生の時はクラスが一緒だったね。夜凪くんと部活も一緒だし、風の噂ではバイト先も一緒と聞いた。仲は悪くないと思うんだけど」

 

 夜凪百合子か。確かに、仲は悪くない。かと言って仲がいいと言うこともない。

 話すことはあってもお互いに深く踏み込んだ話をすることはないし、話すような機会もない。必要だから会話する。なんとなく話題を振る。私も夜凪百合子の関係は、知り合い以上、友達未満。関係としてはすごく浅いモノだ。

 

 ……2年前のことを考えると。夜凪百合子の抱えるモノが2年前と変わらないと言うなら、頼めば快くとは行かなくても引き受けてくれることだろう。

 

 ……しかし、

 

「…………不快だ」

「? 何が嫌なんだ。まさか、本当は苦手だったりするのか」

「……違う」

 

 夜凪百合子のことが苦手ということはない。正直言うとかなり好きな人間だ。変に真面目で、変なことで悩んで、なりたい自分に向かって真っ直ぐでありながら、他人を切り離せない。冷たそうで暖かい。あと、好きな匂いがする。

 

「何か理由でもあるのかい?」

「…………わからない。夜凪百合子は嫌いじゃない。好きな方。けど、不快だ」

 

 知っていた(持っていた)感情。の、はずなんだけど、それを取り入れるための仕入れ先のない。もう、わからなくなって(失って)しまったモノの中にある感情なんだろう。

 

「……解釈もある。おそらく、頼めば引き受ける」

「なら、ちょうどいいじゃないか。頼んでみたらどうかな」

「……」

 

 頼む。頼んで恋人になってもらう。相手の感情を利用する。……ああ、不快だ。やりたくない。

 

「なんなら、僕から頼みに行っても「ダメ」……。それはなぜ?」

「…………わからない。なぜ不快なのか。なぜ、不快に思うのか。わからない。でも、ダメ」

 

 兎に角、ダメ。何故かはわからない。でも、ダメ。

 

「そうか。なら、仕方がないね。他の案を探そう。でも」

 

 昼休憩の終了を知らせる鐘が鳴る。……今回はここまでか。

 

「放課後、この前に打ち上げで行った場所にでも行くかい? そこでなら、ゆっくり話が出来ると思うんだけど」

「……わかった」

 

 続きは放課後に、か。今日は特に予定もないから大丈夫だ。

 

 ……解決の策があるかはわからないけど、神代類はなにやら笑みを浮かべている。

 

 屋上から去る二人を見送って、スマホを開く。……明日は東雲慎英の所に行く日か。話すついでに神代類と天馬司の二人には、手土産を選ぶのを手伝ってもらおう。あと、鳳えむの件もある。

 

「……⬛︎⬛︎(ミク)

『どうしたの? 呼んだ?』

「……私は、なぜ夜凪百合子と恋人関係を望まないんだろう」

『んー、まだ鹿野彩に縛られているから。異性だと裏切ってしまうような気がするから。じゃないかな?』

 

 裏切ってしまう。……そうか、そうかもしれないね。

 

「……」

『不満そうだね』

「…………なんでだろうね」

 

 本当に、なんでなんだろうね。






みなさま、どうお過ごしでしょうか。
家で過ごしていても熱中症に罹った作者でございます。
今年は暑いですが、なんと乗り切って行きましょう。読者のみなさまも水分補給はお忘れなく。
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