翌朝。いつも通り姉さんの朝食を作り、遅くなった時用にお昼のサンドイッチを作成。冷蔵庫に保管して置く。
予定に遅刻をしないように家を出て学校近くの駅に到着した。
今の私の服装は黒のパーカーに長めのプリーツスカートを履いている。意外と動きやすくてお気に入りだ。
「お待たせー。やっぱり、待ち合わせは早く来るよね」
「……」コクコク
服装はロリータ系のかわいめの物が多く、胸元には細いリボンの飾りが付けられている。髪型は昨日と変わらずふわっとしたサイドテールだ。
「…………カワイイ。いいセンス」
「ありがとう。宵崎さんもカワイイよ」
「…………ありがとう?」
「なんで疑問系なのさ」
「……」コテッ?
「そんな首を傾げても誤魔化せないよ」
なぜ疑問系かと言われても、なぜカワイイと言われたのかわからないからとしか言えない。
別にカワイイ物を着ているつもりはない。体を動かしやすくて、あまり体にまとわりつかない物を選んだらこうなっているだけだ。
「……暁山瑞希。時間、いつまで空いてる?」
「今日はフリーだよ。まあ、夜中までには帰りたいかな。ちょっとやることあるし」
「…………そう。安心して、夜中まではかからない。姉さんのご飯。作らなきゃだし」
「宵崎さんにもお姉ちゃんがいるの? 実はボクもなんだ」
「……そう。話は、少し後。立ってるの、疲れるでしょ?」
「そうだね。移動しようか」
そういって暁山瑞希が私の向かおうと思っていた反対方向へと向くので、服の袖を軽く掴んで引き留める。
「どしたの?」
「……お気に入り、連れてく。ついて来て」
「はーい。どんな場所なの?」
「……喫茶店」
そう。この近くには私が好きな場所な隠れ家的喫茶がある。
カラン、コロン
「いらっしゃいませ。玲音くん。席はいつも通り空いてるから、好きなところへ……。おや、今日はご友人も一緒かい?」
「……」
「ははっ、左様ですか。いい素材をを見つけたのですね……。やはり、君は良縁に恵まれているのですよ」
「……」
「ああ、そうそう。昨日、取り寄せたばかりの鹿児島茶とエチオピア豆。どちらをお飲みに?」
「……」
「承りました。では、準備しておりますのでご友人様と適当な席でお待ちください」
「……」
「ははっ、チップなど要りませんよ。私は老い先短い老体でございます。お気持ちと新しい常連様だけで結構ですよ」
「……あっち」
「ええ……」
なにやら暁山瑞希が戸惑っている。なにに戸惑っているのかはわからないので取り敢えず手を引いて少し奥の方にある半個室のテーブルに座る。
布ではあるが仕切りがされており、ここにいれば私の顔は割れないし、見られることもない。
この喫茶店自体、一見さんお断りのお店と言うのもあって元々人の出入りが少ない。ここなら、人の視線を気にせずに安心して食事が取れる。
「……暁山瑞希。注文は済ませた。少し待ってて」
「え? まさかあの一瞬で終わったの? なにも話してなかったよね」
「……日守康作、すごい人。声に出さなくても、わかってくれる。から」
「すごいんだね」
「……」コクコク
ここのマスター。日守康作はすごい人だ。一種の尊敬をしている。淹れるコーヒーは美味しいし、料理だって美味しい。お茶は趣味とは言っているが、お茶も甘くてほろ苦い。大変良い目を持っている。
「失礼致します。ご注文のカレーライスとアップルティー。エチオピア豆のストレートコーヒーになります。ごゆっくりどうぞ」
「ミルクはサービスでございます。カレーライスが辛ければ、ご一緒にどうぞ」そう言い残してテーブルから去っていく。
「ねえ、宵崎さん? ボク、これ頼んでないんだけど」
「…………美味しい。食べて」
「まあ、この量なら全然食べ切れるけどさ。あんまり持ち合わせないよ?」
「……昨日のお礼。高くはない。気にされる、困る」
「……そう言うなら。いただきます」
そこまで量はないから、食べ切れるはずだ。私は元々食べないのでギリギリ食べ切れるかどうかだが、暁山瑞稀が私程度ではないなら食べ切れるだろう。
「美味しい。本当にこれ高くないの?」
「……」
「……何か言ってよ」
「……1500」
「やっぱり悪いよ」
「良いから食べて。…………美味しい?」
「美味しいよ」
「……よかった」
美味しいようでよかった。カレーライスが嫌いという人間はあんまりいないだろうし、このお店で1番人気だから、ハズレはしないだろうけど。……初めて連れてきた人だ。外れたらどうしようかヒヤヒヤした。
「ふーん。宵崎さんって、そんな顔するんだね」
「……?」
「いや、少し安心したような感じがしたから」
珍しく、この固まった表情は動いたらしい。本当に珍しいこともあるようだ。
「……そう。暁山瑞希」
「なに?」
「……美味しい?」
「うん。美味しいよ」
「…………そう」
美味しいなら良いんだ。美味しいなら。
好きな物を分かち合えるのは良い。いつもよりもコーヒーが美味しいよ。
「ところでさ、あの絵って。数年前からバズってる人の絵だよね」
「…………マスターの趣味」
「ホッホッホ。そうですな、ワタクシの趣味ですよ。深く、良い絵だと思うのですが、これを描いた当人はこの絵にはもう無関心でしてね。どうせならと譲っていただき、店に飾ったのですよ」
「うわっ! 店主さんいたんだ」
「……」
「ええ、玲音くんからおかわりの注文が入りましたから」
「……いつの間に注文を」
「ワタクシが察して淹れに来るだけですよ。玲音くんは、機嫌がいいと少しペースを早く飲む癖がございます。ですので、ちょうど頃合いではないかと……」
「すごい」
「2年間ほぼ毎日通う常連様ですから。覚えてしまう物ですよ」
「そんなに通ってるの?」
「……ん」コクリ
この喫茶店を見つけて約2年。ほぼ毎日暇ができれば通っている。この喫茶店の静かな雰囲気が好きで、私を少しだけ癒してくれる。
一見さんお断りになる前に見つけてギリギリ滑り込んだ形だが、本当にいい場所を見つけたと思う。姉さんを連れてきた時も気に入ってくれていたようだし、また機会があれば連れてこよう。
「…………気に入ったなら、日守康作に紹介をする。会員になれば好きに来られる」
「ここは一見様はお断りさせていただいておりますので、玲音くんのご友人で何度か来たことがあるのであれば、会員証を発行いたしますが」
「でも、ボクは今日が初めて……」
「玲音くんの紹介に外れはいませんからね。この静かな雰囲気を守るために始めたシステムですが、若い子の足が遠のいてしまって困っていたのですよ。ワタクシとしては、この雰囲気を守っていただける方であれば、年齢を問わず歓迎しております」
「じゃ、じゃあ。登録します」
「かしこまりました。お名前とお電話番号の記入。それから、身分証の方を拝見させていただきます。ああ、お食事が終わってからでもございません。どうぞ、ごゆっくり。……………………玲音くんはどうやらご機嫌のご様子。何か聞きたいことがあれば、今がチャンスでございますよ」
「……日守康作」
「ははっ、聞かれてしまいましたか。では、失礼させていただきました」
暁山瑞希に何かを教えて去っていく日守康作を軽く睨むが、軽く笑い飛ばされて去っていく。本当に、あの人には敵わない。
「……宵崎さんって、人らしい感情ってあったんだね」
「…………失礼な。感情ぐらいある」
多分ね。
「学校で見かけた時はいつも前髪とマスクで顔見えないし。でも、表情が動いている感じもなかったから、基本的に感性が薄いのかなって思ってたんだけど、昨日の放課後のこともあるからさ。好きなことが好きなだけなんだなって」
「……そう、だね。好きなことがが好き。あとは興味ない、から」
「……本当に機嫌いいんだね。よく話すじゃん」
「……」ムッ
「ああ、揶揄ってるわけじゃないんだよ? でも、宵崎さんも同じなんじゃないかって思ってさ」
「……? なにが?」
「……ううん。なんでもないや。カレーライスもそうだけど、アップルティーも美味しいね」
「……日守康作は腕がいい。好きに来るといい」
「そうするよ」
それから少し話しながら早めの昼食を終えた。いつもよりコーヒーが美味しかった。
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