深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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夏バテで食の進まない作者です。
盆が終わりましたね。秋が来そうです。


意味と夢と命と

 

 

 沈黙が文芸部の部室を支配する。

 どこかそわそわした1年3人組と、テンションが高めの汐田美優。

 そして、眉間を人差し指の第二関節で抑えながら悩む夜凪百合子。

 

「だから、今年の文化祭は! バンドやりたいっす!」

「……なんであなたは軽音部に入部しなかったのよ」

「そりゃ、文章書いてるのも好きなので」

 

 今年1番の物好きじゃないだろうか。

 新聞部と文芸部を掛け持つなんて、両方やっていることはたいして変わらないのに。

 

「ほら、文化祭と言えば、仲のいい人達とバンド組んで演奏したいじゃないっすか」

「それは創作の中だから出来ることなのよ? それを現実でやろうとしたって、練習の時間とか、楽器の調達とか実行までの壁はあるのよ? わかってる?」

「そこは大丈夫っす。あたし、エレキギターなら弾けるし、楽器は叔父さん。滝沢先生から借りれるっす」

 

「もちろん、許可ももう貰っててあるっす」。なんて用意周到な。どれだけバンドやりたいんだ。

 

「……なら、あなた達だけでやればいいじゃない」

「どうせなら、夜凪先輩とか、宵崎先輩とかともやりたいじゃないすか」

 

 なぜそんなに私や夜凪百合子を含めてやりたいんだ。私はお断りしたい。面倒だし。

 

「それに、夜凪先輩。卒業だから、思い出作るのも今年しかないんすよ。だから、破茶滅茶な事したいじゃないっすか」

「それで破茶滅茶なことをやったら、進路に影響があるのだけど」

 

 確かに、夜凪百合子は三年生。今年で高校を去ることになるが、仲が良いなら別に夜凪百合子が進学しようと就職しようと変わらず遊べるだろう。

 

「それでも、色々思い出は作っておきたいじゃないですか。ねっ、宵崎先輩」

「……」

 

 なぜ私に振る。

 

「……色々経験をする、ことは良い」

 

 ……まあ、これも高等学校という組織に属している時の思い出という物で記憶されるんだろう。

 

「……どうであれ、思い出を作るのは、いい。んじゃない」

 

 私は参加しないけど。

 

「…………あなたがそう言うなら、参加も検討します。が、計画書をもらえる? やるなら徹底的によ」

「もちろんっすよ。計画とか予定しているスケジュールはメッセージで共有しますね」

 

 ──ピロンッ♪ 

 

 …………私の方にも共有が来た。これ、私も参加することになってないか? 

 

「……悪くはないわね。けど、私はバイトもあるし。練習に出られる日は限られるけど」

「そこはほら。宵崎先輩ならなんとか出来るんじゃないっすか」

「…………私が?」

 

 私に出来る事などなにもないが。

 

「宵崎先輩は楽器も歌も出来るって滝沢先生が言ってたので、夜凪先輩は宵崎先輩に教えて貰えば良いんすよ」

 

 滝沢秀昭。私が教えるのが下手だと知ってくせに、なぜそれを汐田美憂に話したんだ。

 

「…………私、教えるの下手」

「……役割がボーカルなのだけど、歌は得意じゃないわ」

「それはほら、宵崎先輩が頑張って教えてあげれば。なんなら、あたし達みんなでカラオケ行って練習したりするのもありかなーっと」

 

 カラオケか。……このメンバーでは行きたくないな。生身で人前に立って歌うのあまり好きじゃない。

 

 どれどれ、割り振りは……

 

 ギターボーカル、夜凪百合子

 エレキギター、汐田美憂

 エレキベース、赤崎和

 キーボード、青山美音子

 ドラム、黒木美琴

 補助、宵崎玲音

 

 補助? 

 

「……でも、宵崎さんが私に教える暇があるのかしら」

「そこは宵崎先輩次第ですね。でも、木曜日はほぼ確実に空いてるって聞いたことがあるっす」

 

 確かに、木曜日なら空いているには空いている。でも、木曜日って、私。喫茶店でコーヒー飲んでるか、絵を描いたりしているか、倉庫の整理か作品作りをしているから別に暇というわけではない。

 

「…………汐田美優。補助って、なに?」

「滝沢先生が、『困ったら宵崎を頼れ』って言ってたので、宵崎先輩は困った時にヘルプに入るのが仕事っす」

「……楽器、教えるの?」

「出来ればお願いしたいっす。滝沢先生も手伝ってはくれるみたいなんすけど、人手が多くて困ることはないので」

 

 滝沢秀昭も楽器を教えるのか。なら、私の出番は無いと思うんだけど。滝沢秀昭も楽器の演奏出来るし、私より教えるのが得意なはずだ。教職に就いてるわけだし、私よりは出来るだろう。

 

「わかった。出来る限り協力するわ」

「やったー! 夜凪先輩、ありがとうございます」

「……まあ、最後の年ぐらい。ね」

 

 机に身を乗り出して夜凪百合子の手を取り、手をブンブンと振る。仲良いいね。二人とも。

 

「……宵崎さん。手伝ってもらえますか?」

「…………時間があれば、可能な範囲で。請け負う」

「やった! 宵崎先輩、ありがとうございます」

 

 ……本当に嬉しそうだ。空元気とかじゃなくて、実際に気分が上がっているんだろう。

 

「よしっ! じゃあ、叔父さんに知らせてくるっす。あかっち、あおっち、くろっち。一緒に行こう」

「はいはい。じゃあ、先輩方、先に失礼します」

「俺も、先失礼します」

「失礼します」

 

 汐田美優率いる1年組は滝沢秀昭の元へ行くらしい。元気そうに部室から出ていった。

 

 小さく手を振って見送る夜凪百合子がため息を吐いた。

 

「……安請け合いしちゃったかしら」

「…………甘い、ね。夜凪百合子」

「……お互い様だと思いますよ」

 

 まあ、それもそうか。私も引き受けちゃったし。

 

「……どう、しようか」

「……どうしようも、なにしようも。やるからにはやり遂げますよ。……私の、可愛い後輩ですから」

「……そう」

 

 別に、やる気はないんだけどね。ちょっと楽器を教えたりする程度ならいいか。

 

「……みんな、出てった。どうする?」

「……そうですね。特に今日は予定はありませんし……これからお爺さんの所にでも行きましょうかね。宵崎さんもご一緒にどうですか」

「……行く」

 

 私も特に予定ないし、私も喫茶店に行こう。濃いめのエスプレッソが飲みたい気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へー、そんなことがあったんだ」

「……ん。今年は大変そう」

 

 夏休み明けぐらいから日課になりつつある。セカイでただミク(⬛︎⬛︎)と話したり、ミク(⬛︎⬛︎)と遊んだりする時間。

 意外とこの時間が好きで、寝る前にセカイに訪れて絵を描いたり、遊んでいる時にそのまま薬が効いてきて寝落ちする。

 この間は余計なことを考えることも、過去を思い出すことも減っているから精神的によろしい。

 

 私が寝落ちすればミク(⬛︎⬛︎)が私をベッドに戻してくれるし、決まった時間に起こしてくれる。助けられてばかりだ。

 

「去年は、2日前から準備を手伝って。ぶっつけ本番で舞台で歌ったぐらいだからねー。今回はガッツリ手伝って、舞台に立つかもしれないんでしょ? 大丈夫? 体とか、精神面はさ」

「……わからない。でも、体力は、問題ない」

 

 これでも体力はある方だから。

 

ミク(ボク)は聞くことぐらいしか出来ないけど、困ったらいいなよ」

「……そうする。チェック」

「そうしてくれ。チェック」

「……チェック」

「あ、やっちゃったか。降参、ミク(ボク)の負けだ」

「……もう一局」

「はいはい。じゃ、並べようか」

 

 今日は二人でチェスをしている。チェス盤も駒も全てセカイ内で自作した物だから、セカイから持ち出せないし、現状だと暁山瑞希かミク(⬛︎⬛︎)としか対局することが出来ない。

 

 作ることに集中していたのもあり、中々造形にこだわった駒だ。いずれ、現実の方でも作りたい。

 

 駒を整理して盤上に並べる。チェスや将棋、囲碁、リバーシなどはあまりやってこなかった分、そこまで強くない。でも、それはミク(⬛︎⬛︎)も私も同じだ。初めてのことをやるのは好きだ。そして、あれこれ考えるのも楽しい。

 ……今度、戦略シュミレーションゲームでもやってみようかな。

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)

「なに?」

「……ミク(⬛︎⬛︎)は、楽しい?」

「もちろん。ミク(ボク)⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)の遊べて楽しいよ。負けたらちょっと悔しいけどね」

「……そう」

 

 そっか。……負けたら悔しい、ね。

 

「……負けても、楽しい?」

「さっきも言ったけど、ミク(ボク)⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)と遊べてる今、この瞬間がとても楽しい。だから、負けても勝っても楽しいよ」

 

「まあ、勝ってたらもっと楽しいってだけだよ」……そうか。なら、

 

「おっと、手を抜くのは無しだよ。譲られた勝利より、自分で掴み取りたいからさ」

「…………わかった」

 

 私と真面目にやって勝ちたいらしい。仕方がない。少し眠たくなってきたけど真面目にやろう。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 ………………。

 

 

 …………………………。

 

「薬が効いてきてるみたいだね。そろそろ眠るかい?」

 

 頭が、働かない。

 眠れるのは良いけど、やっぱり。この感覚は慣れない。不快だ、な。

 

「眠って良いよ。この対局の続きも、次でいい。今は、まだ次があるから」

 

 ゆっくりと抱き寄せられる。少し柔らかくて、不思議なミク(⬛︎⬛︎)の体。

 人肌より少し暖かくて、寒くなってきたこの時期は少しありがたい。

 

「おやすみ、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(玲音)。また明日」

「……おやすみ、⬛︎⬛︎」

 

 冷たい水底に沈むような、落ちていくような感覚と共に。私は重くなった瞼を閉じた。

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