深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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失踪気味だった作者です。
失踪してないよ。





どうしてこんな目に

 

 

 寒くなってきた昨今。勉強をしている朝比奈まふゆと、学校への提出課題に頭を悩ませる姉さんの様子を時々伺いながら、私は焼きプリンが食べたい気分だったので作っている。

 

「……そう言えば、玲音」

「……?」

 

 勉強中に話しかけてくるなんて珍しい。わからないところでもあったのだろうか。

 

「……文化祭でメイド喫茶をやるって本当?」

「……ん。本当」

 

 私はキッチンの予定だから、メイド服を着る予定はないけどね。

 

「そういえば、絵名のクラスはイカ焼きを売るんだって」

「……そう、なの?」

 

 東雲絵名のところはイカ焼きを売るらしい。……知って何かある知識ではないけど。

 

「……私と奏も、神高の文化祭に行こうと思ってる。だから、玲音も一緒に回らない?」

「……回れたら、回りたい」

 

 今年の文化祭は何かと忙しい。文芸部がやるバンドもあるし、私はメイド喫茶のキッチンにいるだろう。確か、今回は神代類と天馬司から、文化祭の出し物でやる舞台の音響のチェックもしなきゃいけないし、……おかしいな。予定が結構入っている。こんなに忙しくなる予定はなかったんだけど……

 

「難しそう?」

「……」

 

 どうしよう。思ったより色々詰め込まれてる。今年はどうも忙しいらしい。

 

「……頑張れば、一緒に回れると思う」

 

 神代類達の出し物の音響確認。クラスの出し物のシフトを終わらせて、文芸部の後輩達と夜凪百合子のバンドの最終調整と。放送部の校内ラジオのゲスト参加と、……うん。なんとかなりそうだ。

 

「……ん。なんとかなる」

「無理はしないでね」

「……ん。大丈夫」

 

 無理はしないで欲しいというけど、無理してでも私は姉さん達と回りたい。

 あまりこういう機会はないんだから。

 

「本当に無理だけはしないでね」

「………………ん」

 

 無理しない方が無理そう。

 

 生地はこんな感じでいいか。あとは、オーブンで焼いて。トッピング用のホイップを作って、焼けたやつに飾れば完成だ。あっ、

 

「……ホイップ買うの忘れてた」

 

 ホイップクリームを切らしていたのを忘れていた。……こういう、たまにトッピング用の何かしらを忘れているのだけなんとかならないものか。

 外は暗くなってるし、気温も下がってるだろうからあまり買い物に行きたくないけど。やるなら飾りつけしたいんだよね。

 

「……買い物、行ってくる。欲しいものある?」

「ゲキトマトラーメンがほしい」

「……私は大丈夫。何もいらない」

「……わかった」

 

 姉さんには、カップ麺。朝比奈まふゆは何もいらないと言っていたけど、紅茶かコーヒー、エナジードリンクとかでいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文化祭当日。

 遅刻しないよう早めに家を出て教室に入り、調理の方に引き篭ろうとしていた時。

 私は女子生徒数名に捕まってホールに引っ張り出され。……メイド服を渡された。

 

「うん。よく似合ってるよ!」

「あら可愛い。妬けちゃうわー」

「……」

 

 何故私がメイド服を着ることになったんだ。

 

「仕方ないじゃん。清見さんと尾崎くん風邪で休んじゃったんだから」

「……」

 

 だからって、私である必要あるのか? ないでしょ。

 

「……着替えてくる」

「あっ、ダメだって。美律子、宵崎さん捕まえて!」

「あいさー」

「……離して」

「だから、人手足りてないからお願い! 余裕あれば早めに上がっても良いから」

「宵崎って、喫茶店でバイトしてるんでしょ。こんな文化祭程度ならキッチンもホールも簡単だからー」

「……」

 

 去年、それで大変だったんだけど。男子はサボるし、そのサボる男子に怒るだけであまり動かない女子。結局、私と数名の生徒で回すことになった。

 滝沢秀昭が変わってくれなければ、私は暇になるまで教室にこもっていたことだろう。

 

 それに、指名制度とか言うなんのためにあるのかわからないシステムも導入されているこのメイド喫茶。指名すると、その指名した人物が配膳とサービス、写真撮影とちょっとしたゲームをすることになる。

 

 ホールに出るとは、そうなる可能性を考えなければならない。そして、私は写真撮影もちょっとしたゲームもしたくない。何故私がわざわざやらなきゃいけないんだ。

 もちろん強制力はない。ホール担当の任意だけど、……なんか、勝負してるらしいんだよね。クラス内で、誰が一番人気だったかって。

 

「……指名は」

「指名は受けなくてもいけど、ランキングは取るよ? 一応、クラス全員名前を掲げられてるし」

 

 いつホールだけから、クラス全体のランキングになったんだ。聞いてないぞ。

 

「見事上位三名には、打ち上げでカラオケが奢られる権利があるのに」

 

 それやって良いのか? と言うか、学級全員でカラオケに行くつもりなのか。それとも、上位陣でカラオケ行ってこいってことなのか。誰得だよ。

 

「……着替える」

「ダメ」

「からのー?」

「……着替える」

「ダーメーでーすー。いつもノリ悪いんだから、今回ぐらい付き合いなさいよ! 女装なんて普段からしてるんだから良いでしょ!」

 

 別に女装はしていない。好きな服を着て、嫌いな服を着ていないだけだ。

 

「とにかく! 宣伝も兼ねてお願い! ホールに居なくても着て欲しい! なんなら、非番でもそれ着てて欲しい!」

「……」

 

 ロングのワンピースなんて滅多に着ないから脱ぎにくい。……仕方がない。とりあえず、抵抗するのはやめよう。

 

「諦めてくれた?」

「観念した?」

「……」

「あっ、ちょっとどこ行くのさ」

「……三年に呼ばれてる。急ぎ」

 

 神代類と天馬司の学級に行かないと。音響設定の手伝いをしなきゃいけないから。

 着替えは……持たなくても良いか。手荷物増えるの嫌だし。

 

 教室から出て、駆け足で行きたいところだけどスカートが長い。邪魔だ。

 

「玲音だ。おはよう」

「? ……瑞希、おはよう」

 

 暁山瑞希だ。今日は朝からいるんだ。

 

「玲音。それって、クラスTシャツ?」

「……違う。着せられたメイド服」

「ふーん。聞いた時から想像はしてみてたけど、やっぱり似合うよね」

「……似合う?」

 

 本当に似合っているのか? 

 

「うん。よく似合ってる。玲音の落ち着いた雰囲気と合ってて良いと思うよ。新米のクールメイドって感じで。玲音は元がいいからね」

「……そう」

 

 そうか。似合ってるなら良いか。

 

「しばらく着てるの?」

「……そうする」

 

 似合ってるなら着ておこう。指名は受けないつもりだし。

 それはそうと、神代類の元へ行かなければ。

 

「……類と司に呼ばれてるから。行ってくる」

「いってらっしゃい」

 

 似合ってるか。……姉さんも似合ってるって、言ってくれるかな。

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