深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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どうしてこんな目に(2)

 

 

 背筋を伸ばし、胸を張り、顎を引く。

 両手をへそのあたりで重ねてその場で姿勢正しく直立する。

 

「おかえりなさいませご主人様。席は空いておりますので、ご自由にお掛けください」

「あっ、ハイ」

「気になること。ご不明な点がございましたら、ホールにいる者へどうぞ」

 

 何故私がこんなことを。

 

「宵崎さんじゃん。可愛いメイドさんになって、ウケる」

「でも、いつも女物の服着てるから何とも思ってないでしょ?」

「……冷やかしでございますか?」

 

 私をジロジロみてくる去年の級友の女子。関わることもなかったから名前すら知らない二人。

 

「違うよ。ちゃんと入るから怒らないでよ、ね?」

「左様でございますか。では、どうぞお入りください」

 

 中に通して自分も入る。頼まれた通り数名入れたし、文句はないでしょう。

 調理場に戻りましょうか。注目を集められるのはどうも苦手です。画面越しに何人居ようと気になることはないのですが……。視線は、どうも苦手です。

 

「おー、おかえり。焼くの変わってくれー」

「……」

「全部宵崎さんに押し付けようとしないの。ほら、自分でやって」

「宵崎の方が上手く出来るんだからいいじゃんかよ」

 

 調理場にいる男子生徒はサボりたいのか私にパンケーキを焼くのを頼む。しかし、近くにいた女子生徒がそれを阻止して返す。

 

「……私が変わりましょう」

「やったぜ」

「あっ、宵崎さんはホールに」

 

 私はホールに立ちたくありませんから。

 

「でも、メイド服」

「……好きで着てはいません。制服が濡れてしまったから仕方がなく着ているだけです」

「そうかもしれないけど。ほら、調理場は汚れちゃうから」

「それを防ぐためのエプロンです。……それに、このメイド服に関しては私の私物。多少汚れてもこのクラスには関係のないこと」

 

 このメイド服は、緊急で足りないから持ってきてとか言う無茶振りを受けて、わざわざ夜中に倉庫まで取りに行ったもの。私と近しい体格の人なんて女子なら割といるし、貸すんだと思っていたのですが……。

 まさか、私が着ることになるとは。というか、どこで私がメイド服を持ってるなんて知ったんでしょうか。

 

 私の着て来た制服。なんと、私のいない準備中に転んでウーロン茶がかかってしまい、べちゃべちゃになってしまったらしい。

 今日は運がないようで、私は悲しく思います。

 

 ですが、暁山瑞希さまや神代類さま、天馬司さまと夜凪百合子さま。四名に、大変よく似合っていると言ってもらえたので仕方がなく着ているだけこのと。

 

「そうかもしれないけどさ」

「……調理場で私語はお慎みください。話すのであれば、マスクを着用してくださいませ。飛沫が材料にかかってしまいますから」

 

 衛生管理はちゃんとしないと学校としても問題になるだろうし、お客様(ご主人様)達も他人の唾液が混入したものを食べるのは嫌でしょうから。

 

「マスクを持ってないのであれば、私のをあげますので、カバンから持っていってください」

 

 男子生徒からエプロンを受け取ってメイド服の上から着て、帯を縛る。

 

 気分を悪くしたのか女子生徒は調理場から出ていってしまいました。

 ……おや、あなたは出て行かないので? 

 

「宵崎。持ってるんだろ?」

「……何をでございましょう」

「ほら、去年はクッキー持ってただろ? 今年も持って来てるんだろ?」

 

 去年。……ああ、級友に取られたクッキー。そういえば、他学級だったあなたも混じって食べてましたね。

 

「ええ、持って居ますが」

「マジ? 食べたいからくれない?」

「構いませんよ。私のカバンの中に入っているので、取り出してお食べください。しかし、加減はするようにお願いします」

 

 予備を文芸部の部室に置いてありますが、加減はして食べてください。

 

「うーい」

 

 本当に加減してくださいね。食べたくて作って来ているのですから。

 

「……紅茶はお飲みになりますか?」

「淹れてくれんの?」

「注文のついでです」

「あざーす」

 

 まあ、私一人でやる方が自分のペースでできるので。そこで大人しくして居てください。

 

「オーダー入りまーす。二番テーブルでホットケーキ二つとアップルティー二つ」

「かしこまりました。お寛ぎのところ申し訳ありませんが、注文票の管理をお願いしてもよろしいですか?」

「りょーかい。佐々木、俺のところに注文票持って来てくれー」

 

 さて、始めましょう。あまり待たせると、お客様の回転が悪くなりますし。そうなると不満も溜まるもの。

 フライパンを温め、材料を混ぜて焼く。焼いている間にアップルティーを淹れて配膳させる。

 

「宵崎さーん。指名!」

「私は指名を受け付けません。そして、今は手が離せないので無理です」

「滝沢が指名してるよ」

「こんなところで油を売ってないで見回りをしてなさいとお伝えください。田沼さま、滝沢秀昭様にクッキーを数枚ほど分けに行って、追い出してください」

「りょーかい。でも、いいのか? 注文入ってもまとめるやつ居なくなるぞ」

「早めに戻って来てください」

「うーい」

 

 調理場の男子生徒、田沼幸雄さまに滝沢秀昭様を追い出すように頼み、私は注文を捌く。

 ホールの方から、何やら聞こえましたが気にしません。どうせ、滝沢秀昭様が文句を言っているだけでしょうから。

 それに、本当に私に用事があるなら調理場の窓から直接声をかけてくるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。交代の時間だよ」

「うーい。お疲れー、っても。俺何もしてないけど」

「宵崎は20分ぐらい抜けるんだろ? 放送部のゲストで」

「…………はい。予定ではそうなっていますね」

「一緒に話すの白瀬ちゃんだろ? いいなー、変わってくれよ」

 

 ゲストで呼ばれた理由は神高の有名生徒の変人枠なんですけどね。全くもって不名誉です。私は誰の迷惑にもならない範囲で好きなことをしているだけなのですが。

 

「あなたも神高三大変人になりますか? 変わりますよ」

「天馬先輩と神代先輩と一緒にされたくないからやっぱいいや」

 

 まあ、変わると言ってもそう簡単に変わって差し上げる気はありませんがね。

 

 ああ、二時間近くもこのままだと流石に頭が痛くなって来ましたね。飲んでおきましょう。

 ……おや? おかしいですね。入れてきたはずなのですが。

 

「すみません。私のカバンの中にあったポーチを知りませんか?」

「いんや? 見てないな。なんか、大事なもんだったか?」

「はい。痛み止めが入っているので。カバンの中にしまっていたはずなのですが」

 

 田沼さまが知らないとなると、私が持ってき忘れたのか。……いえ、私に限ってあり得ません。確かに、今朝姉さんから手渡されてカバンの中に入れて、中身も確認しました。となると………………いけません。誰かが盗んだなど、今の私の思考には不要なもの。

 

「どっか具合悪いのか?」

「いえ、お気遣いなく。頭痛持ちですので、そろそろ飲んでおこうと考えていただけです。無くても問題ありませんから」

「ならいいんだけどよ。体調きついなら休めよー」

 

 あのポーチの中にはフラッシュバックの時の頓服も入っているのですが……ないとなると仕方がありませんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 校内放送。

 いつもならお昼と放課後に少しの間流れるラジオ番組のようなノリで行われている、放送部が自主的に行なっている活動。

 そして、今日は文化祭ということもあって文化祭終了まで、放送部の部員達が交代でパーソナリティを勤めるというもの。

 

 たまにではあるけど、私も配信を。ただ話し続けるということをしている身。

 テンションは上がらないしやる気も出ないけど、放送事故は避けたいところ。

 しかし、メイドロールをしながら話すわけにも行かないので、ブラックの缶コーヒーを一気飲みし、配信をしている時のテンションで放送室に入り、軽く打ち合わせをして放送が始まった。

 

「さあさあ、放送部のぐだぐだ校内放送第二部のお時間です。二部を担当するのは放送部二年の白瀬でございます。今日は神高スペシャルということで、神高三大変人の一人、芸術担当がゲストに来ています。はーい、先輩どーん」

「こんにちは。不名誉なゲスト枠で呼ばれた宵崎玲音です」

「不名誉とはなんですか。宵崎先輩は不名誉な渾名がつけられてるだけで、現在の在校生指折りの才人の一人なんですよ。そっちがあまり有名じゃないだけで」

 

 それは初耳だ。まあ、そっちが有名じゃないなら私が知る由もないか。

 

「まあ、残りの変人お二方も校外活動で有名な方々ではありますけどね」

 

 神代類と天馬司の二人は、ワンダーランズ×ショウタイムとしての活動がある。

 そんな二人に比べれば私の活動なんて日に出ることの方が少ないし、知っているのも一部の教師ぐらいだ。

 

「宵崎先輩は、お二人と仲が良いと聞きます。出会いはどこで?」

「去年の春終わり頃、友人を通じて神代類と出会って、そこから天馬司と知り合いました」

「ほう。それから交流が始まったと」

「はい」

 

 

 

 それから神代類と天馬司に関する質問に答え、放送部が事前に集めていた質問がされる。

 好きな食べ物は何だ。得意な科目はなんだ。苦手なことは何だ。なぜ留年したのだ等、特に変な質問はなかった。

 

「これは、恋愛の質問になるんですが。宵崎先輩って、そのミステリアスな風貌から男子女子、校内外問わずよくおモテになると聞いていますが、恋人は作らないのですか?」

「……恋人、ね」

 

 恋人。恋人。……。

 

「? どうしました?」

「…………作りませんよ。必要ありませんから」

 

 鹿野ちゃんへの裏切りになってしまいそうだから。

 

 それに……

 

「そうですかー。いやー残念。っと、そろそろお時間ですね。ではこれで最後の質問にしましょう。神高祭、楽しいですか?」

「どうでしょうか。私は、私なりに楽しんでますよ」

「無難な回答ありがとうございます。では、宵崎先輩ありがとうございましたー。さいならー」

 

 さっとマイクが切られ、次のゲストと入れ替わる。こんな進行でいいとかと問いたくなるけど、ぐだぐだとゆるっとやってるものなので問題ないんだろう。

 

 ……さて、私は教室に戻って三十分は働かないと。これが終われば自由の身だ。姉さんと回れる。

 

 

 

 







どうしてこんな目に……、運がないですね。
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