放送室から足早で教室に戻る。
食事時はもう過ぎているからあまり混雑はしていないでしょう。忙しくならないことを祈るばかりです。
「おや、これからお食事ですか。お嬢さまがた」
教室の前で張り出されているメニューを見ている見知った四人組。
「玲音だ。今朝ぶりだね」
「来たよ」
姉さん達が来ました。
「どうぞ中へ。立っていては疲れてしまうでしょう。中には椅子がございますので、座って決めてはいかがですか?」
「玲音も来たしそうしましょ。指名制度あるんでしょ?」
「ございますよ。ひとまず、席について私をご指名ください」
「……そうする。案内して、メイドさん」
「かしこまりました。お嬢さま」
四名様ご案内致します。
教室に入ると一瞬、視線が私の方に集まり顔を背ける。……あまり歓迎はされていないようで。
「宵崎さんおかえりー。お客さん連れてきたの?」
「はい。忙しい時間帯お疲れ様です。残り三十分は私が一人で回しますので、先にお休みください」
「いいの?」
「はい。構いませんよ」
歓迎していないうえ、居るだけで何もしないなら初めからいない方が私が動きやすいので。
幸い、姉さん達以外に人は入っていませんし問題ありません。
「マジ? 助かるわー」
「じゃ、おつかれー」
「おい、渡部。似鳥、本気か?」
「だって宵崎が一人でやるっていうし」
「ウチらが居ても邪魔見たいだし、天才様なら一人で大丈夫でしょ」
「あっ、待てよ。おい! ……本当に行っちまったよ」
行ってくれましたか。
「田沼さまも、先に休憩しても良いのですよ」
「いや、暇だからいいよ。どうせ回る場所も、回りたい場所もねえし。どうせなら宵崎、紅茶淹れてくれよ」
「一杯百円でございます」
「金取るのかよ……」
「ついでで淹れるモノと、注文は違いますから」
「わかったよ。じゃあ、俺も客席いるから淹れてくれー」
「かしこまりました。お嬢さま方も、好きな席にお座りください」
? なぜ皆さま複雑そうなお顔をしていらっしゃるのでしょうか。
「東雲絵名お嬢さま、どうかされましたか?」
「……あんた、ムカつかないの」
「? 問いの意味がわかりませんが。はい。何か気に触れることをされた覚えはありません」
「っ! だって、あの女子生徒は──」
……ああ、あの二人のことで怒っているのですね。
「……絵名、ストップ」
「落ち着きください。東雲絵名お嬢さま」
何を怒っているの思えば、あの態度で怒っていたのですね。……そうですか、あの程度で怒っても良いラインなのですね。
「お詫びに一品奢りますから、お怒りを鎮めていただけると助かります」
「何であんたに──「絵名、落ち着いて」。……わかったわよ」
「……玲音。とりあえず甘いモノが欲しいな」
「かしこまりました、我が主」
「……言動は玲音とは程遠いのに、ブレないね」
当たり前です。私の
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「かしこまりました。では、準備して参りますので少々お待ちください」
「あまり急がなくても良いからね」
玲音は一礼して去っていった。
「何なのアイツら、ムカつく」
「わかるけどさ。だからって玲音に当たらなくても」
「玲音は気にしなさすぎよ。いつもあんな感じなの? 瑞希、その辺何か知らないの?」
「ボクはクラス違うし、去年はそんなことなかったんだけどね」
玲音、学校でいじめられてるのかな。
「……」
「まふゆ、どうかしたの?」
「……何でもない」
──喜怒哀楽は、基本的に感じられない。感情の発露も基本ない。共感も……出来ない。
──私はいい。もう、戻れないところにいるから。
……感情の希薄化が進み過ぎて、わからなくなったんだ。絵名が何で怒ったのかも。あの人たちの悪意も。
「失礼します。お飲み物をお持ちいたしました」
「ありがとう」
「……パンケーキはもう少しかかりますのでお待ちください」
前髪が退けられていて、珍しく顔が見えるはずなのに、感情の感じられない所作で一礼して調理場へ戻っていく。
どこまでも機械的で、何かを真似している。演技とは違う、自分はそうあるモノとして振る舞っている。
「いってらっしゃい。玲音」
……玲音は苦しくないのかな。
「不思議なやつだよな。あんたら、宵崎の友達だろ」
少し離れた席にいる玲音と少し話していた男子生徒。玲音の持ってきた紅茶をチビチビ飲みながら私たちの方へ声をかけてくる。
「田沼はクラス一緒なんだっけ」
「おう、関わりはそこまでないけどな」
「瑞希は知り合い?」
「補講でたまに会うからね」
「俺は頭良くないから、赤点取って補講受けなきゃいけなくなることが多くてな。暁山は学校来ないだけで頭はいいんだからもったいない」
瑞希と親しいわけではない。しかし、知らない仲でもないらしい。
「田沼。玲音って、いつもあんな感じなの?」
「あんな感じってのは、あれか? 渡部とか似鳥に雑に扱われてたやつか」
「そうだよ」
「うーむ。俺も学校あんまり来ないからわからんし、宵崎もたまにしか来ないからどんな感じかは把握しきれてないけど。……一部の奴らから恨みは買ってるみたいみたいだな」
男子生徒。田沼さん曰く、玲音は性別問わずモテるらしい。……さっきの放送でも言ってたけど、本人は恋人というものを作る気はないと言っていた。
公言してもそういう関係になりたいという人間が多数いるんだろう。
「まあわかるぜ。宵崎って何でもできるもんな。絵も描けて、書く小説も面白いし。料理も美味いし、運動もできる、何より顔がいい」
「不思議と視線が行っちまうんだ。面白いやつだよな」彼はそう言って紅茶を飲む。
「玲音は、あなたが言うよりも不器用だよ」
「仲が良いと、そう言うところも見えるんだろうなー。まあ、俺には無理だ。あいつは、今しか俺のことを呼ばないだろうし。次学校で会っても関わることなんて基本ないからな」
「ま、どうでも良いけど。宵崎ー、百円置いてくぞー」彼は席を立って教室を出ていった。
関わり合いがなさ過ぎてクラスメイトからも基本無関心なんだ。
「お待たせいたしました。パンケーキ四つとプリンです」
「持ってくるもの間違えてない?」
「間違えていません。強いて言うならば、私の手元が狂ってしまっただけでございます」
「……大きくない?」
「気のせいでございます」
「かなり可愛く盛り付けされてるけど、これが標準?」
「手元が狂ってしまいましたので、そのお詫びでございます」
玲音が運んできたパンケーキは、パンケーキが一枚だけの写真とは違って、明らかに厚さの違うパンケーキが二段になって、ホイップクリームで飾り付けされている。
プリンもカップで出されるはずのものが皿に移されていて、どこから持ってきたのかサクランボが飾られている。これが標準だとするなら、写真詐欺だ。
「玲音」
「何でしょうか我が主人」
「勝手なことをしたらダメでしょ」
「……はい」
見てわかるほど落ち込んだ。
やっぱり、奏には弱いし。いつもよりも人間らしく見える。
「でも、ありがとう」
「……! どうぞ、ごゆっくりお召し上がりください」
少し目元が優しくなるけど、スッといつもの無機質なモノに戻る。
「玲音も食べる?」
「いえ、私は特別空腹というわけでもありませんし。つまみながら調理をしているので大丈夫です」
「そっか」
「あと三十分ほどで私は稼働終了ですから。それまでお待ちください」
玲音は一礼して教室の入口の方へと歩いていった。
「……まふゆ、どうしたの?」
「…………なんでもない」
ヒビの入ったガラス細工。何かのきっかけですぐに壊れてしまいそうな。何が起因で砕けてしまうかわからない。そんな危うさが今の玲音から感じられた。
「玲音も一緒に食べようよ」
「あと、三十分はお待ちください」
……何かを我慢している。聞いても教えてくれなさそうだけど。
「……玲音、どこか痛むの?」
「……もう少しすれば良くなりますから。お気遣いなく」
踏み込んでくるな。そう言われている気がした。