深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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どうしてこんな目に(4)

 

 

 2-C教室前。

 教室前では姉さん達が私を待ってくれている。

 

「……お待たせ」

「お疲れ様」

「……ん」

 

 あー、姉さんだー。頭痛が治るー。と言いたいけど、痛い。……本当に、どこにいったんだろうか。私の薬入れ。

 

「……姉さん。私の薬入れ」

「持ってき忘れたの?」

「……多分」

「……カバンに入れてなかったっけ」

「……入れてた筈、だけど。ない」

「そっか。忘れてたら大変だからと思って、持ってきててよかった。はい」

「…………ありがとう」

 

 姉さんが予備で持ってきていたらしい。ありがたい。

 

「長いことメイドさんになるからだよ」

「……ごめんなさい」

「ちゃんと加減はしなきゃダメだよ」

「……今後、気をつける」

 

 気をつけるとは言っても、自分の作品の設定を模倣するのはもう癖みたいなものだ。衣装を着て、そう振る舞えば気がつけば模倣している。

 時間が延びれば伸びるほど自力で抜け出せなくなって、外部からの刺激で元に戻る。

 

 カバンから水を取り出して薬を服用すれば、あとは薬が効くまで安静にしていれば良い。

 

「……行きたい場所、ある?」

「玲音はないの?」

「……ん」

「そういえば、玲音の入ってる部活でバンドやるって聞いたけど。玲音は出ないの?」

「……ん」

 

 ……そういえば、あと10分ぐらいで出演時間だったね。

 

「……あと10分で、出番だったはず。見に行く?」

「行ってみようかな。普段、玲音がお世話になってる人も見てみたいし」

「玲音が楽器を少し教えたんだっけ?」

「……ん。でも、大半は、滝沢秀昭」

「滝沢先生って楽器できるのね」

「意外だよねー」

「……大学生の時、ロック。やってたらしい」

 

 今でも気分が乗れば楽器を触るって言ってたし、私も滝沢秀昭の楽器をみたことがある。まめに手入れがされてあって様で綺麗だった。

 

 ……そういえば、ロックやるのにいろんな楽器を触る必要あったのか? まさか、1人でバンドやっていたなんてことがあるんだろうか。

 

「行こう、玲音」

「置いてかれちゃうよ」

「……メイド服、慣れなくて歩きにくい。少し、待って」

 

 制服に着替えたい。生徒指導室に行けば借りられるかな。

 

「そういえば、着替えないの?」

「……制服びちゃびちゃになった」

「どうして濡れるのよ」

「……飲み物、制服に溢しちゃった、らしい」

「あんた、怒ってもいいと思うわよ」

「……?」コテッ? 

 

 何に起こればいいんだ。怒ってしまったもの、やってしまったものは仕方がない。溢してしまったらしい女子生徒も謝ってきたし、私がそれを詰める必要はないだろう。

 

「……」

「……朝比奈まふゆ、どうしたの?」

「……なんでもない」

 

 なんでもないなら、なんで私の方を見るんですかね。衣装が乱れてたりするのかな。

 ……それとも、本当は似合っていない? 

 

「……朝比奈まふゆ」

「……なに」

「……私、似合ってない?」

「……着ていて違和感がないから困る」

「……そう」

 

 似合ってないわけじゃないならよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育館へ移動し、文芸部の番を待っていた時のこと。

 

「宵崎、今いいか?」

「……? 滝沢秀昭」

 

 姉さんたちと舞台の方を見ていると、後ろから滝沢秀昭に声をかけられた。

 

「滝沢先生だ。久しぶり」

「おう。東雲姉も暁山も久しぶりだな。宵崎、お前は先生をつけろ。見ないやつは、お前ら共通の友達か」

「初めまして、朝比奈まふゆです」

「おう、滝沢秀昭だ。宵崎が迷惑かけてるなら言ってくれ。コイツの扱いは得意だ」

「……滝沢秀昭、存在が迷惑」

「お、暴言か? みっともなく泣くぞ、大の大人が」

 

 なぜ私が迷惑をかけている前提なんだ。私は迷惑をかけて……かけていないはずだ。たぶん。

 

「玲音くんが迷惑だなんてそんな。いつも助けられてますよ」

「……そうか。宵崎が人助けか」

 

 なぜ私を見る。別にいいでしょ。手を貸すぐらい。

 

「あの1人で周りを寄せ付けなかった宵崎がなぁ。……俺は一教師としてお前の成長が喜ばしいよ」

「……そう」

「まあ、茶番はこんなもんにして」

 

 茶番か。滝沢秀昭が嬉し泣きしても困るけどさ。

 

「夜凪が探してたぞ。舞台裏まで来てくれって」

「……えぇ」

 

 私知ってるぞ。これは、滝沢秀昭の入れ知恵で私は舞台に立たされることになるやつだ。

 

「……私は、参加しない」

「おう、そうか。そいつは残念だ。だか、要件は別なんだよ。俺は呼んでくるように言われただけだ」

「……そう。ちょっと、行ってくる」

「いってらっしゃい。玲音」

「……ん」

 

 さて……。あまりいい予感はしないけど、行ってきましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「滝沢さん」

「なんだ」

「……玲音は、学校を楽しめてる?」

「楽しんではいるみたいだぞ。俺に愚痴を言いにくるぐらいには」

「……そうですか」

 

 玲音か舞台の方へと行って、少しすると文芸部の人たちが舞台に上がっている。そして、その中に渋々と言った感じで玲音がエレキギターを持っている。

 

「滝沢さん、玲音は浮かない?」

「あいつが立つってんなら、あいつらは実力不足だ。誰もついていけねない。それでも、玲音は立つって決めたんだろ。手首を負傷しちまった可愛い後輩のためにな」

 

『あー、あー。音量は大丈夫そうかな。文芸部兼任、新聞部の1年の汐田っす。普段は文字ばっか書いてる部活っすけど、文化祭ってことなんではっちゃけていきましょー。イェーイ』

「「「「「「「イェーイ」」」」」」」

 

「みんなノリいいね」

「ノリの良くないやつはここに来ないだろうからな」

「……」

 

『3曲だけお付き合い願うっす。1曲目は、25時、ナイトコードで。から──』

 

「私たちの曲やるのね」

「あー、そりゃ玲音も引き受けるよね」

「……私たちの曲、好きだからね」

 

 ドラムが合図を送って玲音がエレキギターを弾き始める。浮いている感じはあまりしない。最低限。基本的なコードだけで弾いている。

 表情は少し微笑んでいるように見えるけど。

 

「楽しくなさそう」

「……そう?」

「浮かないように気を張ってるのかな」

「自分がメインの演奏じゃないからだろうな。しっかし、しけた顔でエレキ弾いちゃって」

 

 楽しそうに見えるのは表面だけ。玲音の弾く楽器の音は何処か楽しくなさそうで、玲音らしさを感じられない。

 玲音の演奏は、もっと柔らかくて強い。鋭くて優しい音色だ。今みたいに硬くて弱い音色じゃない。

 

「……過剰に適応しようとしてる?」

「どういう事?」

「初心者を演じているって事?」

「……うん」

 

 なるほど。だから、その表情と余裕のなさそうな音になっているのか。……すこし、苦しそうだ。

 

「苦しくないのかな」

「苦しいよりも、大変って感じがするかな」

「ストレス溜まって爆発したりしないのがスゴイわ」

 

 大変そうだけど、大丈夫かな。元々演技が得意なのは知ってるけど、頭が痛くなるって言ってたし。もう痛み止め持ってない。

 

 1曲目が終わって、2曲目に入る。

 2曲目は今流行りの曲で、ロック系の楽曲。力強い音を求められるけど、……これでも、力強さはあっても単純なコードだけ。

 

「つまらなさそうね」

「そうだね」

 

 感情が乗るほどの音ではないけど、精一杯やってますって感じのする音。

 普段の玲音の演奏。音を知っているからか、……聞いていて苦しくなる。上手なはずなのに、それを自分から抑えてとても息苦しそうで。聞いているだけなのに、わたしが辛くなっている。

 

 玲音と。玲音の音楽が聴きたい。玲音の作品が見たい。誰かのために抑圧されたモノじゃなくて、玲音が表現するモノが聞きたい。

 

 そんなわがままを抱えているわたしは、ダメな姉なのかな。

 今の玲音を。周りと合わせて頑張っている玲音を上手く受け止められない。

 

『2曲目、ロックロックでした。最後の3曲目は──、宵崎先輩のソロっす』

「……え?」

「え?」

 

 玲音の、ソロ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぜ?」

 

 当然の疑問だろう。だって、私は汐田美優が手首を負傷してしまったから、その代わりにエレキギターを頼まれただけなんだから。

 

「いやー、熟練者なのに初心者に混じって抑えるのは大変だったと思うんで、最後はビシッとやっちゃってくださいっす。あっ。先輩のソロなんで、曲はなんでもいいっすよ」

「……」

 

 ちがう、そういう事じゃない。赤崎和、青山美音子、黒木美琴の物好きトリオも撤収するんじゃない。

 

「……ごめんなさい、宵崎さん。流石に、私もあなたのレベルには合わせられないの」

「……」

「……抑え多分、フラストレーションも溜まってるでしょ。爆発させてもいいですから」

 

 夜凪百合子もなぜ撤収する。……はぁ。仕方がない。

 好きにやっていいというなら、好きにさせてもらおう。

 

「……突然ソロが決まりました。去年もこんな感じになった宵崎です。好きにしてもいいということで、何かあっても滝沢秀昭に責任を持ってもらいます。異論は認めません」

 

 認めてたまるか。どうせ、どうせまた滝沢秀昭が裏で仕組んだんだ。……別にいいけどさ。不恰好に姉さんたちの曲を終わらせられるより、私がなんとかして終わらせたいし。

 ……頑張った後輩と夜凪百合子へのご褒美ってことでいいか。

 

「……滝沢秀昭…………先生。手伝って」

 

 逃げるなよ? 私を巻き込んだんだから手伝ってもらおうか。

 滝沢秀昭の車で、本人の作った楽曲は色々聞かせてもらったし。さあ、過去の曲を再演しよう。相方は私だけどね。

 

「来たぞ、何すればいい」

「……ベースやって」

「おう。で、なにやるんだ」

「……滝沢秀昭の曲。────この曲は、滝沢秀昭先生が大学生時代にやっていたバンドのオリジナル曲です。ご静聴、よろしくお願いいたします。ダウナー系オルタナバンド〝骸楽(がくらく)〟より、『霧雨』」

 

 ──熱の籠る夜。一人で夜景を眺めて。

 

 スローテンポから始まり、スローになって終わる。しかし、滝沢秀昭の所属していたバンドは、ある意味詐欺みたいなモノだ。

 

 エレキベースから放たれる重い音。エレキギターの静かでゆったりとした音色が一変し激しくなり始める。

 音が次第に歪み始め、声を荒げ、喉を痛めつけるようなガナリがはいり。曲全体が激しさを増していく。

 

 ダウナー系なんてはじめだけ。蓋を開ければヘビメタが飛び出してくる。まさにそんなバンドだったのだ。

 

 音を歪ませ、声を荒げ、体育館で曲を聴いている校外の人や生徒たちの鼓膜を揺らす。私の曲じゃないし、滝沢秀昭ならついてくるだろう。

 どれだけ飾りと遊びを入れても、滝沢秀昭ならそれに合わせて食いついてくる。

 

 楽しい。私は、楽しんでいる。姉さん以外との。鹿野ちゃん以外との音楽を、久しぶりに楽しんでいる。

 

 ──音楽って楽しいね。

 

 ああ、楽しいね。苦しくて、叫んでも今なら誰にもバレやしない。ああ、私は──壊れて(死んで)仕舞えばいいのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 曲の終わり頃には、曲のテンポもスローに戻り、曲も大人しさを取り戻す。

 

「………………ありがとう、ございました」

 

 曲を弾き終わって一礼した私に拍手は姉さん達ぐらいからしか来ず。目も前に広がっていたのは、なぜか疲れてバテている人か、呆気に取られている人だけだった。

 

 

 

 






どうやら、宵崎奏と滝沢先生はお知り合いの様子。何処で出会ったんですかね。


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