深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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昼と夜の気温差で風邪をひきそうな作者です。
神高文化祭。これにて終了でございます。





人はいずれ何処へゆく

 

 

「ヘビメタ歌えるんだね。喉大丈夫?」

「……ん」

 

 あー、楽しかった。私は感情の波に飲み込まれた後の観客に飲まれないよう、私は姉さんたちを連れて体育館を後にした。……汐田美優が恍惚とした顔で私を見ていたのは気のせいだろう。

 

「久しぶりに玲音が歌ってるの聴いた」

「……前は一緒に作ってたんだっけ?」

「……ん」

 

 3、4年前ぐらいはだけどね。上手く噛み合わなくて。主に私が自分を制御できないばっかりに姉さんには迷惑をかけた。いまだに制御しきれないしね。

 

「……? 東雲絵名、どうかした?」

 

 ジロジロと私を見てどうしたんだ。何か気になることでもあったのか? 

 

「あんた、絵も描けて、楽器も弾けて、歌も歌えて。聴いた話だと、そのメイド服も自分で作ったものなんでしょ。逆に何ができないのか気になってね」

「……機械は、無理」

 

 本当に、致命的なほどに。朝比奈まふゆか、姉さんに聞けばそれはそれは面白話が出てくることだろう。最近なら、スマホの画面がフリーズして危うくデータを全消しすることになりかけたり。

 パソコンのファイルの中身が消し飛んだりした。何でそうなったのかって? 姉さんと朝比奈まふゆにわからないなら、私にもわからない。ファイルの中身はミク(⬛︎⬛︎)に頼んで頑張ってもらったら元に戻って助かった。

 

「……あと、誰かと歌う。苦手」

「歌うのは上手なのに勿体無いよね」

「玲音は小さい頃から苦手だよね。誰かと合わせて歌うの」

 

 小学生。あれは6年生の時の合唱コンクール練習でのこと。どうやっても私だけ目立って女子生徒から「玲音くんちゃんとやってよ!」って言われたっけ。抑えようとすると極端に下手になっちゃうから、音楽の教師はかなり大変だったことだろう。

 制御できるものでもないので、父さんから言われた『自分が歌いたいように。楽しくなれる歌い方』をするようになった。

 抑えるのも、周りの歌声を飲み込んで歌うのも可。

 

 そんな歌い方をしていた結果、クラスメイトからは嫌われたけど、私は楽しかったよ。

 

 今なら、草薙寧々と合わせられるかな。聞いたことしかないけど、草薙寧々はかなり歌が上手いから。

 

 ──いつか、玲音が遠慮なく歌えるぐらいに。私も歌が上手になるかな。

 

 ……。上手くなって欲しかったよ。

 

「……玲音。どうしたの?」

「……なんでもない」

 

 ちょっとフラッシュバックが起こっただけだ。……だから、そうマジマジと私の顔を覗き込まないでほしい。

 

「まふゆ、どうしたの。今日、少し変よ」

「……気になることがあったから」

「気になること?」

「……うん。今は言えないけど」

「まふゆ、言いたくなったらちゃんと言ってね」

「……わかった」

 

 まふゆが変? 家ではいつもこんな感じだけど。私や姉さんのことをよく観察している。最近は私が絵を描いているのを後ろから見てることもあるし。

 

「次は何処に行く? まだ時間あるし、回れる場所も多いよ」

 

 明るい暁山瑞稀の声に、東雲絵名が意見を出して、朝比奈まふゆと姉さんが着いていく。それを4人で楽しんで、今までやって来たんだろう。

 すれ違いもあったんだろうし、朝比奈まふゆや姉さんのように心に何かしらの闇を持っているまま、各々が動いている。

 

 仲間って、いいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あっという間に文化祭は終わった。

 3-Cで劇を見て、東雲絵名の学級でイカ焼きを食べ。美術部の描いた作品を鑑賞し、新聞部の今年度の記事を読み。etc.

 

 結構色々あった。

 

「……意外と、見て回れる」

「去年は特に見て回ったりしてなかったからね」

「へえ。そうだったの」

 

 去年はほとんど教室が屋上に居たし。暁山瑞希は途中から来ていたし、屋上に居たからね。

 

「玲音は後夜祭出るの?」

「……私は「玲音」」

「玲音も、後夜祭参加していいから。家のことは、私もまふゆもちょっとだけ出来るようになったからさ。……たまには、遊んでもいいんだよ」

「……」

 

 と仰られましても、家のことをするのは好きでやってることだし、そんな私が遊んでないみたいなことを言わないでほしい。結構好きなことやってるから、私。

 

「………………わかった」

 

 後夜祭ね。……特に予定ないし、何かしたいことがあるわけじゃないんだけど。

 ……暁山瑞希は何やら東雲絵名と約束事をしているみたいだし。私は……文芸部のところにでも行こうかな。

 

「わたしとまふゆは帰るよ。楽しんでね」

「うん。じゃあね、奏、まふゆ」

「二人とも、ナイトコードでね」

「……夕飯、食べたいモノ教えてね」

 

 ……帰っちゃったか。

 

「玲音。あんた、これからどうするわけ。過ごす場所あるの」

「……ない。ないから……部室、行こうかな」

 

 部室ならまだ空いてるだろうし、……ん? あれは、夜凪百合子と誰だ? ……何処に向かってるんだろう。

 ……つけてみるか。

 

「……何か用事があれば、呼んで」

「わかった。じゃあね、玲音」

「……ん」

 

 さて、夜凪百合子の後を追おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後を追うと、そこは体育館裏。人目が少ない場所だ。……告白でもするのかな。

 

「──夜凪さん。なんで、俺じゃダメなんだ」

「私はあなたのことをよく知らないから。それ以上に何もないわ」

 

 どうやら、男子の方は振られているらしい。

 まあ、相手が悪い。夜凪百合子は好きな人がいるらしく、その人にしか気がない。しかし、その相手と付き合う気もないと公言している。たしか、新聞部の記事にそう書いてあった。

 

「やっぱり、宵崎か」

「……あなたには関係のないことよ」

「そんなの! あいつは、あいつはダメだ。だってあいつは、人殺しなんだぞ」

「そんなことないわよ」

「いいや。中学が一緒だった俺だから言ってやる。あいつは、自分の友達を自殺させたやつなんだぞ」

 

 誰だ。自分の友達を自殺させた宵崎は。そんな人のことが夜凪百合子は好きなのか。

 

「私の知る彼は、そんな人じゃないわ」

「過去を隠しているだけだ。アイツが自分のことを語る事があったかよ」

「ないわね。でも、過去は過去。ただの知り合いである私が知る必要はないもの」

 

 ……。

 ああ、あの男子生徒は。中学の時、鹿野ちゃんによく話しかけていた男子生徒じゃないか。

 ということは、彼の言う人殺しの宵崎は私のことか。

 

「…………私が、人殺し。ね」

 

 ……確かにそうなのかもしれない。私が、鹿野ちゃんを殺した。

 私が、鹿野ちゃんの傷に気がつけなかったから。鹿野ちゃんは

 

 ──さよなら。

 ……首を切って死んだ。だんだん冷たくなっていって、瞳孔も開きっぱなしになって。モノへと変わってしまった。

 

「……あなたが何を言おうと。どれだけ宵崎さんを貶そうと構わないけど、あなたの評価は上がらない。人を平気で貶す人として下がっていくだけよ」

「いつか化けの皮剥がしてやる」

「そうですか。化けの皮があって剥がれたとて、それもまた彼。私と彼の関係が変わることはないでしょうけど。お話はおしまい? そろそろ部室に帰りたいのだけど」

 

 お堅い雰囲気は見た目通りだけど、ここまで言い返されるなんてね。

 あっ、こっち方にくる。隠れなきゃ。

 

 ん? 何かにスカートを引かれて。……スカートが配水管に引っかかってる。

 

「……何をしているので?」

「……」

 

 見つかった。何とか誤魔化そう。……そうだ。

 

「………………私は通りすがりのメイドです」

「……」

 

 そんな目で見ないでほしい。誤魔化せないことぐらいわかってる。よし、外れた。

 

「お嬢様、部室へ参りましょう」

「……言いたいことはいくつかありますが、後でにしましょう」

 

 ……今からでも帰ろうかな。

 

 

 

 

 場所は変わって文芸部の部室。

 部室に置いてある電気ケトルでお湯を沸かして、備品と化したティーポットで紅茶を淹れる。

 茶請けの菓子は、残り少ない持参したクッキー。

 

 これまた備品と化したティーカップに紅茶を注ぎ、夜凪百合子の前に置く。

 

「……どうぞ。……それで、言いたいこととは」

 

 カップを持ち、紅茶を飲む。……飲み慣れているからか、やっぱり紅茶が良く似合う。いいところのお嬢さまと言った感じだ。

 

「……では、率直に聴きます。何処から何処まで聞いていましたか? いえ、面倒ですので。返事を聞くだけ聴きましょう」

「……返事?」

「……はい」

 

 返事。何に対しての返事だ。

 

「……はあ、宵崎さん。外は、もう暗くなって来ました」

「…………そう、ね」

 

 秋の日は短くなっていき、やがて冬が来る。それと共に太陽が沈むのもの早くなっていく。

 夜凪百合子が窓の方へ顔を向けた。私も窓の外を見ると、うっすらとだがそこには月があった。

 

「……月が綺麗ですね」

 ──月が綺麗だね。玲音。

 

 ……そうだね。月はいつ見ても綺麗だ。

 うっすらと浮かんでいても、欠けていても。強すぎない光で宵闇の中に浮いている。でも、綺麗に見えるのはきっと。

 

「……きっと、遠いから」

 

 父さんと見た月の表面写真。そこにあったのクレーターだらけの灰色の地表。

 私が知っていた。美しい月はなかったし、うさぎもいなかった。

 

「……そうですね。でも、近くの月を見ても。私はその美しさを語れるわ」

「……そう」

 

 ……そっか。でも、残念ながら私は夜凪百合子の希望には応えられないし。君が求めるモノは与えられないだろう。

 

「……月を近くで見るのは大変そう」

「……だから、月に手を伸ばすのですよ」

「……」

「……それで、お返事は?」

 

 私を知りたい、ね。……知られて良い気分はしない。それに、……知られたくない。

 

「……水面の月は揺らぎ、触れることも叶わない。人は、人に恋すべき。月はまやかしですから」

「……フラれてしまいましたか」

 

 こんな私に恋するより、あなたの隣にいる立つべき人がいる。その感情はその人に向けるべきだ。

 

「でも、──それでも、人は星に手を伸ばすのですよ。それだけは、覚えておいてください」

「……」

「……楽しい茶会の続きといきましょう。静かに、自分の作品を作るための茶会を」

「……ん」

 

 ……そうか。

 

「……夜凪」

「……なんですか」

「……いつか、届くといいね」

 

 星の終わりが来る前に。

 でも、星に手を伸ばして星を手にした人を、私は未だ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あー、ムカつくわ」

 

 どれだけやっても宵崎玲音は気にも留めず、知ってか知らずか無視。

 いつも女装しているから、制服は気にしないだろうけど、メイド服なら気にするだろうと思ったし。メイド服を持ってくるように言って持ってこなければ責めれるし、持って来ても気味悪がって不快な思いはさせられる。筈だった。

 

 メイド服は着るように頼めば着たし、不思議なほど似合っていた。キモいと言っても宵崎玲音には響かず、制服に戻れないように制服も汚した。

 不便そうにメイド服を着続けるだけで、特に嫌な顔はしなかった。

 痛み止めと何かの薬が入っていたポーチも隠したが、特に困った様子はない。

 

 いつもよりも話すし、男子、来場客からの視線をキッチンにいたくせに集め続ける。どれだけ塩対応でも人の目を集め続ける。

 

「友理。そんな大きな声で言わないの」

「だってムカつくじゃん。アタシ達の男奪っといてなにもない。報復しないってのはアタシが許せないの」

「それはわかるけどさー。バレたらめんどいー」

 

 みんな宵崎玲音に好きな人が取られた。

 似鳥友理は彼氏が。渡部由美も彼氏。尾城美律子は思い人を。みんな宵崎玲音の虜になった。

 ただ一瞬目があっただけ。不意に微笑まれただけ。

 

 それだけで、自分たちの思い人は宵崎玲音に奪われた。

 それに、気に食わない。男子のくせに、誰にでもモテる宵崎玲音が気に食わない。

 いじめの理由なんてそんなものだ。

 

「そういえば、宵崎さんってさー。人殺してるらしいよ」

「どゆこと?」

「いやー、なんか。体育館裏通ったときに、そんな声が聞こえてさ。聞き耳立ててたら、宵崎さん。中学生の時に、自分の友達を自殺させてるんだってー」

「何それサイテーじゃん」

「マジならヤバいやつだ」

 

 根も葉もない噂。

 しかし、火のないところに煙は立たない。

 

「ねえねえ。ウチらでそのこと話さない?」

 

 噂話。

 みんな、面白い噂話に飢えている。特に、有名でその人の意外な側面を語るものはみんな大好きだ。

 

「いいね。どっから噂流そうか」

 

 悪意。しかし、それは気軽で。意図も容易く行われてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の学校の日。

 一つの噂が流れ出す。

 

「ねえ、聞いた? 宵崎さんって、中学生の頃に友達を自殺させたんだって」

「なんで?」

「友達の死んだ姿を絵にしたかったから、追い込んだみたいだよ。酷いよね」

「うわー、最低じゃん」

 

 ──聞いて聞いて、あの子の噂。

 ──内緒だよ? 

 

 ──だって、ただの噂なんだから。

 







本作、深灰と赤紫の糸は、あと5、6話で終盤に入ります。
これからかなり重くなり始めますが、どうかお付き合いください。



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