深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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この本心は不気味じゃない

 

 

 

「……瑞希と連絡が取れない?」

「うん。ナイトコードにも顔を出さないし」

 

 珍しくリビングに出てきてお昼を食べている姉さんがそう言った。

 

 神高文化祭で会って以降、暁山瑞希と連絡が着かず。姉さんたちの方のセカイでも会えないとのこと。予想はしてたけど、やっぱり姉さんや朝比奈まふゆたちにもセカイがあるんだ。

 

 しかし、珍しいこともあったモノだ。あのムードメーカーで明るい暁山瑞希としばらく連絡が取れないとは。……何かあったのかな。

 

「……学校で会えればいいけど」

 

 学校。……学校かー。

 文化祭終わってからはまだ行ってないんだよね。文化祭準備のために割と行ったし。行く気分じゃないけど。……暁山瑞希と会うには必要なことだ。仕方がない。

 

 ……とりあえず、暁山瑞希に連絡を入れよう。

 

『明日、学校来る?』

 

 返信がこれば良いんだけど。暁山瑞希に何かあったのかな。

 

「……連絡は入れてみた。返事、くるかはわからない」

「返事来るかな」

「……来る、と思う」

 

 多分来る。来なかったら来なかったで悲しい。

 そうなったら、暁山瑞希のいる場所に突撃することになる。何かあったってことだろうし。

 

「……姉さん。買い出しに行ってくる。夕飯何食べたい?」

「なんでもいいよ」

「……わかった」

「あ、でも。……今日は、オムライスが食べたいな」

「……ん。わかった」

 

 よし。気合を入れて作ろう。……買い足すのは卵と。そう言えば、お肉も安くなるし、今日はタイムセールがあったはず。

 

「……行ってくる。ご飯、食べ終わったらシンクの中に入れてて欲しい。水につけてくれてると助かる」

「わかった。気をつけてね」

「……ん」

 

 よし、行こうか。

 

 タイムセールは3時間後だし、歩いて行っても間に合う。

 家を出て鍵を閉めて買い物に向かう。

 そうだ。ちょっと離れたところにあるスーパーでナスが安かった。それも買いに行こう。明日の朝食は茄子の煮浸しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……あった」

 

 茄子。やっと見つけたぞ。まさか、茄子を買うのに2軒回って、道に迷って30分余計に彷徨うことになるとは。……慣れない場所には行くものじゃない。

 でも、いつもより安く買えた物も幾つかある。回った甲斐があった。

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)、ありがとう」

 

 シブヤから離れるモノじゃない。大変だった。

 ミク(⬛︎⬛︎)が居なかったら、私はまだ彷徨っていたことだろう。

 

『いいよ。このまま迷子になる方が後々大変だし。約束は守ってもらえるなら、ミク(ボク)は気にしないからさ』

「……フランスパン。いくつ欲しい?」

『2本。あと、バケットサンドも食べたい』

 

 帰りにパン屋寄らなきゃ。

 

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(マスター)の作った、サーモンサンドが食べたいな』

「……わかった」

 

 ……材料、買って帰らないとな。荷物が増えてきたし、セカイに置いていこう。

 

「……ミク(⬛︎⬛︎)。荷物」

『ここは倉庫じゃないんだけど。……まあ、良いよ。その代わり、ちゃんと作ってよ。アボカドも挟んでね』

「……わかった」

 

 サーモンサンドが豪華になっていく……。出費を抑えたのに出費がかさむとは。

 とりあえず、人通りの少ない場所に入ってセカイに入る。

 

「いらっしゃい。少しゆっくりしていくかい」

「……まだ、買い物あるから」

「そうか。じゃあ、終わったらお土産持ってきてね」

「……ん」

「じゃあ、いってらっしゃい」

 

 ミク(⬛︎⬛︎)と少しだけ会話をしてセカイから出る。

 短時間で水に濡れる感覚を連続して感じるのは慣れないし、不快だ。

 

 ……コンビニでコーヒーでも飲んで移動しようかな。

 

「宵崎さん?」

「……?」

 

 後ろから声をかけられた。聞き覚えのない声。でも、私を知っているらしい。

 

 振り返ると、見覚えのない人が居た。でも、何処かで見た覚えがありそうな姿。

 

「失礼しました。知っている人と似ていたので」

 

 私と似ている人。宵崎……。もしかして、姉さんの知り合いか? ……限られた姉さんの交友関係的に、学校関係者か。それとも、……。もしかして、

 

「……朝比奈、さん?」

「え?」

「?」

「……たしかに、私は朝比奈ですけど」

「……そう、ですか」

 

 ……まさかとは思ったけど、朝比奈まふゆの母親か。

 

「……朝比奈まふゆさんに、お世話になっています。宵崎です」

「ああ、あなたが宵崎さんの弟の」

「……はい。宵崎玲音です」

「初めまして。夫から話は聞いています。朝比奈まふゆの母です」

 

 ……うん。似ている。父親とは会ったことがあったけど、母親ともよく似ている。

 私も姉さんも母さん似だから、父さんとあまり似ていないんだよね。

 

「……お時間、ありますか?」

「え?」

「……なければ、良いのですが」

 

 話してみたい。

 朝比奈まふゆ父からは、色々聞いたけど。母の話したことはなかった。

 

「良いのかしら」

「……話すのは私ですから。朝比奈まふゆは、学校に行ってますし」

 

 別に私が少し話すだけだ。最近の家での様子とか、勉強の様子とか。……あれ、思ったより話すことないな。

 

「……とりあえず、移動しましょうか」

 

 この辺りなら、3年前に見つけた喫茶店があったはず。

 

「……黒船って喫茶店なんですけど、コーヒーが美味しいので」

 

 さて、まだやってるかな。

 

 この辺の道をまっすぐ行って、赤い屋根の家を過ぎたところの角を曲がって、……あった。家の壁に蔦の張った廃墟の様な隠れ家喫茶。

 門から中に入れば立てかけられている赤いペンキで書かれた『Open』の文字が目を惹く。

 

 カラン、コロン。

 

 扉を開けると、古びた鐘が鳴る。

 店内は、木造船をイメージして雑貨や舵が壁にかけられている。

 カウンターには皺の多い顰めっ面の老婆が椅子に座っている。

 

「おや、見ねえと思ったら珍しい客だ」

「……お久しぶりです」

「3年も来てねぇが、他に良い店でも見つけたか?」

「……ん」

「そうか。そいつぁよかったな。それで、お前さんはいつものだろう? 奥の席なら空いてるよ」

 

 あまり機嫌の良くなさそうな老婆。この喫茶店の店主に奥の席に行く様言われ、朝比奈まふゆ母を連れて奥の席に座る。

 

 そこから朝比奈さんが、アールグレイを頼んでそれまでに少し話をした。

 

 宵崎家での朝比奈まふゆの過ごし方。勉強の様子。

 

 たまに私も朝比奈まふゆから教わることもあるけど、大体は姉さんに二人で教えることの方が多い。

 

「お待たせしたね。アールグレイとブレンドだ」

「ありがとうございます」

「……ありがとう」

「ゆっくりしていき」

 

 注文のアールグレイとブレンドを持ってきた店主は早々に退散し、カウンターで新聞と睨めっこをしている。

 

 持ってきたブレンドコーヒーは美味しい。苦味が強く、酸味もあるけどミルクを入れると緩和されて程よくなる。私は好きだ。

 

「……宵崎さん、あなたは男の子でしたよね」

「……はい。そうですがなにか?」

「いえ。……女の子の格好をするんですね」

 

 ……? それがどうかしたのかな? 

 

「……はい。ズボンは苦手なので」

 

 あの足にまとわりつく感じが苦手だ。

 

「そうなんですか。……そう」

「……言いたいことがあれば、ハッキリとどうぞ」

「その。女の子の服を着る男の子に会うのは初めてで、まふゆに……」

 

 ああ、なるほど。

 

「……朝比奈まふゆさんに、悪い影響がないか。と、気になりますか」

「…………はい」

 

 まあ、気にするよね。なんで気にするのか私には理解出来ないけど。世間一般的には、普通ではないらしいし。

 

「……朝比奈まふゆさんは、自分の好きな服を着て過ごしています。朝比奈さんも、自分の好きな。好みの服を着ている。私もそうしている。それだけのこと。……ではあるのですが、理解されないのは仕方がないこと。あまり深くは考えないでください」

「……」

 

 そういえば、朝比奈まふゆの父親と初めて会った時も少し困った顔をしていた。

 

「……食事も私が作って居ますし、夫さんの方に食事の写真も送ってあるのでその辺はあまり気にしていないと思いますが」

「……」

 

 おや? ちょっと困惑している。

 

「……まふゆとは、どんな関係なんですか?」

「……?」コテッ? 

 

 どんな関係? どうなん関係か、ねぇ。

 

「……朝比奈まふゆさんは、姉さんの友人ですね。私は、その世話をさせてもらっている。と言った関係ですかね」

「……本当ですか?」

 

 おっと? 何か疑われている? 

 

「まふゆに色恋は早いと思うんです。これから大事な時期ですし、そういうことがあると」

「……」

 

 ああ、なるほど。そういう。

 

「……私は恋人を作る気も、誰かの恋人になる気もありません。なることもないでしょう」

「そうは言っても、まふゆは「ありえません。あってはいけないんです」宵崎さん?」

 

 誰かと恋人になる? 無理な話だ。なる気もない、作る気もない。

 

 ──好きだよ。好きだったんだよ、玲音。

 ──でも、触れてほしくなかった。触れられたくなかった。

 ……今更、誰かに恋をしたり、好きになったりするなんて無理だ。

 私には、無理だ。

 

「……そんなに不安であるというなら、切り落としても構いません」

「何故そこまで」

 

 私の戒め。

 それに、なぜ朝比奈まふゆのためだけにそこまでするのか。と言う問いなら、答えられることは1つだ。

 

「……安心して居られる場所が、そうであるため。親が、安心して預けられる。そうすれば、朝比奈まふゆは家で休める。……なら、私に出来ることは切り落としてでも、その安全基地を守り。今後も安全であること」

 

 切り落として信頼と安心が買えるなら安い物だ。父さんには悪いけど、使う予定はもうないんだ。

 

「……そうですか」

「……はい。そろそろ時間ですね。これからタイムセールに行かなくては行けないので、誘った身でありながら先に失礼させていただきます」

 

 さて、会計に行くとしよう。暁山瑞希や朝比奈まふゆから聞いていたけど、ナチュラルに自分の価値観を押し付けてくる人って言うのは間違っていない。

 でも、強く押し付けてくるわけではない様だ。朝比奈まふゆの家出が効いているんだろう。

 

「……店主。支払い」

「あいよ。……また来な。儂が生きてりゃやってっから」

「……ん」

 

 さて、思ったより話してしまった。急いでお店まで行かねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……迎えに来たの?」

「……近くまで、買い物来てたから」

「……」

 

 タイムセールが終わって、宮益坂女子学園近くまで来ていたので、朝比奈まふゆを迎えに行った。もちろん徒歩だ。

 

「……帰りに、喫茶店寄ってく?」

「……」

「……」

 

 そんな気分じゃないのかな。険しい顔をしている。

 

「……玲音。お母さんに会った?」

「……会ったよ。買い物中に」

「……そう」

 

 会ってほしくなかったりしたかな。まあ、偶然出会って少し話しただけだから許して欲しい。

 

「……お母さん。元気そうだった?」

「……ん」

「……そっか」

 

 ……少し表情が堅い。

 ……よし。少し、archaïqueに寄って帰ろう。

 

「……朝比奈まふゆ。喫茶店に行く。着いて来て」

「……コーヒー。飲んできたんじゃないの?」

「……一杯じゃ、足りない」

 

 コーヒーは2、3杯飲みたいし。日守康作のガトーショコラが食べたい気分だ。

 

「……買ったものとか大丈夫なの」

「……全部セカイに置いて来た」

 

 だから別に重くないし、手ぶらでも問題ない。

 

「……少し付き合って。ね」

「……わかった」

 

 よし。コーヒー飲みに行こう。今回も私の奢りでいいか。会計分けるの面倒くさいし。






朝比奈まふゆ母と初対面した模様。
終始疑念と困惑だらけなまふゆ母は、勝手に支払いを済ませられて余計混乱したとさ。


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