深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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深灰と透き通る赤紫

 

 

 軽食を取り終えて、暁山瑞希と少し談笑する。あれが好きだとか、これが好きだとか。基本的に姉さんとしか話さないけど、たまには悪くないのかも知れない。

 

 ……やっぱり絵になる。インスピレーションが湧いてくる。動作としてはアップルティーを飲んでるだけだが、見た目の可愛さとおしゃれなガラスのティーカップに入れられた紅茶。暁山瑞希の髪色と店内の色合いと静かな雰囲気が良い味を出している。

 

 カバンからスケッチブックを取り出してラフ画を描く。

 

「ボク、動きを止めた方が良かったりする?」

「……大丈夫」

 

 昨日少し腕に触った時に、筋肉の着き方は少しだけ把握している。詳細に描くなら、もっと体に触りたい。何なら、服を全て脱がせて身体をあちこち触って確かめたい所だけど今それをするともう協力してくれなくなるかもしれない。

 それは私の新たな創作の一部を消し去る愚行だ。餌付けなり何なりして、関係の構築を優先すべきだろう。人間とはそういうものだから。

 

 制服よりも少しゆったりめの服装だから腕の線が少し引きにくい。まあ、後で確認すればいいか。……構想はそうだな……。

 

「暁山瑞希」

「なに? やっぱりなにかしらのポーズ取って欲しかったりする?」

「違う。……笑って」

「え? こう?」

「……もうちょっと口角を上げる感じで」

「こう?」

 

 ただ笑って欲しかっただけだが、いまいち欲しいものとは違う。もっと自然な笑みが欲しかったが、……今はやめておこう。欲しくない情報を脳に描き込むと描く時の風景がおかしくなってしまう。

 

「……やっぱり違う、もう、やらなくていい」

「?」

「それ、良い」

「え?」

 

 小首をかしげる動作だが、良いな、可愛い。いい動きだ。……少し見えにくい。前髪が邪魔だな。退かすか。

 

「おかわりをお持ちいたしました。……おや、絵を描き始めてしまいましたか。では、勝手に失礼いたします。友人様も、アップルティーのおかわりはどういたしましょうか」

 

 カバンからワニクリップを取り出して前髪を横に退けて、手首につけた髪ゴムでで早く後ろ髪をまとめる。よし、これで鬱陶しくない。

 

「あ、お願いします」

「かしこまりました。では、今からお持ちいたしますので少々お待ちください。おや? 集中モードですか。今回は、どんな絵を描くのでしょうね」

「宵崎さんって、いつもこんな感じなんですか?」

「ええ。絵を描き始めるといつもこんな感じでございます。一度集中し始めると、しばらくはこのままですから。まあ、いつもなら少し詩を書いてコーヒーやお茶を飲んで帰るのですが。……今日は、お時間がかかりそうなご様子。本当に、いい素材を見つけたのですね」

 

「では、おかわりを持ってきますので……」…………うん。いい。派手な髪色だとやっぱり映えるからいい。私は髪色変えたくないから、別のモデルがちょうど欲しかったんだ。金髪はあんまり新鮮味がないけど、暁山瑞希のようなピンク色は私の周りにはいない。いい刺激だ。

 

「宵崎さん」

「…………なに?」

「宵崎さんさ。顔イケてるって言われない?」

「………………たまに言われる」

「だよね! 後でちょっと、ボクとお買い物行かない? お礼のお礼ってことで」

「…………?」

「お礼としてボクに付き合って欲しいの。ほら、今描いてるでしょ?」

「……」

 

 まあ、描いてはいるが。それと、お礼に何の関係が……。…………いいか。新たな視点を得るにはいい機会だろう。

 

「…………わかった。終わってから、行こう」

「りょっ。で、どんな服がいい? ボク的には、顔立ちはクール系だから、少し大人びた感じでもいいし。中性的だから可愛い系のギャップ狙いもありだと思うんだけど」

「……好きにして」

 

 今描くのに忙しいから。

 

 ……にしても、作業中に話をするのは新鮮だ。姉さんは、私の作業中に話すことなんてないし。私も姉さんが作業してるときに話しかけることはない。ミク(⬛︎⬛︎)だってそうだ。私が作業している時にはその作業を眺めているだけ。

 ほぼ反射的に返しているけど、暁山瑞希は楽しいんだろうか? 

 

「ねえ。ヘアアレンジしていい?」

「……好きにして」

「じゃあ、そうさせてもらおうかな」

 

 ……ん? 何故髪を触る。何故髪ゴムを……髪の毛で遊びたいのかな? まあいい。好きにしていてもらおう。待ってもらっている身だ。好きなように過ごさせておく方がいいんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……よし、出来た。ん? 何やら散らかっている。何故、私の周りに色鉛筆が散乱している。……多分、また私がやったんだろう。汚れていたら、日守康作に謝っておかねば。

 

「玲音くん。コーヒーのおかわりは──。おや、描き終えたのかい?」

「よっし、完成。絵もちょうど描き終わったの?」

「……おかわり。ん。描き終わった。見る?」

「よろしいので?」

「いいの?」

「……構わない」

 

 今描いていた絵は、昨日の夕焼けと暁山瑞希のやつに少し手を入れたものだ。視線が外を向いて、少し顔に影がかかる。表情も少し曖昧に描いて、感情を読ませない。手にはティーカップを持たせて、夕焼けを見ながら優雅にお茶をしている場面を切り取った様な一枚の絵にした。

 

「おお。絵、上手なんだね」

「ほお。これまたいい絵をお描きになったようでふむ。モデルは、そこの友人様ですか。相当お気に召されたご様子」

「これ、ボクがモデルなんだ。何だか照れちゃうな〜」

「…………まだ未完成。イメージを固めるための物」

「では、この描き終えたものはもう不要なのですか?」

「……」コクコク

「では、こちらをいただいてもよろしいですか? そうですね。8000ほどでどうでしょうか?」

「……5000」

「それだけでよろしいのですか?」

「……」コクコク

「では、そのように──」

「何の話? ボク置いてけぼりなんだけど」

 

 暁山瑞希はモデルとしていい素材だ。昨日は学校に行って本当によかったと思う。

 

「ただの絵の取引ですよ。ワタクシは、玲音くんのファンですから」

「……未完成だから、5000もいらない。けどね」

「いえいえ。玲音くんの才能と技術へのお代ですから。受け取ってもらわないと困ってしまいます」

「………………ってうるさい」

「へ、へえー」

「満足。日守康作。会計」

「かしこまりました。ご満足いただけたようでなによりでございます。絵の方は後日で構いません。今は、ご友人とのお時間をお楽しみください」

「……ん」

「あと、暁山瑞希様。会員証でございます。紛失した場合、こちらへ来ていただければ再発行が可能となりますが、手続きが複雑化いたしますので。紛失にはご注意ください」

 

 スマホを日守康作の差し出して来た端末にかざして会計を済ませる。

 日守康作が暁山瑞希に黒いプレート型の会員証を手渡したのを確認して、暁山瑞希の腕を引いて喫茶店を出るように促す。

 

「ごちそうさまでした」

「……美味しかった」

「それは良かった。またのご来店をお待ちしております」

 

 ワニクリップを外して前髪を元に戻す。後ろ髪に手を……ん? 縛っていた髪の毛がない? 

 

「宵崎さんの髪、サイドテールにしてみたんだけど。どうかな?」

「…………」

 

 まあ、いいか、顔さえ隠れていればそれでいい。

 

「あれ? 感想は?」

「……いい、と思う?」

「何で疑問系……」

 

 それはもちろん、私には見えないからだ。

 

「……服、どこ行く?」

「だから感想は……まあいっか。んー、この近くだと……ここかな?」

 

 暁山瑞希はスマホを少し操作して私の手を引いて歩き出す。暁山瑞希が少し楽しそうで、このまま友好を築ければもっといいものが作れるかもしれない。今はたくさん楽しんでもらおう。

 

「──どんな服にしようかな〜。大人びてるからかっこいい系? それとも、少し明るい色を入れたカジュアル系? ん〜、迷うな〜」

 

 …………どうやら、私は大変なめに遭いそうだ。

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