深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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どうも、1ヶ月ほど失踪していた作者です。中々の難産でした。




孤独なあなたへ(3)

 

 

 

 3人分のお弁当を用意し、今日は滝沢秀明に頼みたいこともあったので、文化祭が終わってから久しぶりに登校した。

 ……登校したんだけど。やけにヒソヒソ話が多い。

 登校した時から常に視線を感じるし、非常に不快だ。

 しかし、誰も私に話しかけてこないのはいい。いつもは2、3人私に声をかけてくる人が居るけど、そんな人もいない。これはこれで快適だった。

 

 教室で絵を描き、詩を描き。最近だと新しい人形の設定と衣服のデザインを考え、設計図を書く。

 誰も話しかけてこない。誰にも邪魔されない。何と素晴らしいことか。

 

 あの担任は変わらず私に突っかかってくるが、まあいい。そんな時は部室に篭れば万事解決。

 私物が備品になりかけているが、紅茶も飲めるし、コーヒーも飲める。今日はクッキーを持ってきていないから茶請けはないけどね。

 

 紅茶を淹れて椅子に腰掛ける。さて、紅茶を飲みながら人形の設計図でも……? 本の配置が変わっている。

 一冊だけじゃない。二、三冊本来なかった場所に本が収められている。

 夜凪百合子は元の場所に戻すから夜凪百合子ではない。なら、後輩達か? まあ、誰でもいい。本の場所を直しておこう。

 

「…………一冊足りない」

 

 誰かが借りて行ったのかな。無いのは、『香る夢月のフローラ』か。夜凪百合子と私の書いた短編小説集。

 心にじんわりと沁みていく様な感動話やホラー短編小説がまとめられた物。一昨年度の部長が、夜凪百合子と私が青少年文学賞で受賞した時に自腹で印刷屋に依頼して作った非売品の短編集。

 記念品として夜凪百合子と私にくれた品で、私は図書館に寄贈。夜凪百合子は、「どうせならみんなが読める場所に置きたい」ということで、部室に置いてある私物。

 

 夜凪百合子が持って帰るとは考えにくい。貸し出しのメモはこの辺に……あった。なるほど、汐田美優が借りていたのか。ならいい。

 汐田美優は借りた本はちゃんと返してくれているし、神高に進学を決めた決定打が去年の文化祭だっただけで、元々夜凪百合子のファンらしい。なんでも、シブヤ区の文化系サークルが集まって交流するイベントがあったらしく。そこで、2年前ぐらいから交流はあったらしい。

 もちろん、私は参加していない。今年はわりと意欲的に部活に参加しているが、去年はともかく一昨年なんて本当に最低限しか参加していなかったしね。校外活動なんて参加しなかったからね。

 

 本の整理はこんなものか。……よし、紅茶を飲んだら掃除をしよう。どうせなら綺麗にして小説でも書こうじゃないか。

 普段は誰かが掃除をする前に、黙って夜凪百合子が全て終わらせているけど。たまには私がやっておこう。今年はこの部室に結構世話になったからね。

 

 箒とちり取り、はたきと乾拭きんを掃除用具入れから取り出して部室の窓を開ける。外の冷たい空気が部室内に入り、私は扉を一度閉めた。

 

「……紅茶、飲もう」

 

 身体を冷やしてしまった。寒い。寒すぎる……やっぱり掃除やめよう。どうせ、昼休みになったら夜凪百合子が来るんだ。その時に一緒にやろう。

 今が1限目だから、遅くても夜凪百合子がここに来るのは約3時間後。絵を描いてようか。それとも小説? 神代類が屋上にいるなら、寒いのを堪えて屋上に行ってもいいかもしれない。上着を着て、マフラーを巻けば耐えられるだろうし。

 

「……暖かく、ならないかな」

 

 寒いのは苦手だ。

 紅茶を追加で淹れて、息を吹きかけて冷ましながら飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、結局誰も来なかった。来ないなら滝沢秀昭に頼み事だけして帰ればよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ瑞希と連絡がつかない。私から送ったメッセージは一向に既読になる気配はないし、ナイトコードにログインした形跡もない。ミクやメイコが様子を見にいくこともあるみたいだけど、真っ暗で何も見えないし呼びかけても返事がない。スマホを何処かに隠しているのか、それとも。

 もう、私に会いたくないのか。

 

「……はあ」

 

 早めに学校に来てみたけど、やっぱり瑞希は来ていない。私が把握している中でも連絡が取れているのは白石さんや草薙さんぐらい。

 その二人に対しても「ただなんとなく気分じゃない」の一点張り。

 

「………………はあ」

「……溜め息、珍しい」

「だれ! って、玲音」

「……ん。久しぶり」

 

 後ろから声をかけられて振り返ると、玲音がいた。相変わらず前髪が長い。目にかかって鬱陶しくないのか。

 

「……どうしたの?」

「それが──」

 

 ……玲音に話していいことなのか。玲音も瑞希と仲がいい。なにせ、玲音と知り合ったのは瑞希を通じてだ。私のせいで連絡が取れなくなったりしないかな。

 

「……悩みなら、聞く。解決策は提示できないけど、吐き出して軽くなる、ものもある」

「…………はあ、そうさせて貰おうかな」

「……溜め息、多いね。……ついてきて、ゆっくり話せる場所行こう」

「溜め息が多くて悪かったわね」

 

 溜め息の頻度が多いことぐらいわかってる。頭悩ませてるんだから、息ぐらい吐かせてよ。

 

 玲音の後ろについていくと、何やら不思議そうな目で見られる。基本一人だって聞くし、一緒にいる私が珍しいんでしょう。

 連れてこられたのは『文芸部』と吊り札のある教室。

 

「文芸部の部室?」

「……ん。今日、誰も居ないから。静かに話せる」

「そうなの?」

「……ん」

 

 玲音が鍵を開けて戸を開く、お先にどうぞと言うことだろう。部室内にはいると、本棚がいくつも置かれていて、本が大量に収められている。初めて入ったけどそこそこ広い場所だ。

 

「……紅茶、飲む?」

「いいわよ。わざわざ淹れなくても」

「……私、飲むから。東雲絵名も飲んで」

「わかったわよ。始めから選択しないじゃない」

 

 玲音が徐にペットボトルの水を電気ケトルに──え? 電気ケトル? 

 

「この部室、なんで電気ケトルなんてあるの?」

「……私物」

「まさか、ティーカップとか、ポットも」

「……私物」

「私物まみれじゃない」

「…………大半、私の」

 

 目の前に置かれたガラスのティーポットも、少し小洒落たティーカップとソーサーも玲音の私物。……まさかとは思うけど

 

「……あんた、ここをアトリエ代わりにしたりしてないわよね」

「……流石に、しない」

「流石にそうよね」

 

 流石にしないらしい。絵の具もパレットも筆も置かれてないからそれもそうか。……でも、ここまで私物を持ち込んでいるなんて。一応、学校なんだから、学業に関係のないものは持ち込めないはずなんだけど。

 

「……文芸部、実績多いから。ちょっと私物持ち込んでも怒られない」

「そう。天才はすごいわね」

「……実績、大半は夜凪の。だけど」

「そうなの? でも、空亡として結構賞を取ったりしてるじゃない」

 

 玲音にあまり実績がないなんて意外だ。空亡の活動で地方やら文集やらで賞をいくつもとっているのに、それを上回る人がいるなんて……。

 

「……空亡の活動は、学校でしてない。基本分けてるから。それに、自発的に活動。あまりしないし」

「あまり部活に参加しないから、実績はあまりないってことね」

「……ん。そゆこと」

 

 自分が空亡であることを公表していないから、当然学校でも隠してるのか。それだと納得できる。

 

「……市販のアールグレイ」

「ありがとう」

「……市販の味がする。今日は茶請けを持っていない。ごめん」

「謝らなくてもいいわよ。紅茶だけで飲めるから」

「…………今度、東雲慎英にチーズケーキの美味しいお店教えておく。一緒に行くといい」

「なんで私に直接教えないのよ」

「……そっちの方が、面白そう。だから」

「何が面白いのよ」

「……わからない。でも、面白そう」

 

 ほんと不思議な人。考えが読めないし、表情も滅多に動かないせいで感情もわからない。少し楽しそうだったり、懐かしそうな感じのことを言ったと思えば急に冷めたような態度をとる。まふゆとか奏とは違った暗さを感じる。

 

「……東雲絵名、話。聞こうか」

 

 対面に座って自分の紅茶を飲む。本人が飲み慣れているのもあってか、とても良く似合っている。一枚の絵をそのまま切り抜いて現実に動かしているような。とても上品に飲む。

 ほんっと不思議よね。瑞希といい玲音といい、振る舞いも顔も良いなんてさ。……本当に不思議よ。

 

「そうね。……玲音、最近瑞希と連絡取れてる? この前、私のアカウントにDM送って来たでしょ? 連絡がつかないって」

「……ん。でも、今は連絡取れてる」

 

 玲音も連絡取れてる。……私や奏、まふゆと連絡がつかないようにしてるのかな。

 

「そう。……なんで学校に来ないのか聞いた?」

「……ん。………………なんとなく、行きたくない。みたい、ね」

 

 ん? なんかいつもより歯切れが悪い様な。

 

「なにか隠し事してる?」

「……」

「……玲音?」

「……話せない。約束だから」

「誰とのよ」

「……瑞希との、約束。だから、東雲絵名に聞かれても答えられない」

「……そう」

 

 瑞希との約束。連絡をとっているときに何かを話さない様に約束をしたんだろう。

 瑞希が聞かれたくないって嫌がることを、玲音から聞き出すのはよくないこと。なら、今は引き下がるしかない。

 

「……東雲絵名」

「なによ」

「……瑞希は、怖くて進めないだけ。頭ではきっとわかってる。でも、感情が追いついてない。今までが、あと一歩を阻んでいる」

「玲音……」

「……私は、その一歩の背を押せない。……時が来れば、ちゃんと話すって言っていた。でも、尻込みすると思う」

 

 玲音が紅茶を一口飲んでソーサーに置き、ゆっくりと息を吐く。

 

「…………手を掴んで、離さないであげて」

 

「きっと、東雲絵名も後悔することになるから」。玲音はそう言って紅茶をぐいっと飲み干した。

 

「当たり前よ。捕まえてちゃんと話を聞いてもらうんだから」

「……それで良いと思う」

 

 だって、まだちゃんと話せてない。私も瑞希も、まだ話し足りていない。

 だから、このまま居なくなるなんて許さない。

 

「……東雲絵名。…………東雲絵名は、ちゃんと、捕まえてあげて、ね」

「玲音?」

「………………捕まえて、離さないで。何があっても」

「ええ、友達だもの。当然」

「……ん」

 

 少し暗い雰囲気の中、玲音とのお茶会は終わった。話を聞くと言うか、ほとんど他愛もない話をしながらお茶を飲んだだけだけど。少し気分が軽くなった。

 

 

 

 

 

「東雲さん、大丈夫だった?」

「え? 何が?」

 

 休み時間中、不意にクラスメイトにそう声をかけられた。

 

「だって、授業始まる前に宵崎さんと一緒に居たじゃん」

「それがどうかしたの?」

「え、東雲さん知らないの?」

 

 クラスメイトが口を開く。その言葉はとても単純で、とてもじゃないけど信じ難いものだった。

 

「宵崎さんってね、好きな人を自殺させたんだって」

「え?」

「中学生の頃にさ。ちょうどこの辺りの中学校で自殺があったじゃん? 宵崎さんはその関係者で、自殺した子を自殺するまで追い込んだって噂だよ」

「本気で言ってるの?」

「ただの噂だけど。……宵崎さん、最近黒い噂が多いからさ。東雲さんも気をつけなよ」

 

 授業開始のチャイムが鳴ると、クラスメイトはそそくさと席に戻って行った。

 

 玲音が好きな子を自殺に追い込む? そんなことするはずがない。出来るわけもない。だって──

 

 ……私、玲音のこともよく知らないじゃない。でも、玲音がそんなことするはずない。愛想はないし、他人行儀だからどこまで踏み込んで良いかもわからないけど、私は玲音が優しいことを知っている。それしか知らないけど、玲音が自分の好きな人を自殺まで追い込む様なことをするとは考えられない。

 

 その日の授業は全く頭に入らなかった。

 

 

 

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