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警告
このストーリー以降、一次的に
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⬛︎⬛︎『我を過ぐれば憂ひの都あり、
我を過ぐれば永遠の苦患あり、
我を過ぐれば滅亡の民あり
義は尊きわが造り主を動かし、
聖なる威力、比類なき智慧、
第一の愛、我を造れり
永遠の物のほか物として我よりさきに
造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、
汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ
『詩人、ダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』地獄篇第3歌より』
黎明は来た。』
罪の告白
墓標の前に立つ。
墓標に刻まれた〝柊彩〟の文字。それを撫でる。手触りはただの石。ただ冷たくて温かさなんてない。
──やっほー。今日もいい?
──本当になんでも出来るよねー。
出会いは放課後の美術室。絵を描いている私に声をかけたのかのが始まりで。
──はあ。もう帰らなきゃなー。
──じゃあね、玲音。また明日。
なんでもない様な日々を送っているつもりだった。
いずれは当たり前になっているかしれない。鹿野ちゃんが隣にいて、一緒に創作をしている時間が。私はとても楽しかった。
姉さんとも父さんとも違う創作の時間。音楽だけじゃなくて、粘土や折り紙、絵。姉さんも父さんも、音楽は好きだし得意だけどそれ以外はあまり一緒にできなかったからさ。
楽しかったんだよ。一緒に作れる友達ができて。
なのに。
──実はね、今日でお別れなんだ。
──今から君を深く傷つけるから。
──さよなら、玲音。
君は。鹿野ちゃんは私の目の前で死んだ。私に何も頼ることなく。自分の事だけ一方的に話して死んじゃった。
「……ねえ、彩。最近ね。味覚、なくなっちゃった」
味を感じられない。
「……最近ね。痛みも、わかんなくなっちゃった」
痛覚も麻痺し始めた。
「…………もうね。何も、何を作るのも楽しくなくなっちゃった」
創作の楽しみも忘れてしまった。
「……彩の苦しみも。……なにも、感じなくなっちゃった。多分ね。今の僕は苦しいんだよ。わからないことが増えて。出来なくなってきた。でもね、もう。何も辛くないし、わからないんだよ」
感情も機能しなくなった。
「…………化け物に、なっちゃったのかなぁ」
フラッシュバックも苦しくない。精神安定剤がなくてもなんとも思わない。痛みも感じない。味覚もなくなった。トラウマで、フラッシュバックが苦しかったギターもピアノも。全部触れる。前の様に演奏することができる。でも、とても楽しくない。なにも感じない。
暁山瑞希との他愛もない会話も。神代類や天馬司と馬鹿をやるのも。草薙寧々や鳳えむたち。ワンダーランズ×ショウタイムのメンバーたちとショーを作るのも。
もう。何もかもがつまらない。
色彩を失った世界しか、僕の目には映らない。
「……だからね。今日でお別れだよ。今の僕とはお別れ。……死んだ後があるなら、また一緒になれるかな」
冷たくて。とても冷えた11月22日。僕は、君が産まれたこの日を命日にしよう。……何もないや。何も感じないや。まあ、それもそうか。姉さんにはもう朝比奈まふゆも、東雲絵名も、暁山瑞希という仲間がいて。望月穂波という支えもいる。
姉さんに。
「……さよなら、彩。今日、また会えるかな」
色のない世界。色彩を失った世界。仮面は砕けてしまって、直視し続けることになった世界。
僕の隣にいた温める熱はない。笑っていた君は初めからいなくて。ただ、秘密を隠して隣にいてくれた君もいない。
さて、帰ろう。
遺産なんて特にはないけど、作品たちの処遇は決めないといけない。僕としては全部燃やしてくれたって構わないけど、姉さんは僕の作品が好きだと言っていたから。権利は全部姉さんに譲ろう。高くても数万でしか取引されていないから、相続税とかなんだとかも大してかからないだろうし。全部捨ててくれて構わない。
遺書は、筆ペンでいいかな。
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とは言え、何で自殺しようか。
夕飯を作りながら考えることじゃないことはわかっている。でも、割と重要なことだと思っている。あまり散らかすと姉さんに迷惑がかかる。あまり散らかさずにやるなら首吊り?
薬はもらったばかりだから
やっぱり首吊りかな。……いや、時間がかかると運悪く入ってきた姉さんに見つかるかもしれないし。目の前で死ぬのは良くない。僕みたいに精神に大きなダメージを負ってしまうから。
「……玲音、考え事?」
「……? ん。少し、ね」
「……そう。水、沸騰してるみたいだけど」
「……。! ……ほんとだ。ありがとう。教えてくれて」
考えるのに集中していたら、どうやらお湯が沸いているのに気が付かなかったらしい。
「……大丈夫?」
「……ん。大丈夫」
「……本当に?」
「……ん。本当に」
大丈夫だよ。至って正常だから。
「……なら良いんだけど。悩みがあるなら言ったほうが楽になることもある」
「……そう、ね。でも、悩みはない。だから、大丈夫。ありがとう、心配させた」
「……嘘」
「……?」
「……嘘ついてる自覚がないの?」
「???」
嘘をついている? 僕が?
「……嘘をつくのは苦手。ついてないよ」
「…………そう。なら、やっぱり自覚がないんだね」
? 本当にわからない。僕は悩んでいない。確かに考え事はあるけど、悩みはない。
「……本当にわからない?」
「……ん」
「……そう」
……どうしたんだろう。まあ、良いや。今日はミートパスタだし、まだ麺を入れてないからリカバリーも効く。
今夜決行の予定だから出来れば考えは煮詰めたいけど、今やるべき事を疎かにする必要もないだろう。
「出来るまでリビングにいるから」
「……良いよ」
座っているだけか、読書でもしているだろう。さて、私は夕食の準備を続けよう。
パスタ麺は茹でるの時間かかるし、ミートソースを温めておこうかな。
……これで、姉さんや朝比奈まふゆの食事を作るのもこれで最後か。あの頃はなんだかんだ何かしら感じることはあった。あれも楽しみ、楽しさの一つだったんだろう。今では何も感じないけど、あの日々も悪くなかった。
…………ああ、そうだ。どうせなら、彩と同じ死に方でも良いかもしれない。ちゃんと流れる場所とかを考えて、汚れ対策をすれば片付けも楽になるだろう。スポンジ素材のやつがまだあるから、それ敷いたら血を吸い取ってくれたりするかな。いや、タオルとかを敷こうか。
「…………」
温まったミートソースを味見用のスプーンで掬って食べる。味はしない。熱も感じない。痛みもない。ただ、口の中で何かベロベロと垂れる下がる感覚がある。火傷でもしたんだろう。と言うことは、まだ熱いのか。
──ピピピッ! ピピピッ!
麺が茹で上がった。一本麺を箸で取って食べる。……うん。味はわからないけど、アルデンテになってるから問題ないか。
パスタ麺を、ざるで水を切って。オリーブオイルを少し垂らして混ぜる。あとは、皿に盛れば完成だ。……ただ、まふゆも今の私も味がわからないので見た目を良くしよう。パセリの葉を散らして……。添えて……。うん、なんとも思わない。ミートソースで皿の縁に少し柄でも描いて……。うん。……はあ。
「……玲音。やっぱり」
「……出来たよ。朝比奈まふゆ。姉さんを呼んできてほしい」
「玲音」
「……なに?」
「……なんでもない」
「……?」
今日の朝比奈まふゆは何処かおかしい。一体どうしたんだろうか。
まあいいや。朝比奈まふゆが呼びに行かないなら私が行くだけだし。
姉さんの部屋の戸をノックして声をかけた。食事の時間だ。
夜。
描きかけのキャンバスを置いて部屋から出る。
どうせなら何かしら最後に何か作りたかったけど、筆が動かない。
まあ、空亡としての最後の作品は予約投稿してあるし、別に作れなくたって良いんだけど。
「……まだ起きてたの?」
「……ん? ……まだ、勉強してた?」
「……質問で返さないでほしい。私は自習してたけど」
「……そう。
「……そう。……コーヒー、飲む?」
「……飲む」
朝比奈まふゆがコーヒーを自分で淹れて飲んでいたらしい。どうせ私も寝ないので一杯もらうことにした。
コーヒーサーバーから私のマグカップにコーヒーを注いで対面の席に置いた。……取り敢えず座れってことかな。
朝比奈まふゆと向かい合うよう席に座り、コーヒーの香りを嗅ぐ。……やっぱり匂いもわからない。色合いは、ブラックコーヒーかな。味が分からないのが惜しい。朝比奈まふゆが淹れた味は気になるのだけど、分からないならば仕方がない。
さっき火傷したばかりだから、さらに火傷は増やしたくない。息を吹きかけて温度を冷ましながら飲む。……味がしない。
「……美味しい?」
「……ん。美味しいよ」
「……初めてブラックを淹れてみたんだ。結構苦いんだね」
「……そうだね。……ブラックは豆の味がそのまま出やすいから、苦いね「嘘」。どうして?」
朝比奈まふゆの顔は険しくなった。何がどうして嘘だと思うのか。……表情も話し方も苦い時の表現をしたはずなんだけど。
「……玲音。私は嘘をついた」
「……? ……どんな嘘?」
それは今言わないといけないことなのか?
「私は、ブラックコーヒーを淹れてないし。これは結構砂糖を入れちゃったから、かなり甘くなってるはずなんだ」
「……」
まあ、それもそうか。ブラックは胃に負担がかかるし、飲み慣れないならあまりおすすめは……ああ、なるほどね。僕はまんまと嵌められたわけか。
「正直に答えて。──いつから味を感じられなくなったの?」
「…………いつから、だろうね。…………四日前から、味も感じなくなりました」
「……味も?」
そう。味もだ。
「……痛覚も鈍くなったから」
私は痛みに鈍感になった。
「……でも、仕方がないこと。私の脳は収縮している。感覚機能の非活性化は仕方のないこと」
そう。仕方がないことなんだ。
だけど、僕はそんな自分を許容できないから死ぬしかない。
「……大丈夫。辛いとしても、それは
僕は、穏やかな笑みを浮かべて朝比奈まふゆに微笑みかけた。
朝比奈まふゆは悲しそうな目をしていた。
「……ご馳走様。味の感想を言えないのが心残りだよ」
「……そう。…………これから寝るの?」
「……うん。寝るよ」
「……そっか。…………また明日、ね」
「……」
また明日。……僕にその明日は必要ないし、その明日は来ないだろうけど。
「…………また明日ね。…………まふゆ」
「! いま、名前で」
まふゆを置いて僕は部屋に戻った。
……ごめんね、まふゆ。約束は守れないから、せめてもの僕からの信頼の気持ちだ。
──そんな他人行儀じゃなくて名前で呼んで欲しいんだけど。
──うん。彩だよ。
「……ははっ、何も。苦しくないや」
異性の人の名前を久しぶりに呼んでフラッシュバックが起きても苦しくない。何もない。
嗚呼、やっぱり。化け物になっちゃったんだな。僕は
至る所にビニールが敷かれた自室。全てはこの一回のために。この一瞬のための準備。
デザインナイフを手に取って、首に押しつけた。
〜〜〜♪
僕の視界は、真っ暗になった。
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「玲音、寝てるの?」
まふゆが玲音が変だと言うから、扉をノックして中に入る。
玲音の部屋の扉を開けると、中には誰もいなかった。
「……まふゆ、玲音は部屋に戻ったんだよね」
「うん。……出てきてないよ」
おかしい。なら、玲音はどこに行ったんだろう。
部屋の中に玲音はいない。キャンバスが設置されているけど、絵筆は置かれていないし、キャンバスには何も書かれていない。
ただ、違和感があるとすれば床に転がる少し錆びたデザインナイフと一枚の封筒。そして、画面が割れたスマートフォン。
──ピロリン♪
わたしのスマートフォンに一件の通知が来た。
どうやら、空亡の。玲音が何かを投稿したらしい。
投稿サイトに飛んで、作品ファイルを開いた。
「なに、……これ」
「……奏、これ」
一枚の絵。
ダークシルバーアッシュの髪。そして、ハイライトのない灰色の目。おそらく、空亡の自画像。
でも、空亡は今まで自画像をあげたことはなかった。
だから、これも作品なんだろう。
首から赤い彼岸花がいくつも咲き、首から赤い一筋の水の流れた痕が描かれてる。
題名は『遺作』
「玲音を探さなきゃ!」
「まって、奏! 落ち着いて」
待っていられない。いられるわけがない。だから離して、玲音を探さなきゃ。じゃないと、
「玲音が、玲音が死んじゃう」
「落ち着いて。奏、落ち着いて」
離して、離してよ。まふゆ……。
「一旦落ち着いて。…………状況を整理しよう。痕跡を辿れそうなものを全部集めて」
「…………うん」
息が苦しい。でも、どこに行ったからわからない。
玲音、どこに居るの…………。
次回からとても平和な過去編になります。