深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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 とある過去。辿るのは破滅。そうとも知らず、でも確かに。楽しかった過去の記憶。
 過去編スタートでございます。





だめダメ駄目

 

 

 

 

 

「〜♪ 〜♪」

 

 うん。我ながら良い出来だ。

 

 中学校の美術室。この学校に美術部が存在しないことは残念だったけど、美術室をほぼ独占状態で好きに絵が描けるというのも中々良い。

 教員に申請しておけば絵の具などを持ち込んでも怒られないみたいだし、放課後も鍵を借りれれば使っても怒られない。

 入学して1ヶ月になるけど、他に人も来ないし。画材は家の方が揃っているけど、たまに居る美術の教師から色々話を聞けるのは良い。

 

 それに、家だと姉さんとか父さんの邪魔になっちゃったりするけど、ここならそうはならない。夕食の時間までに帰れば姉さんと父さんの夕食の準備は出来るし。最近は時短料理なる物もたくさんある。技術の開発、発展って素晴らしいよね。

 

「──よーいーさーきーくーんー!」

「……? ああ、君いたの?」

「居たのって、さっきから居ましたー。何回呼んでも反応しないから、気がつくまで待ってたんですー」

 

 いかにも「自分、今機嫌悪いです。怒っています」と言う顔のセミロングの黒髪に赤い切れ長の目の少女。まつ毛が長く、同じ中学生と思えないほど身体の発育がいい。

 クラスメイトで、わざわざ僕に話しかけてくる物好き。

 

 絵を描いている時に話しかけられて最初は無視していたけど、かなり良い顔面をお持ちなので僕のデッサンの対象。絵のモデルになってもらっている。

 最近だと、自分にも絵を教えてくれと頼まれたので一緒に絵を描く様になった。

 

 でも、僕は感覚で書いてるからどう教えれば良いのか分からないし、その辺は美術の田城(たしろ)行形(ゆきなり)先生にでも教われば良いのに。僕から教わりたいらしい。

 

「そうだったんだ。ごめんね、気が付かなくて」

「本当だよ。最終下校時間には帰らなきゃなんだからね」

 

 そう言って、カバンからノートを取り出して僕に見せる。

 そのノートには、彼女の描きかけのイラストが幾つかあり、僕にアドバイスを求めてくる。

 

 彼女は絵があまり上手じゃない。

 

 人物を描けば身体の所々。胸の位置や首、肩、手の長さや動かしかた。表現がおかしなことになるし、背景は遠近感もおかしなことになる。建物が歪んでいたり、宙に浮いていたり、視野角がおかしくなっていたり。

 色々おかしいが、人の表情や動物なんかの感情表現は上手だと思う。それ以外は……まあ、頭足人とかその派生よりは良いと思う。

 個性だよね。個性。

 

「上手く描けたと思うんだ。どう? 宵崎せんせ」

「……肩から肘までの長さがおかしい。この肘の角度なら、こう。見せた方がはやいかな」

 

 実際に僕がそのポーズを取ってみたり、ポーズでどうにかならないなら僕が描いたものを見せたり。

 人物画を描きたがる彼女には、人体構造の話をすることもあったり。姉さんや父さんとも違った会話があって楽しい。

 

「確かに、私が描いたやつは長いね」

「でしょ? 一人で確認したい時は鏡の前でポージングしたりすると上手に描けると思う」

「そうなの?」

「うん。モデルがあると遠近も描きやすくなるとおもうよ」

「じゃあ、宵崎くん。モデルやってー」

「わかった」

 

 モデルを頼まれて指定されたポーズをとる。

 

「ねえ、もっとこう。肘曲げられない?」

「関節的に無理」

「じゃあ、もう少しこっちに顔を向けてもらえたり」

「なら、僕の関節増やさなきゃね」

「宵崎くんの意地悪」

「僕が悪いところあった?」

 

 ないと思うんだけど……。

 

「やっぱり、君は人体構造からちゃんと理解する必要があると思うんだ」

「うわーん。宵崎くんが私に馬鹿って言ったー」

「言ってないよ。ほら、描いて描いて」

 

 10分は保つけど、それ以上は無理なんだから。

 

「はーい。じゃあ、じっとしててね」

 

 たまにペンを止めては僕を睨み、スケッチブックを睨み。唸り、悩みながらペンを走らせる。表情もあまり動かさない方がいいから笑いたくなるのを堪えているけど、彼女は表情が豊かで、1人百面相をしているのを見てると微笑ましくなる。

 

 少しすると「出来た!」と言って真っ先に僕に描いたデッサンを見せる。

 ポーズを保つのをやめてスケッチブックを受け取って、完成したデッサンを見る。

 

「どう? 会心の出来だと思うんだけど。褒めてくれてもいいんだよ」

「デッサンは上手だよね」

 

 特に表情はかなり上手く書けていると思う。関節と四肢の長さとバランスは所々おかしいけど、顔だけはかなり上手だと思う。

 

「他は下手だって言いたいの?」

「……個性的な絵だとは思う」

「なんだとー!」

 

 実際にデッサン以外は上手だとは言えない。包んで言えば個性的。包まずに言うなら頭足人の以上、大体保育園児未満の絵。ピカソの絵にも見えなくはないけど、そこまでの技術も考えもないだろうから過ぎた褒め言葉だろう。

 

「いつかぎゃふんと言わせてやるんだからね!」

「ふふ。いつまでも待ってるよ」

 

 うん。待ってるよ。受け取ったスケッチブックを彼女に返して、席に座る。

 さて、僕も自分の絵の続きを描こう。

 

「まあ、それはそうとして。私がもっと上手になるために絵をこれからも教えてください」

「……へえ、ぎゃふんと言わせるんじゃないの?」

「いやー、私に絵を教えてくれるのなんて宵崎くんぐらいしか居ないし」

 

 いや、田城行形先生に頼めばいいのでは? 

 

「それは、君が僕以外の人に頼まないからじゃないかな」

「でも、この学校で一番絵が上手なのは宵崎くんだし。田城せんせに言ったら、宵崎くんが教えてくれるならそのまま教えてもらえって言われたから」

 

 なるほど。田城行形先生は、僕に教わる様に言ったわけか。まあ、わざわざ仕事を増やしたいわけじゃないんだろうし、仕方がない。…………のか? 

 

「だから、宵崎くんが教えて欲しいの!」

 

 別に教えるのはいい。良いけど、感覚でしか話していないから理解できてるのかな。

 

「それに、超えたい人を師事して、その人を超えるって展開。マンガみたいでアツいじゃん」

「そうかな。僕はマンガを読まないからわからないけど」

「えー、読んだ方がいいよ。面白いよー」

 

 まあ、教えてくれた人を超えていくと言う展開は実際にあることだし。教えた側としては感慨深いものもあるんだろうけど、僕はそう言うのに興味ないからねえ。

 

「機会があれば読んでみるよ……」

 

 そう言えば、マンガを読んでるならその絵をトレースしたり、好きなキャラがいるならそのキャラを描けるようにしていけばイラストの練習になるのでは? 

 

「マンガの好きなキャラクターとかいるの?」

「え? ……んー、読んでて楽しいから読んでるだけだし。好きなキャラクターはいないかな」

 

 好きなキャラクターはいないのか。好きこそ物の上手なれって言葉もあるから、好きなキャラクターを描いてれば上達すると思ったんだけど。

 

「んー、そっか。じゃあ、マンガの絵を参考にして描いたりすることってできる?」

「出来ないこともないと思うけど」

「なら、練習としてやってみないかな。いい練習になると思うんだ」

 

 立体を見ながら平面に落とすのは作業が増えるけど、平面を平面に映すのは処理しやすいはず。感覚さえ掴めれば、不自然なところも治っていくと思うし、これから色々描いていくなら背景の構図練習にもなるんじゃないかな。

 

「そうなの? なら、家に帰ったらやってみようかな」

「試してみて、ダメそうなら言って。他の方法も考えてみるから」

「はーい。……じゃ、別のやつ描こうっと」

 

 僕の対面に座ってスケッチブックのページをめくり、新しく何かを描き始める。

 

 あーでもない、こーでもないと頭を悩ませながら描いた線を消しては書き直して。……お、慌ててる。間違って消したくなかった線も消したのかな。

 

「? なんでこっちをみてるの?」

「……ふふ、さあ。なんでだろうね」

 

 彼女は見ていてとても面白い。

 表情はよく変わるし。見た目も良い。……そうだ。彼女をモデルにしよう。嬉しいことにモデルは目の前にいるし、見たことのある表情なら全て覚えている。

 

「?? 宵崎くんって変なの」

「君には言われたくないかな」

 

 こんな僕に声をかけるのなんて君ぐらいだからね。実際に、クラスでも僕は基本的に1人だし。彼女以外に話しかけて来ない。

 

「私が変だって言ってるの?」

「個性的だと思うよ」

「やっぱり変だって言ってるでしょ!?」

「さあ、どうだろうね」

 

 ああ、やっぱり面白い。

 そう言えば、名前をちゃんと聴いたことなかったっけ。

 

「……ねえ、君。名前はなんて言うんだっけ」

「一ヶ月も一緒なのに名前覚えてないとか酷くない!?」

「ごめんね。もう一度、教えてくれるかな」

 

 僕のお願いに、彼女は少し不機嫌ながらも嬉しそうに名を教えてくれた。

 

(ひいらぎ)(あや)だよ。ちゃんと覚えてよね」

「うん。覚えてるよ。もう、忘れないから」

 

 柊彩。僕の初めての友達。

 

「柊さん。これからも、よろしくね」

「? うん。これからも色々教えてね。宵崎くん」

「もちろん。僕に教えられることならなんでも」

 

 なんでもは知らないから、わからないものは学びながらにはなるけどね。

 

 






 過去編が始まってしまいました。

 今日の夕方ごろに次話上がると思います。


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