深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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部屋の片隅で

 

 

 

 

 ──ザッジャッ! シャッ! 

 

「…………完璧」

 

 今日も上手くできて良かった。家庭用コンロで鍋振りは五徳の寿命を削るからあまり強くは振れないけど、だんだんと慣れてきた。やはり中華鍋は素晴らしい。

 やはり何か作っている間は落ち着く。他のことを考えなくてもいいし、作っている過程で結果がある程度見えるから少しだけ安心する。

 

 姉さんの部屋の戸が開いて寝起きの姉さんが出てきた。まだ少し眠そうな顔だ。

 

「いい匂い。おはよう、玲音」

「うん、おはよう。連日で悪いんだけど、今日も朝は卵炒飯だよ」

 

 卵は特売で調子に乗って買いすぎてしまったし、消費期限が思ったよりも近くて、消費のために量多めの卵炒飯に父さん用に卵とハムのサンドイッチを4つほど作ってある作ってある。

 

 わざと朝のチャーハンを多めにつくったけど、余ればそろそろ期限の近い餃子と、昨日安かった茹でラーメンを合わせて夕食ラーメンセットにしてもいい。

 

「一応、卵とハムのサンドイッチもあるけど」

「じゃあ、今日はサンドイッチ食べたいな」

「わかった。今からお皿に盛るから少し待ってて」

 

 ラップに包んである物を斜めに切って四等分の三角形になる様切り分ける。一口サイズになれば父さんが作業の合間でも食べられるし、僕や姉さんも食べやすい。

 炒飯は余れば一口おにぎりにして作業の合間につまめるし、余ったとしてもおじやにしたりすることもできる。

 

「姉さん。父さん起こしてきて欲しいんだけど、お願いできる?」

「わかったよ」

 

 急いでいるわけではないけど、朝というのはあまりゆったりとした時間が取れることはない。

 

 でも、僕はこの一杯のために早起きして朝食を作っている。

 

 父さんからもらったお気に入りのコーヒーミル。元は父さんが友人から貰ったモノらしいのだけど、普段コーヒーはあまり飲まないし、自分で豆挽きをしない父さんが「玲音が使ってくれるなら、秀昭も喜ぶだろうから」と、そう言って僕にくれた。ほぼ毎日豆を挽いて朝にコーヒーを飲む。

 んー、美味い。少しのミルクと砂糖で美味しく飲める。やっぱり、お小遣いを貯めて高くて良い豆を買ってよかった。

 

 父さんの部屋から姉さんとまだ少し眠そうな父さんが出てきた。

 

「おはよう、父さん。また遅くまでお仕事してたの?」

「おはよう、玲音。そうだね。良い曲が思い浮かんじゃってつい、ね」

 

 また夜更かししたのか。

 

「あまり無理しないでよ。昼夜逆転は体に良くないんだからね」

「あはは……。気をつけるよ」

「またお父さん玲音に怒られてる」

 

 父さんは作曲家で、音楽を。曲を作るのが好きで、僕の尊敬する大人であり親。

 父さんの曲をまだ沢山聴きたいから、父さんも体調管理をしっかりしていただきたい。

 

「楽しくなって寝ないのは心には良くても体に良くないんだよ。まったく。……コーヒー飲む?」

「うん。貰おうかな」

「姉さんも飲む?」

「じゃあ、わたしも」

 

 人数分、父さんと姉さんのマグカップを食器棚から取り出して、コーヒーを注ぎ淹れる。

 

「砂糖とミルクはいつも通りで良いよね」

「頼むよ」

 

 父さんは砂糖少なめ、ミルク多め。姉さんは砂糖ちょい多めにミルク多め。……よし、出来た。

 

「はい、2人の分。座ってコーヒー飲んで目を覚ましててね」

 

 僕は朝食の配膳があるから。

 

 家族で揃って朝食を食べて、少し話をしてから姉さんと学校へ行く。

 

「そういえば、今日は学年合同で体育やるんだっけ」

「らしいね。新歓の球技大会の前練習とかなんとかで」

 

 新入生歓迎球技大会という校内イベント。

 体格差のある3年生や2年生が小学校から上がってしばらくの1年生と学年対抗でバスケットボールかドッジボールをする。

 

「玲音はバスケに出るんだっけ?」

「予定では、ね」

 

 突き指するのは嫌だから、あまり手を使う球技はやりたくないんだけどね。なんでサッカーが種目になかったんだ。サッカーがあるなら絶対そっちを選ぶのに。

 

「もしかして、サボるつもり?」

「そんなことはしないよ。ベンチで眺めてるだけだよ」

 

 あまりコートに立ちたくはないかな。出なくて良いなら別に出ようと思わないし。強制参加だから参加しているだけで、やりたいわけではない。やりたい人たちで楽しくやっていて欲しい。

 

「なんにせよ。やる気はあまりないよ。突き指怖いし」

「でも、突き指したことないでしょう」

「わからないから怖いんだよ」

 

 何事も経験。突き指も経験かもしれないけど、痛みで創作に支障が出るなら未経験のまま人生を終えたいよね。

 

「そっか。じゃあ、突き指しないように応援してようかな」

「そうしててよ」

 

 学級は違うし、姉さんとは学校であまり話す機会がないけど。仲は良好だと思う。

 

「あ、そういえば。姉さん、そろそろ新しい曲できるんでしょ?」

「うん。昨日、完成の目処が経ったんだ」

「そうなの。じゃあ、また完成したら聞かせてよ」

「お父さんほど、良い曲じゃないけどいいの?」

「うん。姉さんの曲も僕は好きだからね」

 

 父さんの作る曲も、姉さんの作る曲も僕は好きだから、是非とも聞かせて欲しい。

 

 姉さんと話しながら歩いて学校に向かう。学校が近づけば、姉さんは姉さんの級友と話すようになってしまうから。家以外でもこうやって話せる時間は貴重だ。

 

「玲音。学校楽しい?」

「ん。楽しいよ。……面白い友達が出来たからね」

「! 玲音に友達がね。よかったね、玲音」

「本当にね」

 

 面白い友達。柊彩。感情も表情も豊かな隣の席の女の子。

 

「あっ、宵崎くーん」

 

 近くから、それも後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。

 次の瞬間。背中からドンっ! と衝撃と体重をかけられたような重さが襲ってくる。

 不意打ちだったから驚いてしまったが、転ばないようになんとか踏ん張った。……この匂いと声は、

 

「わっ。……柊さん、急に後ろから来ないで欲しい」

「いやー、なんとなく会いたい気分な時に宵崎君がいたからさー。タイミングが悪かったね」

「何そのタイミング」

 

 なんだそのタイミングは。不規則かつ不確定の気分なら避けようがないじゃんか。

 見てよ。隣にいる姉さんを。物凄く不思議なものを見る目で君を見てるよ。

 

「玲音、この子が」

「……そうだよ。僕の友達」

「え? 私って宵崎くんの友達なの?」

「え? 違うの?」

「え?」

「え?」

 

 違うのか。

 

「ふふ。仲良いんだね」

「そう! 私と宵崎くんは仲良しなの」

「……まあ、ここ最近。放課後一緒にいるからね」

 

 まあ、うん。入学して1ヶ月ぐらいは、ほぼいつでも一緒だからね。名前覚えたのもここ最近だし。

 

「君が噂の宵崎くんのお姉さん?」

「そうだよ。はじめまして、宵崎奏です」

「こちらこそどうも。柊彩です」

「玲音と仲良くしてね」

「仲良くさせてもらってますとも」

 

 ……なんか、お互いにぺこぺこしてるけど。

 

「早く行かないと遅刻するよ」

 

 遅刻ギリギリの時間でもないけど、登校中なんだから足止めちゃダメでしょ。

 

「それもそうだね。柊さんも一緒に行く?」

「いいの? やったね」

「……置いてっちゃうよ」

「ああん。それはダメだって」

 

 柊彩さんが僕の腕に抱きつく。

 なんか距離近くない? どうしたの。

 

「なんか距離近くない?」

「んー、…………まあ、人肌が恋しくなる時ってあるよね」

「? ……まあ、そんな気分もあるのか」

 

 僕にはわからないし、姉さんにもわからないみたいだけど。個体差だろう。くっついていたいなら好きにしていて欲しい。歩く邪魔にならなければ僕は気にしないし。

 

「宵崎くん。宵崎が2人いるから名前で呼んで良い?」

「? 別に良いよ」

「オーケイ。玲音くん。宵崎さんも名前で呼んで良い?」

「うん。いいよ」

「ありがとう、奏さん。私のことも名前で呼んで良いよ」

「「それはいいかな」」

「君たち距離取るの下手かな?」

 

 君が言うかい? 

 

 3人で雑談しながら学校に登校して、学級ごとに別れた。柊彩さんは、僕の腕にしがみついたままだった。

 

 

 







 本日二話目の投稿になります。
 平和ですね^_^
 不穏なところなんて、きっとどこにもないはず。


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