深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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気がつけばUAが300を突破しておりました。
ありがとうございます。






深灰と透き通る赤紫(2)

 

 

 とあるショッピングモール。普段なら基本的に近づかないエリアへ私は暁山瑞希に連れられて来ている。

 

「…………」

「ふふ〜ん。どれにしようかな〜」

 

 当の暁山瑞希は楽しそうだが、私は人が多くて疲れた。……下のコーヒーショップに行きたい。そして豆を見たい。

 

「ねえ、宵崎さん。これとかどう?」

「……いいかも?」

「なんで疑問系なのさ」

 

 それはもちろんオシャレなんてしないから。

 

「宵崎さんは何か着たい服とかないの?」

「………………動きやすければ、何でも」

「オシャレしないの?」

「……ん」

「よし。なら、気合い入れてやっちゃおう。オシャレの沼に引き摺り込んじゃうぞ〜」

「……」

 

 楽しそうだしいいか。

 ん? どうしたの? こっちに来ますけども。

 

「ねえ。前髪避けるのって、嫌?」

「……あまり好まない」

「顔を見られるのが苦手?」

「……ん」

「じゃあさ。試着中とかなら退けてもいい? 基本的にボクしか見ないし」

「…………………………わかった」

「嫌ならいいんだよ? 無理してでも頼みたいことじゃないし……」

「……暁山瑞希が望む、なら、それでいい」

「なんか言葉重くない? まあ、いいなら良いけどさ」

 

 一体何が重たいと言うのか。暁山瑞希と仲良くなり、作品を作りやすくするためなら……まあ、嫌ではあるが別に耐えられる。

 後ろ髪はサイドテールにされたままだし、前髪を整えればいいぐらいだろう。

 

「じゃあ……。これと、これ。着てくれる?」

「……わかった」

 

 持ってきたのは黒を基調としたゴシック系のワンピースと灰色薄手のカーディガンを合わせて着て欲しいらしい。

 

 試着室に入って髪を掻き上げてワニクリップで止めて、試着用の服を着る。ワンピースは初めて着るが、ゆったりしたものなら普段使いしてもいいかもしれない。これ一枚で絵を描いたり、そのまま寝巻きになるのもいい。そして、汚れ過ぎれば一枚捨てるだけでいいと言うのもありだ……しかし、スカートが制御しきれないな。うん。やはりつなぎ服か。少し硬くて慣らさないといけないが、頑丈なのはいいことだと。破壊的芸術にも使える。

 

 ……うむ。着たのはいいが、これであっているのか? ……よし。サイドテールはやめてハーフアップにしよう。落ち着いた雰囲気の服に合うだろう。髪を解いて軽くまとめ、髪ゴムで縛る。……少しズレがあるが許容範囲だろう。

 

「……出来た」

「おお、カワイイね。髪型も合うように自分で変えたんだ」

「……ん」

「うーん。顔を出すなら、もうちょっとクール系でいいかもしれない。次はこれと、これを――」

「…………わかった」

 

 ……かなり時間がかかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうー。楽しかった〜」

「………………それは、よかった、ねー」

 

 疲れた。二着目を着れば三着目、三着目を着れば四着目、四着目を着ればetc……。疲れた。三店舗ぐらい回った。いつもならユニクロ行って適当に買って終わりなのに……。

 

「宵崎さん。疲れてない? 大丈夫?」

「……楽しかった?」

「うん。ボクは楽しかったよ? 宵崎さんは?」

「…………楽しかった、よ。いつも、こんなに回らない。から」

 

 ユニクロ行って終わりだしね。

 ……買い物をする予定ではなかったが、思わず買ってしまった。資料として使えそうだし、服選びのセンスが良いようだ。今度服を探すときについてきてもらおう。

 

「ならいいんだけどさ」

「…………アイス、食べたい」

「じゃあ、下の階で買ってくる?」

「……」コクコク

「じゃあ行こうか」

 

 買った服を着たまま出かけるのはあまり好みではないが、着替えるのもめんどくさい。このまま移動しよう。

 

「あの子たち可愛くね?」「おい、声かけてこいよ」「やだよ、レベル高そうじゃん」「お人形さん見たい」「可愛いと綺麗か、迷うな」「どっちもいけば……」

「……………………うるさい」

「え? どうしたの?」

「………………」フルフル

 

 外野がうるさいだけだ。まあ、暁山瑞希のビジュアルはいいだろうから男がナンパを企てるのはわかるが、前髪で目元の隠れた私に目をつける輩など…………

 そういえば、髪の毛そのままじゃん。

 

「えー、髪型戻しちゃうの?」

「……落ち着く」

「綺麗な顔なんだけどな〜」

「…………姉さん似だから。私も、この顔は好み。でも、外がうるさい」

「お姉さんのこと好きなんだね」

「ん。大好き。愛してると言っても良い。もちろん、家族としてだから。そこを間違えてはいけない。姉さんの曲を作るときの真剣な表情もいいけど、作ったケーキを食べてる時の小動物的な感じもいい。あと基本的に外出をしないから日差しが苦手で、外に出て目を細めるのもいいね。私の髪は姉さんと同じ髪色で、綺麗な色だからこの髪は好きなんだよ。優しいんだけど少し不器用なところも良い。家事とか掃除は私がやるって言っても、任せっぱなしは悪いからって言って手伝ってくれるんだよ。私としては夢を追いかけてる姿も、手伝ってくれる優しさも大好きだからどっちに転んでもおいしく――――」

「う、うん……」

「………………………………………………何でもない。忘れて」

 

 語りすぎた。いっぺんに話すと喉を痛めてしまう。……24時間歌い続けても特に異常をきたさないのに、なぜこう話しただけで喉を痛めるんだろうか。不思議な体だ。

 

「えっと、お姉さんの事大好きなんだね」

「…………」コクコク

「恥ずかしがらなくても良いのに」

 

 ……おや? 思ったよりも引かれていない?

 

「…………引いていない」

「いや、大好きなんだってことは伝わったし、あれぐらいで退かないよ」

「…………引いていない?」

「だから、引いてないよ」

「……」

 

 なんて、なんて良い人なんだ。この素材、なんて良い人材なんだ。姉さんマシンガントークを前にしても一瞬怯むだけで済むとは……

 

「あ、アイス屋さんついたよ。宵ざ「玲音」ん?」

「……瑞希。玲音でいい」

「距離詰めるの早いね。良いけどさ。玲音さ「玲音」。玲音は何食べる?」

「……チーズケーキ味」

「美味しいよね、それ。ボクも好きだよ、その味。すいませーん。チーズケーキ味と、いちごミルク味ください」

「………」

 

 好きとは一体……。まあ、そんな気分じゃなかったんだろう。私の中ではチーズケーキ一択だが。

 

「ボクはワッフルコーンで、玲音さ「玲音」。玲音は?」

「カップ」

「カップでお願いします」

「かしこまりましたー。出来ましたら呼びますので、お近くでお待ちください」

 

 元気な店員の声がよく通る。どうやってあの声出してるんだろう。バイトは……あそこでしかしたことないし、静かなアンティーク喫茶があそこの売りだから。大きな声を出すことなんてないからわかんないや。

 

「意外だな〜。急に名前呼びを要求されるなんて」

「…………仲良くなる、には。名前で呼び合う、方が。心理的距離、縮まりやすい」

「そうなんだ。ボクと仲良くなりたいってこと?」

「……ん。瑞希、と。仲良くなりたい」

 

 良い作品作りのために。良い素材を手放したくないと言う個人的な意思のもとに、友好関係は築きたい。そして何より、姉さんの話をしても聞いてくれる相手が昔から欲しかったんだ。いつも姉さんの話をすると誰も彼も逃げていく。鹿野ちゃんだって結構引いていたし。

 暁山瑞希のような素材は稀だ。何としても確保しておきたい。

 

「チーズケーキといちごミルクのお客様ー」

「はーい。玲音も行こうか」

「…………」

「お会計は「コード決済。」かしこまりました。端末中央のバーコード〝PayPay〟。ありがとうございました〜。またのおこしをお待ちしております」

「あ、ちょっと。また勝手に会計を」

「…………服選び、礼。気にしないで。ほしい」

「いや、気にするって。ほら、服選びはボクが好きだからやっただけだし……」

「……現金持ってない。割り勘、めんどくさい。……奢られて」

「……わかったよ。でも、次からは自分の分は出させてよ。奢られっぱなしは嫌だよ?」

「……わかった」

 

 次からは気をつけよう。その気をつける次は、気分で決めるが。

 

 モール内にある少し休憩できる場所に座ってアイスを食べる。冷たくて甘い。少し飲みすぎたコーヒーの苦味で口の中が少し苦かったけど、チーズケーキアイスの甘みでだんだんと中和されていく。欲していた糖分が頭に回り始めれば、今ならすごく良いアイデアが浮かびそうだけど……。

 

「美味しいね」

「…………そう、ね」

 

 今はこの時間を楽しんでも良いかもしれない。創作も楽しいが、……こうしているのも悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 アイスを食べ終わってしばらくして、私と暁山瑞希は別れた。連絡先は交換したし、暁山瑞希はアパレル店員のバイトがある様なので、シフトが出ればまた付き合ってくれるそうだ。

 家に帰って夕食の準備をする。

 今日は帰りに材料を揃えたカレーだ。

 

「…………あ、おかえり。玲音」

「……ただいま。姉さん。今起きてきたの?」

「うん。徹夜で作業してたから……」

「……もう少ししたらカレーできるから、もうちょっと待ってて。寝起きでカレー、食べれないなら。豚汁もある、よ?」

「……豚汁にする」

「……」コクコク

 

 具を多めに作った豚汁をよそって、炊いた白米と一緒に出す。

 しかし、手をまだつけない。もしかして、お昼にと作ったサンドイッチを食べたばかり? それとも、何か不満が……

 

「……玲音」

「………なに?」

「……おでかけ、楽しかった?」

「………………楽しかったよ。新しい友達との買い物」

「珍しい服着てるから、新しく買ってきたんでしょ? カワイイと思う」

「……ありがとう」

 

 姉さんに褒められた。やったね。

 

 結局。姉さんはカレーが出来るまで待ってくれていた。カレーができたら一緒に食べて、少し話をすれば姉さんは部屋へ帰って行った。

 

 私の諦めてしまった夢に向かって頑張る姉さんをすぐ近くで応援できるなんて、私は幸せ者だよ……。そうだよね。鹿野ちゃん。

 

 私の思いは胸に残り、溶けていく。……部屋に帰って、私も作品作りをしよう。今日はいっぱい良いアイデアが思い浮かんできたんだ。実際に描いて試したいこともあるしね。

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