深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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快晴

 

 

 

 

 

 駅近くの公園。

 今日は公園のベンチに座って持ってきたアコースティックギターを演奏している。

 

 一応、その場でチューニングしたし音がズレていたりすることはないと思う。そして、僕が変な音の覚え方をしていない限りはあっているはずだ。

 

 ギターの弦を弾き、適当に音を出す。なにか曲を弾いて欲しいと言った張本人は、なんの曲でもいいとか言い出したので思うがままにコードを弾き続けている。

 

「どういうのが聞きたいとか、そういうジャンルもないの?」

「うん。あんまり音楽って聞かないし」

 

 なら何故僕はなにか曲を弾いてほしいと頼まれたんだ。

 

「玲音くんのおすすめとかないの?」

「うーん。……僕もよく聞く方じゃないからなぁ」

 

 僕は姉さんが作った曲のデモとか、父さんが作ってる途中のやつを聞いたりしてるだけだからなあ。

 ……ああ、でも。最近CDショップでフルで聞いたあれなら出来るかな。

 

 アップテンポのリズミカルで可愛らしい曲。

 人が歌っているわけではなくて、合成音声が歌っているらしいその曲はとても耳に残っている。

 

 〜♪ 

 

 ギターの弦を弾いて曲を思い出しながら奏でる。……たまにアレンジが入るかもしれないけど、鹿野ちゃんは知らないだろうから許してくれるかな。

 

「ん? この曲って」

「知ってる曲?」

 

 まだイントロだけど、思い当たる曲があるのかな。

 

「──いつでもアイラブユー」

 

 ああ、知ってる曲なのね。ならちょうど良いかもしれない。

 

 口遊み始めた鹿野ちゃん。確かにその歌は僕の記憶にある物と同じものだろう。ただ、記憶している音よりも感情を感じる。

 

 いつもより表情に変化はない。けど、楽しそうに歌うから僕も楽しくなってきた。元曲に影響がない程度にちょっとアレンジを加えていこう。

 

「? 〜〜♪ ……??」

 

 あ、少し音が変わって迷ってる。……アレンジはやめておこう。

 

「〜〜〜♪」

 

 うん。普通に戻った。少し疑問そうだけど、後で聞こう。

 歌いながらでも百面そうできるのか。……ふふ、面白いな。

 

 演奏が終われば、鹿野ちゃんは首を傾げていた。

 

「なんでアレンジ入れちゃうのさ。迷っちゃったでしょ」

「ごめんね。なんとなく、そっちの方が楽しそうだったからいじってみちゃった」

「もう。歌ってる途中で困ったんだからね」

「ごめんね」

 

 でも、結果的には歌えたからいいじゃないか。

 

「でも、意外だなあ。玲音くんも知ってる曲だったなんて」

「CDショップで聞いたことがあるから、それで覚えてただけだよ」

「ショップで? ……ああ、君の超記憶とか言うやつの副産物?」

「そうそう。副産物というか、主能力なんだけどね」

「一回聞けば覚えていられるのってすごいよね。羨ましくはないけど」

「前も言ってたね。忘れたいことを忘れられないなんて可哀想だって」

 

 羨ましがられる超記憶も、鹿野ちゃんは僕に向かって「可哀想に」と言った。忘れたくても忘れられず、忘却と言う手段を取れないなんてある意味脳の欠陥なんじゃないのか、と。

 

「あー、言った言った。忘れたいことなんて沢山あるし、覚えておかなくてもいい事なんて覚えておきたくないからね、私は」

「まあね。覚えようと思って覚えるわけじゃないし、頭の中がとっ散らかるから大変ではあるけど、こうして芸術に落とし込む手段になってるからいいと思うんだけどなぁ」

「まあ、そこは使い様だよねー」

 

 思い起こそうと思えば、昨日登下校中に見た花の数でも思い返して数えようと思えばできるし、見たモノの一部を切り出した様に描くこともできる。

 ただ、あれこれ思い起こしすぎると記憶がごちゃごちゃになって混乱してしまう。

 

「他には何が弾けるの?」

「うーん。……ああ、この季節なら」

 

 夏はすぐそこと言うかもう夏だけど、夏系の曲なら別にいいか。

 

「んー。わからないや」

「……そう」

「だから、歌って聞かせてよ」

「え?」

 

 え? なんで? 

 演奏する手を思わず止めてしまった。なぜ僕も歌わなきゃいけないのか。

 

「あれ? 手が止まったよ」

「……なんで僕も歌わなきゃいけないのさ」

「え? ……もしかして、歌うの苦手?」

「苦手ではないけど」

 

 別に歌は苦手じゃない。なんなら、僕が一番得意としているものと言える。……ただ、それと同時に致命的な欠陥を抱えるモノでもある。

 

「でも」

「でも?」

「……制御できないんだよ」

 

 演奏レベルと歌唱レベルが合わないし、合わせきれない。極端に下手に歌うことはできても、世間一般的に抑えて歌うと言うことができない。

 アコースティックギターは数ある演奏できる楽器の中でも得意な楽器だ。

 でも、僕が歌うとギターの音を塗りつぶす様に歌唱に飲み込まれてしまう。聞こえるはずなのに聞こえない。父さんは、僕の歌を「懐中電灯と太陽」だと形容した。

 声量を落としていようと、僕は歌が上手い。これは自信を持って言えることだ。

 

 声量に関係なく、なんとなしに歌っているだけで演奏を飲み込んでしまうほどの表現力、歌唱力を持つらしい。下手に楽器を混ぜると悪目立ちしてしまって、芸術としては微妙なものとなってしまう。

 だから、演奏しながら歌うのは好きじゃない。芸術として崩れてしまうから。

 父さんとか、姉さんがいればまだ歌えるんだけどなぁ。二人とも、楽器の演奏も上手だし。僕の歌に飲まれないから、安心して歌える。

 

「うーん。聴きたい!」

「……」

「そんなに上手なら私聴いてみたいなあ」

「……まあうん。いいよ」

 

 人目あるけど、……まあいいか。公園でギター弾いてる時点でそこそこ視線集めてるし。

 

 イントロから弾き直して、息を吸って歌詞を唱える。その曲が描かせる情景を。見える景色を載せるように、僕にはない(いろ)を持つ芸術を表現するために歌う。僕の歌が聴きたい(芸術を見たい)といった友人のために。

 

「──梅雨が明けるまで後どれくらい?」

 

 思い描くのは大切な友人と夏を探しに行く2人組。

 1人は夏が来るのを待てなくて、出迎えに行こうともう1人を急かす。

 まだ誰も触れていない夏を2人だけのものにするのだと無邪気に笑う友達。

 

 ただ、遠い日に別れてしまっている。しかし、それでも色褪せない記憶。

 

 青く澄んだ色彩が描く2人の情景。

 

 僕はただそれを表現するだけ。

 

 今歌っているのは僕だから、好きにアレンジを入れながら。はじめっから歌に飲まれるために、控えめながらも輪郭として機能するようにギターを弾く。

 

「──って生きて征くよ。

 君は笑っていて」

 

 歌い終えて、ギターを静かに。でも余韻が残るように音を閉じていく。

 

 〜♪ 

 

 歌い終われば、そこにあるのは静寂。

 辺りに目を向ければ人が集まって来ているし。あっ、そこの人動画撮りましたね。

 

「歌、本当にすごく上手なんだね」

「……まあね。──あのー、見せ物じゃないので散って貰ってもよろしいですか?」

 

 僕と鹿野ちゃんの座るベンチ前にできた小さな人集り。声を掛ければ大人たちは渋々と散っていく。ちょっとだけ歳上そうな人達や、小学生たちはまだ居座ってる。

 

「移動する?」

「……鹿野ちゃんが別に良ければ、僕はここでもいいよ」

 

 公園でなんとなしに絵を描いてようが、ギターの練習をしてても人に見られるし。遠巻きに見続けられるより堂々と見てくれてる方がいい。

 

「まあ、私もここで良いけど」

「ならいいか。それで、どうだった?」

「うん! すごく初夏って感じの曲だね」

「……まあ、そう言う曲だからね」

 

 そんな感じの歌詞だしね。

 晴れ渡る広い青空に、元気な誰かが思い浮かぶような。ただ別れてしまっても、前向きに生きていくと言うような歌。

 

 残念ながら、僕は別れをあまり前向きには捉えられていない。日々弱っていく母の顔は忘れないし、元気でいようとしていた姿も忘れない。死に分かれは仕方がないとはいえ、それでも前向きにと言うのは僕には無理だ。

 姉さんと父さんは乗り越えられたのかな……。

 

「ねえ、鹿野ちゃん」

 

 ねえ、僕の友達。

 

「ん? なに?」

「まだ、何か歌う?」

 

 まだ、一緒にいてくれるよね。

 

「んー、じゃあ。あれ弾いて欲しい。シニガミレコードって曲。好きなんだよね」

「ああ、あの曲ね」

 

 小学生の時に流行っていた曲。何度か耳にしたことがある。

 

「いいよ」

 

 いくらでも歌うよ。

 君の隣は、とても居心地がいいから。

 

 2ヶ月前ぐらいまでは、興味のカケラもなかったけど。

 君が隣にいるととても心地よくて。冬の日向にいる気分だ。ポカポカと心地良い太陽が体を温めているような。そんな感じがする。

 

 僕の太陽。寒空に浮かぶ暖かな日輪。

 

 ……たまには、こうやって目立つのもいいか。

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