深灰と赤紫の糸   作:空白零無

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しんどい恋煩い

 

 

 

 

 

 新学期。

 夏休みが終わってしばらく経つけどまだ気温は少し高いし日差しもまだ少し強い。

 

「〜♪」

 

 今日も機嫌が良さげな玲音くん。鼻歌を歌いながらスケッチブックに絵を描いている。

 

「何描いてるの?」

「鹿野ちゃん」

 

 いつの、どのタイミングの私を描いているんだろう。

 玲音くんは私と初めて出会った日のことでも鮮明に覚えている。今、玲音くんはいつの私を描いているんだろう。

 今を生きながら、いつでも過去と今を重ねながら生きている玲音くん。

 

「見せてー」

「はい、どうぞ」

 

 玲音くんのスケッチブックに書かれている私は、多分夏休みの頃の私。

 私服でいて、座っていて。本棚が見えるから図書館かな? 学校の図書館で話している時の玲音くんから見た私。

 

「これは、夏休みの時の?」

「うん。今の画角に既視感があったから、気がついたらこうなってた」

 

「なんでだろう?」そう言って首を傾げているけど首を傾げたいのは私だ。

 玲音くんに教わってからは、体のバランスが良くなってきたとはいえ細かいところはうまく描けない。

 玲音くんは、構図も、角度もただ思ったように描いているだけで絵の原型ができて、それとなく筆を動かしていれば完成していると言う。

 だから、こうして描こうとしていたものとは別の物が出来ている事がたまにあるらしい。それこそ、夏休みの時は酷くて、連続して私を描いていたのだとか。

 

「やっぱり、上手だなぁ」

「鹿野ちゃんもかなり上達してきたでしょ」

「それはわかってるんだけどね……」

「……経験の差」

「だろうね」

 

 本人曰く、4〜5歳の頃からずっと絵を描いている玲音くんと、描き始めて半年にもならない私じゃ、描いてきた量が違う。

 

「いつか、鹿野ちゃんも僕ぐらいになれるよ」

「成れないと困るよ」

 

 玲音くんの見た目も好きだけど、描いてる絵も好きなんだよね。なんでもない、ありふれた日常が切り取られた絵。絵画とイラストが混在していたりする不思議な絵もあるし、風景画も好き。

 お願いしたら演奏してくれるギターとか、ピアノとかも好き。

 

 ピアノに関しては奏さんの方が上手く弾けるって言ってるけど、私は弾けないから素直にすごいと思う。

 

「そういえば、体育祭どの種目出るか決めた? 提出明日までじゃん」

「まだ。……というか、なんでもいい」

「えー。一緒のやつ出たいのになー」

「……そうなると、二人三脚とか。男女混合リレーぐらい?」

「借り物競争もだよ」

 

 知らなかったって顔してる。聞いてなかったんだね。先生の話。

 

「借り物競争は自由参加じゃ……」

「中途半端に聞いてたんだね」

 

 冒頭ぐらいしか聞いてなかったんだ。

 仕方がない。ここは私が教えてあげよう。

 

「借り物競争が自由参加なのは去年までで、今年からはクラスから二人は選出しなきゃいけないんだって〜」

「ふーん。鹿野ちゃんはそれに出たいの?」

「うん。この競技なら玲音くんと出られるかなーって」

 

 半分個人戦だし。団体戦が苦手な玲音くんでも、これなら参加できるよね。

 第三希望まであるし、男女混合もちょうど三つあるからどれかを入れておけば入れるでしょう。

 

「……僕と出ても、合わせられる自信ないけど」

「安心して。私が合わせる」

「? 彩って運動できるの?」

「出来るよ。失礼な」

 

 運動は得意なんだよ。授業ではあまり動かないだけで、ちゃんとできるもん。球技大会で活躍したじゃん。ちゃんと玲音くんの見てる前でバスケでゴール決めたじゃん。

 

「冗談。ちゃんと動けるのは知ってるから、その辺は何も言わないよ」

「変なタイミングで冗談挟まれても困るんだけど」

「ごめんね。一緒の競技で希望出しておくから許して欲しいな」

「良いだろう。その冗談を許そう」

「ありがたきお言葉」

 

 まあ、別に怒ってないから。謝られたら許しちゃうけどね。

 第一希望何が良いかな〜。

 

 私が学生カバンから提出用紙とペンケースを取り出すと同時に、玲音くんもカバンから用紙とペンケースを取り出した。

 同じタイミングでシャーペンを取り出して、ノックパーツを二回押して芯を出す。

 

「……」

「……被ったね」

「被ったね」

「……ふふっ。あははは」

 

 おかしくて笑っちゃった。面白いシンクロしちゃった。

 玲音くんは首傾げてるし。何が面白いのかわからないんだろうなぁ。私もよくわかってはいないんだけどさ。

 

「なんで笑ってるの?」

「だって、面白くて。ははっ」

「……僕。鹿野ちゃんがわからないや」

 

 そっかー。わからないかー。

 

「お箸が転がって笑いたくなる時ってない?」

「……ああ、あるね。姉さんとか父さんが笑ったりするかな」

「玲音くんはないの? そう言うこと」

「うん。ないかな」

 

 ないんだー。でも、ちょっと意外な話を聞いたかも。

 

「奏さんも、玲音くんのお父さんもお箸が転がったら笑うんだね」

「うん。感受性が豊かで、陽気だったり。感情が表面化しやすい人だと笑っちゃうことが多いみたいだね」

「なら、玲音くんが笑わないのは仕方がないね」

「そうだね。だから、鹿野ちゃんが笑うのは当然なのかもね」

 

 そっか。玲音くんから見た私は感受性が豊かなんだね。……そうなのかな。

 

「そっか。じゃあ、こんな話知ってる? 動きがシンクロする人はツインレイって言って、魂が繋がってるんだって」

「そうなの? 行動学習による模倣で、相手の行動パターンを真似してしまうって言う心理由来の動作だと思うけど。好きな人。よく見る人の癖は似るって言うから」

「夢がないなぁ。でも、それでも嬉しいかも」

 

 だって、それってつまりは私と玲音くんが仲良しって事だから。

 

 魂が繋がってるとか。前世がどうとかってロマンはあるけどさ。

 

「私が玲音くんの動きを真似していたとしても。その逆でも、私と玲音くんはお互いにお互いをよく見てるって事なんだから」

「そうだね。学校にいてもいなくても、僕が関わるのは姉さんか、鹿野ちゃんか、父さんぐらいだからね」

「そう言う事が聞きたいわけじゃないんだけど……。まあいっか。玲音くんだし」

 

 ロマンも夢もよくわからないらしい玲音くんだし、仕方がない。

 

 でも、この現実が。今この時間が私の生きる全てだから。

 私が生きていられる全てはこの時間のためにあるんだから。

 

「玲音くん。第一希望なんにする?」

「……そうだね。二人三脚にする? シンクロのことを考えるなら、僕と鹿野ちゃんなら相性いいだろうしさ」

「私と組めるとは限らないけどね」

「……」

 

 あ。すごく可愛い顔してる。珍しく耳が少し赤い。

 

「もしかして、私と組みたかったの? 何か期待してたりした?」

「……どうせなら、鹿野ちゃんと組みたいから」

 

 あら逃げちゃった。いいけどね。可愛い顔が見られたし。

 

 隠してるつもりかもしれないけど、まだお耳が赤いぞ♪ 

 

「私も。玲音くんと一緒に組みたいなぁ」

「……一緒に組めるといいね」

「まずは同じ種目に入ることからだけどね」

「………………そうだね」

 

 それから、私と玲音くんで希望を書きながら過ごした。

 珍しく玲音くんの表情が変わって、耳が赤くなったレアな玲音くんの顔はとても可愛かった。写真撮りたかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことがあったんだ〜」

「へえー。だからご機嫌だったのか。よかったね、マスター」

 

 いやー、本当に可愛かったんだよ、あの玲音くん。キミにも見せてあげたかったよ、

 

 目の前に座って話を聞く私のお友達は軽く笑いながら頷く。彼女はずっとここにいるか、或いは私のスマートフォンに入っている。現状私にしか入れていない不思議な場所に住んでいる、私にしか見えない不思議な友達。

 

 立ち並ぶ廃墟に青い空。そして、月がうっすらと見える。

 一番の特徴と言われれば、時々現れる泡。

 

 この泡に触ると弾けて、思い出の声が聞こえてくる。

 その声は楽しそうだったり。悲しそうだったり。苦しい思い出の音が鳴る。

 

 そんな場所で一人。

 元は初音ミクとか、鏡音リンとかレンも居たけど。みんないなくなってしまったこの場所で、一人私の話を聞いて。私と話をしてくれるただ一人のお友達。

 

「いい記憶が出来たんだね。よかったじゃないか」

「うん。またあの顔が見たいなぁ。ねえ、憶泡って任意で作れないの?」

「うーん。マスター次第かなぁ。ボクには難しいや」

 

 赤い髪にドリルのようなツインテールをした少女が、私次第と言うけど。私はそんなことできる自信がない。

 

「えー。このセカイについては私よりも知ってるのに?」

「うん。あくまでも、この追憶のセカイはマスターのためにあるからさ。ボクじゃ、どうしようもないんだよね」

 

 困った顔で、重音テトは私にそう告げた。







お久しぶりです。作者です。
他の小説を書いたり、trpgのシナリオを書くのに熱中していると気がつけば一月以上経過していました。
申し訳ない。


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