キミとアイドルプリキュア♪ -Revolver- 作:ゆぐゆぐ
※あらすじ、タグ等は適宜変更予定
『推しは推せる時に推せ』
今世にはこんな造語があるのだが、本当によく出来た言葉だと思う。
アイドル、声優、歌手、アニメやゲームのキャラクター……誰かをどれだけ好きになろうとも、ある日突然いなくなってしまう可能性は大いにある。有限な時間がなくなるまで、好きな人がそこに居る今という時間を大切にしろ。そんな戒めの言葉だ。
「分かっとったで、んなもん」
なんてため息交じりに呟きながら、自室のベッドに仰向けで寝転がり、壁に貼ってあるアイドルグループのポスターに目を通す。
昨日、俺がずっと応援してたアイドルグループの最推しが脱退を発表した。
何の前触れもなく、それはあまりに突然だった。
SNSのトレンドは瞬く間に一色に染まった。ファンは勿論、興味もない人達までもが触れた。
『マジか!』『びっくり!』『あんなに人気あったのに……』『がっかりだわ』『噂は本当だったのか』『終わったな。このグループ』
思ったことを好き勝手につらつらと書き込まれた投稿がスマホの画面に流れていた。
中には脱退理由を妄想、憶測で創作して語り始める者もいた。
確かに、何か訳ありなのではないかという噂や本人による匂わせのような投稿を見聞きしたことはあり、俺も俺で大丈夫かなと心配な気持ちになることもあった。
ただそれについて、グループのことを何も知らない奴らが知ってますと言わんばかりに語ってくるのが許せなかった。
だから、杞憂であって欲しかった。そいつらが言ってる空想も俺が抱いていた不安も、全てくだらないものであって欲しかった。
でも、神様は相当な意地悪だった。憶測を基盤に更に空想を連ねてくる奴らのことを野放しにしたのだ。
とはいえ、本当は分かっていた。
こういう日はいつかやってくる、永遠なんてものは存在しないんだと。
けれど、あまりに唐突なおかげで、簡単には受け入れられなかった。
そして、そのショックは思っていたより大きく、いつしかグループそのものも追っかけられなくなってしまった。
まあ、グループ脱退だけで芸能界引退までに至らなかったのはある種の幸運だろうか。
「どっかでまた元気な姿が見れりゃええんやけどな……さてと」
一瞬だけ前向きに捉えてみたものの、それまでこの空白期間をどう埋めればいいだろうか。
新たに推しを増やして推し活を続ければいいだけの話だとは思えど、推しなんてそこまで簡単に出来上がるものではない。
俺が推しを作る上での条件は『ひたむきに頑張ってる子』である。
基本、顔が可愛いだとかスタイルがいいだとか、はたまた歌声が素敵だとかで決まるものだろうが、俺の場合はそれらは二の次だ。
今立っている土俵で1番の人気者になるなど、自分の目標に向かってひたむきに努力している、そしてその努力が全身から垣間見える子を見つけて、初めて推しが出来上がる。これが俺の推しの作り方だ。
今はそんな推し活に熱心になれる気分ではない。とりあえず、適当にエモい曲のMVの垂れ流しでもして心を和らげよう。
そう思い、スマホを取って動画アプリから目についた動画をタップしようとすると、同時に新着メッセージが1件送られたとの通知がアラームと一緒に表示される。
「あーもううるさいなぁ。こころやろこれ絶対」
『新着メッセージが1件送られました』という通知が、画面をスライドしてもしつこく出て来る。『複数件送られました』で一括にすればいいのに、と鬱陶しくなる。
スタ爆レベルの文字打ちの速さでアイツだと推測してみたが、見事に的中した。画像や動画も同時に送ってきており、文字からでも何やら興奮した様子なのが伝わってくる。
『ねえ信ちゃん!キュアアイドルって知ってるよね!?』
『SNSでバズってるやつ!!』
『知らないんだったら、早くこの動画見て!!』
『もう見た!!??』
想像の倍は興奮していた。
しかも画像や動画のURLまで送ってくるというおまけ付き。スタートからアクセル全開なこの雰囲気は、きっと本命党の子が現れたのだろう。
「2時間前……ついさっき投稿されたやつやんか」
それでいて再生回数は10万超え、高評価数も1万を超えそうなほど、えげつない伸びを見せている。
『キュアアイドル』というチャンネルに投稿された『キラッキランラン♪なステージ!』という動画。
キュアアイドルというのは恐らく、サムネイルに映っているこの子だろう。派手な髪型をした金髪にピンクのメッシュが入っているのが特徴。衣装もピンクを基調とした露出度の高いものを着ている。アイドルというよりはアニメやゲームのキャラのコスプレに近い雰囲気だ。
この再生回数と高評価数、そしていつにも増して爆アゲなこころ。もはや何かしらの洗脳動画なんじゃないかと疑いたくもなるが、怖いもの見たさで動画をタップしてみる。
動画の冒頭はキュアアイドルがステージに立って歌い始めているシーンから。リリックビデオの撮影より、まるでライブ映像かのような雰囲気だ。
自身の曲を歌って、キュアアイドルは観客を魅了する。
いや、観客だけでない。この動画の視聴者も再生が終わるまで見入っていた。
周囲の物音も耳に入らない。ただ1本の動画に映る主役を目で見て、耳で感じ取る。そうして俺も、いつの間にか魅了されてしまっていた。
ただ、その中で何処とない違和感も感じ取った。
『動画見たで。すごいなーとは思ったけど、結局この子何者なん?』
『分からない。アップされたのほんのついさっきだもん』
『でも、凄く可愛いし歌もすっごく上手だし!私、今まで以上に心キュンキュンしてます!!』
なんて、すっかりオタクに染まりきっていた。
正直、俺もこの子には関心を持っていた。ネットの方でも再生回数や高評価数は止まることを知らない。
『あ、そうだ!ねえ、今から電話かけてもいい?』
などと唐突に聞かれ、『別にええけど、何やねん急に』と返信する文章を打ち込む途中で着信画面に切り替わる。『まだ何も言うてへんぞ』と心の中でツッコミを入れながら、『応答』と書かれた箇所にある電話アイコンをタップし、着信に応じる。
「もしもし信ちゃん!?私、キュアアイドルのことをもっと知りたいって思ったし、この流行をきっかけにたくさんの人に布教したいって思った!」
「おう……」
食い気味に語る此奴の言葉の節々に嫌な予感しかしなかったので、歯切れの悪い返事しか出来ないでいた。
「そこでね、信ちゃんに協力して欲しいことがあるんです!!」
「えぇ、うん……」
〇
そうして時は流れ、春休み明けの新学期。
周囲はしばらく学校で会えなかった友人やクラスメイトを懐かしみ、挨拶を交わす者。クラス替えで友人と同じクラスになれたことを喜ぶ者など、さまざまである。
また、新入生の様子を伺い、気になった生徒に部活の勧誘を目論む者もいる。我が校は入学式の翌日に始業式を行うスケジュールとなっており、新入生は今日から在校生と同じように登校するので、そうした活動をする生徒も少なくない。
そんな中、俺は生徒の人だかりを掻い潜って、手に持つポスターを壁に貼っていく。
『キュアアイドル研究会 メンバー募集中!キミもキュンキュンデビュー!』
という、明るい文字と笑顔のキュアアイドルで構成された勧誘ポスターを眺めて、ため息をこぼす。
「お疲れ様。信ちゃん」
俺の後に続いていた小柄な少女が、作業を終えた俺にそう声をかける。
彼女こそ、俺が今陥っているこの状況の元凶──紫雨こころである。
「ほんまやで。これから許可を貰うどころか認めてもらえるかも分からんよって言うたのにこんなもん作りよって……」
先日、こころから依頼された内容というのは、このポスターに書いてある通り、キュアアイドル研究会を開設し活動することだった。
この学校では生徒自身が部活を設立することは可能となっているのだが、それには生徒会もしくは教員の許可がいる。
ただ、俺達が開設するのは部活というより交流会、サークルに近しいものであり、そうしたものが開かれたという前例がない。
今のところ顧問の配置をお願いする予定はないため、生徒同士でのサークル活動ならばそちらで勝手にやってくれ、という答えが返ってきそうだ。だが、アイドルの研究会をするのならば、部室の確保くらいはしておきたい。
そういった考えの末、学校側に許可をもらおうとしていたのに、工程を色々すっとばしてくるものだから、呆れるほかない。
「別にいいじゃん。たとえ許可が貰えなくても辞めるつもりないもん。トレンドを通じて交流を深めようとさせてくれない学校側が悪い」
「うん……わがままちゃんの発想やな」
まあ、言いたいことは分かるし一理ある。生徒同士で交流を深めて学校生活を充実させることは決して間違いではない。
「とにかく、許可貰いに行くなら早く行こ。キュアアイドルの布教活動はまだ始まってないんだから!」
「はいはい」
こころの気合の入った言葉に適当に返事する。
だがまあ、これだけ乗り気じゃない癖に何だが、俺も俺で彼女のことは気になっている。
何故ここまでバズったのか。大衆は彼女のどこに魅力を感じたのか。そもそもキュアアイドルとは何者なのか。
これから開く研究会を通じて、それらを追究できるのではないか。
そうした点で賛同し、研究会の開設に乗ったのだった。
──教員からは「うん、いいよ!」の二つ返事だった。