キミとアイドルプリキュア♪ -Revolver- 作:ゆぐゆぐ
「キュアアイドル研究会って、主に何するんだ?」
「キュアアイドルって、この前からバズってる子だよな」
「ねえねえ、私も入っていい!?」
クラスは瞬く間にキュアアイドル研究会の話で持ちきりとなっていた。
まさかこうなるとは思ってもいなかった。
いつものように、こころとアイドルについて語り合う会にする予定だったのが、まさか学内サークルにまでするとは思わなんだ。
結果的にそれなりの人数のクラスメイトに声をかけられる始末。一応会長なので粗方想像は出来たが、何か話すだけで疲れた。新しいクラスの担任の挨拶も話に入ってこないくらい眠い。
「うたはスタープリッ!」
「えぇーやっぱり〜!?」
「おわぁ!」
横からのガタンッという椅子の音と大きな声で思わず驚いて立ち上がってしまった。
誰かが何の前触れもなく奇行を起こせば、当然周りの視線はその人物に集中するわけで、今まさにそんな状況で俺に注目が集まる。
「咲良さん、赤嶺くん。どうかした?」
「あ、いや……すんません!寝てました!」
あれだけ大きなリアクションをしたら何でもないわけがないので、ここは素直に眠かったことを白状する。
「はぁ……授業の時は寝ないよう気をつけてね。咲良さんも大丈夫?」
「あ、えっとぉ……わ、私も夢見てましたッ!!」
こうして、クラスに笑い物にされたことで無事に終了した。
担任は若い教師故、これから問題児クラスを請け負ったと変に重荷を背負う気分になってしまうのだろうか。俺も……咲良さんも多分偶然の産物なのであまり気にしないでもらいたい。
「さて、今度の新1年生歓迎会でやることを決めたいと思います」
HRは次の話題に切り替わる。
新1年生歓迎会──新1年生の入学を祝い、充実した学校生活が送れることを祈る毎春の恒例行事だ。
「はいはいはーい!」
我先にと提案をかけようと、咲良さんが再び立ち上がる。
「歌はどうでしょう!?合唱とか!」
「合唱か、みんなはどう?」
他の生徒達も肯定と捉え、賛同する。
学校行事として1番無難と言ってもいいものを挙げたのもあり、文句をつける者はいなかった。
「じゃあ何を歌うかとか、ピアノの伴奏をしてもらう人とか決めないとね」
「はい」
「ピアノの伴奏」という単語が聞こえた瞬間、俺の左前の席の女子が即答で手を挙げた。
「私、弾きます」
その言葉に、教室にいる全員が拍手をする。
中々に責任が問われる役割を、すぐさま率先して担おうとする姿勢を見れば感心をするのも当然だ。
中には、そりゃあ適任だろうなと拍手をした者もいるはず。
何せ、蒼風さん──彼女はピアノのコンクールで優勝を果たしたスペシャリストなのだから。
そして時は流れ、昼休みの時間。
机を移動するなり誰かの席を借りたりして、友人3人と島を作ってランチをとる。
「にしてもさ、ガチで可愛いよなぁ。キュアアイドル」
「な!あんな笑顔見せられたら流石に惚れるって」
「マジでこの学校にキュアアイドルがいたら、即行で告りにいくのになぁ」
などと、キュアアイドルとワンチャンを狙おうとする奴らの話を聞き流しつつ、俺は別のあるグループの話題に耳を傾ける。
「ネットでバズってたよね!今話題のキュアアイドル!」
「うんうん!すっごくステキだった!」
咲良さんと蒼風さんがいるグループでも取り上げている話題は同じのようだ。
SNSでバズることの凄さと恐ろしさを痛感する。きっかけは1本の動画であれど、一度流行り出せばその勢いは留まることを知らない。
「歌も良いし!」
「可愛いし!」
「なんと言っても笑顔が最高に良い!」
「も、もう!みんな褒めすぎだから〜!」
「何でうたが照れてるの?」
「あっ……な、何でもないよ!勘違い勘違い、あははは……!」
という会話を、唐揚げを咀嚼しながら耳にしていた。
以降はキュアアイドルの魅力について多く語っていたが、やはり奥歯に物が挟まるほどの違和感がある。
もしかしたら、キュアアイドルの正体って──
「信ちゃん?なーに女子達のこと見とんの」
「……あ?」
「あの中の誰かに惚れたん?」
「もしかして咲良さんか?さっき息ぴったりだったもんなぁ」
「ちゃうわい。別に、あの子らもキュアアイドルの話題出してたから聞いとっただけ」
……めんどくさいオタクなのは自覚してるので、開き直って別の意味で研究してみることにする。
俺の読みが外れたなら外れたで、別に損することはない。
知りたくなったことは、アマゾンの奥地の行き止まりになる所まで突き進みたい性格なのだ。
「つーわけで昨日言った通り、研究してくるわ」
「またそんなこと言って……そんなアイドルの秘密みたいなの、信ちゃんが知って何になるの?」
「そういうの知りたくなるお年頃なんや。ついでにグッズやら何やら探しに行ってやるから。ほな」
「まあ、グッズとかはたしかに……ってちょっと!」
というわけで、そそくさと逃げるように部室を去る。
アイドルの秘密の調査に、一分一秒たりとも隙を与えてはならない。
「フンフンフーン」
下駄箱で靴を履き替え、校舎を出た先こそ奇跡的なタイミング。
何やら上機嫌に軽やかなスキップで下校する対象者がいた。
時間は有限である故、今掴んだチャンスを逃すわけにはいかない。
一定の距離を保ちながら、相手に気付かれぬよう追跡する……そう決意して数秒歩いたところで一度立ち止まる。
周りから女子を尾行していると思われないだろうか。
ストーカー或いは不審者、このまま続けていくとそのように思われそうで自分が気持ち悪くなってくる。
「赤嶺くん……?」
「ひゃいっ!」
研究とか追跡とかアホらしくなってきた、とその場で黄昏れていたところに、後ろから名前を呼ばれて思わず身体を飛びつかせる。
「蒼風さん……?」
「固まってたけど、大丈夫?」
「え、あーうん、大丈夫やで」
クラスメイトの女子を尾行してました、だなんて死んでも言えない。
口を滑らせた時点で社会的に死んだと思え、なんて釘を刺すものの、どうしても咲良さんが気になりチラチラと視線を送ってしまっている。
「……うたちゃんがどうかしたの?」
「へ!?いや、今日の咲良さんめっちゃ機嫌ええなー思って……」
それが普通にバレるという。
蒼風さんならどうにか誤魔化せると思ったのだが、案外彼女の勘は鋭いようだ。
早くこの状況をどうにか打破しなければ。防犯ブザーとか常備していたら一貫の終わりだ。
「プリ!?ブルっと来たプリ、マックランダープリ!」
「えー?私の出番来ちゃったー?よーし、今日も活躍しちゃうぞー!」
その時、咲良さんが何故か突然1人で浮かれ、スキップをして校門を出て行く。
同時に、咲良さんとは全く別物の声が聞こえた。空耳とは思えない、はっきりとした声をこの耳で聞いた。
やはり、怪しい。
何かを隠しているとしか思えない言動と行動。
その正体が大したものでないのであれば、それはそれで平和に事が終わるわけだが、明確になっていない以上はそういうわけにもいかない。
「あー……ごめん蒼風さん。また明日な!」
そそくさと強引に誤魔化して蒼風さんから離れ、咲良さんが向かった方向へと走り出す。
突然の出来事だったのか、蒼風さんから呼び止められたような気がしたが、罪悪感を覚えつつも気にせず駆けていく。
〇
咲良さんの後を追う道中、遠くで聞こえる轟音と共に逃げ惑う人々で溢れていた。
おかげで咲良さんの姿を見失ってしまったが、人々の波を掻き分けて向かったであろう方向へ進む。
「マックランダー!」
「はあぁっ!!」
「……は?」
道路の真ん中で、誰かが謎の巨大生物に拳を繰り出している。
対して、この世のものとは思えない叫び声を上げてその人物に対抗する巨大生物。
そんな目の前の光景に困惑する中、ふとある事を思い出してスマホを取り出す。
「まさか、あれが……?」
俺は対峙する人物のことも、巨大生物のことも見たことがある。
まずは巨大生物。以前、ネットニュースで大きく取り上げられていたのと似た姿をしている。確か、『未確認の怪物の出現、そして謎の消滅』という記事だったか。
次に巨大生物と戦っている人物。
金髪にピンクの衣装と奇抜な容姿をした少女。彼女のことも、俺は知っている。
「キュアアイドル、やんな……?」
「やんな?」ではなく、キュアアイドルで間違いない。
つまり、現在ネットで絶賛バズり中のアイドルが、謎の化け物と戦っているというわけだ。
……いや、全くもって理解出来ない。
何故、キュアアイドルが戦っている?何故、はなみちタウンに化け物なんかが出現している?
そもそも、これは現実なのか?夢でも見ているのではないのか?
脳だけがグルグルと思考を巡らせるばかりで、体が動いてくれない。
「赤嶺くん!」
そんな大変な状況の中、背後から聞き慣れた声を耳にする。
振り向くと、突き飛ばすかの如く離れたはずの蒼風ななが走って向かってくる。
まさか、あんな人の波を掻き分けてまで追いかけてきたとでも言うのか。
「蒼風さ……うわぁ!?」
「きゃっ……!」
再び鳴り響く轟音と煙幕で、思わず前に吹っ飛ばされるようにバランスを崩し、近づいてくる蒼風さんを押し倒してしまう。
「った……ごめん、大丈夫!?」
「う、うん、私は大丈……え、キュアアイドル?」
問題ないと言い切る途中で、向こうで怪物と戦うキュアアイドルを目撃し、先程の俺と同じように困惑する。
地面にぶつかったことによる痛みで分かりきったことだが、それでも念の為、蒼風さんに聞いてみる。
「なぁ、俺ら夢見てんのかな。何で今をときめくアイドルが化け物相手に殴る蹴るしてんのやろ」
「分からない、けど……夢じゃないと思うよ」
「ほんまに?熱出した時に見る夢ってこんなんちゃう?ちょっとおでこに手当ててくれん?」
蒼風さんは「うん……」と困った顔をして、手の甲を俺の額に当てる。
「「……?」」
それからお互い何も喋らず、ほぼ同時に首を傾げた。
「蒼風さん、熱あるんちゃう?何か熱いで?」
「多分、走ったからだと思う……」
「あーそっか。ほなちゃうかー。じゃあ次はほっぺ抓ってみよか」
「う、うん……キュアアイドル大丈夫かな」
俺達の後ろで懸命に戦うキュアアイドルの心配をする彼女の頬をきゅっと抓り、対して彼女も俺の頬をむにーっと抓る。
「「いひゃい……」」
「ってことは夢じゃないんやな……え、ほんまに現実かいな!誰でもいいから夢って言ってくれやぁ!!」
「だから夢じゃないって……あ、キュアアイドルが押してる!」
今この状況が現実だと判明したとなれば、俺達みたいな力のない一般市民は颯爽と避難して、化け物をキュアアイドルに任せる他ない。
……いや、本当に役目はないのか。仮に彼女がダメージを受けた時、誰が救護をするのか。或いは、1人で戦う彼女を誰が鼓舞するのか。
周りに人がいない以上、俺達だけでも何かやれることはあるのではないのか?
いや、あるはすだ。この街の平和の存続の為、出来ることならいくらでも──!
「クライマックスはわたし! 盛り上がっていくよー!」
「……へ?クライマックス?」
なんて色々と考えている内に、いつの間にか戦いは終幕を迎えようとしていた。
アイドルがクライマックスを告げた瞬間、周囲が一瞬にしてライブステージへと切り替わる。
「動画で見たステージ……?」
ステージの角度はアリーナに位置する場所にいるせいで動画で見たものとは違うが、一面に照らすライトと、彼女が歌う例の楽曲がそこはかとなく動画で見たステージだと思い出させてくれる。
「プリキュア! アイドルスマイリング!」
そして曲の最後に、ハート型の特大光線を巨大な席に座る化け物目掛けて放ち、観客に向けた笑顔のファンサービスで締め括った。
周囲がステージから元いた街へと戻ってくる。
いつしか化け物に破壊されていた建物や車、崩れていた地面も戻っており、元の街並みを取り戻すようになっていた。
事態の急転が激しいせいで気持ちが追いつかない。
どこからが現実でどこまでが夢だったのか。逆も然り。
ただ、それよりも気になることが2つあった。
「あれ、あのデカいのいなくなった?キュアアイドルもおらんし……」
化け物は恐らく、先程キュアアイドルが放った技によって消滅した。アニメや漫画のようにあまりにも非現実的な可能性ではあるが、それ以外に方法が思いつかず、そう思っていた方がある意味安心する。
安心するけれど、納得はしていない。
アイドルが化け物を退治するなんて光景を見せられて、状況が全く追いつかず、身体も動けなかった。蒼風さんに声をかけられることもなくあのままだったら、無傷では済んでいなかったかもしれない。
化け物を退治してくれたことは非常に有難い話だが、目撃者である以上、事態を説明せずに姿を暗ますのは何ともモヤモヤする。
まだ遠くには行っていないだろうし、辺りを探して事情を剥がしてみせる。
「……ちょっとキュアアイドル探してくる!」
「え、探すって……赤嶺くん!?」
そうして俺は、キュアアイドルを探すために走り出した。
〇
「見つけた……!」
キュアアイドルを探し始めてから十数分ほど経過して、発見する。
はなみちタウンの周辺を見下ろす展望台、人々が普段通りすがる何気ない場所で、彼女はオレンジ色の夕陽に照らされていた。
早速声をかけるようなことはせず、付近の木陰に隠れて様子を伺うことにする。
「プリルン。私、分かったことがあるんだ」
何か覚悟を決めた表情で、キュアアイドルは「プリルン」と呼んだ人物に声をかける。
ただ周りに人はおらず、人影すらもない。誰に話しかけているのか──。
「プリ?」
いや、いた。
何か浮遊した物体がキュアアイドルの声に反応している。そもそも何なのだ、アレは。
「すっかりアイドル気分になっちゃってたけど、私はただのアイドルじゃない。光で闇を照らす救世主……」
そう言って、全身をピンク色の光に包まれいる。姿を別の物に変えようとしているのか。非現実的な言葉を使うならば、「変身」と言ったところだろうか。そして、変身をしたその姿は、何となく俺の知っている人物……どころか、先程まで俺が追っていた子とそっくりである。
「え、嘘……」
「真っ暗闇をキラッキランランにする、アイドルプリキュアなんだって!」
「咲良さんやん!?」
「……え!?はい、咲良さんです……」
あまりにも衝撃的で、思わずバッと立ち上がって反応してしまう。それに驚いたのか、咲良さんも自身の名前を呼んで反射的に返事をしていた。
……ピュー、というやや強めの風に吹かれながら、お互いに身体を硬直する。
「……や、やあやあ赤嶺くんっ!奇遇だねえこんな所で会うなんて〜!い、今ね、この迷子の宇宙人?みたいな子に声をかけられちゃってさ〜!あはは……」
必死に弁明してくれているところ申し訳ないが、もう遅い。
「……ほんまにごめんなんやけど、ほぼ全部聞いてもた。真っ暗闇をどーたらこーたらする、アイドルプリキュアなんだ〜、って」
「本当に全部じゃん!?」
言い逃れ出来ない様子の咲良さんは、隣で浮遊する宇宙人?と顔を合わせる。
本日2度目の沈黙の時間が、何とも気まずい。
「あー……誰にも口外せんよ?何か色々事情とかあるんだろうし」
「本当?内緒にしてくれる!?」
宇宙人と共にズイッと急接近してくる。誰かに目撃されるのはかなり不味いことだったのだろう。
「うん。内緒にする」
「っ……!ありがとう!」
「ありがとプリ!」
俺が内緒にすることを必死に願っていたのか、それが叶うと2人は表情を明るくして深く頭を下げた。
こちらから突っ込むことはしなかったものの、咲良さん達からほんの少しだけ事情を説明してくれた。
この浮遊しているのは宇宙人ではなく、プリルンと言うらしい。はなみちタウンに流れる川から桃太郎の如く現れたという。正直、意味が分からなかった。
プリルンに関しては、ここまでにしておいた。その先は部外者が2人の事情に首を突っ込むのと道理だと思ったからだ。
そして、もう1つ──
「さっき見てもたんよ。キュアアイドルがデカい化け物と戦ってるところ」
「そうなの!?」
「まあ、化け物だの何だので頭ん中バグリ散らかしてて、あんまり目を凝らして見れてなかったんやけどね。でも、何となく凄かったなって思った」
語彙力な皆無な話し方をしてしまっているが、それほど先程は情報が錯綜していたのだ。
ただ、あの時のキュアアイドルは強くて、かっこよくて、凄かった。そんな気持ちを伝えた。
「いやぁ、そう言われると照れるなぁ。明日のお昼、タコさんウインナーあげるね」
「……怖くないん?」
「え?」
「あんなのに1人で立ち向かうなんて、普通に考えたら危険すぎるやん。だから怖くないんかなって」
そんな俺の言葉に、咲良さんは微笑んで答える。
「怖くはない、かな。ただ戦うだけだったら怖かったと思うけど、それよりプリルンやこの街の皆を助けないと、守らないとって気持ちの方が強いかも」
その答えに「だろうな」と思ってしまった。
そうでなければ、自らを救世主と称することはしないし、そもそも真っ向から怪物となんて戦わずに逃げているはずだ。それでも、俺は1人の戦士ではなく1人の人間に問いてみたかった。
「……無理はせんで欲しいな。キュアアイドルは強いから過度な心配はいらないんだろうけど、それでも誰かが傷つくところは見たくないんよ」
咲良さんの瞳を見つめて、俺は告げた。
戦う資格のない一般市民から、目の前の大注目のアイドル、怪物と戦う戦士、そして1人のクラスメイトへの精一杯の気持ちだ。
「……ありがとう。でも大丈夫だよ。キュアアイドル、本っ当に強いから!」
「……っ」
眩しいくらいに明るい表情と声音が、俺の不安な気持ちを消し飛ばそうとする。まさに闇を晴らす光の戦士として、覚悟が決まっていた。
ただそれでも、やはり俺の不安は完全に拭えないでいた。
その言葉も声も表情も、何処か『あの子』と似ていたからだ──。