キミとアイドルプリキュア♪ -Revolver-   作:ゆぐゆぐ

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Episode:2 自信を失くしたピアニスト

 

 咲良さんがキュアアイドルだと発覚してから翌日。

 だからと言って、日常が丸ごと変わることはない。

 

「行ってきまーす」

 

 家族に見送られて家の扉を閉める。

 隣人であるキュアアイドル研究会の副会長──紫雨こころとは新人歓迎会の朝練があるからと、今朝は別行動としていた。

 

 我が校の通学路付近であんな騒動があったというのに、周りの風景は変わらない。

 俺のクラスは、しばらく新人歓迎会やキュアアイドルの話題で賑わっていた。

 

 俺も俺で、前日の出来事に頭がいっぱいになっている。

 咲良さんがキュアアイドルだったことも勿論そうだが、何より彼女に課せられた使命に衝撃を受けた。

 

『私はただのアイドルじゃない。光で闇を照らす救世主。歌って踊ってファンサして、真っ暗闇をキラッキランランにする。それがアイドルプリキュアなんだって!』

 

 詳細は聞かなかったものの、彼女の何かを背負って戦おうとする覚悟に思わず惹かれてしまった。

 何故、根底はただの中学生である咲良さんがそのような覚悟を背負うのか。何が彼女をその気にさせたのか。聞いてみたいけれど、部外者である俺が軽々と首を突っ込むものではないと抵抗してしまう。ただ秘密を知ってしまった以上、事情を聞く権利は多少なりともあるのではないかという葛藤も生じている。

 

 おかげで、今朝から午後の授業までずっとこんな調子だ。

 授業中も先生の分かりやすい解説がほとんど頭に入ってこなかった。馬の耳に念仏状態とはこのことだろうか。とにかくぼうっとした時間が続いていた。

 

 そうした状態で合唱練習となった午後のLHRも、何となくで適当に口を動かして歌うフリをする。

 

「……あっ!」

 

「え……?」

 

 曲が終わる最後の伴奏で、本来の譜面とズレた音が弾かれ、ピアノ担当の蒼風さんが慌てた声を出した。まさかの事態に周囲は困惑している。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「ななちゃんでも失敗するんだね……」

 

「うーん、どこか具合が悪いとか?」

 

「あのピアノコンクールの優勝者の蒼風さんが……」

 

 蒼風さんが率先してピアノ伴奏を担おうとしていた時の反応もそうだが、周囲のピアノにおける彼女の評価は天才肌と呼ぶに相応しいものだ。

 俺も同じように、蒼風さんのピアノの才能は高いと尊敬している。ただ、多少の間違いを犯しただけでここまでざわつくものなのだろうか。

 

「なあ、蒼風さんが間違えるってそんな珍しいことなん?」

 

 思わず、隣のピアノ経験者の男子に問いかけた。

 彼もまた、ピアノコンクールでそれなりの成績を上げている実力者らしい。

 

「蒼風さんの伴奏はプロも顔負けの実力を持ってるからね。特に最後のは山場を終えた後だから、曲の中では初歩的な譜面だ。そこを間違えるなんて、気持ちが安定していないのかもしれない」

 

 なんて、冷静に分析するクラスメイト君。

 俺からすれば、中々にプレッシャーを与えているように思えてしまう。いくらプロであっても難易度関係なしに間違える時だってあるのだから、当の本人も落ち込んだ様子だし、そこまで物珍しく言わなくたっていいのではないか。

 

 そうして午後の合唱練習が終わり、放課後となった。

 

 持ち帰る教材や道具を鞄に収納し、研究会の部室へと足を運ぼうとすると、横からチラチラとこちらに視線を送ったり逸らしたりする咲良さんと、その後をつく蒼風さんがゆっくり近づいてくる。咲良さんに至ってはまるで不審者の歩き方だ。

 

「あ、赤嶺くん、この後って空いてる?ちょっと話したいことあるんだけどさ……」

 

 と、気まずそうに話す。

 まさか、キュアアイドルの正体がバレたことが不幸を生んでしまったのだろうか。

 

「……ここじゃ話せんこと?」

 

「うん、あの、こういうことなんです……」

 

 そう言って、半分に折られた手紙をそっと俺の机の上に置いた。

 手紙を手に取って、中身を確認した後、

 

『ななちゃんにキュアアイドルとプリルンのことをバラしてしまいました……』

 

 天を仰いだ。

 そそくさと人気のない廊下へ、咲良さんの制服の袖をくいっと掴み、蒼風さんも連れて移動する。

 

「……何で?」

 

「いやぁ、つい思わず口が滑っちゃって……ああでも!喋っちゃったのはキュアアイドルとプリルンのことだけで、それ以上は話して……」

 

「おー待て、そこから先は俺も知らんし、あとそんなに声出さん方がええよ。一応廊下やし」

 

 そう止めると、しまったと言わんばかりに咲良さんは口を両手で強く塞いだ。

 アイドルプリキュアたる者として、セキュリティ管理が脆いように思えてしまう。

 とはいえ、キュアアイドルが怪物と戦っている光景自体は蒼風さんも目にしていたわけだから、正体がバレるのも時間の問題だったのではと言われれば頷ける。

 

「と、とにかく!改めて、私達のことは3人だけの秘密ってことで!お願い!」

 

「「う、うん……」

 

 内緒にするというのは俺も、恐らく蒼風さんも重々承知の上なのだが、口酸っぱく言ってる本人がその秘密を他所にバラしてしまわないか心配であった。

 

「それでね!放課後にななちゃんが私の家に来るんだけど、折角だし良かったら赤嶺くんも来る?」

 

「え、俺?ご両親がええって言ってくれるならええけど……一応言っとくと、男やで俺」

 

 男の子が女の子の家にお邪魔する、またその逆においても何らおかしいものでも、危惧しなければならないものでもない。

 ただ、中にはそれを良からぬとする厳しい家庭もある。

 不純異性交遊に発展したらどうしよう、とか、俺らみたいな思春期という年頃とされる中高生なんかは特に恐れられているようだ。

 無論、俺はそんなことをするつもりなど毛頭ないが、念の為に訊いておきたい。

 

「あー全然気にしなくていいよ?寧ろクラスメイトが来たってなったら、男女関係なしに歓迎してくれると思う。それにウチって喫茶店やってるから、是非飲んで行くといいよ。美味しいよ?」

 

「そうなんや。じゃあ……お邪魔します」

 

 俺の僅かな不安とは裏腹に歓迎ムードのようだ。それならば断る理由まないので、お言葉に甘えることにした。

 

「たっだいまー!」

 

 カランカラン、という鈴の音と共に咲良さんが勢いよく扉を開く。

 この音も勿論だが、入口付近にあった看板も相まって、まさしく「お洒落な喫茶店」を漂わせる雰囲気のお店だ。

 凄いな、繁盛して商売も上手く行ってるんやろな。

 

「「おかえり」」

 

「おかえりお姉ちゃん!」

 

 咲良さんの元気な挨拶に、ご両親と妹さんと思われるご家族が笑顔で応える。他に従業員は見当たらず、家族でお店を経営しているようだ。

 

「今日はお友達のななちゃんと赤嶺くんを連れてきました!キラッキランラーン!」

 

「はじめまして、今年から同じクラスメイトをやらせてもらってます。赤嶺信一です」

 

「同じく、クラスメイトの蒼風ななです」

 

「いらっしゃい」

 

「こんにちは!えっと、ななちゃん、信一くん。咲良はもりです!」

 

「よろしくね、はもりちゃん」

 

「よろしゅうな」

 

 咲良さんのご両親、そして妹のはもりちゃんにも笑顔で歓迎してくれた。

 はもりちゃん、小学生なのにしっかり目見て挨拶出来るなんて偉い子だ。少なくとも超クソガキだった当時の俺の1億万倍は偉い。

 

「ささっ、2人ともこっち」

 

 咲良さんに誘導され、席に座る。

 まもなく差し出されたのは、濃い緑色のジュースにチェリーが装飾された……恐らくこれはクリームメロンソーダか。

 

「ウチのキラッキランランなクリームソーダ。これでななちゃんも元気いっぱいだよ!」

 

「うん、いただきます……とっても美味しい!」

 

 クリームソーダを飲んで満足気な蒼風さんを見て、俺も続いて口に含む。

 

「……なんか、おもろい味やな。好きやわぁ」

 

 初めのクリーミーな味わいから徐々にジュースの味が混ざり合っていき、クリームが溶け込んで甘味を広がらせる。

 生まれてこの方、クリームソーダを飲んだ経験はなかったのだが、また1つ好物が増えたかもしれない。

 

「あっ、お金払ってなかった。財布財布……」

 

「あぁ、お金はいらないよ。折角うたが連れてきてくれたクラスメイトだ。今日はサービスだよ」

 

「あー……じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 なんて神対応をしてくれるのだろうか、このお父様は。後で評価レビューに星5つけておこう。

 

「ピアノ……」

 

 すると、蒼風さんが近くにあったピアノを見るなり、ぽつりと呟く。

 

「ななちゃんピアノ弾けるの!?」

 

「うん」

 

「はもりも弾けるよ!きらきら星!!」

 

 そう言って、はもりちゃんはピアノに向き合い、片手できらきら星を弾いてみせる。片手のみというのもあり、腕前はまだ奏者の卵とされるだろうが、それでも全くもって違和感のないメロディーで演奏している。

 

「新品みたいにピアノ綺麗ですね。はもりちゃん用に買われたんですか?」

 

「いや、うたも実は幼稚園の頃、習っていたんだけどね……」

 

 俺の問いにお父様が答えてくれるも直後、ご両親と顔を合わせて苦笑する。

 

「何かあったんです?」

 

「うーん、どうもうたには合わなかったみたいで……発表会で歌い出してからそれっきり」

 

「歌い出したんですか。ピアノの発表会で……へえ」

 

 それはそれは、よほど注目を浴びたことだろう。咲良さんは本当に歌うのが好きなんだね!なんて範疇を超えた、異端という意味合いで。

 

「これが、その時の写真」

 

 そう言って、ご両親は1枚の写真を俺達に見せる。

 

「これ私!」

 

「……これ、私」

 

「うん?」

 

 咲良さんが幼い頃の自分を指差して、その隣の子を蒼風さんが指差す。

 何故、と一同が疑問を持ったが、すぐさま解消されることとなる。

 

「前に会ってたってことなん?」

 

「……あ、私、うたちゃんのこと知ってる!確か、この隣の女の子から励まされたんだよね。それがうたちゃんだったなんて……!」

 

「あの子、ななちゃんだったんだ……凄い凄い!運命の再会だ!超キラッキランランだね!」

 

「今もあのおまじない、ずっと大事にしているよ!ありがとう!」

 

 そうして2人は再会を喜び合った。

 そりゃあ発表会で歌い出すなんて行為をした子なんて衝撃的で嫌でも覚えてるだろうとか思ったが、2人の間にちゃんとしたエピソードがあったようだ。

 蒼風さんにとって救ってくれた子とまた会えたこと、咲良さんも言ったがまさしく"運命の再会"と言えよう。

 

「「ご馳走様でした」」

 

「ねぇ、ななちゃん。一緒にピアノ弾こ?」

 

 クリームソーダを飲み干すと、はもりちゃんは誘われたななは蒼風さんをピアノのデュエットに誘う。

 ピアノの方に移動すると、はもりが再度片手できらきら星を演奏する。はもりちゃんのメロディーに合わせ、崩さぬように蒼風さんが伴奏で支える。本場のピアニストからのサポートは、この曲のメロディーをより際立たせた。

 

「ななちゃん凄い!」

 

「うんうん!お空がきらきら星で満開だよ!」

 

「そんなこと……」

 

「赤嶺くんもそう思うよね!?」

 

「ん、ああ、うん。ほんま凄いなーって……」

 

 言ってる途中で蒼風さんの表情を見て、ふと合唱練習のことを思い出して口を止める。

 

「もしかして今度の歓迎会、ななちゃんがピアノ弾くのかしら?」

 

「あ、はい……」

 

「ななちゃんがピアノ弾くなら、はもりも見に行きたい!」

 

「はもり、静かにしてられる?」

 

「むっ、できるもん!良いよね、お母さん?」

 

 そんなやり取りが繰り広げられるその隣で、蒼風さんは合唱練習の時と同じように俯いていた。

 照れくさい気持ちもあるとは思うが、それとは別に周りから沢山の称賛を得て、逆にそれがプレッシャーとなって受けているのではないか。

 

 ピアノコンクールの優勝者、プロも顔負けの実力者。

 そんな彼女に、期待という重圧がのしかかっていた。

 

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