キミとアイドルプリキュア♪ -Revolver- 作:ゆぐゆぐ
陽が沈む時間帯となり、俺と蒼風さんは帰路に着く。
蒼風さんとは途中まで同じ道のようで、適当に軽く雑談をしながら歩いて行く。
どうにか気を紛らわせるように話してはいたのだが、感触としては今一つな気がしてならなかった。
「……ごめん。勇気付けようと気を遣わせちゃって」
「いやいや、気遣わせたなんてそんな……!」
全くもってそういうつもりはない。
気持ちが晴れないまま、本番まで時間を過ごして欲しくないと思って俺が勝手にやったことだ。
だが、気を遣わせてしまったと謝らせてしまっては意味がない。お節介だったかと罪悪感が募ってしまう。
とはいえ、俺が出来ることと言えばこれくらいしかないわけで、他にどうすれば良かったのか思いつかなかった。
「でもね、今日は本当に楽しかったよ。はもりちゃんを見てると小さい頃を思い出して、懐かしく思えた。昔は私もあんな風に楽しく弾いてたなって……」
「今は楽しないの?」
俺の素朴な問いに、ぎこちなく頷く。
「コンクールで賞を取って期待される内に、その期待を裏切らないようにって思うようになっちゃって……コンクールで失敗したあの日から、ピアノから逃げるようになってた」
午後の合唱練習で隣にいたピアノ経験者君の言っていたことは概ね正解だったかもしれない。
『蒼風さんの伴奏はプロも顔負けの実力を持ってるからね。特に最後のは山場を終えた後だから、曲の中では初歩的な譜面だ。そこを間違えるなんて、気持ちが安定していないのかもしれない』
期待というプレッシャーをかけられ、苦しい思いをしながら演奏していた。それこそが、彼女が気持ちを乱し、失敗してしまった根本的な原因だった。
「……やっぱみんな無責任やわぁ。勝手に期待しまくっておいて、一度ミスっただけであーだこーだ言って……どれだけピアノ上手かろうが誰だってミスするやろ」
「しょうがないよ。みんな悪気があって期待してくれてる訳じゃないから。私が勝手にミスして勝手に落ち込んでるだけだよ」
「それに」と、蒼風さんは握った両手を胸に当てて言葉を続ける。
「私、今度ははもりちゃんの為に頑張ろうかなって思ってる」
「はもりちゃんの為に……?」
「色んな人の期待がプレッシャーになっちゃうなら、今度は誰かの為に……ピアノの楽しさにもう一度気付かせてくれたはもりちゃんの為に演奏したい!」
──無論、期待してくれている人達を蔑ろにしようとしているわけではない。
その中でも、乱れていた気持ちを修復し整えてくれた子の為に、その子の心を揺れ動かす演奏をしたいと、彼女は言っているのだ。
1日という短時間で悩んでいた想いを整理し、決意するのはとても容易なことではない。
だから、俺はそれを聞いて──
「……うん、そっか」
とても、素敵なことだと思った。
〇
快晴の朝。
輝かしい中学校生活を夢見る新入生を歓迎するには、うってつけの天気だ。
そんな歓迎会の当日も、早朝からリハーサルという形で最後の合唱練習が始まる。
もう少し寝かせろと言わんばかりに閉じようとする瞼を擦りながら、身支度を済ませ外出する。
「……おはよう」
ドアを開けるとその先に──紫色のナニカがいた。
なので、思わずパタンとドアを閉める。
「……妖怪がおる」
「誰が妖怪ですか」
閉めたはずのドアが開き、アイドル研究妖怪──こころが睨みつけてきた。
こうなってはもう逃れられない……別に逃げる気はないのだが、仕方なく一緒に登校することにする。
「新1年がこんな早い時間に行っても何もないで。あと5分くらい寝んねしぃや」
「研究会、朝活もするって話したじゃん」
「今日の朝まで行かれへん言うたやろ?本番直前に体育館でリハすんねんって。東中さんだって来られへんし、今朝やったところで来る人少ないんちゃう?」
「みこと先輩達はいつも参加してくれるから良いの。信ちゃんなんか変な理由付けて一回も参加してないし、今日こそは逃がさないからね」
「変な理由って、まあ……」
『キュアアイドルの秘密を研究してくる』に関しては、思えば確かに変な理由だった。
ストーカーまがいの愚かな行為をして、結果的に本当に秘密にしなければならないことを持ち帰ってしまったので、誰かに話すなんてことは出来ない。こころに話してしまったら、最悪の場合、こころの夢を壊すことに繋がりかねない。
「分かった。午後は行ったるから。というか、行事が落ち着いたら行くつもりやったし」
「本当?絶対約束だよ?」
こうやって参加を表明しても微かに疑われる始末。
どうやらこころにとって、俺が研究会に参加しない罪は重いらしい。
「っ、何だ地震か……!?」
すると、周囲でドーンと地響きのような物音が響き渡り、同じ通学路を歩いていた学生達がどよめき始める。
地震というよりは、何かが爆発した音のように聞こえたが──
「まさか……ごめんこころ、これ持って先行っといて!」
「えぇ!? ちょっと信ちゃん!」
そう言ってカバンをこころに持たせ、スマホだけを持って物音のした方向へ走り出す。
「全然繋がらへん! もしかしたら、もう戦ってるのかも……!」
あの例の怪物が出現して暴れ散らかしているものだと思っていたが、咲良さんが既に発見して、キュアアイドルに変身して交戦中なのかもしれない、と予感する。
「マックランダー!!」
「朝からうるさいピアノはご近所迷惑だよ!」
現場へ着くと、その予感は見事に的中していた。
キュアアイドルと戦闘を繰り広げているのは、ピアノの姿をした怪物──その叫び声から仮に『マックランダー』と称する。前回出会ったヤツとは違い、種族が色々いるようだ。
アイドルの強力な攻撃を喰らったマックランダーは怯んで体勢を崩す。この目で見る限り、アイドルが優勢を取っているようだが、負けじと瞬時に崩した身体を起こす。
「マックランダー!!」
すると、今度は持ち前の鍵盤を乱暴に叩き、耳を塞ぎたくなるほど聞くに堪えない不協和音を奏で始める。
アイドルも思わず耳を塞いで身動きを取れないでいる。それを見たマックランダーは更に出力を上げて衝撃波のようなものを放った。
「ああっ……!?」
「良いぞ! やれやれー!」
アイドルが衝撃波に吹き飛ばされてしまったその中で、近くで怪物の応援をし出す者が1人。
その方向を見ると、宙に浮いた男がやいのやいのと無邪気な子供のように怪物を鼓舞していた。
何だアイツは、もしやあの男がマックランダーを生み出したのか、と疑念を抱くが、それよりもアイドルの安否が心配だ。
「アイド──」
「うたちゃん!」
「っ、は? 蒼風さん!?」
この戦場にいたのはアイドルとマックランダーと例の男だけではなかった。
前回のように後を付けていたのか、いつしか蒼風さんもこの場に加わっていた。
「ななちゃん!? 赤嶺くんまで!?」
アイドルは俺と蒼風さんがこの場にいると思わなかったのか、思わず意表を突いてしまう。
その隙をマックランダーが見逃すはずも無い。再び鍵盤を叩き、それによって生成した音符型の物体をアイドルに向けて放射する。
「危ない!」
アイドルが即時に無防備な蒼風さんを抱えて、現場から一時離脱する。音符型の物体はアイドルがいた地点で爆発した。そこから広がる煙幕を利用して、俺は2人の元へと走る。
「蒼風さん連れてどっか避難しとくから、アイツを頼む」
「うん、お願い!」
そうしてアイドルはもう一度現場へ戻り、再度拳を振るい始める。
その間、俺は蒼風さんを連れてマックランダーの攻撃が当たらないくらいの場所まで離れて様子を伺う。
「うたちゃん……」
隣で友達の安否を心配する声が聞こえてくる。
本当は1人で戦うアイドルを助けたいと思っているのだろう。
だが生憎、俺と蒼風さんのような力を持たない者は、この戦いでは弊害でしかない。俺達に出来ることはただ、キュアアイドルの活躍を見守るだけだ。
だがその時──
「嘘、何これ!?」
「キュアアイドル、チョロイもんだぜ!」
「キュアアイドルがピンチプリ〜……」
絶体絶命。
またも鍵盤を乱暴に叩き、不協和音を奏でて生成し放射したシャープの形をした複数の物体がアイドルの周りを囲んだ。
やがて猛攻を阻む壁が四方で出来上がり、やがて牢屋となってアイドルを閉じ込めた。
「頑丈過ぎるよー!」
頑丈な牢屋はアイドルの力を持ってしてもこじ開けることができない。
「うたちゃん……!」
「……あんなんなってしもたら、しゃーないなぁ」
非力な俺達が加勢に入ったところで無駄死にするだけなのは百も承知だ。
だが、万事休すな状況である以上、このままだと恐らく、キュアアイドルは負ける。僅かながらでも力を貸してみるほかない。
「待っとってや。今どっかから武器になれるもん探しに……って、ちょっとぉ!?」
するとその時、蒼風さんが急に飛び出し、アイドルの元へと走り出す。無防備の状態で堂々とアイドルの目の前に飛び出して行ってしまった。
「ななちゃん危ないよ、逃げて!」
アイドルが逃げるよう促すも、離れる素振りを見せないでいる。
「みんなに、勇気をくれた。ピアノを弾く楽しさを思い出させてくれた。だから、私は逃げない。キュアアイドルみたいに、私もなりたい!」
「ザックリゴチャゴチャうるさい奴だな。やっちまえ、マックランダー!」
何も出来ない無力な少女の戯言に痺れを切らしたのか、突如マックランダーに指示を出す。
マックランダーから放たれた音符の弾丸が、容赦なく蒼風さんへと接近する。
「だから私──逃げない!」
決意を言葉にしたその時、蒼風さんの胸の内を眩い青の光が包み込み、向かってきた攻撃全てを弾き飛ばした。
その光は縮小し、やがてリボンのようなアイテムへと形を変えていく。
幻想的な捉え方をするならば、恐らくソレはキュアアイドルが変身する際に使用するアイテムと同じものであろう。
「プリ!?」
全く同じタイミングで、今度はプリルンが背負っているポシェットからブローチのようなものが蒼風さんの手に渡った。
「ななちゃん……!」
アイドルの声に応えるように、彼女は一呼吸置いて2つのアイテムを強く握りしめる。
俺は何となく、蒼風さんがこれからやろうとしていることが分かる気がした。
特撮番組で見た事ある構図だ。それに沿ってこれから起こることを読みとるならば、
──蒼風ななは変身する。それによりキュアアイドルと同じく、新たなアイドルの誕生となるのだ。
「プリキュア! ライトアップ!」