女になってからというもの、女特有の文化に辟易していた。かといって男の中に生きれば恋愛が絡み面倒だった。だからか、朴念仁といわれる織斑一夏とかかわるようになったのは自然な成り行きだった。
かくして彼と彼を取り巻く人間関係は、私の人間関係の大半をしめることとなった。
そこで私は女の友情を知り、他人の恋を応援したりした。
今はIS学園の中、生徒同士の自己紹介が行われようとしていた。
一夏がこちらを向く、箒の方を向く。
私も箒もそれを無視する。
きっと箒はどう接していいのか困っているのだろう。何せ6年で、その間のやり取りはない。
あの性格のことだからいまだに一夏のことが好きなのは変わらないのだろうが。
かくいう私は箒以上に気まずかった。中学の友人と別な進路をとるというのもあって、今生の別れのつもりで接していたからだ。
「織斑一夏です…よろしくお願いします。」
少し申し訳なくなった。冷静に考えれば、思春期真っただ中の健全男子が、男一匹で女子高にブチこまれているのだ。その苦しみは想像に難くない。
「ゲッ千冬ねえ」
彼の頭にこぶしが叩き込まれた。
「ばかもの。学校では織斑先生だ」
一夏のお姉ちゃん、織斑千冬はこぶしを持ち上げ、あきれたように言った。
「先生、もう会議は終わられたんですか?」
緑が髪の女教師が織斑先生に聞いた。先ほどまでの慌てぶりが噓のように穏やかな表情をしていた。一夏のお姉ちゃん、職場で頼られるタイプだったんだ。ちょっと意外。
「クラスでのあいさつを押し付けてすまなかったな」
まるでいい大人かのような返答だ。今まで一夏のお姉ちゃんにあこがれている人には何人にも出会ってきたが、そういう人に会うたびに、本物を見たらそうはならないという気持ちを心に秘めて接してきた。これなら彼女たちも浮かばれるだろう。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を1年で使い物にするのが私の仕事だ」
鬼教官!
そう思った私の思考は、周囲の絶叫にてブッ飛んだ。知っている人が有名人をしていると「あの人、俺の知り合いなんだぜ」と言いたくなるミーハー心が沸き立つのが人の性だが、そんなことをへたに言うと殺されかねない空気感だった。仲良くなるまで黙っとこ
「毎年よくもここまで馬鹿者が集まってくるものだ。私のクラスに集中させているのか」
彼女のあきれ声に声は静まり、再び絶叫がつづいた。支配者の声をきくため静まり、また狂気に戻る。まるでディストピア小説のような怖さがあった。
「で、挨拶も満足にできんのか、おまえは」
「千冬ねぇ」
「学校では織斑先生だ」
「織斑先生」
一夏はぐえっとなりながら呼び方を改めた。
「諸君らには半年でISの基礎知識を覚えてもらう。そして半月で基本動作を体に叩き込んでもらう。いいな!良ければ返事をしろ。よくなくても返事をしろ」
同級生一同は「ハイ!」と返事をした。そこに一夏の声はなかった。
山田先生は話始める。
「IS、正式名称インフィニット・ストラトスは、本来宇宙探索を想定されたマルチフォームスーツです。今はアラスカ条約によって軍事利用を禁止され、主にスポーツに利用されています」
ISとは便利で強い宇宙服だ。サイズが小さいので、従来の兵器では当てられないほど小さく、ジェネレータが優秀なので、従来の兵器よりも演算能力および火力で上回る。雲隠れをしている箒の姉が制作し、市場を独占している。これを使えるのは女性のみだったが、最近一夏が使えることが判明した、
山田先生は、学校の説明会で話したような内容を話したあと、笑顔で言った。
「では、今日から3年間、しっかり勉強しましょうね!」
そうして休み時間に入った。
ほかの生徒は早々に教室からでてお互いをけん制した。学園唯一の男に最初にかける女に誰がなるかの戦いだった。
箒が動いた。私も動いた。箒から一夏と屋上に行くと連絡を受けたからだ。入学式の時点で交換していてよかった。
「ちょっといいか?」
箒が一夏に話しかけた。
「え?」
二人して屋上に行ったのをみて、私もついていった。
「いやぁびっくり。まさか一夏がIS乗りになるなんて」
くそう。箒だけ6年ぶりだからちょっとアウェーだ。なにより恋する乙女の心境の複雑さ。ここは年上の私が昔話で話しやすくしよう。
「俺もびっくりでさ、まさか箒もいるなんて。久しぶり、箒ってすぐわかったぞ」
「え」
ナイスだ一夏
「ほら、髪型一緒だし」
「城子といい二人とも、よくも覚えていたものだな」
「おぼえてるだろ、幼馴染のことくらい」
その後、とりとめのない話をして教室に戻った。
教室に戻り、授業が始まった。私は、結構前から学んでいたことだから問題ないが、きっと一夏はそうじゃないだろう。
それをわかっているからか、山田先生が一夏に聞く。
「質問があったら教えてくださいね、なにせ私は先生ですから」
「ほとんど全部わかりません」
「今の段階で」
「入学前に渡した必読と書かれた本は読んだか?」
「間違えて捨てました!」
「ばかもの。再発行する、1週間で覚えろ」
「はいぃやります」
そうして授業は進んだ。
休憩時間、今度は金髪の女が一夏に話しかけた。
「ちょっとよろしくて」
“ちょっと”を使いこなしているなんて、流暢な日本語だ。
話しかけられた一夏はうなだれている
「私に話しかけられただけで光栄なのに、相応の態度があるのではないかしら?」
「わるいな、君がだれかしらないんだ」
「ご存じない!?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生で入試主席なのに!」
「質問いいか?」
一夏は彼女を制しながら質問をかけた。彼はこういう時、結構素直なのだ。
「下々のものの質問に答えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」
彼女は声高らかだった。
「代表候補生ってなんだ?」
「なんという無知、なんという蒙昧。そんなこと常識も知らないなんて、日本の男性ってそうですの!?」
一夏。さてはISのこと、割とどうでもいいと思いながら新聞を読んでいたな。
「で、代表候補生ってなんだ?」
「国家代表のIS乗りの候補である、エリートのことですわ!単語でわかるはずですわ。本来、わたくしと同じクラスでいられることもラッキーなのですわ」
「ああ、それはラッキーだ」
「馬鹿にしてますの?」
「お前がいったんじゃないか」
一夏はあきれ気味で、それに対しセシリアは怒りを持っているようだった。
「なにも知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一の男と聞いていましたが、あきれましたわ」
セシリアはやはり声高らかだった。彼女の一人舞台に、すでに一夏は興味をなくしたようだった。
「わからないことがあれば、まぁ泣いて頼めば教えて差し上げなくもないですわ!なんせが入試で試験で教官を倒しましたのですから!」
「俺も倒したぞ」
「そんな聞いてませんわ!」
そこでチャイムが鳴った。
放課後、箒から相談が来た。つい一夏に暴力をふるてしまったこと、それで彼に嫌われていないかといった内容が長文できた。仲直りできるよう、朝食は同じ部屋の人と食べよう。一応一夏と箒にその旨の連絡をしてとっとと寝た。
朝、同じ部屋の子を起こさないように部屋を出て、早めに朝ご飯を食べた。授業が始まるまでの間時間があったため、自分の専用機の手入れをした。
私は転生者らしく転生特典を持っている。その特典の内の一つがこのジ・Oだった。zガンダムのラスボスの機体でテレパシー的なのでひたすらに反応がいい。武装はビームライフルとビームサーベルのみ。シンプルイズベストなこの機体は、私の好みに非常にあっていた。テレパシー的な感応と高すぎる空間把握能力、ジ・Oを作れるまでの知能が私の残りの特典だった。
2日目の授業が始まる前に、織斑先生がクラス代表を決めると言い出した。次々と一夏に投票される。
「納得いきませんわ」
と、セシリアが異を唱えた。昨日の一夏とのやり取りも相まって、相当鬱憤がたまっていたのだろう。
「だいたい、文化としても後進的なこの国で過ごさなければならないこと自体屈辱で」
「イギリスだって大したお国自慢ないだろ」
「なんですって!?」
流れと勢いで立って口喧嘩をしだした2人に注目が集まる。
「祖国を侮辱して、黙っていられますか。勝負ですわ」
「ハンデはどのくらいつける」
クラス中が笑い出す。冗談だと思われているのだろう。
「御冗談で?むしろ経験者である私がハンデをつけて差し上げるところですわ」
「そうだった。いや、いい。男に二言はない」
クラスが静まり帰ったその時、織斑先生が口を開く。
「話はまとまったな。勝負は次の月曜、第3アリーナで行う」
ほんとに勝負するんだ。ならば
「織斑先生、私も立候補します」
専用機乗りとして、戦える機会を逃すわけにはいかない。
「え城子が?」
「うん。隠してたわけじゃないけど、私、日本の代表候補生だから」
「ええ?あなたがもう一人の代表候補生ですの?」
そうか。私は露出が少ない。私のチームに割かれる人員は3人だけで、技術屋は私含めて2人だ。転生特典のおかげで、設計開発テストのすべてを一人で行うことができたから省エネで済んでいる。
「他に立候補者はいないか?勝負は総当たりで行う。織斑、オルコット、手升はそれぞれ準備をしておくように」
「織斑、おまえのISだが、専用機が与えられる」
「それを聞いて安心しましたわ。イギリス代表候補として、専用機乗りとして、フェアな戦いができるというもの」
「専用機乗りってそんなにすごいのか?」
またまた一夏の無知かと一人のクラスメイトが解説をはじめた。
「ISのコアは467基
「お前は事情が事情だから専用機を与えられる」
箒は篠ノ之という名前で妹だとバレ、クラスメイトがざわついたが、不機嫌な箒に一蹴された。
箒の姉はあれだから不機嫌なのもわかる。別の理由があるかもしれんが。
話がひと段落したところで授業が再開する。既知の内容だったので専用機のアイデアを練っていた。私のジ・Oはまだ完成していない。サブアームの動作についてまだ納得のいく調整が言っていない。今は脳波からの指示をAIで予測させ、疑似的に反応速度を上げる形にしている。しかしAIの予想ではデータが足りていないし、冷却の問題がある。つまり私のサブアームは、電気よりも早く反応しないし、300度以上になれば使い物にならなくなる。IS備え付けのバリアは強力だが、それを使えばコンピュータの熱暴走が早まる。
「城子、頼む。ISのことを教えてくれないか」
考えているうちに授業が終わっていた。箒に手を引かれていつの間にか食堂にいたようだ。目の前に日替わり定食があった。久々に考え込んでしまっていたようだ。
「ごめん。ちょっと私のISの調整があって忙しいかも」
ボトルネックは大きかった。
「なら箒、頼む」
「断る」
見慣れない人が近づいてきた。
「織斑くんだよね、私3年だから教えてあげられるよ」
「一夏には篠ノ之束の妹である私が教えることになっていますので。」
箒のけん制に、3年の先輩はあっさり引き下がった。箒の姉の名は伊達ではないようだった。
「勉強くらいなら多分見れるから、3人で休みの日にね」
そうして月曜になった。
模擬戦が始まる直前というのに、一夏のISは来ていなかった。
「手升 城子、ジ・O、出ます」
宣言をして出撃をした。この瞬間はなんどでも気分を高揚させる。
模擬戦の開始は2機が定位置について始まる。
「第一世代機ですか。そんな小太りで、なめてますの?」
「第3世代機ですよお嬢さま。バイオセンサの威力を教えてあげます」
「そう。では踊りなさい!ブルーティアーズのワルツで!!」
セシリアの先制攻撃から始まった。
「カンタータにして差し上げます!あなたの負け惜しみで!」
「なにを」
遠距離攻撃に対し、私はすべて避けた。ジ・Oに組み込まれているバイオセンサは、テレパシーのような感応によって機能する。テレパシーは電気よりも早く反応する。この空を最も自由に動くことができる。
「さすがは代表候補生。あの織斑一夏とは違いますわね。ですが」
ブルーティアーズの特権。ビット攻撃が始まった。ビットによるオールレンジ攻撃も、結局は当たらなかった。
「さすがはエリート、出し惜しみできませんわね。なら見せてあげますわ!いまだ試作段階のセミオートビット攻撃を食らいなさい」
セシリアは自身でこちらを打ちながらこちらを打ってきた。
「完成してたのか!」
「まさかご存じ?」
「私の技術提供さ」
こんなに楽しいことがあるのか。光弾の嵐の中で、私は深い瞑想状態のような快感をあじわっていた。自分の提供した技術が形となって私に立ち向かってくる。
「ならご自身の技術で散りなさい、黄色いファットマン」
「皮肉ですか、骨抜き女!」
「ばかにして!」
「そんなビットでは」
私はジ・Oの隠し腕に収納していたジオ型の風船を取り出した。これは照準を肩代わりする目くらましだ。本来はビームサーベルなのだが、出力の関係で今はつけていない。
「AIによる動作補助では、合理しか解けないんですよ」
ビットによる銃撃はすべて、風船に放たれた。このビット攻撃は、照準があっているものに攻撃をするようにできている。開発倫理として、AIが自律的に攻撃をするのは問題だ。そこで照準を人間の指示と定義して動作させたシステムだった。
「合理ですって!」
「サンプルデータが経験者の非専用機乗りに偏りすぎてんですよ!そんな出来損ないで、この私に勝てるか!」
「そんな」
セシリアの表情から余裕がなくなってくる。無理もない。ウィークポイント未解決のシステムに頼った新戦術はあまりにも脆い。彼女が弱気になったこのタイミングで、私はこのジ・Oのバイオセンサの攻撃性を存分に試すことに決めた。
「バイオセンサーの威力を!」
「動かない!?」
私はプレッシャーを出し、セシリアの脳波による操作を遮断した。ISの操作は脳内の電気信号の感知によって行われる。バイオセンサはテレパシーだ。同じ脳波だが、その本質は違う。コンセントを燃やしても機械は動かない。しかし燃やせば機械はぶっ壊れる。バイオセンサ越しに放たれた私のプレッシャーで、ビットとISの動きが鈍った。そこにビームサーベルを叩き込み、セシリアのシールドエネルギーが尽きた。
試合が終わった後、手が震え、内臓が口からあふれ出そうだった。試合中、バイオセンサの影響か、アドレナリンの影響かで感じていなかった疲れがドッとあふれてきた。次は一夏が相手だ。あいつは近接でくる。その確信があったから、私はライフルを置き、対ハイパーセンサの煙幕とビームサーベルのみジ・Oに装備した。
「すごかった。結構やるんだな」
「まあね」
対峙するときの言葉は少なかった。
「ただ、連戦してる相手にっていうのは、男らしくないよな」
一夏の気風はけっこう古風なのだった。決闘にフェアを求め、男は女を守るものだという倫理をいまだに持っている。ISの誕生以前でさえも古臭い考えだったが、私はそういうところに好感をもっていた。
「遠慮なく来なよ、男らしくさ」
「なら、遠慮なく」
意気込みのわりに一夏はたじたじだった。
馬鹿な。私は座学しか見てあげられなかったから、きっと箒が教えてくれていると思っていた。箒は一途でまじめだったから、下手な教え方はしないだろうと思っていた。
「動き、箒に教えてもらってなかったの?」
「ああ、たっぷりと剣道でしごかれたぜ」
「え」
一夏はドヤ顔だった。その奥には確かなあきらめの感情があった。恋する乙女の暴走を侮りすぎた。あの時3年生に言っていたのは単なる見栄だったようだ。
「なら今は、お互い一撃で決めよう。一発で全部を決めよう」
「わるい、助かる」
私はビームサーベルを構えた。それに対し一夏も武器を構える。一夏はカウンター狙いだろう。
しかし無意味だ。このビームサーベルは私が設計からかかわった特別威力の武器で、わたしはニュータイプだからだ。普通の人間では勝ち目がない。念のため煙幕を投げ、それから突撃した。
すべてのISに装備されているハイパーセンサとこのジ・Oのバイオセンサは別ものだ。このミノフスキー煙幕化では、バイオセンサの方しか機能しない。
目覚めたとき、そこは保健室であった。教室共通の天井には目新しさはなかった。負けたのだ。
「目覚めたか、手升」
「あー織斑先生」
時計を見るとまだ授業の時間だった。
「意識はどうだ」
「ええなんとか。それで、クラス対抗戦はどうなりました?」
「ああ、オルコットの勝ちだ。だがオルコットが棄権したから、お前か織斑が代表になる」
「一夏は棄権しないんですか?」
「他薦だからな。棄権は認められん」
半分自分が蒔いた種とはいえ、一夏も大変なもんだな
「なら棄権します」
1択だった。今回の対抗戦のおかげで満足のいく試行ができた。この体に生まれて初めての能力不足も体感できた。ガンダムの原作でジ・Oに乗っていたシロッコは傲慢な男だった。己以上の能力を持たない人間はいないという確信をもって設計開発をしていた男だった。だが私のそれは所詮は転生特典で、借り物の力でしかない。そんなもので傲慢になれるほど馬鹿にはなれなかった。
投稿するとなると倍恥ずかしい