ジ・Oの女は恋知らず   作:エタノル

11 / 12
蛾眉は秋の季語で、お月様のことらしいです。


お風呂場で 蛾眉が美になる 後のほう

「浴場になんて、めずらしいじゃん」

 

「ほんとですわね」

 

はっきり言って、女湯に入るのは恥ずかしい。欲情や興奮こそしないが、なるべく避けたい。林間学校の時でさえも単独でシャワーを浴びさせてもらっていたくらいだ。

 

だが風呂は好きだ。お湯でぬくもるし、何よりもアイデアを練るチャンスがある。

 

「フム」

 

「どうしたのセシリア」

 

珍しい。セシリアが考え込むようなしぐさを見せた。

 

「日本的に言うと、欧米人?というのは日本人よりも大きいことが多いことを思い出してましたの」

 

「胸と射撃力があっても当たんないと意味ないじゃん」

 

ちょっとイラっと来た。私は形はいいのだ。

 

「あら、大は小を兼ねるとは、日本のことわざでなくて?」

 

リンちゃん、怒る。

 

「よく言うわほんと、幼馴染でもないくせに」

 

2対1。風呂場でバチバチだ。ここにいない一夏を暗に賭けている。

 

「その話、お姉さんも混ぜてもらえる?」

 

「巨乳が増えた!」

 

「恋って人を馬鹿にするのかしら……」

 

胸の大きい女が増えた。巨乳と書かれた扇子で顔を隠しているが、脱衣所なので下着姿だ。かっこがついていない。

 

「これで2対2ですわね」

 

「上等よ!」

 

冷静に考えれば私は普通サイズ。小さい方に分類されるのは納得できない。バンザイしたときに体のラインがきれいに表れる、一種の理想形だと思っている。だがリンちゃんと共闘できるのは楽しいので、今は甘んじて小さい方の烙印を押されるじゃれあいしよう。

 

ガラガラとシャワー用の石鹸類を出した。

 

「これ流行りの?」

 

「そう。酵素系?らしい」

 

女というのは、肌が乾燥するものだと知った。それは大きな収穫だった。乾燥すると痛い。だから洗浄力の低い酵素系が必要だったそうだ。

 

「リンちゃんのは、なにそれ?」

 

「クレンジングバーム。IS乗ったから脂性肌。城子はそうじゃないんだ。蒸れそうなのに」

 

「最近冷却システム整備したんだ。なによりジ・Oは体を動かさずに済む」

 

「便利ね」

 

「でも髪がめんうでさ」

 

「梳いたげるわよ」

 

「サンキュー。私は下手っぴだかんね」

 

リンちゃんを呆れさせてしまった。私は普段、長い髪をストレートにしている。ストレートは比較的流行りに左右されない普遍性があり、何より楽だ。今の髪質だと寝ぐせもつきにくいので手間が少なくて済む。

 

少しずつ上がってくる櫛と手の流れに眠くなりそうだ。

 

「ほんと綺麗ね」

 

「でしょ。おかげで楽なんだ~」

 

「そのシャンプー。どうりで髪がキレイなわけね」

 

「使ってみる?」

 

「借りる」

 

私は髪を梳き終わったリンちゃんを見ていた。これはこれで可愛らしく、大人っぽかった。

 

「ロングも似合うじゃん」

 

「?めっちゃいい」

 

シャワー音で私の声は聞こえなかったみたいだ。

 

「でしょ」

 

私のデパコスは評判がいい。なぜならチームメンバーが教えてくれたから。保湿もできてダメージケアもできる。何より香りが上品で、香水とかともケンカしない。と進めてくれた子が言っていた。

 

嬉しさのまま、髪を洗う。

 

「ちょ、ばか」

 

バカじゃないが

 

「あんたね。髪の洗い方ってのを知らないの。まったく」

 

これでも私は気を使っている方だ。ただ、今の母親が早めに死んだのと銭湯に行く趣味がなかったからよくわかっていない。高い道具とカリスマのためのキューティクルのおかげだ。実はこれも転生特典の一種なのではないかと疑っている。

 

「髪っていうのはね、女の命なの。丁寧に洗うものなの」

 

まるで美容院のような洗い方に眠くなってしまいそうだ。

 

「リンちゃん。ありがとね」

 

「いいわよそんなこと」

 

「お姉さんが女の子を教えてあげる」

 

なんか来た。生徒会長だ。セシリアはすでに湯舟だ。巨乳側の絆は脆い。

 

「なんですか」

 

「城子ちゃんって私にだけ当たり強いよね」

 

「あんなやり方でアプローチされれば、嫌いにもなります」

 

「水着泥棒だし」

 

そうだ。一夏の誕生日の日、リンちゃんはこの女にバカみたいな水着を盗られ、裸マントというもっと変態的な服装を余儀なくされていたらしい。そのことを今も根に持っているらしい。

 

「3人とも、日本人なのにお風呂の入り方もご存じないですの?」

 

セシリアの煽りは効いた。裸で話していたら風邪を誘発する危険があった。

 

「そうね、確かにそうだわ」

 

「あら、素直ですのね」

 

「まあね」

 

私たちはリンちゃんに従い、湯船につかった。

 

「そういえば、城子さん。あなたのISって、どうしてロックがお効きになりませんの?」

 

「そうなの?相手にするには厄介ね」

 

「ジ・Oのミノフスキー粒子の影響ですね。ハイパーセンサも弱体化できます」

 

「どうりでやりにくいと思ったわ。まって、じゃああの射撃は何なの?」

 

「ふふん。ジ・Oの力だよ」

 

よくぞ聞いてくれた。バイオセンサの力の絶大さと、私の操縦センスだけで何とかしているところだ。殺気がなくとも空間把握能力は高く、何より少ないパイロット訓練で多くを学べるニュータイプの特性のおかげでもあった。パイロット技能はほぼ転生特典任せだ。それは本分ではなかったため気にはならなかった。

 

「それで、城子ちゃんはニュータイプってやつなの?」

 

「なにそれ」

 

リンちゃんにも言ったことはなかった気もする。別れたころはまさかIS乗りになるとは思っていなかったので、そういう話はしたことはなかった。

 

「そうですよ。エスパー的なものです」

 

「それでそんなに反応がいいのね。先読みでもされてるみたいですのよ」

 

私は水を引き連れ、湯船から立ち上がった。頭に巻いているタオルを取った。

 

「それはしてるよ。だからジ・Oは無敵なんだよ。先に上がるよ」

 

「うん、また明日ね」

 

部屋に戻ると、簪ちゃんがアニメを見ていた。

 

「お姉さんとご一緒したよ」

 

「そうなんだ。どうだった?」

 

あの無人機の一件以来、生徒会長に対する悪感情が感じていなかった。しかし彼女が気に食わない感情の根本は変わらない。思い人を誘惑するお姉さんには怒りを覚えるのが私だったからだ。

 

「なんかカッコついてなかった」

 

「なにそれ」

 

簪ちゃんは画面から目を離さずにつぶやいた。

 

「そういえばよかったよ。途中から弐式の感知をやめて」

 

「すごいでしょ、あのIS」

 

「楽しくなりそうでよかったよ。絶対に負けないよ、好きになったんでしょ?」

 

「まあね」

 

やっぱりそうだ。昔から一夏の積極性には参る。箒の姉に懐いていたころ、剣道場で唯一話しかけてきたのは一夏だった。そのまま昔のよしみの流れでずっと一緒にいた。昔は好きとかではなく、気楽で一緒にいたい間柄というだけだった。

 

「城子ちゃんも好きなんだね」

 

「理由は聞かないよ」

 

女が最もきれいになるときは、風呂上がりの後、少しした時だ。焙煎後のコーヒーと同じだ。その時こそ、最も魅力的になる。無防備な濡れ髪もセクシーだ。そう考えれば、昔の私はアプローチのようなことをしてしまっていたのかもしれない。ガビガビな目線だった。

 

次の日、ラウラと訓練をすることになった。

 

「知っての通り、私は軍人だ。戦いの上に生きて負けたままというのは、部下や上官に面目が立たんだろう」

 

「その子たちも眼帯付き?」

 

「ああ、私と違って本当の人間だ」

 

自虐的な言葉に反して、ラウラの様子は穏やかだった。

 

「城子。貴様がそういう卑怯な倫理感を嫌う人間というのを聞いた」

 

「そんなんじゃないよ。名目も守らないのが気に食わないだけ」

 

銀の福音のような、平和利用のための軍事技術という体ならいい。セミオートマのように、人間の指示という建前があればいい。しかし建前の理性も失いほどに弱い技術に嫌悪感を持っているのだ。この立場では、箒の姉に共感できる。ただ、彼女は冗長性を嫌いすぎるタイプだったから、ほかの理性を捨ててしまえた人間だった。

 

「シャルロットと一緒に戦えばどうだ?」

 

「言っただろう。これは意地というんだ」

 

ラウラはレールガンを打ち、こちらをけん制してきた。

 

「遠距離は効かんことも学ばんか!」

 

「そんなことはセシリアから聞いている」

 

「口が早い」

 

レールガンをすり抜けながらビームライフルを打つ。

 

「孤高のつもりか、城子」

 

「なんのことだ」

 

ラウラの電磁ブレードと2本のビームサーベルがつばぜり合いする。

 

「恋を知ったんだろう。そのくせ急に消えたりする」

 

「私だって混乱くらいする」

 

ワイヤーブレードでオールレンジ攻撃を仕掛けてきたが、こちらを狙うものだけを打ち抜いた。

 

「やはり目がいいな」

 

「せいぜいバリアを張れ」

 

サイドラウラが再び近接を仕掛けてきた。

 

「嫁は渡さん」

 

「それが目的で挑んできたのか」

 

「それもある。その分厚そうな装甲なら、大事には至らん」

 

ラウラが銃口を押し当て、レールガンを使おうとしてきた。

あぶなかった。殺気のない攻撃に対して、反応が遅れてしまった。

離脱ついでにラウラのレールガンを蹴りつけ、ビームライフルで撃った。反動もあってか距離が付いた。

 

「ゼロ距離だぞ」

 

「悪いな」

 

「なぜそんなに謙遜をする」

 

「謙遜ではない」

 

「まだ届かないか」

 

結局はまた私の勝利に終わった。今度はお互いの暴走はなかった。

 

「おつかれ」

 

「ああ、また負けたな」

 

「前よりも強かったよ。クラリッサさんもびっくりだと思うよ」

 

「そうか、よかった」

 

ラウラが湿っぽく夕陽を受けている。

何か恋を知ってから、人の見方が変わって気がする。素直になれない理由も。

私にはシロッコのような人間になれないと感じていた。それは喜ばしいことだった。傍観者の悪役にならないおかげで、一夏やラウラのように素直になれる気がする。




皮肉を言うキャラを使うのは楽しいですけど、一辺倒になりそうで難しいですね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。