ジ・Oの女は恋知らず   作:エタノル

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主人公の名前はパプテマス・シロッコから、手升 城子(てます しろこ)としています


避けるための調整

「悪い、城子」

 

教室に戻ると、いの一番に一夏が頭を下げてきた

 

「食らったよ、ナイスカウンター」

 

私は一夏の肩に手を置きそう言った。

 

しかしログを見る限り実力差だけが原因だけではではなかった。

 

織斑先生からもらった試合時の映像とバーニア動作指示の送信タイミングにわずかなズレがあった。もっと後でも問題ないと思っていたが、やはり実践は違う。自分の反応速度を信じてマグネットコーティングを導入するしかない。

 

「だが意外だな、ああいう仕掛け方をして討ち負けるのは」

 

「まあね、専用機相手は一夏で2人目だったから。一撃必殺はジ・O…私のISの本領じゃなかったみたい」

 

セシリア相手にうまくいったこと、ビームサーベルの出力の高さに勘違いをしてしまっていたようだ。転生特典で与えられたのは能力だけで、試行錯誤は私の仕事だ。

 

「城ピー変わったふくー」

 

「し、しろぴー」

 

「んー、城子だから城ピー」

 

この子は一夏と朝ご飯を食べていた子。タレ目でのほほんとしている感じで、どうかかわっていいかわからなくなる。私のISスーツは白い軍服のような形をしていて、ほかの人のスクール水着のようなそれとはまったく異なっている。

 

「これね、センサが特殊だからこれじゃないといけないの」

 

「普通のよりって相当だねぇ」

 

「すごーい、それって倉持技研の?」

 

「やめなよ清香、多分企業秘密とかだよ」

 

のほほんとしたこの友達かが話に加わる。

 

「わたしの特許だからね、倉持技研じゃないの」

 

転生特典の下駄があろうとも、これは試作を重ねた私の技術だった。だから褒められたのがうれしかった。

 

「すごっ、デザインとかも機能性重視とか?」

 

「これは私の趣味」

 

「「……」」

 

2人は黙った。

 

「城ピー変わったふくー」

 

のほほんとした子がそう言った。どうやら2人にはひかれていたらしい。戦いには自信をつけるためのファッションが必要なのだ。だからシロッコのコスプレをしていたが、ちょっと恥ずかしくなってきたかもしれない。

 

「これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、城子、試しに飛んでみろ」

 

「わかりましたわ」

 

「はい!」

 

胸に付けたブローチから展開されたジ・Oの装着が完了した。

 

「どうした織斑、熟練の操縦者は展開に1秒もかからんぞ」

 

「集中…こい、白式」

 

いまだ一夏は白式には慣れていないようだった。

 

織斑先生の合図ととともに空に飛ぶ。やはり空はいいものだ。

 

「3人とも、急降下と急停止をやって見せろ」

 

せっかくだからやってみよう。ジ・Oの特筆!全身に搭載された50基ものアポジモーターを利用した直立急降下を!

 

クラスメイトの反応はいまいちだった。みんな一夏の方を見ている。いまにも事故りそうだ。

 

「うああ」

 

一夏がオープンチャンネルで悲鳴を垂れ流している。急降下はできても急停止の難易度は高い。あの転生の反応速度でも、初心者でしかないのだろう。

 

私はフロントスカートのサブアームを使い、一夏を抱き上げた。サブアームはバイオセンサのおかげで私の両手よりも素早く反応する。しかもマグネットコーティングの力もある。

 

「大丈夫?」

 

「ああ」

 

何とか抱き上げられた。バリアエネルギーのおかげで重力負荷を軽減できる。それに助けられた。

 

「何をやっている、ばかもの」

 

「ありがとう城子さん」

 

織斑先生の叱りと山田先生の褒めが同時だった。今日の授業はどっと疲れた。急ごしらえのマグネットコーティングとサブアームの出力の高さに助けられた。

 

「織斑くん、おめでとー」

 

「なんで俺がクラス代表なんだよ」

 

「私が辞退したからですわ、一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたの」

 

セシリアの答えは高らかで、しかし嫌味っぽくはなかった。

 

「なら城子は?」

 

「セシリアと同じ。他薦の性ってやつだよ、あきらめな」

 

フィードバックに忙しくなるのは明白だった。見えていないものも含め、課題は多い。ジ・Oは未完成品だ。データをよく取れるに越したことはないが、2人のエンジニアで回さねばならない分、なるべく役目は少ない方がよかった。人員を増やすことも考えたが、このジ・Oを任せられる人がほかにいない。

 

新聞部がやってきて、集合写真を撮った。専用機乗りだけのはずだったが、抜け駆けを許さないしたたかな女子高生集団に阻まれたのだ。青春を謳歌している感じがあって奇妙な楽しさがあった。

 

「城子さん、非礼を詫びますわ」

 

「いいよいいよ、私も言ったし」

 

頭を下げたセシリアはのけぞり、いかにも意外そうな顔をした。

 

「意外ですわね、てっきりイギリス人そのものを憎んでいるものと」

 

「そんなんじゃないよ。ちょっとセンサの影響が想定外でね」

 

「そんな代物、大丈夫ですの?」

 

「だいじょぶ、単なるアドレナリンだから、危険ではないのは実証済みだよ」

 

ピースをしながら、言葉をつづけた。

 

「そんなことより、セミオートマ制御のビット、よく形にできたね」

 

「そうですの。未完成ってどういうことですの?」

 

「あれはAIの弱点を克服できてないんだよ。突拍子もないような動きとか……例えばわざとチェックメイトになるように駒を動かすようなことをすれば暴走を動かして動作しにくくなる」

 

セシリアは考え込みながら「そうですのね」と

 

「あのときは映像認識だけで動かしてるせいで、あの風船がISと誤認しちゃってたんだね」

 

「どうしてそこまで発明ができますの?」

 

「パパの影響かな、コネがあったんよね。だからやれたし、好きにできた」

 

単純な話だ。私にはジ・Oの開発のためのすべてが与えられた。親も知能も権力も。

 

セシリアと話し込んでしまった。ちょっと遅かったし今日はシャワーにすることにする。

 

女になってからというもの、シャワーに必要なものが増えた。しばらくは安いプチプラばかりつかっていたが、同じ開発チームの人からデパコスを押し付けられ、そればかりを使うことになった。

 

私は女子高生に擬態できているだろうか。青春を謳歌しているかたわら、悩みが尽きない。

 

シャワー上がり、髪に水を貯えた水をふき取りながら外に出た。体をふくのが面倒なのでバスローブを着ている。

 

「なんでいんの?」

 

一夏がいた。

 

「初日にさ、箒がドアを壊しちゃって、それで別室になることになったって。聞いてないか」

 

そんな事情が。愛の巣に割り込むのは悪いと思ったが、ちゃんと介入した方がよかったみたい。ドアを壊すような武器は持ってなかったように思えるが。

 

妙な空間だった。春なのに2人とも頬を紅潮させている。

 

「はつみみ。ちょうどよかった、髪、乾かしてよ」

 

「おまえな」

 

一夏はあきれたようだった。自分で乾かすのは面倒だし、何より一夏はそれがうまくできた。だからお泊りの時はよく頼んでいた。

 

「もてる男はつらいね」

 

「パンダだからな。珍しいんだよ、みんな」

 

「白式だからアルビノパンダだね」

 

「いいなそれ、今から俺はアルビノパンダだ」

 

一夏はドライヤーになびいた髪をきれいに梳いた。

 

「サンキュ、コーヒー飲む?」

 

「先風呂入らせて」

 

「いれとくね」

 

「おう」

 

彼がシャワーを浴びている間、寝間着に着替えてミルを回す。木製の筒を握りしめ、ゴリゴリと豆を挽く。砕かれた豆がガラス越しに見える。

 

「おまたせ、お呼ばれしてきた」

 

「お呼ばれしたよ」

 

一夏にソーサーごとカップを渡した。

 

「相変わらずうまい」

 

「でしょ」

 

私はカップを置き、口元を指で拭った。コーヒーの香りに紛れてシャンプーのにおいが漂う。

 

「そういえばシャンプー、あれ使った?」

 

「おう。あれ、前から使ってるやつだよな」

 

「開発チームの子がね、これ使えって。おんなじにおいやね」

 

「そうやね」

 

ガンダムの世界では、ニュータイプという進化した人類が出てくる。誤解なく分かり合える人間のことで、ジ・Oのパイロットは強力なニュータイプ能力を持っていた。おそらく私もそれを持っている。ニュータイプは、そうではない人間の感情を読めた。ここには織斑一夏に好感を持つ人間で詰まっている。その官能に充てられたからか元男として恥ずかしいことを言ってしまい、語尾でちょけた。

 

「耳掃除をしてやるよ」

 

「いいよ、城子へただろ」

 

「なにおう、極楽浄土を見せてやる」

 

「死んでる」

 

「ほんとだ」

 

男性的な官能が、女性的な官能によって失われていく感覚を味わいながら15年間生きていた。もうグラビアを見ていたころの視線も忘れた。

 

しかし人間は変わるものだ。朱に交わった結果、何色になろうがそれは私だ。

 

その日はいつも通りにもかかわらず、よく眠ることができた。

 

朝のホームルーム前に、一夏の周囲の女子が話した。曰く、2組の転入生が新たに来たとのことで、その子がクラス代表に決まったそうだ。

 

多分、4月になってから新型のロールアウトをしたのだろう。ISを製造する会社は、ISというマシンには少なからず日本文化の認識があったから、決算が4月になることが多い。そして会社の経営者は、国と投資家への言い訳のために決算前の3月末にあわせて成果を出す傾向にある。セシリアのセミオートマのビット操作もあれで納品されたからあの出来だったんだろう。

 

「あ、リンちゃんじゃん」

 

考え事から覚めた時、幼馴染がげんこつされていた。

 

「ちゃん付け」

 

箒がびっくりしてる。私も不思議だった。いろいろチンマイ小動物だからか、"ちゃん"をつけないとしっくりこない。

 

「また後で来るからね、逃げないでよね!」

 

啖呵きって帰ってった。そうか、リンちゃんが転入生だったのか。

 

「リンちゃん。あの子が転入生?」

 

「さっき言ってたよ。マジで聞いてなかったんだ。ヤバ」

 

「ありがとう」

 

周囲に確認したがそうだったようだ。これから楽しくなる。なにせ幼馴染がまた増えたから。

 

しかし大胆な肩だしだった。

 

食堂に行ったとき、恋する乙女の性なのか、一夏をめぐって争っていた。

 

箒とリンちゃんが幼馴染マウントを取り合っていた。幼馴染として、なにより野次馬根性の表れとして、オークションよろしくな形で私もしゃしゃり出たい気持ちがあったが我慢した。3人が燃え盛って争いあっている。

 

その日の放課後、訓練場が使えたのでリンちゃん抜きの4人で集まることとなった。リンちゃんを仲間外れにすることは忍びないが、訓練場の使用を私含め4人で申請したらしいのでどうしようもなかった。

 

「打鉄、日本の量産型、こんなに早く使用許可が出るなんて」

 

セシリアは衝撃を受けたようだった。きっと箒は自分の姉の名前を出したんだろう。彼女は、自身の姉と同一視されるのは嫌うが、必要ならば積極的にその名前を使う人間だった。

 

「セシリア、今日はわたしとやろう」

 

「ええ?でも一夏さんと」

 

「明日やればいいでしょ」

 

「しょうがないですわね」

 

正直に言うと、改良を重ねたジ・Oを試したくて仕方がなかった。あの後、エネルギーパックの改良に成功し、ビームサーベルを4本に増やすことができた。しかし理論上、いまだにビームライフル下では満足に使えない。だから早くいいデータを取りたかった。

 

「ブルーティアーズ」

 

ビットの連携が以前に比べずっと良くなっている。所詮は小遣い稼ぎの欠陥技術だったのだ。派手で投資家にはいいが、満足するまで進化できなかった技術だった。

 

それに対し3本のビームサーベルと1本のビームライフルをもちながら動き回った。ライフルは打たず、ビームを固定させ、ビームサーベルとして使った。サブアームを使うことで重心が変わる。注意せねばならない。

 

使用ルールにのっとり攻撃はしていないが、避けてるだけでも楽しいものがある。全身のアポジモーターを存分に動かし、回り、避ける。

 

バイオセンサーの影響も少ない。戦闘用のアドレナリン・ブースト機能を軽減したのが効いている。しかもジ・Oの動作に影響が少ない。

 

「前より動きがよくなっておりますわね」

 

「そっちこそ。だけど本体がお留守」

 

そういいながら近づくがセシリアに避けられた。

 

「近接は対策済みですわ」

 

そうか。技術屋として視野が狭くなっていた。

 

「近接の必要がある際にセミオートマを起動することで、より戦いを自由にできますの」

 

いいサンプルだ。実にいい機会だ。もっと本格的な戦いをしたいが。

 

「しかし当たりませんわね」

 

「ジ・Oの運動性は隔絶しているからね」

 

「あの時の煙幕は?」

 

「使えば織斑先生に殴られる」

 

「たしかにそうですわね」

 

その日は訓練を負わさせた。本当に楽しかった。だが、あのめまいのような好ましい感覚がなかった。これはあくまでスポーツだ。戦争ではない。だからスポーツマンシップが必要で、だから口が悪くなるのは避けたかった。

 

部屋に戻ったが、今日は一夏が遅かった。どうも疲れ切っていたらしい。遅くなると連絡が来た。ほかの2人とは、女子更衣室で各々で帰ることになった。

 

「まだ春だよ」

 

一夏が紅葉を持ち込んで帰ってきた。ゴロンとした私を前に、目を泳がせながら言った。

 

「鈴がな」

 

こいつ!

 

「告ってたもんね」

 

「告る?なにを?」

 

性欲はあるはずだ。告白された経験はあるはずだ。

 

「枯れてんのか」

 

「ひどい」

 

本気でわかってなかったようだ。

 

「フォローしとくから、正座でもしながら反省しな」

 

寝間着にカーディガンを羽織り、外に出た。多分リンちゃんが泣いてる。部屋に帰る余裕もなしに。

 

自販機横のベンチでリンちゃんは泣いていた。

 

「リンちゃん、ちょっと、お願いあんだけど」

 

「なによ」

 

「ちょっとこのハンカチもらってくんない?ちょっと通販でしくってさ」

 

「貸しなさいよ」

 

私は差し出したハンカチをリンちゃんがぶんどってきた。

 

「あいつ、けっこうボケてっからね」

 

「ほんとそうよ、ボケでバカで、でも」

 

「言わんでいいよ」

 

人は泣いてるとき、そのことをバレたくない。しかし弱ってはいる。

 

「お水どーぞ」

 

「ありがと……」

 

500mlのペットボトルをリンちゃんに差し出した。リンちゃんはそれを一気飲みした。

 

彼女は強い。だから立ち直ることは簡単だろう。だがヤケになる危険があった。別れ際の、人生最大の勇気を無下にされたのだ。刺されても文句は言えない。しかしリンちゃんが刺すことは避けなければいけない。

 

「わるいね、一応フォローはしたけど足りんかったみたい」

 

「そうだったんだ」

 

「そう、まあ。そうだ、クラス代表選、ライバルとして楽しみにしてるよ」

 

「ライバル?」

 

話がそれた。

 

「私も専用機乗りだからね。実はリンちゃんが来んの知ってたんだ」

 

これは事実だ。専用機乗りは一部の例外を除き国が公開する。だからどんなライバルになるのか楽しみで探していた。

 

「あんたはなんで公開されてないの?」

 

「いろいろあってね、私のチームは少数精鋭なのよ。倉持技研でもそんなデカくないの」

 

「だから取り上げられないってこと」

 

「うん」

 

「なら勝負ね」

 

「私のジ・Oは強いよ」

 

「わたしの甲龍だって」

 

多分、リンちゃんにとって、失恋の痛みは癒えていない。結局は意識されていないだけで、まだ恋愛できるチャンスがあるのは事実だ。彼女にはもう一度立ち上がり、恋愛をしてもらいたい。これは私のエゴだ。彼女の強い官能を感じた私のエゴだ。

 

「まずはクラス対抗戦だね。あいつは手ごわいよ。私に勝ったからね」

 

「マジ?初心者なのに」

 

「零落白夜を甘く見た。次は勝つよ」

 

「ならまずは、あいつをブッ倒す。そんでもっていうこと聞かせてやる!」

 

「その意気」

 

ひとまずもう一度彼女は立ち上がった。厄介な敵が生まれた。だけどこんなにも心がおどる。




コーヒーミルは私の趣味です。なるべくいいミルを選びました。
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