ジ・Oの女は恋知らず   作:エタノル

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倫理を無視した機械

クラス対抗戦が始まった。一応リンちゃんを焚きつけた立場ではあるので、出撃の際は立ち会わなかった。一応その旨は伝えた。一夏以外の2人には理解された。一夏には納得させた。2人は熱い攻防を自分のカメラで収集していた。衝撃波か。宇宙戦闘には向かないが、派手でスポーツ向きだ。中国には技術提供はしたことがなかったから、全くの新技術で面白い。

 

その時、敵が来た。間違いない。無人機だ。しかも遠隔操作ではない。技術的には可能だが、技術倫理的には不可能だ。箒の姉の仕業だ。あのメカはぶっ壊す。

 

「男なら」

 

箒が出てきた。激励のつもりだろう。

 

無人機が箒に向かって攻撃した。ビーム攻撃だ。あいつの兵装はビームのみだ。ならやりようはある。

 

ジ・Oのビームライフルで敵のビームを相殺した。

 

「行け、一夏!」

 

箒の言葉に白式が加速する。

 

一夏が零落白夜をかましたのに合わせて、セシリアが打って出た。

 

しかし無人機は、集中砲火にも完全停止しなかった。

 

「この不愉快なマシーンには」

 

柄になく腹が立っていた。バイオコンピュータの出力を上げ、直線的な動きで無人機に攻撃を行った。かかるビームはすべて相殺して、そのうえでビームサーベルで焼き殺した。一応、コアはのこしている。

 

何度も言うようだが、私は転生特典の下駄をはいている一握りの天才だ。そしてまっとうな技術屋でもある。だから倫理を無視した技術は鬱陶しいし、それを行う人間には腹が立つ。

 

箒の姉の発明には脱帽するが、それとは別だ。ルールや倫理を天才が変えるもののはいい。しかし破るべきではない。勝てば官軍というが、官軍といえども非難はされるべきことはある。

 

「今度の休みに家の様子を見に行くんだけど、城子はどうする?」

 

「わたしもいこっかな。パパとも会っておきたいし」

 

そういうわけで一夏と一緒に電車に乗っている。幼馴染の2人は家がないからお留守番だ。

 

「お昼どーする?」

 

「弾ん家でとろっかな」

 

「なら私は実家ででかな。男同士でくつろぎな」

 

私としては男同士のつもりだが、一夏にとっては違う。

 

私は中学のころ、異様なモテ方をしていた。その時に感じた性欲を覚えた男に対する呆れは忘れられない。はじまりはキザな告白をしてきたヤツがいたことだ。曰く”月がきれいですね”とか。覚えたてのポエムもどきに腹が立ち、そのキザ男をぶった。同じような告白をするのが何人もいたので片っ端からぶった。今思うと大人げないが、思春期特有の暴動的情動を持て余していた時期だったのだ。それがいけなかった。ぶったことが評判を呼び、ぶたれるための合言葉として”月がきれいですね”が機能した。恋の邪魔をさせられたと感じた女子から、”ビンタ屋”と馬鹿にされそうになったが、何とか男女対立を深刻にすることで対処した。もとよりブリュンヒルデである織斑千冬生誕の地にいる自覚を持った集団だったから、思いのほかあっさりと対処できた。

 

「学校はどうだ」

 

「元気にやってるよ」

 

思春期を迎え、パパは亡き母に似てきている私に、どう接していいかわからなくなってきているようだった。

 

「そういえば、一夏とおんなじ部屋になったよ」

 

「ああ、あの子か。唯一の男児と聞いていたが、あの子なら破廉恥にはならんだろう」

 

「ふふっ破廉恥って」

 

パパの言葉遣いは結構古い。資産家としての権威を持たせるためであった。多分半分は趣味だ。

 

フォークを回すたびに、一連のベーコンと卵のソースが巻き込まれる。パスタが平麺だからかよく絡む。

 

「パパこそ最近どーなの?この前のフランス出張。しれっと聖地巡礼してたよね」

 

「そうなんだ。ゴダールの聖地。よくわかったな」

 

「アメリカマフィアのコスプレをフランスでするなんて、ゴダール映画かパパくらいだよ」

 

「ゴダールの墓参りもしてきた」

 

ゴダールはわかりにくい芸術映画監督だ。ストーリーは大したことはない陳腐なものだが、映像と演出が神がかっている。だからパパも私も好きだった。

 

「やっぱり、城子のパスタは最高だ。フランスにもこんなにうまいのはなかった」

 

「もう、おべっか言っちゃって」

 

父親のひいき目とはいえ恥ずかしい。こういう肯定をされると、こっちまで頬っぺたが赤くなる。私は現世の父親に好感を持っている。私が父親になってもこういい親にはなれないと思っている。だから父親をよろこばせるためにパパ呼びをするし、手料理も作る。

 

「そういえば仕事の話だが、すごい活躍だそうだな」

 

「天才ですから」

 

「自慢がしきれん」

 

パパの肯定が止まらない。

 

「ちょっと弾の方に行ってくる。一夏もいるって」

 

親の肯定は色メガネが強すぎて、酔っ払いそうになる。

 

「そうだ。技術チームのティムさんによろしく言っといてくれ」

 

弾の家に行くと、2人はまだ定食を食べていた。蘭ちゃんがおしゃれをして立っているので、蘭ちゃんの料理だろう。

 

「よっす」

 

「ああ手升さん」

 

蘭ちゃんが真っ先に気づいた。中学の後輩だったから、蘭ちゃんは手升さん呼びだった。専用機乗りであることを言えば様付けされるリスクがあるので、まだ伝わってなかったようだった。

 

「まさか鈴も城子もIS学園に合格するなんてな」

 

「天才だからね」

 

「ほんとにな」

 

気恥ずかしい冗談を肯定されてむずがゆい。

 

「明日、また寄るよ」

 

「おう、そん時はうまい定食を出してやるよ、蘭が」

 

「よろしく。蘭ちゃん」

 

「よろしくされました」

 

蘭ちゃんは妹に思えて、よく勉強を教えたりしている。彼女がお嬢様学校にあこがれを持っていたころにお姉さま呼びをされそうになるくらいには懐かれている。

 

その日は終わった。次の日の蘭ちゃんのご飯を食べて、また彼らにあいさつをして帰った。今生の別れのつもりが消え失せてしまった。まあいいか。




ゴダールは半分趣味です。
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