山田先生から部屋変えの案内が来た。
バスローブ姿だったので少し驚かれたが、まあ寝間着よりも直接的な露出が少ないからいいだろう。役割がバスタオルなだけだ。
「ごめん山ちゃん。最近実家帰ってさ、ちょっと荷物整理したくて」
「休み明けまでで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
「では、次の部屋の鍵です。引っ越し完了したら、カギを返してくださいね」
「はぁい」
小動物と山田先生を相手にすると、声が甘くなる。
「けっこう猫被るんだな」
「よく言って」
今日も一夏に髪を乾かしてもらっていた。
「晩御飯2人で食べない?作るぜ」
「マジ?サンキュ」
「和洋中、どれがいい?」
「ん~」
一夏の悩みに合わせ髪が揺れる。背中で体の動きが伝わってきた。
「和で」
「OK、生姜焼きね」
さてと、料理を作るか。作るのは生姜焼き、おひたし、みそ汁、そして作り置きの糠漬けだ。だしを取りつつ、ほうれん草を下茹でした。ゆでている間に生姜焼きの具材と漬物を切っておいた。酒とショウガとはちみつとでマリネした豚肉と玉ねぎを合わせて焼いた。ISの操縦と同じマルチタスクだが、こっちはオートマ制御のオーバーヒートにおびえずに済む。そのおかげか、すべてまとめて30分ほどで完成した。小鉢2つと生姜焼き、汁と白米でお椀が2つ。生姜焼きにはキャベツの千切りを添えたかったが、あったかいものと冷たいものは分けたかったので、千切り用に皿を分けた。皿が多くなりすぎたので、一夏にも運ぶのを手伝ってもらう必要があった。
「うまい。やっぱ城子の料理はうまいな」
「でしょ」
好評でよかった。自信はあったが不安でもあった。
「明日は俺がごちそうするよ」
「マジ?なら洋食で」
「まかせろ」
ほぼ一人暮らしだったから、きっとうまい飯が出るだろう。楽しみだ。
「俺もちゃんとやるよ」
「ちゃんと?」
「洗い物増えるのに小鉢で分けてる。味と温度がわからないようにしてる、だろ」
「クイズやってんのか?」
こうもキレイに言い当てられると気恥ずかしいものがある。これでリンちゃんの言葉に気づかないなんて面白くない。
「当たったか?」
「どうかね」
一夏は子供のように笑った。
「一夏は女たらしの才能があんね」
私もつられて笑った。
「そんなことないと思うけどな。城子こそ人たらしみたいなのあるよな」
「人たらしじゃないんだ」
「なんかちがうんだよなぁ千冬ねぇっぽいところもあるし、そうじゃない時もある。そうじゃない時の方が多いけどな」
「なにそれ。私は鬼教官じゃないよ」
「鬼教官って」
くすくすとした心地の良い笑いが、2人を包んだ。お泊り会の懐古禄は終わりを告げる。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」
次の日の教室で、一言が落とされる。
それは男だった。絶叫だった。静まり返った。
女子高に投入された2匹目のいけにえに喜ぶ同級生たちの絶叫は、一瞬のうちに織斑先生が制した。
しかし気になる。どうも彼は女に見える。エスパーなりの勘だが、いままで例外はなかった。カマをかけるか。
そうこう考えるうちに、シャルルは一夏に手を引かれ、颯爽と教室を出て行った。実習前の着替えには大事な配慮だ。その配慮がなければ社会に殺される。
実習が始まった。ラッキースケベ!
山田先生が一夏のもとに落下し、胸を揉んだ。バリアの保護機能が一夏に適応されたのだろう。二人ともけがはなさそうだった。一夏はリンちゃんとセシリアの殺されかけたが、単なるじゃれあいだろう。だが、その攻撃は山田先生によって防がれた。
攻撃を防がれた2人は山田先生と戦うこととなった。どうもデュノア社製の量産型が相手だった。「これより、訓練を行う。リーダーは専用機乗りがやること」
私の方に同級生が集まってきた。
「しろぴー、よろしく~」
「よろしく~」
私が彼女らを指導することになった。
「まずは起動、装着、その後に歩行訓練を行うよ。このタイプのISだと、ヒールを履いてモデル歩きをするイメージだとうまくいくから、そのイメージで」
「モデル歩き?」
「そう。もっと身近だと、織斑先生みたいに歩けばいいよ」
「なるほど」
こういう時は織斑先生は便利だ。ISでの歩行が染みついてるカリスマ人間。みんなマネしやすい。だからか今日の指導は実にスムーズだった。
「だけどよく詳しいね、一人だけ全然見た目が違うのに」
「ジ・O開発にはいろんなISを参考にしたからね。見た目以外も全然違う」
マグネットコーティングのおかげで、けがを未然に防げる。今は実証段階だが、将来的に災害救助用重機にも対応できるかもしれない。試作段階のポッド型は優秀だった。
「お昼、屋上で食べん?」
授業が終わり、一夏にお呼ばれした。みんないた。恋をしている3人のうち1人の誘いを一夏がみんなのお誘いと解釈したんだろう。
「今朝酢豚を作ったのよ。食べたいって言ってたでしょ?」
リンちゃんの酢豚アピールだ。これには一夏は喜んだ。
その時、私のニュータイプ能力が発火した。敵!!
「わたくしもイギリスの料理を作ってきましたの。祖国にもおいしい料理があること、教えて差し上げますわ」
敵じゃない。単なる身近な臨死体験だったんだ。なんだセシリアの料理か。セシリアの料理か?!
「まずはこれから」
止める間もなくファーストペンギン一夏は臨死体験を口にした。一夏は顔を青くした。南無。
哀れな事故はあったが、その後の流れで、お弁当試食会が始まった。シャルルのサポートが入ったからだ。変な感応があったから警戒したが、この子はいい子だ。
放課後、ちょっと忘れ物があったので一夏の部屋に行った。
「ごめーん一夏」
「シャルル君もごめんね」
「まぁ」
そういえば彼は没落の兆しがあるデュノアの御曹司だったな。
「デュノア君ってカミーユって感じがするよね」
「カミーユは女の名だよ」
「美少年だからかなぁ」
「あ、ありがとう?」
困惑と動揺があった。嘘がある。7割黒だ。しかし理由がわからん。デュノア社は開発に苦難しているよう噂は聞くが、さすがに女を男として押し出すほどではないだろう。
「じゃあね、男たちせいぜいむさ苦しくしないことだね」
「うるせ」
古いPCを持って帰った。古いものだが、一応あって困るものではないものだ。
私は所詮は技術屋の専用機乗りだ。シロッコのように政治家にはなり切れないし、やりすぎると必ず火傷を負う。時にはしなければいけないが本意ではない。
次の日、また転校生が来たようだ。ラウラ・ボーデヴィッヒというらしい。一夏をビンタした。
ドイツの軍人らしい。どうも織斑先生への執着が感じられる。そんなことはどうでもよかった。問題は、彼女がドイツの代表候補生だったということだ。
今やドイツは、ヒトラーの亡霊を受け入れることをよしとしている国だ。だからか、きな臭い技術屋がよく流れる。協定とか法律を無視する、薄汚い弱い技術者だ。箒の姉はその代表で、唯一の成功例だった。その成功例にあやかろうとする凡人どもは、まずドイツ・ソーセージ食べ放題ツアーの予約をする。
一夏とシャルルが模擬戦ををして、ひと段落し、射撃の訓練をした。ラウラが立った。
「私と戦え」
ラウラの射撃がシャルルの腕に被弾した。シャルルが一夏をかばった形だ。
少し小競り合いがあった。よくわからん。ドイツの新型だが脅威には思えなかった。IS自体は倫理を捨てたそれではなかった。噂に流されすぎたか、反省しよう。一夏に恋する3人衆の怒りに反して、私はドイツへの評価を上方修正せねばならなかった。今、チーム前提の量産型ISの設計をしている。ハンムラビだ。それを流すのも視野に入れてもいいかもしれない。あれは日系企業の文化とは相性が悪いものだから、ほかの国に流さないといけない。
「君は、ラウラか。大丈夫?」
帰りに、うつむきながら走る女が私にぶつかり、尻餅をついた。
「手升といったか」
「軍人でしょ」
「ああ」
彼女は差し出した私の手を無視して立ち上がった。
「織斑先生への執着は力の欲望かな」
「尊敬だ。敬意だ。それを侮辱するのなら、織斑一夏の前に貴様を倒す」
「ISでか」
「そうだ」
小柄な彼女は、私にまっすぐ敵意を向けた。
「まるで武器のように扱うんだね」
「貴様はラケットとして扱っている」
「ラケットに必要なのは人殺しの能力じゃないんだよ。よくボールをはじき、スポンサーのマークがつけば最高」
彼女はより強く私をにらむ。
「ISは武器だ。兵器だ。ラケットじゃない。平和に殺された専用機乗りが」
「だけど兵器にしてはいけない。代理戦争にとどめなければいけない。だからこそのスポーツでしょうが。軍人ならわかれよ」
「そうか、そういう考えもある。頭に血が上っていた。すまない手升」
あっさり!彼女は眉を落とし、落ち着いたようだった。この手の注意喚起は国の義務と言われている。だからよく教育されているはずだった。
「素直でよろしい。そういえばクローン技術の噂って真実?」
「そんなわけなかろう」
さすがに漏らさんか。目に見えて動揺はしていないが、心の中ではそれがある。多分クロだった。しかし人と国は別だ。国への悪感情を彼女にぶつける真似をしてはいけない。
「ちぇっ。ヒトラーのゾンビクローンをサメにする技術があると思ったのに」
「わけがわからん」
今日もISの整備をしていると同室の簪ちゃんが一緒だった。
「大変だね」
「そうだね。あなたは一人?天才だから?」
「どっちもYES。手伝いがいるなら言ってね。同じ候補生だから」
「大丈夫。私が一人でやらないといけないことだから」
彼女は明らかに不器用だった。学生の身分故、社内政治にも参加できず、親の権力にも頼り切れていない。だから一人で作ることになっている。問題にならない範囲で、何とか委託先を進めたが、すべて断られた。それがロシア代表の姉へのコンプレックスであることは想像に難くない。
「ならさ、学年別トーナメントで組まない?」
「あなたのお友達に頼まないの?」
「2人チームの対戦だと、あの子たちじゃ新規性の高いデータは取りにくいからね」
「新しいドイツの子は?」
「あの子とはまだ仲良くなれない」
「そう、ならいい」
「よかった。トーナメントでは弐式の装備か、私の指定する装備を一部使ってほしい」
「弐式の武器はまだ完成してないから無理かも」
簪ちゃんは考え込み、私の武器を使うことを受け入れてくれた。
「その名も海ヘビ」
「そのまんま」
「昔のアニメでありがちなびりびり鞭だよ。理論上は絶対防御を誘発させられるから、結構強いはず。動物実験の段階まで済んでて、死なないことは保証できるけど、ミサイルとかは誘爆する可能性があるから気をつけな」
「いいね、それ。悪役みたい」
横流し用のISに搭載する特殊兵装だった。これは軍人が使うことを前提にしていない日本では認可されにくいことが容易に想像できた。なにせダーティすぎるし、ロマンであふれている。
オタクと言われる人種の簪ちゃんにとって、このロマンがわかってくれることを信じていた。
「ついでにハンマーもよろしく」
ついでにモーニングスターも渡した。ブースター付きだ。簪ちゃんとは握手をした。
「ジ・Oでは試さないの?」
「この機体のコンセプトには合わないからね。本来、ジ・Oは手数の多い味方と組むと最高の威力を発揮するISだから。だからサポートに期待してる」
「まかせて」
彼女はよく話の分かる女だった。好感の持てる女だった。できることならば、私のISを使ってもらいたいほどに。しかし彼女はそれを望んでいないし、無理にさせるような人間性は持てなかった。
気の使えるイケメンになってモテまくりたい気持ちと滅茶苦茶いい女になってモテまくりたい気持ちがあります