《RTA》『限りを齎す者』《完走失敗》   作:アーっr

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悪魔は狡猾で、巧みに人心を操る。


傾国

 

 

 始めに気付いたのは、忌庫の門番達だった。

 

 カタカタカタカタ………

 

 「………おい、何か揺れてないか?」

 

 「まさか。侵入者が入ったと?」

 

 可能性はある。忌庫の中にあるのは危険な呪物などであり、それらは封印状態にある。

 

 それらがひとりでに動き出すことはあり得ないし、考えられるのは侵入者だろう。

 

 「どうする?確かめるか?」

 

 「いや、まずは報告をすべきだろう」

 

 とはいえ、門番達は無能ではなかった。

 

 きちんと建設的な議論をし、“まずは報告をすべき”という正しい………正しいと思われる(・・・・・・・・)行動を起こそうとした。

 

 無能では無かった。だが、そこ止まりだった。

 “ソレ”に対処するにはあまりに弱く、脆く、愚かだった。

 

 

 がちゃん。という、何かが壊れた音がした。

 

 「な───」

 

 鍵が内側から破られた。

 嵐のように呪力が吹き荒れ、扉が開いた。

 

 「緊急!忌庫にて呪霊発生!直ちに───」

 

 呪いの籠った瞳と目が合った。

 

 ───魂が萎縮した。

 自分という生命が無事である事を心の底から祈って、その場をやり過ごした。

 

 そうして、門番達は黙らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「忌庫が破られた」

 

 呪術界を導く──操る──総監部の面々は、とある事件について会議をしていた。

 

 「呪物は?」

 

 「幾つか失われた」

 

 「何者の仕業か」

 

 「呪霊が発生したようだ」

 

 「なんと」

 

 「祓ったのか?」

 

 「否。影すら未だ掴めん」

 

 「この件は秘匿し、一部の者だけに」

 

 「五条と夏油を動かせ。直ぐに対処せねば」

 

 こんなふうに、毒にも薬にもならないような話を多少続けていたところで、異変が起きた。

 

 「う、あ………」

 

 「堂上殿?如何なされた?」

 

 ぱき、バぎ、ぐチャ。

 異音が鳴り、その場にいた総監部の一人の身体が変形した。

 

 「なっ!」

 

 「呪霊じゃ!疾く祓えい!」

 

 何故今まで気付けなかったのか、などという段階は通り過ぎている。

 

 護衛の術師数人が、既に人から離れた姿となった存在に対して攻撃をしようとした。

 

 「動くな

 

 唸り声のようなその一言で、その場の全てが静止した。しなければ、と思わされた。

 

 呼吸すらままならぬ生命の危機を目の前にしてなお、術師としての意地がその者を突き動かした。

 

 「な………何者じゃお主!」

 

 呼吸出来ただけで上々。話しかけることが出来たのは奇跡だろう。

 

 そして、奇跡はまだ続いた。

 

 「あ………」

 

 言語として体をなしていないような唸り声が、徐々に人の言葉に変化していった。

 

 「俺が支配する」

 

 「は………?」

 

 息が漏れる。理解が出来ない。脳が停止した。

 

 いつの間にか、そこには子供が立っていた。

 

 「俺が操る」「俺が創る」「俺が守る」「俺が殺す」「俺のモノにする」

 

 だから、と『悪魔』は口を挟んで。

 

 「従え、人間(サル)ども」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「総監部から呼び出しー?」

 

 「また何かやらかしたのかい、悟?」

 

 「ンなわけねーだろ」

 

 軽口を叩きながら、二人は呼び出された場所まで来て、そして見た(・・)

 

 捻れた角。複数ある瞳孔。

 異様に大きい翼。鋭い尾。

 

 「なんで生き返ってんだよオマエ………!」

 

 『悪魔』だ。呪力を見ても間違いない。

 

 死後肉体は呪物になったが、コレは誰かに取り込ませたわけでは無い。

 

 「呪力を伴わない攻撃………呪いに転じた!」

 

 「呪霊になってもまだその肉体(ガワ)使ってんだ。同じ死に方させてやるよ」

 

 『悪魔』の死体に、呪霊となった『悪魔』が取り憑いている。いや、結び付きが強すぎる。

 まさに『受肉』している。既に『悪魔』は死者ではなく、蘇った生者である。

 

 「失礼な連中だ。会話も出来ないとは、余程知性体としての階位が低いと見える」

 

 「………は?」

 

 獣のように叫んだり子供のように簡単な言葉しか話さなかった『悪魔』が、理知的に会話を始めた。

 

 「俺は新総監部部長、堂上………おっと、ソレは別の身体の名前だったな」

 「ふむ………鬼灯。鬼灯百司はどうだ?おお、

なかなか良い名前だ」

 

 「何言ってんだオマエ。会話出来るようになったと思ったら、やっぱアタマおかしいんじゃねーか」

 

 「諦めろ、五条悟。貴様らは確かに強者ではあった。俺を上回った。それは認める」

 

 「だから、策を弄した」

 

 「………は?」

 

 今のは誰の声だ。今の、子供の声は───

 

 「京都の制圧完了」「アイヌの乗っ取り完了」「海外にはまだ手が伸びない」

 

 数人の、同じ顔をした子供がいた。

 

 どれも同じ呪力で、同じような呪力量で。つまり、これら全てが───

 

 「───作った(・・・)のかよ。イカれてやがる」

 

 「呪術界は人手不足なのだろう?これ程効果的な対策もあるまい」

 

 自分を複製し、それらを手足のように動かしている。いや、この表現は適切では無い。

 

 全てが『悪魔』なのだ。だから、もし目の前のコレが消えても、子供のうちの誰かが代わりになる。

 

 「魂はどうなってんだよ。呪霊のオマエが魂なら、それが入ってない奴らはなんで動けんだ」

 

 「肉体を複製すれば、新たに生まれたソレは俺の呪力を持っている」

 「呪霊は呪力の塊に過ぎない。呪霊()が魂なら、肉体の呪力で代用できるに決まってる」

 

 「キッショ。オマエ宇宙人か?」

 

 腕を切断して、その腕を見て『俺の血が通ってるからコレも自分だな!』とはならないだろう。

 

 その腕がひとりでに動き出すことも無いし、そもそも忌避感があるはずだ。

 

 「なんちゃらの船だっけ?自己の連続性に頓着とか無いわけ?」

 

 「テセウスの船だよ、悟。全ての部品を交換した後のものが元と同じなのか、という話さ」

 

 「人間も代謝をして細胞を交換している。生きていく以上、何かが変わっていく」

 「今ここで俺は生きている。この肉体で無くとも、俺は生きている。全てが俺だ」

 

 「このプラナリア野郎が……」

 

 確かに、同じ呪力を持つ存在は呪術的に同一視される。

 

 双子は一人判定だし、義手義足は長年使用し呪力が篭れば自分の手足と同じようにみなされる。

 

 だが、双子は結局別人だ。似通っていても、違うところがある。

 義手義足はどこまで行っても物体だ。使い込んでいても、肉を持つわけでは無い。

 

 視点が違う。思考が違う。

 同じ生き物では無い。

 

 

 

 

 

 

 「……で?ここまで大掛かりな手品をして、何が目的なんだよ」

 

 「当然、人間(貴様ら)を守る事だが?」

 

 「冗談」

 

 理由がない。結局コイツはどこまで行っても呪いだ。高尚な考えがあるわけがない。

 

 「俺は土地そのものを作れる。生命すら意のままに創造出来る」

 「どこでも(・・・・)出来る。そして、俺は強い」

 

 「だから何だよ。オマエの自慢話とかキョーミねぇし」

 

 「俺は事実上不死だ。肉体を交換すれば何者にもなれる。つまり不老でもある」

 

 「だからぁ───!」

 

 興味のない話を延々と続ける悪魔に苛つく。殺しても終わらない問題は面倒だ。

 

 「お前達が死んだ後、誰が呪術界を守る?」

 「お前達に次ぐ実力者が現れるか?お前達を凌ぐ者が現れるのか?」

 

 俺は違う、と悪魔は囁く。

 

 「俺は何千年でも生きられる。あらゆる形に姿を変え、あらゆることが出来る」

 「お前達が死んだその後も、俺は守れる」

 

 「なんで『人間を守る』んだよ。オマエが理由もなくそんなことするわけねーだろ」

 

 結局、そこに行き着くのだ。

 

 『悪魔』が人間を守る理由がない。強いて言えば家畜だろうが、それすらコイツには必要ない。

 

 「負けたから(・・・・・)だ。人間に負けた以上、そちらに寄って存在するのが道理だ」

 

 「嘘臭ぇこと言うなよ」

 

 今戦えばコイツが勝つ。今からでも俺たちを殺せば、最早コイツを脅かす存在はいない。

 

 コイツは、自由になる。

 

 「………私は、信じようと思う」

 

 「おいおい傑。催眠術でも受けたか?」

 

 「ある意味、そうなのかもね。私はこの子の

………今までの人生を見た」

 「だからわかる。彼は、対等の存在が居る今を楽しんでいるんだ。君と同じだよ、悟」

 

 「こんなヤツと一緒にされたくないんだけど」

 

 「同じさ。そして何より、彼は殺して終わらせようとはしていない」

 「彼の方が君より大人だよ、悟」

 

 「やーい五条のお子ちゃま〜」

 

 「あ゛!?んだとテメェ!」

 

 「ああこら。二人とも喧嘩しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やあ、久しぶり。元気いっぱいで良いことだ」

 

 「………お前か」

 

 各地に散らばった『悪魔』の複製体のうちの一つに、とある女が接触した。

 

 その女はかつて村に訪れ、反転術式や結界術を見せたあの頃の姿のままだった。

 

 「君は今、私がかつて求めた“人間と呪霊のいいとこ取り”の理想系になっている。やはり私の手から離れた混沌にこそ道筋はある」

 

 「近付いて良かったのか?俺が領域を展開すれば、頭のソレも解けるぞ」

 

 「取引をしに来たんだ。呪術に関する知識の代わりに、呪霊操術の肉体が欲しい」

 

 バン、という音と共に、女の腕が飛ぶ。

 

 「これもまた久しぶりだね。分かった、もっと厳しい条件を付けよう」

 「千年現れなかった両面宿儺の器。もしそれが現れ、高専に入学したなら、作ってくれるかい?」

 

 「そこまでして、何を求める?」

 

 傾国の女は笑って。

 

 「───君を越える」

 

 

 




拡張術式:存在の複製
 条件:自己の連続性及び自己同一性に特殊な見解を持つこと

・肉体を複製する
・複製した肉体が呪力を持っている事を確認
・呪術的に同一人物として成立する

拡張術式:他者の肉体の乗っ取り
 条件:肉体に依らず存在を保てること、肉体を変換できること

・肉体を別のもの(酸素など)に変換する
・他者がそれを取り込む
・内部で肉体を変換し、元に戻る
・変換を上手くすれば、外見を変えずに乗っ取れる
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