生まれた。異常な命が。
工業に使われるドリルの様な角。
広げれば数mほどになる翼。
鞭のように力強く、しかし針のように鋭い尻尾。
手足や胴体は穢れを集めたかの様にドス黒く、その異形はまさに伝承の悪魔だった。
きゃっきゃ、と悪魔は
それは相手を貶し嘲笑う様であって、しかし悍ましい産声の様でもあった。
五条悟は、何が起こったのかを看破した。
「(
肉体の再構築。即ち“転生”をしてみせたのだ。
体表に浮き出た、哺乳類などにはない外骨格に近しい構造。
それは鎧のように悪魔を守り、纏った呪力で無下限を中和した。
つまり、今。
悪魔は、自由である───!
「───ぁ」
五条悟が“ソレ”に反応出来た理由は、ひとえに勘によるものである。
超常的な速さで、
「こ、の………止まれよ悪魔野郎!」
悪魔は角を突き刺している。
その状態で翼をはためかせ、脚で黒閃を出し空を蹴り、呪力を噴射し速度を上げる。
その速度、およそ秒速8km。
咄嗟に無下限で守らなければ、五条悟は体に大穴を開けていただろう。
しかし、悪魔はその無下限すら取り払おうと角に呪力を集める。
五条悟には届かず、しかし半端ながらも中和しているが故に、五条悟は押し上げられている。
上、上、上上上上上上!!
建物よりも、山よりも、雲よりも高く!
「───きゃっきゃっきゃ」
悪魔は嗤いながら人間を連れていく。
景色は目紛しく変わり、地球の
あまりの速さに、そして絶対の守りを中和されたが故に、五条悟に悪魔の角が刺さり───
「バーカ、死ぬのはオマエだけだ」
宇宙空間という『地獄』
マイナス270℃の超低温。真空であるが故に血液は沸騰し、体内は膨張し、呼吸すら出来ない。
宇宙線という不可視の光線によって遺伝子が裁断されることや、デブリとの衝突の危険すらある。
五条悟は無下限呪術によって身を守り、大気を引っ張る事でこの地獄を生き抜くことができる。
だが、悪魔は違う。
如何に頑丈で強固であっても、所詮は一生命体。
五条悟のように、術式に『概念』が組み込まれている超級の
「───ぎゃハ。ギャははッ」
五条悟はこの期に及んで、相手が何者かを見誤っていた。否、これは慢心などではない。
単純に、考えに無かった。忘れていたわけでは無く、知らなかったのだ。実感が無かった。
今まで戦ってきた呪詛師、呪霊、式神、呪骸、或いは非術師。どれともつかぬ異常な生命ということを、理解し切れていなかったのだ。
ぐちゃ。ベチャ。身体が変わっていく。
本来数千年以上かけて行われる筈の、生命の系統図の書き換え。即ち進化。
地獄を、乗り切ることができない?
笑い話だ。悪魔が何処にいるのか知らないのか?
ぷしゅ。めらめら。周囲が変わっていく。
空気を構築する。息をする。炎を燃やす。温度を上げる。
優れた生命とは、環境に適応出来るものである。
優れた生命には、環境を整える能力がある。
だとすれば、この悪魔。
環境に合わせて姿を変え、環境を自分に合わせて整える能力を持っているこの悪魔は。
「───ケヒッ」
生物の“格”として、頂点に君臨する。
「知るか。勝手にやってろ」
五条悟は結界を張る。
中のものは出られず外のものを拒まない、周囲に影響される結界。
地球の重力に影響される結界は、その引力に引かれて落ちていく。
その中にいる五条悟もまた、同様に。
「ヒヒ───ひひひハハハハッ!」
落ちていく五条悟目掛けて、悪魔は絶え間なく攻撃を仕掛ける。
それは火であり、雷であり、呪いでもあった。
そしてそのどれもが、結界の手前に張られた無下限によって止められてしまった。
「対策しないとでも思ってんのか、猿頭」
中のものを閉じ込める結界は、外からの攻撃に弱い。呪術の差し引きの性質上、それは仕方のないことである。
それをカバーするように、五条悟は結界を無下限で覆うことで外からの攻撃に対処した。
悪魔が無下限を破る方法は2つ。
黒閃により生じた『空間の歪み』を利用する方法と、無下限を中和する呪力を利用する方法。
しかし、宇宙空間という地獄の中で黒閃を発生させるのは悪魔をしても至難の業。
無下限を中和する呪力も、角という一点だからこその芸当である。
もしこのまま五条悟に突撃しても、無下限を破り結界に入った瞬間に迎撃される。
流石の悪魔も、宇宙空間で肉体を損傷すればタダでは済まない。
先程の二の舞にならないように、悪魔は近距離の攻撃を仕掛けない。
落ちる。落ちる。
星に引かれて、“蒼”で自らを引っ張って、五条悟は地上に帰還する。
帰還の最中で刺された傷は治した。宇宙空間という極限状況への対処は正確に成し遂げた。
自らの呪力を目印に“蒼”を発動し、元いた村に無事帰還した。
結界は解除したが、念のために無下限はそのままにしている。
それでも、五条悟の勘は警戒を発している。
───刹那。
「ケッヒッヒッヒッ!」
先程より洗練された、無下限を中和する呪力。
それを先程のように角に一点集中させ、悪魔は襲いかかった。
───障子のように、無下限は破られた。
瞬きほどの時間ののち、悪魔の角は五条悟に突き立てられ、そして絶命するだろう。
───しかし、悪魔は知らない。
目の前の相手は、
「───領域展開 無量空処」
五条悟の領域が広がる。
土地に込められた悪魔の呪力は、ほんの少しの抵抗をして、その領域に塗り替えられた。
悪魔は肉体の制御を失った。そして、五条悟はその隙を見逃さない。
「(来る。間違いない────!)」
「───黒閃!」
2.5乗のその威力は悪魔の角を折るのには不十分であり、しかし明確に傷を与えた。
「(ここで終わらせる。最低でも角は折る!)」
───運命とは、残酷である。
「あ───?」
領域によって停止した肉体。五条悟はそれを打ち据え、悪魔は宙に舞った。
───肉体以外にも停止したものがある。
あまりにも突撃が高速だった。そして、肉体と共にソレの制御も投げ出された。
なぜなら、悪魔はその制御を角に一任させていたから。
通常の呪術師ならば当然出来ることを、悪魔は怠っていた。
そして、悪魔は頭から地面に激突した。
制御を失った
黒い火花は、悪魔に微笑む───!
「─────は?」
空間の歪みによって、一瞬。まさしく刹那と言える短い間、悪魔は領域の影響から
術式が回る。構築が始まる。
五条悟の
『