いかにしてその転生者は世界を変えるのか   作:抹茶螺旋

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汚名返上、名誉挽回

 2時間前、隠れ家にて

 

「魔王……ねぇ」

 

 この事件には魔王の影があるというクレスの発言に対し、訝しげな反応をしたのはフレンであった。

 アランは何も言わず、黙々と聞いている。

 

「私としても証拠不足で論理が飛躍しているとは思いますが、ここまで多数の魔物を使役し動かせる存在は魔王程度の者でしょう」

 

「僕としては色々起こりすぎてもう何でもいいよ」

 

 アランは考えるのに疲れたという様子だ。

 

「それで、わざわざどうしてそんな事を言ったのか、聞いていい?」

 

「最終確認ですよ」

 

 フレンの質問に、クレスは答える。

 

「言葉を選ばずに言えば、貴女は部外者だ。一体何故、そこまで殿下の為に身を砕けるのですか?」

 

 それはクレスにとって一番の気がかりであった。

 目の前に立つフレンという少女はある意味、敵対勢力などよりも謎が多い。

 ランクルクが偶然にも拾った魔法使い。クレスが知っているのはそれだけだ。

 調べる時間が無かったとはいえ、彼女のパーソナリティは分からずじまい。

 この絶妙に掴みどころが分からない少女は、一体何故、何の為にランクルクに協力したのか。

 クレス・パラトスは、不明(わからない)を嫌悪する。情報を収集し、状況を掌握させ、確実に勝利する。それが彼の戦い方であり、生き方である。

 敵でさえも未知数という状況で、これ以上不明点を抱えたくないというのが、彼の本心であった。

 

「なんで、ねえ……」

 

 少女は悩まし気な声を上げて考える。

 うーん、うーんとここまでで初めての長考を見せ、考える事一分間。

 彼女はポリポリと頬を掻きながら恥ずかしそうに言った。

 

「世の為、人の為って理由じゃダメ?」

 

 嘘であった。

 それはクレスどころか、横にいるアランの視点でも分かるほど見え透いた嘘。

 

「……そうですか、ではそういう事にしましょう」

 

「いいのか!?」

 

 追及されると思っていたフレンは、その反応の手応えのなさについ聞き返す。

 それに食いついて、今度はクレスが言葉を返す。

 

「では本当のことをお答え下さると?」

 

「え嫌だけど」

 

 叩き落とすように断られるが、クレスからすれば、この事は既に織り込み済みであった。

 

「このような立場と状況で真偽を問えるとは思っていませんよ。あくまで、最終確認ですので」

 

「そうなんだ……」

 

 いまいち腑に落ちない様子であったが、これ以上この話題を広げる必要もないのでフレンはこれを受け入れた。

 

「それで、いい加減いつになったらこんな立ち話をやめて殿下を救いに行くんだい?」

 

 空気が落ち着き始め、話しどころがわからなくなって来た折に、アランが会話を切り出した。

 

「いや、そうは言っても少年が何処にいるのかわからんし……そこからどうにかせんと」

 

「そこについては問題ないよ」

 

 アランは自慢げに懐から短剣をとりだした。

 それは酒場にて見せた、ランクルク少年が持っていた双子剣の片割れである。

 

「これと殿下が持っている短剣は『双魂剣』っていうんだけど、これには光る以外にも色々と機能があるんだ」

 

 彼はそういって短剣を強く握ると、剣先からぽうっと小さくて丸い光が灯る。

 

「光ってるだけじゃん」

 

「違うって。双魂剣は所有者と魂で結びつく魔剣なんだ。常に所有者の元にあり続け、離れることはない。フレンさん、地図は持ってない?」

 

「地図なら私の服の中に」

 

 フレンは横で干してあったクレスの上着の中から地図を取り出し、床に広げる

 一部血で濡れていて、見えなくなってしまっている。

 

「……まあいいや。双魂剣は互いに反響する性質を持ち、所有者はもう片方の所有者の居場所を知ることが出来るんだ」

 

「凄い能力じゃん何で言ってくれなかったの」

 

「言うタイミングがなかったからだよ」

 

 地図の上に双魂剣を掲げると、先端の光は地図の方へと向かって伸び始めた。

 にょきにょきと伸び続け、一筋の光は光柱となり、光が地図に触れた所で動きは止まった。

 

「これって、光が射している所にレイル少年がいるってこと?」

 

「そう、なんだけどね……」

 

 苦々しげに、アランは呟き、地図の方を見る。

 光が射してある部分は、血で赤くなり読めなくなっている。

 

「私、わかりますよ」

 

「わかるのかパラトス!?」

 

「この都市の構造は全て暗記していますので、この辺りは……騎士団駐屯地ですね」

 

 その地名を聞き、二人の顔が強張る。

 

「まあ、だよなぁ、そこなら一番守りが厚いだろうし」

 

「駐屯地の地下には牢屋があります。殿下は恐らく其処に」

 

「んじゃ、どうやって中に入ろうか?」

 

 フレンとクレスが計画を練ろうとすると、またもアランが話を切り出した。

 

「僕に考えがある」

 

 ◇

 

 二時間後、騎士団駐屯地、正門前。

 

 すっかり雨は止み、暖かな日の光が差す中で、

 アラン・セノアックは立っていた。

 隣には誰もおらず、一人だけ。

 前線、敵の前だというのにも関わらず、どこか晴れ晴れとした表情を見せていた。

 

「ははは。こうしてやってみるのは初めてだけど。予想通りに大成功だ」

 

 誇らしげに騎士庁舎の方を眺める彼の視線の先には、

 

 建物じみた大きさの大剣が庁舎に突き刺さっていた。

 

 ◇

 

 二時間前。

 

「騎士駐屯地に正面から殴り込み!? いいね最高!」

 

「面白がらないでくださいフレンさん」

 

 面白がるフレンと、それを諫めるクレス。

 話して一時間も経っていないが、彼女の扱いかたが分かって来たようだ。

 

「全員で突撃するわけじゃないよ。僕一人で行く」

 

「陽動ですか」

 

「うん。僕が正門で大立ち回りをして、スライム連中を惹きつける。その隙に殿下を救出してほしい」

 

「ツルちゃんさ、そりゃいくら何でも危険すぎない? いくら塞いだとはいえ、大怪我したばっかだよ?」

 

「フレンさん。助けてもらった事には感謝しているけれど、あまり僕を見くびらないで欲しいな」

 

 

「僕はこの世界の外れ者、転生者だ。この程度の困難、笑って乗り越えてみせるよ」

 

 ◇

 

 かつて、アラン・セノアックが鶴城柳人であった、本当に幼き頃、蜂の巣を突いた事があった。

 何も知らなかった鶴城少年は好奇心から手に持っていた木の棒でつんつんと突くと、尋常ではない数の蜂が飛び出して襲い掛かった。

 今、騎士庁舎からぞろぞろと出てくる騎士たちを見て、その光景がフラッシュバックする。

 あの時は己の好奇心が齎した結果に酷く後悔したが、今、彼の心に恐怖は無い。

 何十人もの騎士──に擬態するスライム──たちが彼の前に立ちふさがる。

 

「さあ、名誉挽回だ」

 

 手を力強く空に掲げ、手のひらからは光が迸り、光は剣を形どり始める。

 やがて光は金属に変化していき、剣を造り始める。

 光が消えた時、彼の手には剣身を金色に輝かせる直剣が造られていた。

 剣を握りしめ、アランは剣に中段に構えをとる。

 剣身を起点に魔力が迸り、空気が悲鳴をあげて軋みだす。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 叫びと共に薙ぎ払う。

 騎士スライムたちとの距離はまだ離れているが、この魔剣とアランにとって距離はさしたる問題にはならなかった。

 斬った空から五つの光球体が生成される。

 光球体は一瞬停止し、その後粒子直線(ビーム)となって、騎士たちへと解き放たれた。

 襲い掛かる光の帯はそれぞれの着弾点に触れると爆発が巻き起る。

 

「初撃は上々って感じだね」

 

 呟くアランの手に握られている魔剣は、一度振るっただけだというのに剣身はボロボロに刃こぼれしている。

 彼が手を放し魔剣が地に落ちると、飴細工の如くボロボロに砕け散った。

 武器を失ったアランの目に焦りはない。

 彼に、武器の枯渇などあり得ないのだから。

 

 大地に、何本もの魔剣が突き刺さる。

 それらは全て、先程使い潰した金色の魔剣と、全く同じものであった。

 

「じゃあ、次もどんどんいこうか」

 

 アランは、地面から魔剣を引き抜いた。

 

 アラン・セノアック。

 彼の転生特典は『武具創造』。

 その力は己が空想した武器を現実に創造させる。




『金色の魔剣』
・アランが考える広範囲攻撃のイメージを具現化させたもの。
・とくにこれといったバックボーンはない。
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