いかにしてその転生者は世界を変えるのか   作:抹茶螺旋

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お待たせしました。今日から毎日投稿を再開しようと思います


奇襲

 15分前、地下牢にて。

 

「何事だ!?」

 

 唐突な揺れに、ラムースは牢の外側にいる黄色髪の女に怒鳴る。

 黄色髪の女はあくまで冷静な表情のまま耳に手を置き何かを呟くと、耳から手を離し、ラムースの疑問に答えた。

 

「襲撃を受けたようです。下手人は……アラン・セノアック」

 

 思わぬ名前の登場に、ランクルクの目に光が灯る。

 手詰まりのこの状況に、一筋の光明が見え始めた。

 

「くっ……ムジカ・オルドスめ、始末したのではなかったのか」

 

 恨めしそうに、ラムースはムジカへの愚痴を吐く。

 黄色髪の女も表情としては冷静だが、顔から冷や汗が出ていた。

 

部下(スライム)達を向かわせましたが時間稼ぎにしかならないでしょう、ここからの退避を提案します」

 

 黄色の髪の女はそう提言する。

 幾ら魔界の魔物といえど、転生者の存在は脅威である事に変わり無い。

 寧ろ、荒廃した環境にて生きて来た彼等にとって危険の察知と、引き際の認識は必要不可欠なものであった。

 

「ああ。だが、その前に事を成さなくてはな」

 

 振り返り、ランクルクを眺めるラムース。

 彼の手が変形していき、五本の指が一つの触手に変わる。

 

「フンッ!」

 

 触手が口を開けたように大きく広がり、ランクルクへと迫る。

 閉所、壁を背にした彼に逃げ道は無く、死を意識する。

 しかし、その魔の手がランクルクに触れた瞬間、謎の力によって触手は弾かれた。

 

「なにっ!?」

 

「えっ!?」

 

 突如起きた謎現象に、ラムースだけでなくランクルク自身も驚愕する。

 

「な、何が起きた」

 

 弾かれて、シュゥゥ、と焼けた音がしている自分の触手を眺めながら困惑した表情でラムースは呟く。

 その疑問に答える声はなく、正体不明の力がランクルクを守った、ということだけが確かな事実として残った。

 

「くっ……ならばこれはどうだ」

 

 苦虫を噛み潰した顔をしながら、再びランクルクへと触手を伸ばす。

 しかし今度は攻撃目的ではない。

 触手はランクルクの周りを周回した後、彼の身体に巻き付いた。

 

「うぐっ」

 

「攻撃目的でなければ、反応しないということだな」

 

 推測八割の行動であったが、運良く彼の思い通りに事が運んだ。

 ランクルクを易々と持ち上げて、ラムースは牢屋の扉を開く。

 

「今起きた現象の正体がわからない以上、ここで無駄に時間を取るわけにはいかない。不本意とが貴様も連れていく」

 

「なっ……は、離せ!」

 

 抵抗するも当然ランクルク程度で逃れられる拘束ではない。

 もがきながらも結局彼は連れ攫われる。

「転移門はどこに設置した?」

 

「三階の談話室に」

 

「よし、では転移先は王都だ」

 

 階段を登りながら逃走先を話す、ラムースと黄色髪の女。

 この時、二人は急ぐあまり、初歩的な可能性を失念していた。

 アランが囮である可能性を。

 

「ん、誰だ貴様は?」

 

 階段を登りきり、廊下へと出た矢先、進行方向に一つの人影が見える

 人影は声をかけられたことに反応してこちらへと歩いてきた。

 

「すいませーん!ムジカ・オルドスって人がここにいるって来たんですが知りませんかー!」

 

 そこまで距離が離れてもいないにも関わらず妙に大声で話しかけてくるその人物はローブを被っており、顔が見えない。

 

「……」

 

 ラムースは質問を返さず、代わりに空いている方の触手を差し向けた。

 こんなところで時間を食う必要もないので、手っ取り早く殺すことにした。

 触手が迫るが、ローブの者は反応しない。

 脳を貫かれ、脳漿をぶちまけられるかと思われたが、

 またも、彼の触手は弾かれた。

 

「チィッ!」

 

 この短期間で二度も己の自慢たる触手が弾かれ、スライムには存在しない舌を打つ。

 

「ちょいちょい!通りすがりにやることがそれか!?……まあでも時間は稼げたか」

 

 意味深な事を呟く、ローブの者をラムースは睨みつける。

 注目は彼女に向いており、視界は前を向いている。

 故に、気づくのが遅れた。

 

「ラムース様!」

 

 黄色髪の女が彼を呼びかける、彼女らしくない焦った声で言うものだから、後ろを振り返る。

 振り返った先にいたのは彼女では無かった。

 青い髪に身なりの良い服。

 死んだはずの男がそこにいた。

 

「クレス・パラトス……!?」

 

 いつの間に現れたのか、どうして生きているのか、様々な疑問が頭に飛び交い、またも反応が遅れる。

 そして気づく、

 彼の手には剣が握らていることに。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 彼らしくない、叫び勇んだ声で剣を上段から振り落とす。

 狙う先はラムースでも、黄色髪の女でもない。

 ラムースと縛られたランククルクを繋ぐ、触手だった。

 

 一閃。

 

 剣が閃き、糸を切るかの如く容易く切り落とした。

 接続が絶たれた触手は拘束力を失い、ランクルクを開放する。

 

「クレス卿!」

 

 バッと、手をクレスへと伸ばす。

 その手をクレスは掴み返し、片手で抱き寄せる。

 

 「御捕まり下さい、殿下!」

 

 そう言うや否や、彼の持っている剣が光り始め、次の瞬間、二人は姿を消した。

 

 「なにぃ!?」

 

 連続する不測の事態に、ラムースは反応できない。

 

 「グッドだ!クレス・パラトス!」

 

 ローブの女――フレン・エトラルトは杖を構え、呪文を唱える。

 

魔術番号(code)13!」

 

 彼女は杖を天井へと投げる。

 投げた杖は壊れるでもなく、弾かれるでもなく、天井に突き刺さる。

 

「ブレイクダウン!」

 

 フレンの詠唱と同時に、杖を起点として天井が爆発した。

 

 魔術番号13『ブレイクダウン』。

 杖に魔力を魔力を充填させる魔術。

 この時、魔力の籠った杖は高い熱を持ち、分厚い岩や鉄程度なら貫通出来る。

 また、この時遠隔で爆破命令(追加詠唱)を送ることで簡易な爆弾としても使う事が出来る。

 本来杖とは魔術補助の道具でしかなく、大抵の魔術は杖を用いずとも行使することが出来るが、この魔術に限り杖が無ければ利用できないという特殊な魔術でもある。

 

 天井が崩壊し、頭上より瓦礫がラムース達目掛けて落ちて来る。

 彼らは避ける事が叶わず崩落に巻き込まれ、遂には瓦礫に包まれてしまった。




・『フレンの杖』
・フレンが所有する魔術を補助する為の杖。
・この杖は学生時代、学校の授業で配布されたものをフレンが改造を加えた物。
・杖としての性能は中の下といったところであり、魔術発動の補助性能以外に目立つものはない。
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